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しおりを挟む結局、甘夏のムースは渡すことが出来た。
けれども長居することなく都心のマンションに帰ってきた阿賀野は、自宅のリビングでぼんやりとしていた。
脳裏に巡るのは、真柴の祖父母の事だ。あの後会いに行った真柴にも祖父母の話題を振ってみると、近頃は極端に近寄らない限りは会話もしてくれるようになった真柴はすんなりと応えてくれた。
「はい、元は祖父母の家です。土地も畑も」
「じゃあ君は、ここで一人暮らしなのか」
なんとなくわかってはいたが、隣家どころか村まで降りるのでさえ時間がかかる山奥に、真柴は本当にひとりきりで暮らしていた。
「祖母が亡くなってからは一人暮らしです。その方が……気持ち的に楽なので」
声が小さくすぼみ、渡したばかりの小さなクーラーボックスに視線が落ちる。
どこまで松前が話したか、真柴は知らない。言ってしまえば彼は酷く傷つくかもしれないという危惧から、阿賀野はそれ以上はなにも言わずに帰ってきた。
「……情けないな」
須藤に見られていたら、間違いなく笑われていただろう。いつもの阿賀野ならば、もっと踏み込んでいたはずだ。
一人暮らしならきっと寂しいだろう。今暮らしている家は別荘のようにしていつでも使えるように管理人を置き、住まいは都内に移せばいい。マンションならすぐに用意してやれるし、真柴さえよければ今すぐ一緒に住んだっていい。
今までなら、確かにそう言えた。
けれど、阿賀野と同じか、もしくはほんの数センチ身長が高い真柴が声を落とし、首を垂れている姿は痛々しかった。
阿賀野が当たり前のように振る舞ってきたアルファとしての性質や、そうであれと育てられ、また自ら育んできた押しの強さで無理やり引き寄せようものなら、ぼろぼろと脆く崩れそうにさえ思えた。
真柴は運命のつがいだ。その間に、感情などは特になくても必要ない。ただ傍にいてくれれば、阿賀野は運命さえも手に入れたと、アルファとしての矜持を高めることが出来るし、真柴だって強いアルファのつがいになれば、今までのように無節操に放たれてしまう自分の強い匂いに怯えることなく過ごせるようになる。
憎み合っているわけではないし、最近では会話もできる。恋愛感情などなくとも、つがいとして寄り添いあうことは合理的だ。
けれど、自分の考えにどこか引っ掛かりを覚える。
それが一体なんなのかわからないまま、阿賀野はソファに体を預けながら、深いため息を吐く。その分だけ新しい空気を吸い込んだが、思考はクリアにならず、より一層気分は陰鬱に落ちていった。
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