弱輩者の第三王子~僕なんかに執政できるんですかね。~

拙糸

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第四章 波乱の内政・外交編

第15話 至る①

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スムジア王国の王都、ヘルグレーテ。中心には、三百年前に建造されたと言われている、ヘルグレーテ城がそびえている。戦争中だからか、それとも今の圧政のせいなのか、街中はほとんど人は歩いていない。そんなヘルグレーテの一部だけ、重装兵士が列をなしている、異様に重々しいところがあった。この戦争において、敵であるはずの僕とホスロは、ともにその道を歩く。後ろには、マージを含めた大臣を複数名ついてきている。僕らは、決して投降するためにここまで来たわけじゃない。僕らは、スムジア王国に講和条約を結びに来たのである。



事の始まりは昨日のこと。僕の城に届いたある文書が、きっかけを作った。その時、僕とホスロ、それに他の大臣たちは、ずっと戦争の作戦会議をしていた。そんな最中、一枚の手紙が届いたのである。これを持ってきてくれた伝令役兼連絡係の兵士は、下から回ってきたものだから分からないと言った。下へ下へと聞きはしたが、結局出所は分からなかった。差出人の署名を見ると、アリウス・クルヘイムと書いてあった。僕らは、この手紙に何か仕掛けられていると思い、僕の持つスキル、“為政者”の能力の一つを使ってその底をみたが、魔力はなにも感じられなかった。それでも、大臣たちは疑っていた。

「タイト様、差出人がスムジア王国の連中だとすると、奴等はとんでもないことを仕掛けているに違いありません。気をつけて封を……あっ!」

僕の手から手紙を取ったホスロが、ビリっと封筒を破く。中身は、紙切れ一枚のみだった。そのまま、手紙の内容を読んでいく。

『拝啓、親愛なるタールランド王国の大臣方、王族の方々、それに執政官であるタイト様。この手紙があなたの下に届いていること、とても嬉しく思っております…………………………』

という書き出しから始まり、つらつらと非常に芝居文句や過度な表現などがあり、びっちりと小文字で長文だったから、中身全ては省かせてもらう。
ちなみに、中身を要約すると……。

『あなた方の健闘は充分に世界が把握している。それに、あなたたちは我々との条約を破り、戦闘を行った帝国法違反の容疑もかけられているのだ。ここは、穏便に済ませるために、手打ちといこうではないか。』

「どう?」
「タイト様、予想通りですな。スムジア王国の連中は、和解交渉を持ちかけてきました。」
「破れば、どうなる?」
「帝国法の名の下に、全世界から批判がくるでしょうな。それに、我々に手を貸したミドル商会の権威も失墜するでしょうし、ズール帝国自体もかなりの打撃を受けるでしょうな。」

これはまた、なかなか厳しい選択を迫られてしまった。これまでに沢山の恩がある帝国や、ミドル商会に迷惑はかけたくない。だが、和解をしたらしたで、軍部から激しい批判がとんでくるだろう。ジーク兄さんは理解をしてくれるだろうが、冷静な判断をできる者は少ない。それに、負傷した者だって沢山いる。それを、無かったことになんてできないし……。だけど、僕は………

「………………分かった。ホスロ、登山用の馬車を用意してくれ。和解に行こう。」

と、ある大臣が声をあげる。

「待ってください殿下! タールランド軍の功績を無かったことにしようというのですか? 国内でクーデターが起きますよ? それに、我々の国としての威信だって揺らぐ。あなたは、我々のプライドを捨ててまで、商会や帝国に媚を売るのですか?」
「貴様、王を愚弄する気かっ!」

ホスロが腹に据えかねて、声を荒げる。

「ホスロ、いい。僕が悪いんだ。」

ドアに手を掛け、大臣たちの方を向く。ある大臣は下を向き、ある大臣は怒りに拳を震わせ、ある大臣は僕の方をしっかりと見ている。

「………僕がこれから和解に行くのは、商会に媚を売るためでもない。帝国に媚を売るためでもない。この国を、守るためなんだ。こんなこと言っても、綺麗事にしか聞こえないかもしれないけどね。今回の戦争は、確かに煽ってきたのはスムジア王国だし、武装して先行して待機していたのもスムジア王国側だよ。それだって、僕がチャールート金山をスムジアに譲っていれば、こんなことは起きてなかったかもしれない。それなのに、僕はチャールート金山に住むタールランドの民をきっぱりと諦めることができないで、ここまでずるずると引っ張って来てしまったんだ。彼らの挑発に屈したのは、君たちでもなく、国民でもない。紛れもなく僕なんだ。だから、僕は謝りに行く。一国の長として、頭を下げに行くんだ。軍が黙っちゃいないかもしれない。もしかしたら、心の何処かで、父の敵を取らなければという思いが、僕の後を押した。皆が納得できない結果が出てきてしまったそのときは、僕は…………執政官を、責任を取って辞めるさ。」

そう言い、ドアを開ける。

「まあ、心配しないでよ。会合中のことは、軍部、特にリーダーにはもう伝えてあるから。うまく行くと思うよ。」

ニカッと笑って見せる。部屋を出る間際に見えた、大臣たちの顔は忘れられないだろう。

馬車に揺られながら、スムジア街道を進む。その間、ホスロが僕の方をみて、ニヤニヤしている。

「…どうしたの?」
「いや、先程の反論、お見事だと思いましてな。」
「…反論っていうか、僕が蒔いた種を僕が回収しただけだよ?」
「それでもですよ、タイト様。一年前のあなたは、絶対にそんなことは言えてません。この一年、執政官として築いてきた経験が、活きてきているのです。これまで、沢山の国を渡り歩き、最後はあなたの父上の傍で君主というものを見てきましたが、あなたのようにしっかりと自分の意見を言ってくれるのは、ルーク殿を含めて二人しかいません。」
「ホスロが、手を握ってくる。」
「あなたはまだ若く、何のしがらみも気にする必要なく、好きな政策を好きなように行えるのです。この機会に、スムジアに救う悪い虫を、必ず炙り出そうじゃありませんか。」

ホスロの言葉に背中を押され、何だか肩が軽くなっていく心地がする。
………うん、その通りだ。僕にしかできないことをするのは、今しかない。

「もしかしたら、かなり波乱な会合になるかもだけど、心の準備はできてる?」
「大丈夫です。何があってもいいように、胃薬だけは常備してありますぞ。」
「おい、何の対策にもなってねーぞ。ていうか、僕が問題を起こすこと前提なのね。」

なんて会話をしながら、街道を上っていった。



カツーン、カツーン。革靴が大理石を踏む度に、乾いた音がなる。スムジア王国のヘルグレーテ城は、中心が巨大なドーム構造になっており、よく音が響く。緊張感が高いのもあり、城内は不気味なほどに静まり返っていた。
王の席へと続く赤い絨毯を、第13代スムジア王カーギス・ペペムの前へと歩く。椅子に腰かけるカーギスに目線を合わせるために、タールランド王家のマントを翻し、帝国式の礼を取る。

「お初に御目にかかります。タールランド王国第三王子、初代王代理筆頭補佐執政官、タイト・タールでございます。」

椅子に座るカーギスは、こちらをしっかりと見据えていた。傍に控えるアリウスは、僕の方を嘲笑うかの如く見下していた。
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