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第一章 ゼイウェンの花 編
22 違和感と
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ランプに明かりをともし、部屋の中へと入る。床には多少ホコリが積もっており、本等もかつて使われていた時のまま、置いてある。床の清掃、壁紙の張り替え、家具の入れ替えなどなど……どうにかしなきゃな。
そんなことを思いつつ、元々支店長が座っていたのであろう椅子を引っ張り出し、腰掛ける。
「あ、クラムさん。戻っていたんですね。」
「うん。婦人とも話がついたし。あの子もきっと…。」
僕の言い方にクラムは疑問符を浮かべた顔をする。まあ仕方がない。口止めされているからね。
「まあ、何でもいいですけど…。」
コールは、部屋の方を顎で指し示す。
「これ。どうするんですか?」
長時間使われておらず、埃が溜まった部屋。床に無造作に散らかった本。筆記用具も何も片付いていない机。
僕の部屋よりもひどいな、こりゃ。
「……そういや、ごたごたしててまだ何もしてないんだっけか。」
「掃除、しなきゃですね。」
「…………………(めんどくさいなぁ。)」
「え?」
「いやいや、掃除……(もそうだけど)じゃなくてね。」
一瞬、コールが目を光らせるが、何とかごまかす。
ここレーヴ支店は、一応僕らの土地ではあるものの、まだ正式な手続きが済んでいないため所有権自体は譲渡されていない。したがって、清掃等に手を付けることが未だ叶っていない。
すると、コールは床に無造作に積まれている本を一冊手に取り、その表紙に積もった埃を取って言った。
「それはおいといて。婦人には、自信満々に言ってましたけど……クラムさんには、あてがあるんですか?この、レーヴの……。」
「ああ。それをはっきりさせるためにも、ここまでの話を整理しようか。」
本を机の上に置き、その横に僕らの商会が集めた資料を置く。そこには、ここまで聞いてきたさまざまな話がメモとして記録されていた。
「さすがコーちゃんだね。記録においては僕も勝てないなぁ…。」
「クラムさんがやらなすぎるだけですよ…。」
「手厳しいなぁ……。」
やれやれ、と頭を軽くかく。
「まず、確信していることが一つ。ここ、レーヴの経営状況が、なぜ赤字だったのか、ということ。」
「色々な人の話を聞いて分かった真実が、レーヴは“大陸の畑”と呼ばれるほどの肥沃な土地になる以前は、“鉱山の町”だった、ということでしょうか。しかも、その鉱山もクローズ博士率いる研究チームと、レーヴの人々が協力し合って開発されたもの……。」
ペラペラとメモを巡りながら、コールは口にする。
「そして、ここレーヴの支店は、“大陸の畑”と呼ばれ始めた頃にできた。セリさんが言っていましたね。」
「そうだね。そこがずっと引っかかっていた。」
ジャールほどの男であれば、ここレーヴの商機を逃さないはずだ。エレッセ王国を商圏にしている彼らフーロン商会にとって、鉱山の新規開拓はおいしい話であることに間違いはない。大手商会が手を出す前に利権を得られれば、物流権や交渉権、人事権等を独り占めすることだってできるだろう。取引価格もだ。大手商会に引けを取らなくなる。それなのに、何故か彼らは手を出さなかった。
「もちろん、オルモタイトの危険性を察知して、出店しなかった可能性はある。魔力吸収量の高さには、取り扱う商人も苦労していた。副作用も大きいし。」
でも、それ以上のメリットがオルモタイトにはあった。流通元が限られているというのも、その一つ。
「色々と厄介なオルモタイトだけど、鉱石としては群を抜いて質が高い。」
「じゃあ、オルモタイトのメリットに目を瞑った理由って……。」
「……エレッセ王家の利権。」
その一言で、コールは何かに気づいたんだろう、ピクッと反応した。
「…恐らく、ね。」
僕は確信していた。おかしな矛盾の正体に。
「コーちゃんさ、今朝のアスタル新聞ってある?」
「カバンの中にしまってあります、えっと確か………。」
ゴソゴソと、背中に背負ったカバンを下ろし中身を探る。そして、パッと『日刊アスタル』を取り出す。
「あっ、ありました。」
「よしよし。確か、9枚目くらいかなぁ……。」
なんとなくの記憶でペラペラとめくっていく。そして、目的の頁にたどり着いて、その題字を指す。
……きっと、これだろう。
「『エレッセ王国、悲願の国営鉱山開設へ』。これって……。」
「その下の方、見てみなよ。」
コールに新聞を渡す。
「『…国費削減のため、“エレッセ王国御用達”という身分付きで運営主体を募集。』」
「わかりやすいよねぇ。」
僕は思わず笑ってしまう。
奴らフーロン商会が、大きな利益を叩き出せたはずの、しかも商圏内にあるレーヴの鉱山開発に協力しなかった理由。
「やつらがオルモタイトに手を出さなかったのは………この、国営鉱山開発に携わるためだよ。間違いなく、ね。」
壁にかけられた、エレッセ王国の地図。新聞に記されている、鉱山あたりを指さす。
“特定の国が背後につく”というのは、商会にとって大きな利益となる。その商会がやることなすこと、すべてに“国が認めている”という大義名分がつくからだ。しかも、“御用達”というのは箔としては上級。
つまり、エレッセ王国を味方に付けて、交易を好き勝手やりたいというのが、ジャールの本心なのだろう。
「そして、“大陸の畑”と呼ばれ始めた頃に出店したのにもかかわらず、ここレーヴの支店が赤字であるということ。これは、多分……。」
ここまでコールのつけてくれた記録を見返していく。
…うん、やっぱり。不自然すぎる。
「これだよ、コーちゃん。」
僕は、自信を持ってコールにそこを指さした。
そんなことを思いつつ、元々支店長が座っていたのであろう椅子を引っ張り出し、腰掛ける。
「あ、クラムさん。戻っていたんですね。」
「うん。婦人とも話がついたし。あの子もきっと…。」
僕の言い方にクラムは疑問符を浮かべた顔をする。まあ仕方がない。口止めされているからね。
「まあ、何でもいいですけど…。」
コールは、部屋の方を顎で指し示す。
「これ。どうするんですか?」
長時間使われておらず、埃が溜まった部屋。床に無造作に散らかった本。筆記用具も何も片付いていない机。
僕の部屋よりもひどいな、こりゃ。
「……そういや、ごたごたしててまだ何もしてないんだっけか。」
「掃除、しなきゃですね。」
「…………………(めんどくさいなぁ。)」
「え?」
「いやいや、掃除……(もそうだけど)じゃなくてね。」
一瞬、コールが目を光らせるが、何とかごまかす。
ここレーヴ支店は、一応僕らの土地ではあるものの、まだ正式な手続きが済んでいないため所有権自体は譲渡されていない。したがって、清掃等に手を付けることが未だ叶っていない。
すると、コールは床に無造作に積まれている本を一冊手に取り、その表紙に積もった埃を取って言った。
「それはおいといて。婦人には、自信満々に言ってましたけど……クラムさんには、あてがあるんですか?この、レーヴの……。」
「ああ。それをはっきりさせるためにも、ここまでの話を整理しようか。」
本を机の上に置き、その横に僕らの商会が集めた資料を置く。そこには、ここまで聞いてきたさまざまな話がメモとして記録されていた。
「さすがコーちゃんだね。記録においては僕も勝てないなぁ…。」
「クラムさんがやらなすぎるだけですよ…。」
「手厳しいなぁ……。」
やれやれ、と頭を軽くかく。
「まず、確信していることが一つ。ここ、レーヴの経営状況が、なぜ赤字だったのか、ということ。」
「色々な人の話を聞いて分かった真実が、レーヴは“大陸の畑”と呼ばれるほどの肥沃な土地になる以前は、“鉱山の町”だった、ということでしょうか。しかも、その鉱山もクローズ博士率いる研究チームと、レーヴの人々が協力し合って開発されたもの……。」
ペラペラとメモを巡りながら、コールは口にする。
「そして、ここレーヴの支店は、“大陸の畑”と呼ばれ始めた頃にできた。セリさんが言っていましたね。」
「そうだね。そこがずっと引っかかっていた。」
ジャールほどの男であれば、ここレーヴの商機を逃さないはずだ。エレッセ王国を商圏にしている彼らフーロン商会にとって、鉱山の新規開拓はおいしい話であることに間違いはない。大手商会が手を出す前に利権を得られれば、物流権や交渉権、人事権等を独り占めすることだってできるだろう。取引価格もだ。大手商会に引けを取らなくなる。それなのに、何故か彼らは手を出さなかった。
「もちろん、オルモタイトの危険性を察知して、出店しなかった可能性はある。魔力吸収量の高さには、取り扱う商人も苦労していた。副作用も大きいし。」
でも、それ以上のメリットがオルモタイトにはあった。流通元が限られているというのも、その一つ。
「色々と厄介なオルモタイトだけど、鉱石としては群を抜いて質が高い。」
「じゃあ、オルモタイトのメリットに目を瞑った理由って……。」
「……エレッセ王家の利権。」
その一言で、コールは何かに気づいたんだろう、ピクッと反応した。
「…恐らく、ね。」
僕は確信していた。おかしな矛盾の正体に。
「コーちゃんさ、今朝のアスタル新聞ってある?」
「カバンの中にしまってあります、えっと確か………。」
ゴソゴソと、背中に背負ったカバンを下ろし中身を探る。そして、パッと『日刊アスタル』を取り出す。
「あっ、ありました。」
「よしよし。確か、9枚目くらいかなぁ……。」
なんとなくの記憶でペラペラとめくっていく。そして、目的の頁にたどり着いて、その題字を指す。
……きっと、これだろう。
「『エレッセ王国、悲願の国営鉱山開設へ』。これって……。」
「その下の方、見てみなよ。」
コールに新聞を渡す。
「『…国費削減のため、“エレッセ王国御用達”という身分付きで運営主体を募集。』」
「わかりやすいよねぇ。」
僕は思わず笑ってしまう。
奴らフーロン商会が、大きな利益を叩き出せたはずの、しかも商圏内にあるレーヴの鉱山開発に協力しなかった理由。
「やつらがオルモタイトに手を出さなかったのは………この、国営鉱山開発に携わるためだよ。間違いなく、ね。」
壁にかけられた、エレッセ王国の地図。新聞に記されている、鉱山あたりを指さす。
“特定の国が背後につく”というのは、商会にとって大きな利益となる。その商会がやることなすこと、すべてに“国が認めている”という大義名分がつくからだ。しかも、“御用達”というのは箔としては上級。
つまり、エレッセ王国を味方に付けて、交易を好き勝手やりたいというのが、ジャールの本心なのだろう。
「そして、“大陸の畑”と呼ばれ始めた頃に出店したのにもかかわらず、ここレーヴの支店が赤字であるということ。これは、多分……。」
ここまでコールのつけてくれた記録を見返していく。
…うん、やっぱり。不自然すぎる。
「これだよ、コーちゃん。」
僕は、自信を持ってコールにそこを指さした。
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