【R-18】【完結】壊された二人の許しと治療

雲走もそそ

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中編

20.過去との対峙-3

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「グラスを、差し出された。左側から……」

 飲み物の入ったグラス。オレンジジュースだった。
 受け取って礼を述べる。見上げた相手は、アルヴィド・エーベルゴート。
 驚いた。直接話したことなどない、有名人。

「安心した……」
「なぜ?」
「彼は先生からも信頼されてて、優等生だから。嫌な場所だと思ったけど、彼がいるなら、悪い場所じゃないと、思った。私の気のせいだと……」
「……、彼の、顔をよく見るんだ」

 明るい金色の髪と、漲るように光る青い瞳。笑っている。自信に満ちた顔。普段、人に囲まれている時と変わらない様子だった。
 アルヴィドが隣に座って、自己紹介をした。

「違和感が、あった」
「どんな?」
「誰も、彼を見ていなかった。他のテーブルの、誰も」

 彼の傍に人がいないことなど、これまで無かった。

「でも、深く考えなかった。この時、気付いていれば……」

 現実のイリスの声が震える。目が熱い。目元に乗せたハンカチのおかげで隠れているが、閉じた瞼から涙がにじみ出していた。

 後から彼自身が明かした。アルヴィドは、認識疎外の魔術を使っていた。イリス以外、この部屋の誰も彼の存在が見えていなかったのだ。
 まだこの段階なら逃げられた。違和感の正体に気付けてさえいれば。

「今の、ことじゃない。……この時のことを、思い出すんだ」
「……話を、した」

 アルヴィドは、友人に無理やり連れてこられたのだと話した。イリスもだったから、親近感を覚えた。常に人の中心にいる彼が場違いだと、肩身の狭い思いをすることもあるのだと。

 そして、ジュースを飲んだら一緒に出ようと誘われた。イリスは早く帰りたかったから、お礼を言って、彼に渡されたグラスに口をつける。
 味は普通のオレンジジュースの味だった。甘味、酸味、苦み。酒ではない。

 イリスが実家の飼い猫の話をすると、彼は家で飼っている犬の話をした。
 拾った犬で、怪我をしていたので治癒魔術で治してやり、そのまま飼うことになったらしい。まだ幼いころのことで、魔術の修練度が足りなかった。術は精度が低く、犬には傷痕が残ってしまった。だが、犬は一命を取り留めたと語っていた。
 治癒魔術は万能ではない。死ぬほどの怪我を、命を繋ぐ程度まで治すことは、非常に難しい。それを幼い時分にしてみせたというのだから、感心した覚えがある。

 会話を楽しみながら口をつけ、グラスを空にした。
 やっと、体がおかしいことに気が付く。

 のぼせた時のように、体が熱く、ぼんやりして思考が鈍っていた。
 酩酊に近いと感じたが、何かそれとは違うとも思った。
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