だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ

文字の大きさ
334 / 866
第四章・興国の王女

297.ある聖人と人形2

しおりを挟む
「ねぇラフィリア。僕が確か四代目の聖人とかだけど、これまでの聖人が婚姻を結ばなかったからって僕までそれに従う必要は無いよね? ああでも、姫君と婚姻を結んだとあれば一国だけとの癒着を疑われそう……ならもう、姫君の籍をフォーロイトから外して国教会で迎え入れるべきかな? 姫君とご家族の仲ってかなり悪いみたいだし、姫君もきっと喜んでくれるでしょう!」

 まるでデート前の乙女のよう。頬をほんのりと蒸気させ、浮かれた口調でミカリアは妄想する。
 これまでの百年の我慢がついに解き放たれたかのように、もはや誰にも堰き止められぬ激流となって溢れ出てしまった。
 思い込みが加速し、彼の中にあったなけなしの常識や普通は崩れ去った。恋をしたら壊れると言われていただけの事はある──。今のミカリアは、確かに壊れてしまっていた。
 正史ゲームよりも遥かに早く、狂気的に……その不治の病は、平等にかの聖人をも蝕むのだ。

「もう、そんな顔しないでよラフィリア。これまで沢山我慢して来たのだから、そろそろ僕だって欲しいものを一つぐらい手に入れたっていいだろう?」

 ミカリアは手遊びのように、いとも容易くラフィリアの面を取ってみせた。すると露わになるは、ピンクゴールドの切り揃えられた髪と蒼玉ブルーサファイアの瞳。そして、それらが最も映えるよう計算され尽くした美しい顔。
 少女とも少年ともとれるその顔には、ミカリアへの憐憫と失望がほんの少し、滲み出ていて。

「……当方ハ、何度モ忠告シタ。恋ナンテシタトコロデ無駄ダト。結局傷ツクノハ主ナノダト。ソレナノニ、ドウシテ主ハ当方ノ言葉ヲ無視スル? 当方ハ、当方ハ、タダ…………」

 ぐっ、と目に力を入れて、ラフィリアは言葉を紡ぐ。
 その表情は、まるで……涙を我慢する子供のようだった。

「主ガ傷ツク姿ナド、見タクナイ。ヨウヤク夢ガ叶ウトヌカ喜ビシテ、結果的ニ夢ヲ失ウカモシレナイ主ヲ、見タクナカッタ!」
「ラフィリア……」

 これが、ラフィリアの本音だった。度重なる忠告も暴言も、全てはミカリアを思っての事。
 百年越しに彼の見る夢が叶う可能性が出て、それに期待しすぎたが故に。もし万が一、夢敗れた時。ミカリアは果たして無事でいられるのだろうか。
 覆水盆に返らず──……一度でも壊れ狂ってしまったミカリアは、例え表向きには平常を取り繕おうとも、二度と元通りになどならないだろう。
 例え人類最強の聖人と言えども、その精神が壊れてしまったなら……聖人としての象徴しごと存在やくめも諸共破綻する。
 それ即ち、人類最強の聖人の死を意味する。
 ラフィリアはその可能性を示唆し、ずっと警鐘を鳴らしていたのだ。
 国教会にとって人類最強の聖人の存在は必須だから? 否、たった一体ひとりのミカリアの家族擬きとして、ミカリアに死んでほしくないと思っていたから。
 ラフィリアなりにミカリアを大事に思うからこそ、ミカリアが傷つき壊れゆく様を見たくないと。本当の意味でミカリアが姿なんて、ラフィリアには決して受け止められないから。
 ラフィリアの思いは、きちんとミカリアに届いたようだった。ミカリアは困ったように眉根を寄せて、小さく微笑んだ。

「大丈夫だよ、ラフィリア。僕の夢は決して壊させない。もう誰にも、僕の願いを邪魔させたりなんてしない。だから君が恐れるような状況には、きっとならないとも」

 確かにラフィリアの言葉はミカリアに届いた。だが、既に恋に狂ったミカリアは……ラフィリアが望む答えとは違う答えを導き出してしまったのだ。

「ラフィリアの心配は、僕が失恋した日には壊れてしまう……というものでしょう? なら、簡単な話だ。失恋さえしなければいい。どんな手段を使ってでも、僕が姫君と結ばれたらいい話だ。というか……もはや、僕にはそれしか道が残されていないのだけど」

 ふふ、と穏やかに彼は笑う。

(ラフィリアの言う通り……本当に失恋してしまったら、きっと僕はショックのあまり自殺とかしちゃいそうだからなぁ。だったらやっぱり、どんな手段を使ってでも彼女と結ばれないといけないな)

 予想の斜め上の発言をしたミカリアに、ラフィリアが唖然とする。
 だがミカリアは……ある少女を想うあまり、腹の底から湧き上がったうだるような熱情に頬を赤らめて、耽美的に笑みを浮かべているだけだった。

(……──アア、モウ、駄目ダ。当方ニハ、主ヲ止メラレナイ。コウナッタラ、主ノ言ウ通リ……氷ノ王女ヲ、何トシテデテモ…………)

 もはや、こうなってしまったミカリアを止める事など不可能。そう悟ったラフィリアは、難しいと分かっていようともミカリアに協力する道を選んだ。
 ハァ……と溜息を零しては、ミカリアの檸檬色の瞳を見る。壊れている筈なのに、今まで見て来た中で最も爛々と輝くその瞳に、ラフィリアは誓う。

「当方ハ、主ノ為ニ製造サレタ物。ダカラ当方ハ主ニ従ウ。主ノ夢ヲ、ソノ願イヲ守ル。ソノ代ワリ主モ約束シテホシイ」
「約束?」
「……死ナナイデ。コレカラ先モズット、主ハ当方ノ主デイテ」

 ラフィリアはたまげたように目を丸くし、程なくして優しく微笑んで、ラフィリアをそっと抱き締めた。
 そのピンクゴールドの髪を撫で、ミカリアは強く言い放った。

「──勿論だとも。僕の恋はまだ死なない。絶対に死なせてなるものか。だからね、ラフィリア……これから先もずっと、僕を君の主でいさせてほしい。だからどうか、僕の願いを叶える手伝いをしてくれないかな?」
「……当方ニ、拒否権ナド最初カラ無イ。当方ハ……主ノ為ニ在ルノダカラ」

 国教会の聖人、ミカリア・ディア・ラ・セイレーンと、その腹心であり黒の亡霊と呼ばれるラフィリア。
 全く同じ日に生まれその運命を共にする彼等は、手を取り合い、今一度永遠の主従を誓いあった。

(セメテ、当方ダケハ何ガアロウト主ノ味方デイナケレバ。例エ……世界ガ主ノ夢ヲ、モウ一度否定シヨウトモ──)

 この先の未来に何が起きたとしても、必ず最期の時まで共に在る、と…………。
しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜

トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦 ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが 突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして 子供の身代わりに車にはねられてしまう

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...