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夢じゃなかった編
24.めでたしめでたしのその先に(1)
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「……どうして帰らなかったの」
フローラたちが立ち去ったあと、ルディはジークへ非難めいた声で問いかけた。
だがそれが本心でないことは、ルディの握り返した手で悟られてしまっているようで、ジークは穏やかに微笑んでいる。
恥ずかしくなり、ルディは俯いた。
「初めて会った時、話しただろうか」
ジークの明るい口調からは、王都への凱旋に対する未練は全く感じられない。
「俺は元から勇者って柄じゃないし、名誉だなんて身に余る。死んだものとしてくれた方が丁度いい」
死んだことにして、ついて回る名声とそれに伴われる重責を捨ててしまいたいのだ。
「それに、君が一緒でないなら、どちらを選ぶかは自明だろう」
「なら、私を王都に引っ張っていって、報奨金だけでも貰っておけばよかったでしょ」
この先何でも思いのままになるほどの褒賞を前にし、彼がルディを捨てて、そちらを選んでしまうのではないかと不安だった。自分の身がそれに釣り合うと思えるほどの自信は、ルディにはない。
「はは。金のために君を行きたくない場所へ連れていくなんて、しない。したくない」
笑いながらそこまで断言されて、ルディはようやく素直になれた。
顔を伏せたままジークの胸へ額をくっつける。
ジークは何も言わずにそのままルディを抱き締めた。
「……ありがとう。私も、行ってほしくなかった」
「ああ」
少し声が震えたことに気付かれてしまったのか、ルディを抱きしめた手が、背中を優しく撫でる。
「一つ、大事な話をしてもいいだろうか」
ルディが落ち着いた頃合いを見計らって、ジークがそう切り出した。
顔を上げると、彼はどこか不安そうに見えた。
「うん」
ジークはルディの生き辛さを、彼女の生まれ故郷や旅の最中でも目の当たりにしている。
そのため、深呼吸してから続けた言葉は、ルディへ寄り添い、それでいてジークの不安をないまぜにしたものとなった。
「どこかの町はずれの家に二人で住もう。俺が森で狩りをしてくるから……、いや、君と一緒に取りに行くのもいい。それを食べるか町で売って暮らすんだ。子供は……、いると嬉しいが、いなくても構わない。毎晩隣で眠ろう。君の命が尽きるまで、俺が傍にいる。だから……、猟師の妻になる気はないか?」
ジークは言葉をためらうようでも、どれほどルディを思ってくれているのかが真っ直ぐに伝わる、真摯な目を向けていた。
彼は昔、ルディに話していた。
魔王討伐の旅が終われば、亡き父親と同じ猟師になって、穏やかに暮らしたいと。
その時は、恩人に平穏が訪れればよいと思った。
だが今は、その平穏に、ルディも寄り添うことができる。
「……はい。私は、子供はたくさんほしい、かな」
ルディはまた涙をにじませながら、はっきりと答えた。
待望の返事に、ジークはぱっと安堵の笑顔を輝かせて飛びついてくる。
「ルディ、ありがとう……!」
ジークの強い抱擁から腕を引っ張り出して、彼の背中へ回す。
ルディは温もりと幸福をその心へ刻みこむように、目を閉じ、ジークの肩へ頭を預けるのだった。
フローラたちが立ち去ったあと、ルディはジークへ非難めいた声で問いかけた。
だがそれが本心でないことは、ルディの握り返した手で悟られてしまっているようで、ジークは穏やかに微笑んでいる。
恥ずかしくなり、ルディは俯いた。
「初めて会った時、話しただろうか」
ジークの明るい口調からは、王都への凱旋に対する未練は全く感じられない。
「俺は元から勇者って柄じゃないし、名誉だなんて身に余る。死んだものとしてくれた方が丁度いい」
死んだことにして、ついて回る名声とそれに伴われる重責を捨ててしまいたいのだ。
「それに、君が一緒でないなら、どちらを選ぶかは自明だろう」
「なら、私を王都に引っ張っていって、報奨金だけでも貰っておけばよかったでしょ」
この先何でも思いのままになるほどの褒賞を前にし、彼がルディを捨てて、そちらを選んでしまうのではないかと不安だった。自分の身がそれに釣り合うと思えるほどの自信は、ルディにはない。
「はは。金のために君を行きたくない場所へ連れていくなんて、しない。したくない」
笑いながらそこまで断言されて、ルディはようやく素直になれた。
顔を伏せたままジークの胸へ額をくっつける。
ジークは何も言わずにそのままルディを抱き締めた。
「……ありがとう。私も、行ってほしくなかった」
「ああ」
少し声が震えたことに気付かれてしまったのか、ルディを抱きしめた手が、背中を優しく撫でる。
「一つ、大事な話をしてもいいだろうか」
ルディが落ち着いた頃合いを見計らって、ジークがそう切り出した。
顔を上げると、彼はどこか不安そうに見えた。
「うん」
ジークはルディの生き辛さを、彼女の生まれ故郷や旅の最中でも目の当たりにしている。
そのため、深呼吸してから続けた言葉は、ルディへ寄り添い、それでいてジークの不安をないまぜにしたものとなった。
「どこかの町はずれの家に二人で住もう。俺が森で狩りをしてくるから……、いや、君と一緒に取りに行くのもいい。それを食べるか町で売って暮らすんだ。子供は……、いると嬉しいが、いなくても構わない。毎晩隣で眠ろう。君の命が尽きるまで、俺が傍にいる。だから……、猟師の妻になる気はないか?」
ジークは言葉をためらうようでも、どれほどルディを思ってくれているのかが真っ直ぐに伝わる、真摯な目を向けていた。
彼は昔、ルディに話していた。
魔王討伐の旅が終われば、亡き父親と同じ猟師になって、穏やかに暮らしたいと。
その時は、恩人に平穏が訪れればよいと思った。
だが今は、その平穏に、ルディも寄り添うことができる。
「……はい。私は、子供はたくさんほしい、かな」
ルディはまた涙をにじませながら、はっきりと答えた。
待望の返事に、ジークはぱっと安堵の笑顔を輝かせて飛びついてくる。
「ルディ、ありがとう……!」
ジークの強い抱擁から腕を引っ張り出して、彼の背中へ回す。
ルディは温もりと幸福をその心へ刻みこむように、目を閉じ、ジークの肩へ頭を預けるのだった。
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