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後編

28.兄弟-1

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 授業のある昼間の時間帯、アルヴィドは校長室へ向かった。
 以前捕まえた反政府組織の男に関する捜査の経過を、魔法警察から報告を受けた後グンナルが共有してくれることになっている。それで約束の時間に校長室のある塔の階段を上っていった。

 最上階へたどり着くと、男の声が石材の廊下に響いて耳へ届いた。
 何かと思えば、校長室の前に人が二人。一方はイリスだった。

 近づいて、アルヴィドは息を呑んだ。

「――私が、教えてあげたんですよ」

 魔法警察の制服を身に着けた男。
 あろうことか、イリスの腕を掴んでいる。

 イリスが男を見上げる表情は恐怖に引きつり、身動きできなくなっていた。

「努力してのし上がろうとしている、社会的信用の低いおもちゃがいるってね。その現場を教師たちに押さえさせて、あの男を優等生の座から蹴落としてやるつもりが、まさかあなたが自力で兄に一矢報いるとまでは思ってませんでしたよ」
「やめろ!」

 アルヴィドは相手が誰か分からないまま、急いで割って入った。
 男の腕を剥がし、その顔を見て今度はアルヴィドの体が固まる。

 その顔は、植え付けられた記憶で嫌になるほど見たかつての自身を、そのまま成人させたような容貌だった。

「誰かと思いましたよ、兄さん」

 ようやく情報が繋がった。目の前の男は、実弟のベネディクトだ。今は彼がエーベルゴートの次期当主となっているはず。
 すると、先ほど彼が意気揚々と語ったことの中身が、過去のあの出来事に関連していると気付く。

「落ちぶれた暮らしをしてると聞いていましたが、随分変わりましたね」

 ベネディクトはアルヴィドを頭からつま先までじっくり目でなぞった。視線に乗る嫌悪と侮蔑を隠そうともしない。
 昔は感じなかった弟への恐怖。この顔の所為だ。

「今の、話は……」
「ああ。全部忘れてるんでしたっけ」

 ふっと鼻で笑い、勝ち誇ったように唇を吊り上げる。その顔は、イリスを凌辱したアルヴィドの表情と、随分よく似ていた。

「兄さん、あなたは私を見くびって、足元を掬われたんですよ」

 ベネディクトは、失われたアルヴィドの実家での記憶を語った。
 休暇で帰省した兄弟。ベネディクトは普段自ら話しかけなどしないが、この時は目論見があって兄に声をかけた。
 何気ない雑談をしながら、お互い腹の内を探り合う。その中で、同級生のイリスのことを持ち出した。悪い噂。その後に少し持ち上げるように良い話。まるで、ベネディクトが彼女に気のある素振りを見せた。わざとらしくならないよう気を払って。すると兄は、興味なさげに振舞いつつ、目を光らせた。ベネディクトはそれを見逃さなかった。

「あなたは私の興味を持ったものを壊すのが、お気に入りでしたからね」
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