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第一章 “最弱”のギルド 編

7 作戦は?

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「……………うわぁぁぁぁあああ!! なんでこんな目にぃぃいぃぃ!!!!」

鬼畜だ。鬼畜過ぎる。単なる一介の鑑定士ごときに、囮を任せるなんて……!
そりゃあ支部長と修行をして、そこら辺の冒険者さんには負けないくらいの魔力とか技術を持てるようにはなりましたよ? でも、昨日の今日ですよ? ねえ。
と、後ろから追ってくる魔物を引きつけながら叫ぶ僕。
支部長とロインさんは魔法陣を展開しながら『ガンバレ~』なんて呑気に応援してるし、ミヨさんに至っては、僕と一緒に囮になるはずだったのに、遠くの岩に隠れてるし……。
いや、僕に走力補助の魔法とかを掛けてくれるのはありがたいですよ。でも、一緒に走ってくれたっていいじゃないの、だって人間だもの……。

ドゴン!!
「おわっ!! ……危ないなぁ…………。」

だが、ここまで逃げる間、ヤツの攻撃は一切僕に当たっていない。僕だって、ギルドの鑑定士とはいえ、魔法使いの端くれ。“迷宮溢れ”におめおめ負けてはいられない。僕がしっかりと時間を稼ぎます。だから、絶対に魔法を打ち込んで下さい、支部長、ロインさん。



今日の朝。俺たち四人のパーティは、本部に連絡を取り、最後に目撃情報のあった、オアシス・フセルへと向かった。そして、ユンクレア支部をさらに弱体化させ、そしてユーグ村を荒らした犯人…………“迷宮溢れ”、ギガジャイアント・オークは、不気味な笑みを携え、佇んでいた。

「…………いいか、昨日作戦を立てた通りだ。」

ロインと合流し、ユンクレア支部で話した後。
ボロボロのソファと机を寄せ集めた、相談スペースで、ホワイトボードを使って、俺の考えを説明。

「まず、“迷宮溢れ”であるヤツに、並大抵の魔法は効かないだろう。だから、極大魔法を使役する。」

ホワイトボードの、前に書いた魔物のイラストの隣に、極大魔法と書く。

「ですが、フーガ。極大魔法を放つにしろ、相手の弱点が分からなければ、術式の組みようがありませんよ。」

ロインには、これまでの資料や、俺が集めた情報を一通り見せてある。だから、火属性魔法を使役する相手に対し、水属性魔法が効かなかったことも知っている。

「弱点は水魔法だ。」
「ですが支部長、水魔法は相手に吸収されてしまったんじゃ……。」

ミヨが心配そうに俺に話しかける。別にそれを忘れたわけじゃない。ヤツが“迷宮溢れ”だからこそ、この戦略を考えたんだ。

「ああ。だから、ヤツが吸えなくなるくらいの魔力を放てばいいだろう?」

スバルは呆れ顔で俺の方を見る。ロインも、やれやれといった感じだ。

「簡単に言ってくれますね、フーガ。君が言うその魔法は、極大魔法らしいですけど、その術式は複雑で、それに魔力を組み込むのにも、その前に魔法陣を組み立てるのにも時間がかかりますよ? それに……暴発の危険性だって……。」

スバルとミヨは互いに顔を見合わせる。暴発は、ロイン位の魔法使いでも起こしうる。それだけ極大魔法の扱いは難しく、それでいて複雑だ。

「大丈夫だ。そっちに関しては、があるからな。」

ウインクして見せる。ロインは身震いした。

「ま、期待しておきますよ。」
「そして、時間稼ぎの方は………スバルとミヨ、お前らにやってもらう。」
「はい。分かりました…………………って言えると思いますかっ!? 相手は“迷宮溢れ”ですよ!?」
「まぁそんなに興奮するな。………大丈夫だ。ヤツは、俺よりも弱い。」



そして、ギガジャイアント・オークから離れた位置に、俺たちは気取られないように魔法陣を構築していた。ロインは構築しながら、俺の方を向きニヤニヤする。

「フーガ、君は良い部下を持ちましたね。」
「……なんだ突然、気味悪いな。」
「いや、そのまんまの意味ですよ。フーガは昔から凄い人でした。私でも敵わないくらいにね。」
「バカも休み休み言え。現にお前はSランクまで到達したが、俺はAランク止まりだったじゃないか。」
「それは、ギルド幹部の見る目がないだけだと思いますよ。」
「おいおい………。」

話をしていると、遠くからスバルの元気な声が聞こえてくる。どうやら作戦は順調のようだな。

「魔法陣の構築時間も予定範囲内だし、今のところ暴走する波長も見られない。」
「ええ。ここまでキレイに魔法陣を組めるとは、私も思いませんでしたよ。」

ロインが術式を書き足しながら言う。ああ、本当にそう思う。ミヨには感謝だ。



「………ぐぬぬぬ……………三人分の援助魔法…………思ったより…かなりきつい……………。」

私は顔をしかめながら、詠唱を続ける。昨日、支部長に言われた任務をやり遂げるには、私の仕事が非常に重要なものになってくる。スバルくんへの走力と体力補助。そして、ロインさんと支部長への魔力波長制御。きついが、私にしかできない仕事だ。私が、これらの無属性魔法―――つまり、補助魔法に適していると分かったのは、あの訓練の時だった。
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