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後編
28.兄弟-2
しおりを挟む休暇を終えて学校へ戻ったアルヴィドは、案の定すぐにイリスの情報を収集し始めた。
ベネディクトはそれに合わせて、イリスを嫌う同級生のエレーンに、彼女を居心地の悪い場所、例えば取壊し予定の寮で行う秘密のパーティにでも連れていく嫌がらせを唆した。勿論エレーン自身が思い至るように、あくまで誘導しただけだ。
放っておけば、その情報はアルヴィドが勝手に掴んでくれる。大勢の目の届かない、空間制御系の魔術を使いやすいそんな場所へ、イリスがのこのこ出向く。ベネディクトは兄をよく知っているつもりだ。その情報を得た彼が、何か起こしてくれると確信していた。
そこへ教師が踏み込めば、学校一の優等生のアルヴィドの信用は失墜する。ベネディクトはほくそ笑みながら、教師へ秘密のパーティの密告を行った。
ベネディクトの想定外は、エレーンへの教唆どころか、その密告すらアルヴィドに筒抜けだったことだ。兄は最初から弟が何か企んでいると気付いていた。だから完璧に隠した自らの使い魔でベネディクトを見張っていた。そしてその動きから、彼が自身を嵌めるための罠を着々と準備してくれていると理解していた。
まともな思考であれば、ベネディクトの用意した餌であるイリスに近づかなかっただろう。しかし、アルヴィドは全てを逆手に取り、弟への嫌がらせを行うことにした。
弟のお膳立て通りに、秘密のパーティへ潜入し、他の人間には姿を隠したうえでイリスに接触した。そして彼女に薬を盛って凌辱した。弟の計画では、この時丁度教師たちが現場へ踏み込んでくるはずだった。
だがアルヴィドは、この件を担当するグンナルと生活指導の教師を、他の生徒が揉めているだの理由をつけ、友人を介して足止めしておいた。おかげでグンナルたちは、遅すぎる到着となった。アルヴィドは弟の用意した箱罠の、扉が下りる前に悠々と逃げていったのだ。
兄が引き立てられてくると期待して、例の建物の前の人だかりに紛れて見物していたベネディクト。アルヴィドはそっと背後から近づいて失敗を教えてやり、せせら笑った。
「きっかけを……、なぜイリスに目を向けたのか、きっかけが思い出せなかった。そんな理由だったのか……」
イリスは偶然、兄弟のいがみ合いの道具に選ばれてしまった。同級生のベネディクトなら、彼女の出身地に起因した噂も自然と耳に入っていただろう。ただそれだけだった。
「彼女にして正解でしたよ。失敗した計画のはずが、思わぬ形で当初の目的を達成してくれたんですから!」
兄弟以外の人間は有象無象で、計画の終わった段階で二人ともイリスの事を忘れ去っていた。
ところが、心身を傷つけられ、社会的信用も打ち砕かれたイリスは、復讐に燃え、グンナルを脅し、アルヴィドに被害の記憶を植え付けてみせた。これにより患った男性恐怖症がきっかけで、アルヴィドは父親から後継者として不適格の烙印を押され、ベネディクトの希望通りに追放される。
目の前に関係者しかいないのをいいことに、ベネディクトは高らかに笑った。兄にのみ向けられていた名声が、自分のものとなる。今や彼が名門エーベルゴート家の跡取りだ。
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