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第一章 ゼイウェンの花 編
1 分からないことは自分の目で見よ!
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「…ねえ、コーちゃん。」
「………なんでしょう。」
「オーク肉ってさ、塩焼きと香味焼き、どっちがより美味しいと思う?」
「……………………。」
「あれ、無視?」
新聞から目線を移すと、来賓用の机に紙を広げ、コールは黙々と手を動かしていた。
「ふざけている場合ですか。…例の件、早く片付けないと。」
「ああ……………ハイハイ。」
厭々ながら新聞をよけると、目に飛び込んでくるのは書類の山。
コールの言う例の件とは、エレッセ王国での交易参入の話だ。王国の交易を取り締まるフーロン商会は、これまでアテレーゼ商会をはじめとするいくつかの商会が交易参入を打診していたのだが、それらをずっとはねのけていたのだ。
「しかし、驚きました。まさか、ジャール・フーロンが商圏の一部を譲渡するとは………。」
「あいつらも必死なんだよ。ヤツらが裏でやってたことが表に出るようなことがあったら、商会の信用はガタ落ちだし、彼らと関わっていたエレッセ王家の面目も丸つぶれ。死刑は免れないからねぇ…。」
椅子の背もたれに身をもたげると、ギシッ…と音が鳴った。
「しかしこれで………商会長が欲していたモノが手に入りましたね。」
コールは書類をとんと整え、僕の机の端に置いてあった、地図を広げる。
「エレッセ王国北東部にあるのが、ガウル帝国との国境にある街、レーヴ。その中央にあるのが、フーロン商会の店舗。ここの譲渡と引き換えに、今回の件は黙っていてほしい………というのが、ジャールの思惑かなァ。」
「なんだか、可哀想な気もしますが…。」
「……いんや、フーロン商会は大して痛くないんじゃないかな?」
「どういうことでしょう。」
コールがそう尋ねてくる。その疑問を解消するために、僕は机の上に積んであった書類の山から、一枚のペラ紙を引っ張り出した。その紙は、アテレーゼ商会のとある店の決算報告書だ。
「レーヴの店舗が、彼らフーロン商会にとってジャマな存在だとしたら?」
ムムム、と少し考えるが、コールはすぐに気づいたようだった。
「まさか……赤字店舗、なんですか?」
「それが妥当だろうね。」
もしこの店舗が黒字の良採算であれば、立地的にも手放すのは惜しいはずだ。何故ならば、目と鼻の先にはガウル帝国南部、そして、東側、オルラス川の向こう岸には、セグレイン王国がある。交易をするのに利便性しかない都市を捨てるのは、死活問題に直結するだろう。それでも彼らは、店舗を譲った。
…………不採算店舗だったからだ。
「でも、何故この店舗が不採算になるのでしょうか。僕にはよく理解できません。余程、経営者が下手くそだったのでしょうか……。」
「さあね、さっぱり分からない…………けど、一つだけ言えることがある。」
椅子からぐいっと起き上がり、窓辺に置かれた小さな本を手に取る。題は……“三重の壁”。
「……本や資料に載った文章のみから、判断を下すのは何事においても難しい。この不採算店舗も、字面は確かに不採算。だけど、複雑な事情が絡み合っている場合、どれがその赤字に直結しているのかは分からない。立地が良いとか、交易に有利だとかも、字面のみでしかない。事実のみを書くことが、最も重要。それ以外の情報は、バッサリと切り落とされることが多い。大事なのは、自らの目で見て、自らの持つ知識でしっかりと判断をすることだよ。特に、商人を目指すのならなおさらね。」
「…………………………。」
…ありゃ、ちょっと言い過ぎたカナ。そんなに深く考えこまなくても良いんだけど…。
「要は、百聞は一見にしかず、ってヤツだよ。分からない事は自分の目で見よ!!」
ビシッと人差し指を立て、コールに、ニッと笑顔を向ける。
「というわけで………行こうか、エレッセ王国に。」
「………なんでしょう。」
「オーク肉ってさ、塩焼きと香味焼き、どっちがより美味しいと思う?」
「……………………。」
「あれ、無視?」
新聞から目線を移すと、来賓用の机に紙を広げ、コールは黙々と手を動かしていた。
「ふざけている場合ですか。…例の件、早く片付けないと。」
「ああ……………ハイハイ。」
厭々ながら新聞をよけると、目に飛び込んでくるのは書類の山。
コールの言う例の件とは、エレッセ王国での交易参入の話だ。王国の交易を取り締まるフーロン商会は、これまでアテレーゼ商会をはじめとするいくつかの商会が交易参入を打診していたのだが、それらをずっとはねのけていたのだ。
「しかし、驚きました。まさか、ジャール・フーロンが商圏の一部を譲渡するとは………。」
「あいつらも必死なんだよ。ヤツらが裏でやってたことが表に出るようなことがあったら、商会の信用はガタ落ちだし、彼らと関わっていたエレッセ王家の面目も丸つぶれ。死刑は免れないからねぇ…。」
椅子の背もたれに身をもたげると、ギシッ…と音が鳴った。
「しかしこれで………商会長が欲していたモノが手に入りましたね。」
コールは書類をとんと整え、僕の机の端に置いてあった、地図を広げる。
「エレッセ王国北東部にあるのが、ガウル帝国との国境にある街、レーヴ。その中央にあるのが、フーロン商会の店舗。ここの譲渡と引き換えに、今回の件は黙っていてほしい………というのが、ジャールの思惑かなァ。」
「なんだか、可哀想な気もしますが…。」
「……いんや、フーロン商会は大して痛くないんじゃないかな?」
「どういうことでしょう。」
コールがそう尋ねてくる。その疑問を解消するために、僕は机の上に積んであった書類の山から、一枚のペラ紙を引っ張り出した。その紙は、アテレーゼ商会のとある店の決算報告書だ。
「レーヴの店舗が、彼らフーロン商会にとってジャマな存在だとしたら?」
ムムム、と少し考えるが、コールはすぐに気づいたようだった。
「まさか……赤字店舗、なんですか?」
「それが妥当だろうね。」
もしこの店舗が黒字の良採算であれば、立地的にも手放すのは惜しいはずだ。何故ならば、目と鼻の先にはガウル帝国南部、そして、東側、オルラス川の向こう岸には、セグレイン王国がある。交易をするのに利便性しかない都市を捨てるのは、死活問題に直結するだろう。それでも彼らは、店舗を譲った。
…………不採算店舗だったからだ。
「でも、何故この店舗が不採算になるのでしょうか。僕にはよく理解できません。余程、経営者が下手くそだったのでしょうか……。」
「さあね、さっぱり分からない…………けど、一つだけ言えることがある。」
椅子からぐいっと起き上がり、窓辺に置かれた小さな本を手に取る。題は……“三重の壁”。
「……本や資料に載った文章のみから、判断を下すのは何事においても難しい。この不採算店舗も、字面は確かに不採算。だけど、複雑な事情が絡み合っている場合、どれがその赤字に直結しているのかは分からない。立地が良いとか、交易に有利だとかも、字面のみでしかない。事実のみを書くことが、最も重要。それ以外の情報は、バッサリと切り落とされることが多い。大事なのは、自らの目で見て、自らの持つ知識でしっかりと判断をすることだよ。特に、商人を目指すのならなおさらね。」
「…………………………。」
…ありゃ、ちょっと言い過ぎたカナ。そんなに深く考えこまなくても良いんだけど…。
「要は、百聞は一見にしかず、ってヤツだよ。分からない事は自分の目で見よ!!」
ビシッと人差し指を立て、コールに、ニッと笑顔を向ける。
「というわけで………行こうか、エレッセ王国に。」
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