【R-18】【完結】何事も初回は悪い

雲走もそそ

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05.嫉妬と諦念-2

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「そうか。公爵か、それともそなたの兄か?」
「当家のロベルト様です。夫の三男で、私の義理の息子に当たります」

 自分と同じ十八歳の彼女の言葉に、イザークは少しの間理解が追いつかなかったが、そういえばヴィオラの夫のベラーネク伯爵には前妻との間に三人の息子がいたことを思い出した。しかも、彼らは全員ヴィオラよりも年上であるという。
 イザークがまだ興味を示しており雑談をしたいことがわかったのか、ヴィオラは追加情報を与えてくれた。

「ロベルト様なのですが、どうも結婚できないことに悩んでおられるようなのです。女性と観劇へ行かれたこともないそうで、いずれ懇意の方と行く前の練習に、私に同行してほしいと仰いまして。丁度私も興味のある演目でしたから、お供することにいたしました」
「そうか……」

 件の三男は、たしかヴィオラの二歳上で現在二十歳になるはずだが、未だに結婚していないらしい。ただこの男、女性に行動を合わせるという概念を持たない類いの人間と聞いている。噂によれば、父親がどうにか見つけてきた男爵家の令嬢との縁を、二人きりの狩猟に連れ出すことで即座に切ってしまったそうだ。
 そんな男が、観劇に行く前の練習をしようなどと思い立つのだろうか。
 何か違う魂胆がありそうに思えて、イザークは内心面白くなかった。昔は分かりやすく顔に出したものだが、今はさすがに綺麗に隠すようになっている。

「開演には間に合うのか?」
「はい。予定通りの終業時刻からでも、時間が余るほどに。待ち合わせも劇場の前だったのですが、一体なぜこれほど早く来られたのか……」

 不思議そうに首を傾げるヴィオラだが、イザークはというと心中穏やかではない。
 まるで早く、そしてより長く一緒にいたい男の勝手な行動に思えたからだ。まさかとは思うが、ロベルトとかいう義理の息子は、義母のヴィオラに懸想しているのではないか。そんな疑念と嫉妬が湧いてくる。

 しかし、その自分の思いに気付くと、湧いてきた感情はすっと冷えていった。
 一体何を考えているのか。ヴィオラはもとより、イザークもすでに結婚している。ヴィオラを妻に迎えられないことは、もう何年も前に突きつけられて、ひとしきり絶望した。終わったことなのだ。薬指へ指輪を嵌めて登城してきた彼女に、笑顔で結婚祝いの言葉を述べた。
 ヴィオラへの思いを未だに抱え続けることは、妃への裏切りに他ならない。これは、捨てなくてはならないものだ。

「……業務の都合がつくのなら、早めに出るといい」
「え? はい。ありがとうございます」

 イザークは手元の書面へ視線を落とし、それきり黙り込んだ。

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