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第一章 ゼイウェンの花 編
32 南方商人…サウセラー
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「やっぱ広いねぇー、マーゼは。」
「さすがは、“大陸の畑”を抱える経済大国ですよね。」
エレッセ王国。その王都は、三本の大きな街道が中心で交差し、その街道から小さな道が間を縫うように整備され、建物は放射状の道に沿って建設されている。物資の輸送や出兵がしやすいようにするためだが、このような構造は、新興国の王都の形状としてよく見られる。
英雄街道をまっすぐ進んできた僕らは、王都の南部へと着いた。王都に住まう一般庶民の住居で賑わう地域だ。
さて…コンペティションまでまだ時間はあるものの、その間にやらなければならないことが山積みだ。
「これから、どうするんですか?」
「そうだね……。」
とりあえず、あそこを目指すのがいいんじゃないかな。
「第二の砦、エルフィスに行こう。」
◇
智謀を巡らし、経済の面から建国初期のエレッセを支えた英雄、エルフィス。第二砦には、その名が冠されているのだが……。
「いやぁ、すごい人の数だねぇ。」
防衛のための砦なのに、まるで観光地みたいだ。
「噂には聞いていましたけど……すごい数ですね…。」
エルフィス砦は、智謀の将にあやかって願掛けに来る人がたくさん居る。試験合格、勝運祈願と、その理由は様々だ。
「ま、僕らもその一人なんだけどねぇ……。」
「…………随分と余裕そうですね、クラム商会長。」
すると、そんな砦の方から、こちらへと歩いてくる若い男が一人。ごった返す人の中から、目ざとく僕を見つけ出したようだ。
ド派手な金髪と、でかいピアスを耳に携え、ニヤつくあの顔。いつ見てもイラッとくるなぁ……。
「それはこちらの台詞だよ、はぐれ商会長。」
「嫌だなぁ、僕は“はぐれ”じゃなくて、ハグレーラ。全然違いますよ。」
そう言い、“商人のはぐれ者”ことハグレーラは、ニヤニヤしていた。…一文字しか違わねえじゃねえか。
「クラムさん、この人は……。」
「…お初にお目にかかります、わたしは南方商人会のハグレーラと申します。お見知り置きを。」
そう述べ、恭しくお辞儀する。
南方商人会というのは、大陸南部の国々を拠点とした商人……南方商人の緩やかな連合体のことだ。個々の商人が連携し、情報の共有や物品交換が彼らの間では盛んに行われている。
ハグレーラ・レイムズは、そのうちの一人。南部新興国を相手に、独自の交易路で仕入れた魔道具を売りつけている。それに加え、とある副業で密かに稼いでいて、着崩したふざけた格好をしているが、あれでも一応南方商人の中では一二を争う経済力を有する。
「人は見かけによらない」という言葉の真意を、僕はコイツから学んだ。
……そんなヤツが、何故ここに居るのか。
「君も、コンペに参加するんだね。」
「当たり前ですよ。今注目の、エレッセ王国の後ろ盾を手に入れられる、またとない機会ですからね。」
そう言い、ハグレーラはネクタイを締め直す素振りをする。
「……南部新興国の仲介役は大変だね。そこまでして、エレッセ王国とのコネクションが欲しいんだね。」
「そりゃそうです。南部の国々は、どこも近年独立したばかりで政治力も経済力も盤石ではない。だから、“後ろ盾”が欲しいんですよ。」
“後ろ盾”ねぇ。ま、ハグレーラの気持ちは分からんではないけども…。
「でも僕は……君に交易権が取れるとは、思えないなぁ…。」
「それは、どういうことでしょうか?」
喧嘩腰の態度を取る僕に対して、ハグレーラは分かりやすくキレる。コールは慌てているが……問題ない。
「だって、エレッセ王国の交易を牛耳っているのは、フーロン商会だよ。国営鉱山の経営権も、彼らで決まったも同然でしょ。」
僕はそう鼻高々に言ってみせる。すると……ハグレーラは、真面目な顔で僕に対して言葉を返した。
「確かに……フーロン商会はエレッセ王国と密接な関係にあり、コンペにおいて断然有利であることは間違いないです。しかし…。」
コンペで競う相手に情報を渡すのも癪ですが……と言いながら、胸ポケットについた収納用の小さな魔道具から、何か書かれた紙を取り出す。
「本当にそれで、決まるでしょうか。」
ヒラヒラさせながら、こちらへと見せる。
「それは……………。」
その紙の題字は………『極秘調査資料』。
「これは、ジャール・フーロンに関する身辺調査の結果が書かれたものです。勿論、我々が調査した、ね。」
「それで、何が分かったんだい?」
そう尋ねると、ハグレーラはわざとらしく肩をすくめた。
「さあね。そこまでは流石に、教えられませんよ。」
ケチくせーやつ。そこまで言ってんだから最後まで口を割りゃいいのに。
「じゃ、聞かないでおくよ、興味ないし。」
「つれないですねぇ……。」
わざとらしくオーバーリアクションをし、書類を魔道具にしまう。
「そうだ、ハグレも一緒に塔の観光しない?コンペまで時間もあることだしさ。」
「冗談は顔だけにしておいてください、クラム。私は貴方と違って忙しいんです。」
そう余計なことを言うと、ハグレーラは手招きをし、周辺を警戒していたのであろう仲間と思しき男たちを呼び寄せ、何かを話し始める。そして、また何処かへと走り去っていった。
そんなハグレーラと、目がバッチシ合う。
「……………はいはい、わーったよ。」
手をブラブラさせ、頷く。
“南方商人に暇なし”、か。
「では、コンペ会場でお会いしましょう。」
そう言うと、ハグレーラはアクセサリーを翻し、階段を降りていった。
「さすがは、“大陸の畑”を抱える経済大国ですよね。」
エレッセ王国。その王都は、三本の大きな街道が中心で交差し、その街道から小さな道が間を縫うように整備され、建物は放射状の道に沿って建設されている。物資の輸送や出兵がしやすいようにするためだが、このような構造は、新興国の王都の形状としてよく見られる。
英雄街道をまっすぐ進んできた僕らは、王都の南部へと着いた。王都に住まう一般庶民の住居で賑わう地域だ。
さて…コンペティションまでまだ時間はあるものの、その間にやらなければならないことが山積みだ。
「これから、どうするんですか?」
「そうだね……。」
とりあえず、あそこを目指すのがいいんじゃないかな。
「第二の砦、エルフィスに行こう。」
◇
智謀を巡らし、経済の面から建国初期のエレッセを支えた英雄、エルフィス。第二砦には、その名が冠されているのだが……。
「いやぁ、すごい人の数だねぇ。」
防衛のための砦なのに、まるで観光地みたいだ。
「噂には聞いていましたけど……すごい数ですね…。」
エルフィス砦は、智謀の将にあやかって願掛けに来る人がたくさん居る。試験合格、勝運祈願と、その理由は様々だ。
「ま、僕らもその一人なんだけどねぇ……。」
「…………随分と余裕そうですね、クラム商会長。」
すると、そんな砦の方から、こちらへと歩いてくる若い男が一人。ごった返す人の中から、目ざとく僕を見つけ出したようだ。
ド派手な金髪と、でかいピアスを耳に携え、ニヤつくあの顔。いつ見てもイラッとくるなぁ……。
「それはこちらの台詞だよ、はぐれ商会長。」
「嫌だなぁ、僕は“はぐれ”じゃなくて、ハグレーラ。全然違いますよ。」
そう言い、“商人のはぐれ者”ことハグレーラは、ニヤニヤしていた。…一文字しか違わねえじゃねえか。
「クラムさん、この人は……。」
「…お初にお目にかかります、わたしは南方商人会のハグレーラと申します。お見知り置きを。」
そう述べ、恭しくお辞儀する。
南方商人会というのは、大陸南部の国々を拠点とした商人……南方商人の緩やかな連合体のことだ。個々の商人が連携し、情報の共有や物品交換が彼らの間では盛んに行われている。
ハグレーラ・レイムズは、そのうちの一人。南部新興国を相手に、独自の交易路で仕入れた魔道具を売りつけている。それに加え、とある副業で密かに稼いでいて、着崩したふざけた格好をしているが、あれでも一応南方商人の中では一二を争う経済力を有する。
「人は見かけによらない」という言葉の真意を、僕はコイツから学んだ。
……そんなヤツが、何故ここに居るのか。
「君も、コンペに参加するんだね。」
「当たり前ですよ。今注目の、エレッセ王国の後ろ盾を手に入れられる、またとない機会ですからね。」
そう言い、ハグレーラはネクタイを締め直す素振りをする。
「……南部新興国の仲介役は大変だね。そこまでして、エレッセ王国とのコネクションが欲しいんだね。」
「そりゃそうです。南部の国々は、どこも近年独立したばかりで政治力も経済力も盤石ではない。だから、“後ろ盾”が欲しいんですよ。」
“後ろ盾”ねぇ。ま、ハグレーラの気持ちは分からんではないけども…。
「でも僕は……君に交易権が取れるとは、思えないなぁ…。」
「それは、どういうことでしょうか?」
喧嘩腰の態度を取る僕に対して、ハグレーラは分かりやすくキレる。コールは慌てているが……問題ない。
「だって、エレッセ王国の交易を牛耳っているのは、フーロン商会だよ。国営鉱山の経営権も、彼らで決まったも同然でしょ。」
僕はそう鼻高々に言ってみせる。すると……ハグレーラは、真面目な顔で僕に対して言葉を返した。
「確かに……フーロン商会はエレッセ王国と密接な関係にあり、コンペにおいて断然有利であることは間違いないです。しかし…。」
コンペで競う相手に情報を渡すのも癪ですが……と言いながら、胸ポケットについた収納用の小さな魔道具から、何か書かれた紙を取り出す。
「本当にそれで、決まるでしょうか。」
ヒラヒラさせながら、こちらへと見せる。
「それは……………。」
その紙の題字は………『極秘調査資料』。
「これは、ジャール・フーロンに関する身辺調査の結果が書かれたものです。勿論、我々が調査した、ね。」
「それで、何が分かったんだい?」
そう尋ねると、ハグレーラはわざとらしく肩をすくめた。
「さあね。そこまでは流石に、教えられませんよ。」
ケチくせーやつ。そこまで言ってんだから最後まで口を割りゃいいのに。
「じゃ、聞かないでおくよ、興味ないし。」
「つれないですねぇ……。」
わざとらしくオーバーリアクションをし、書類を魔道具にしまう。
「そうだ、ハグレも一緒に塔の観光しない?コンペまで時間もあることだしさ。」
「冗談は顔だけにしておいてください、クラム。私は貴方と違って忙しいんです。」
そう余計なことを言うと、ハグレーラは手招きをし、周辺を警戒していたのであろう仲間と思しき男たちを呼び寄せ、何かを話し始める。そして、また何処かへと走り去っていった。
そんなハグレーラと、目がバッチシ合う。
「……………はいはい、わーったよ。」
手をブラブラさせ、頷く。
“南方商人に暇なし”、か。
「では、コンペ会場でお会いしましょう。」
そう言うと、ハグレーラはアクセサリーを翻し、階段を降りていった。
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