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第一章 “最弱”のギルド 編
6 聖なる魔術師――セイクリッド・ウィザード
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―――ロイン・スヴェルトス。
数十年前、とある冒険者とコンビを組み、魔法迷宮破りとして活躍した、元Sランク冒険者。彼の持つ聖魔法の適性と、神から祝福され授けられた、“聖光”のスキルを持っていたことから、人々に畏怖と敬意を込め、“聖なる魔術師”と呼ばれた伝説的な冒険者でもある。アスタル王国を脅かせていた、ブリザード・ドラゴンを討伐後、コンビを解散し、レベル・ランキングを順調に上げていたのだが、相方が引退したことを機に、突然表舞台から姿を消す。世間では、賢者として帝国にある大教会に入ったとか、アスタル王都マーゼで、王家専属の治癒使になったとか、色々な噂が立っていたが………。
「まさか、オアシス・レッセでスローライフを送っていたとはな………お前らしいや。」
「私も、あの堅物がまさかギルド職員として働いているとは思いませんでしたよ…。」
ハハハハハ、と二人で茶を飲み交わす。
その様子を見て、ミヨとスバルは引いていた。
「まさか……支部長があの伝説の魔法使いの相方だったなんて……。」
「あっ……だからあんなに魔法が………あは…は………。」
二人とも、意識が宙に浮いている。
「突然冒険者協会の本部から連絡があったのでビックリしましたよ……。それで、魔物を倒してくれと急に頼まれて、断ってやろうかと思ったんですけどね…。君の頼みとあっては、私も引けませんからね。」
「支部長、あなたロインさんのどんな弱み握ってるんですか……。」
「おいおい、ミヨ。俺がそんなことするわけねぇだろ…。」
なんて話をしながら、本題へと持っていく。
「“熱砂”の範囲が広がっていることは、私もなんとなく感じてはいましたが、まさか魔物の仕業とはね。私はてっきり、地中を流れる竜脈が暴れだしたのかと…。」
「いや、そっちの方がまさか!だと思いますよ、ねぇ!!」
スバルは真剣に突っ込む。そんな常識外れに突っ込んでも意味がないというのに。
「残念ですが、フーガ。デコピンでジャイアントオーク10体を一気に仕留めたあなたに、常識は語れませんよ。」
「相変わらず心を読めるようだな。砂漠の砂でその“心眼”も濁ってスクラップになったかと思ったんだがな。」
「あなたの性格と同じように、私の能力はしつこいんですよ|。」
ウフフフフ、と笑いあう。
「あの、早く本題に入りましょうよ!!」
ミヨが間に割って入ってくる。危ない危ない。このまま暑くなって、極大魔法を打ち合うところだった…。
「さて、と。これで依頼に挑める、最低限の規定『四人のパーティを組む。』を守れるようになった。よって、明日、挑むことにしようと思う。」
「それはまた突然ですね。どうしてですか?」
スバルはカップを片付けながら、聞いてくる。
「お前も思っての通り、魔力を回復するのには数日間がかかる。だが、相手が自然を操ることができると分かった以上、このまま時間をかけると危ないと判断したんだ。」
「なるほど………………ではフーガ、君はこの魔物の正体を、見切っているんですね。」
ロインが、さも当たり前のように聞いてくる。ああ、俺には分かった。スバルの記録帳簿や、図書館の情報、それに冒険者達の記録には感謝だ。
「ああ。アスタル王国内で問題になっている巨大魔物…………それは――――“迷宮溢れ”だ。」
「“迷宮溢れ”………………そうか、だから普通の水魔法が効かないのか………。」
“迷宮溢れ”。それは、魔法迷宮が各地にある、アスタル王国ならではの魔物だ。魔法迷宮が成立するのには、幾つか成因があるのだが、その一つに、魔力の集束というものがある。この世界の大気中、自然に存在する魔力は、我々が魔法を使役する際に、それを杖などの媒体に集中させてから放つ。その魔力が、洞窟や森などの自然を媒体に集束すると、様々な魔物やお宝が出てくる、魔法迷宮になるわけだ。しかし、これがごく稀に過剰に集まりすぎることがあるのだが、それが媒体に入りきらず溢れだし、本来ならば存在し得ない場所で発生する魔物のことを、“迷宮溢れ”と指すのだが、これが厄介なのである。
「“迷宮溢れ”は本来存在しない、つまり魔力が少ないところに具現化される魔物で、それらは大抵の魔物の数倍の魔力を保有しており、弱点耐性も高くなる。それが暴れることによって、魔力が辺り一帯に散らばり、魔法迷宮がだんだんと広がっていく……というわけですね。」
スバルは、納得したように頷く。ミヨも、ふむふむと言う。
「ああ。正式な調査はやってないんだろうが、近年広がる“熱砂”の正体は、魔法迷宮だ。」
そこまでを聞き、ミヨは腑に落ちたようだ。
「だから、Bランク冒険者さんが束になっても敵わなかったんですね…。」
そう。“迷宮溢れ”は本当に強い。だから、国の依頼として、Aランク以上の冒険者に討伐命令が出される。
「だが、考えてみろ。ここには俺もいるし、元Sランク冒険者のロインも来てくれた。それにお前達も魔法使役の訓練をして、そこら辺のBランクなんかには負けない強さを手に入れた。こんなの………楽勝だろ?」
俺の言葉に、二人は笑顔になる。やる気に満ち溢れた、笑顔に。
「だから、絶対に討伐できる…………いや、する! そして、ユンクレアの“最弱”という汚名を返上するぞっ!!」
「「おーーっ!!!」」
四人の声が、夜の砂漠へと響き渡った。
数十年前、とある冒険者とコンビを組み、魔法迷宮破りとして活躍した、元Sランク冒険者。彼の持つ聖魔法の適性と、神から祝福され授けられた、“聖光”のスキルを持っていたことから、人々に畏怖と敬意を込め、“聖なる魔術師”と呼ばれた伝説的な冒険者でもある。アスタル王国を脅かせていた、ブリザード・ドラゴンを討伐後、コンビを解散し、レベル・ランキングを順調に上げていたのだが、相方が引退したことを機に、突然表舞台から姿を消す。世間では、賢者として帝国にある大教会に入ったとか、アスタル王都マーゼで、王家専属の治癒使になったとか、色々な噂が立っていたが………。
「まさか、オアシス・レッセでスローライフを送っていたとはな………お前らしいや。」
「私も、あの堅物がまさかギルド職員として働いているとは思いませんでしたよ…。」
ハハハハハ、と二人で茶を飲み交わす。
その様子を見て、ミヨとスバルは引いていた。
「まさか……支部長があの伝説の魔法使いの相方だったなんて……。」
「あっ……だからあんなに魔法が………あは…は………。」
二人とも、意識が宙に浮いている。
「突然冒険者協会の本部から連絡があったのでビックリしましたよ……。それで、魔物を倒してくれと急に頼まれて、断ってやろうかと思ったんですけどね…。君の頼みとあっては、私も引けませんからね。」
「支部長、あなたロインさんのどんな弱み握ってるんですか……。」
「おいおい、ミヨ。俺がそんなことするわけねぇだろ…。」
なんて話をしながら、本題へと持っていく。
「“熱砂”の範囲が広がっていることは、私もなんとなく感じてはいましたが、まさか魔物の仕業とはね。私はてっきり、地中を流れる竜脈が暴れだしたのかと…。」
「いや、そっちの方がまさか!だと思いますよ、ねぇ!!」
スバルは真剣に突っ込む。そんな常識外れに突っ込んでも意味がないというのに。
「残念ですが、フーガ。デコピンでジャイアントオーク10体を一気に仕留めたあなたに、常識は語れませんよ。」
「相変わらず心を読めるようだな。砂漠の砂でその“心眼”も濁ってスクラップになったかと思ったんだがな。」
「あなたの性格と同じように、私の能力はしつこいんですよ|。」
ウフフフフ、と笑いあう。
「あの、早く本題に入りましょうよ!!」
ミヨが間に割って入ってくる。危ない危ない。このまま暑くなって、極大魔法を打ち合うところだった…。
「さて、と。これで依頼に挑める、最低限の規定『四人のパーティを組む。』を守れるようになった。よって、明日、挑むことにしようと思う。」
「それはまた突然ですね。どうしてですか?」
スバルはカップを片付けながら、聞いてくる。
「お前も思っての通り、魔力を回復するのには数日間がかかる。だが、相手が自然を操ることができると分かった以上、このまま時間をかけると危ないと判断したんだ。」
「なるほど………………ではフーガ、君はこの魔物の正体を、見切っているんですね。」
ロインが、さも当たり前のように聞いてくる。ああ、俺には分かった。スバルの記録帳簿や、図書館の情報、それに冒険者達の記録には感謝だ。
「ああ。アスタル王国内で問題になっている巨大魔物…………それは――――“迷宮溢れ”だ。」
「“迷宮溢れ”………………そうか、だから普通の水魔法が効かないのか………。」
“迷宮溢れ”。それは、魔法迷宮が各地にある、アスタル王国ならではの魔物だ。魔法迷宮が成立するのには、幾つか成因があるのだが、その一つに、魔力の集束というものがある。この世界の大気中、自然に存在する魔力は、我々が魔法を使役する際に、それを杖などの媒体に集中させてから放つ。その魔力が、洞窟や森などの自然を媒体に集束すると、様々な魔物やお宝が出てくる、魔法迷宮になるわけだ。しかし、これがごく稀に過剰に集まりすぎることがあるのだが、それが媒体に入りきらず溢れだし、本来ならば存在し得ない場所で発生する魔物のことを、“迷宮溢れ”と指すのだが、これが厄介なのである。
「“迷宮溢れ”は本来存在しない、つまり魔力が少ないところに具現化される魔物で、それらは大抵の魔物の数倍の魔力を保有しており、弱点耐性も高くなる。それが暴れることによって、魔力が辺り一帯に散らばり、魔法迷宮がだんだんと広がっていく……というわけですね。」
スバルは、納得したように頷く。ミヨも、ふむふむと言う。
「ああ。正式な調査はやってないんだろうが、近年広がる“熱砂”の正体は、魔法迷宮だ。」
そこまでを聞き、ミヨは腑に落ちたようだ。
「だから、Bランク冒険者さんが束になっても敵わなかったんですね…。」
そう。“迷宮溢れ”は本当に強い。だから、国の依頼として、Aランク以上の冒険者に討伐命令が出される。
「だが、考えてみろ。ここには俺もいるし、元Sランク冒険者のロインも来てくれた。それにお前達も魔法使役の訓練をして、そこら辺のBランクなんかには負けない強さを手に入れた。こんなの………楽勝だろ?」
俺の言葉に、二人は笑顔になる。やる気に満ち溢れた、笑顔に。
「だから、絶対に討伐できる…………いや、する! そして、ユンクレアの“最弱”という汚名を返上するぞっ!!」
「「おーーっ!!!」」
四人の声が、夜の砂漠へと響き渡った。
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