85 / 114
後編
28.兄弟-1
しおりを挟む
授業のある昼間の時間帯、アルヴィドは校長室へ向かった。
以前捕まえた反政府組織の男に関する捜査の経過を、魔法警察から報告を受けた後グンナルが共有してくれることになっている。それで約束の時間に校長室のある塔の階段を上っていった。
最上階へたどり着くと、男の声が石材の廊下に響いて耳へ届いた。
何かと思えば、校長室の前に人が二人。一方はイリスだった。
近づいて、アルヴィドは息を呑んだ。
「――私が、教えてあげたんですよ」
魔法警察の制服を身に着けた男。
あろうことか、イリスの腕を掴んでいる。
イリスが男を見上げる表情は恐怖に引きつり、身動きできなくなっていた。
「努力してのし上がろうとしている、社会的信用の低いおもちゃがいるってね。その現場を教師たちに押さえさせて、あの男を優等生の座から蹴落としてやるつもりが、まさかあなたが自力で兄に一矢報いるとまでは思ってませんでしたよ」
「やめろ!」
アルヴィドは相手が誰か分からないまま、急いで割って入った。
男の腕を剥がし、その顔を見て今度はアルヴィドの体が固まる。
その顔は、植え付けられた記憶で嫌になるほど見たかつての自身を、そのまま成人させたような容貌だった。
「誰かと思いましたよ、兄さん」
ようやく情報が繋がった。目の前の男は、実弟のベネディクトだ。今は彼がエーベルゴートの次期当主となっているはず。
すると、先ほど彼が意気揚々と語ったことの中身が、過去のあの出来事に関連していると気付く。
「落ちぶれた暮らしをしてると聞いていましたが、随分変わりましたね」
ベネディクトはアルヴィドを頭からつま先までじっくり目でなぞった。視線に乗る嫌悪と侮蔑を隠そうともしない。
昔は感じなかった弟への恐怖。この顔の所為だ。
「今の、話は……」
「ああ。全部忘れてるんでしたっけ」
ふっと鼻で笑い、勝ち誇ったように唇を吊り上げる。その顔は、イリスを凌辱したアルヴィドの表情と、随分よく似ていた。
「兄さん、あなたは私を見くびって、足元を掬われたんですよ」
ベネディクトは、失われたアルヴィドの実家での記憶を語った。
休暇で帰省した兄弟。ベネディクトは普段自ら話しかけなどしないが、この時は目論見があって兄に声をかけた。
何気ない雑談をしながら、お互い腹の内を探り合う。その中で、同級生のイリスのことを持ち出した。悪い噂。その後に少し持ち上げるように良い話。まるで、ベネディクトが彼女に気のある素振りを見せた。わざとらしくならないよう気を払って。すると兄は、興味なさげに振舞いつつ、目を光らせた。ベネディクトはそれを見逃さなかった。
「あなたは私の興味を持ったものを壊すのが、お気に入りでしたからね」
以前捕まえた反政府組織の男に関する捜査の経過を、魔法警察から報告を受けた後グンナルが共有してくれることになっている。それで約束の時間に校長室のある塔の階段を上っていった。
最上階へたどり着くと、男の声が石材の廊下に響いて耳へ届いた。
何かと思えば、校長室の前に人が二人。一方はイリスだった。
近づいて、アルヴィドは息を呑んだ。
「――私が、教えてあげたんですよ」
魔法警察の制服を身に着けた男。
あろうことか、イリスの腕を掴んでいる。
イリスが男を見上げる表情は恐怖に引きつり、身動きできなくなっていた。
「努力してのし上がろうとしている、社会的信用の低いおもちゃがいるってね。その現場を教師たちに押さえさせて、あの男を優等生の座から蹴落としてやるつもりが、まさかあなたが自力で兄に一矢報いるとまでは思ってませんでしたよ」
「やめろ!」
アルヴィドは相手が誰か分からないまま、急いで割って入った。
男の腕を剥がし、その顔を見て今度はアルヴィドの体が固まる。
その顔は、植え付けられた記憶で嫌になるほど見たかつての自身を、そのまま成人させたような容貌だった。
「誰かと思いましたよ、兄さん」
ようやく情報が繋がった。目の前の男は、実弟のベネディクトだ。今は彼がエーベルゴートの次期当主となっているはず。
すると、先ほど彼が意気揚々と語ったことの中身が、過去のあの出来事に関連していると気付く。
「落ちぶれた暮らしをしてると聞いていましたが、随分変わりましたね」
ベネディクトはアルヴィドを頭からつま先までじっくり目でなぞった。視線に乗る嫌悪と侮蔑を隠そうともしない。
昔は感じなかった弟への恐怖。この顔の所為だ。
「今の、話は……」
「ああ。全部忘れてるんでしたっけ」
ふっと鼻で笑い、勝ち誇ったように唇を吊り上げる。その顔は、イリスを凌辱したアルヴィドの表情と、随分よく似ていた。
「兄さん、あなたは私を見くびって、足元を掬われたんですよ」
ベネディクトは、失われたアルヴィドの実家での記憶を語った。
休暇で帰省した兄弟。ベネディクトは普段自ら話しかけなどしないが、この時は目論見があって兄に声をかけた。
何気ない雑談をしながら、お互い腹の内を探り合う。その中で、同級生のイリスのことを持ち出した。悪い噂。その後に少し持ち上げるように良い話。まるで、ベネディクトが彼女に気のある素振りを見せた。わざとらしくならないよう気を払って。すると兄は、興味なさげに振舞いつつ、目を光らせた。ベネディクトはそれを見逃さなかった。
「あなたは私の興味を持ったものを壊すのが、お気に入りでしたからね」
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!
若松だんご
恋愛
「キサマとはやっていけない。婚約破棄だ。俺が愛してるのは、このマリアルナだ!」
婚約者である王子が開いたパーティ会場で。妹、マリアルナを伴って現れた王子。てっきり結婚の日取りなどを発表するのかと思っていたリューリアは、突然の婚約破棄、妹への婚約変更に驚き戸惑う。
「姉から妹への婚約変更。外聞も悪い。お前も噂に晒されて辛かろう。修道院で余生を過ごせ」
リューリアを慰めたり、憤慨することもない父。マリアルナが王子妃になることを手放しで喜んだ母。
二人は、これまでのリューリアの人生を振り回しただけでなく、これからの未来も勝手に決めて命じる。
四つ違いの妹。母によく似たかわいらしい妹が生まれ、母は姉であ、リューリアの育児を放棄した。
そんなリューリアを不憫に思ったのか、ただの厄介払いだったのか。田舎で暮らしていた祖母の元に預けられて育った。
両親から離れたことは寂しかったけれど、祖母は大切にしてくれたし、祖母の家のお隣、幼なじみのシオンと仲良く遊んで、それなりに楽しい幼少期だったのだけど。
「第二王子と結婚せよ」
十年前、またも家族の都合に振り回され、故郷となった町を離れ、祖母ともシオンとも別れ、未来の王子妃として厳しい教育を受けることになった。
好きになれそうにない相手だったけれど、未来の夫となる王子のために、王子に代わって政務をこなしていた。王子が遊び呆けていても、「男の人はそういうものだ」と文句すら言わせてもらえなかった。
そして、20歳のこの日。またも周囲の都合によって振り回され、周囲の都合によって未来まで決定されてしまった。
冗談じゃないわ。どれだけ人を振り回したら気が済むのよ、この人たち。
腹が立つけれど、どうしたらいいのかわからずに、従う道しか選べなかったリューリア。
せめて。せめて修道女として生きるなら、故郷で生きたい。
自分を大事にしてくれた祖母もいない、思い出だけが残る町。けど、そこで幼なじみのシオンに再会する。
シオンは、結婚していたけれど、奥さんが「真実の愛を見つけた」とかで、行方をくらましていて、最近ようやく離婚が成立したのだという。
真実の愛って、そんなゴロゴロ転がってるものなのかしら。そして、誰かを不幸に、悲しませないと得られないものなのかしら。
というか。真実もニセモノも、愛に真贋なんてあるのかしら。
捨てられた者同士。傷ついたもの同士。
いっしょにいて、いっしょに楽しんで。昔を思い出して。
傷を舐めあってるんじゃない。今を楽しみ、愛を、想いを育んでいるの。だって、わたしも彼も、幼い頃から相手が好きだったってこと、思い出したんだもの。
だから。
わたしたちの見つけた「真実の愛(笑)」、邪魔をしないでくださいな♡
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる