【R-18】【完結】何事も初回は悪い

雲走もそそ

文字の大きさ
71 / 116

19.新たな取引-2

しおりを挟む


 前日の内に今日の朝一番に会う約束をしておいた相手と、イザークは人払いを済ませた上で対面していた。

 テーブルを挟んで向かいの、三人掛けのソファへ腰かける同年代の女性。明るく輝く金色の豊かな髪を背に流した彼女こそが、この部屋の主だ。そしてここは王妃の居室である。約束の相手とは王妃のオフェリアだった。
 オフェリアは冷たい、どこか呆れたような表情で、イザークと目を合わせることもしない。イザークが話し始めるのを待っているようだ。
 彼女の斜め後ろに立つ、金に近い茶色の髪の長身の男は、言わずもがな護衛騎士のグスタフである。普段通り目を伏せ、まるで存在しないかのように気配を消し微動だにしない。グスタフはオフェリアが祖国から帯同した供の中の一人である。

 この二人は、イザーク以外知らないことだが、密かに愛し合っている。かつてそれに気づいたイザークは、オフェリアに取引を持ち掛けた。ヴィオラへの許されない愛情を捨てずにいる代わりに、オフェリアも本当に愛する人へ心を向ける。そして愛情が伴ってはならないはずの年初の行為の相手として、グスタフを指名してしまえばいいと。表面上は仲睦まじい夫婦を演じつつ、慣習を利用して年に一度だけ最愛の人に触れる。イザークとオフェリアは、禁忌を破る共犯者であり、義務を果たしつつ同じ心情を理解し合う協力者でもあった。

「王妃よ」

 イザークはオフェリアを、周囲に人がいるときは親しげに名前で呼び、二人きりかグスタフを加えた三人の時は、王妃としか呼ばなかった。
 本来、王妃のオフェリアの名を呼ぶことが許されるのは、夫であるイザークだけだ。良好な関係を演出すべく人前では呼ぶようにしている。しかし彼女が叶うならばその名を呼ばせたい相手はグスタフである。だから二人の胸中を思って、そうできる場所では遠慮していた。オフェリアとグスタフが二人きりのときは、お互い名前で呼び合っている様子だ。

「また一つ、取引をしないか」

 そう持ちかけると、オフェリアは眉を上げて、ようやくイザークを見た。国王が元秘書官と姦通した噂は、当然彼女の耳にも入っている。

「まあ。てっきり謝罪でもなさるのかと思っておりましたが、取引の中身ぐらいは聞いて差し上げましょう」

 彼女は、イザークの思い続ける相手がヴィオラだと知っている。だから今回の不貞の噂は、ヴィオラではなく、イザークの方が自制心を失った結果の暴挙だと認識しているだろう。ただし、それが突発的な行動ではなく、周到に練られた計画に基づいているとまでは思いもよらないはずだ。

「謝罪か……。王が年初の相手と不貞に走り、あまつさえその女を囲っているとなれば、仲睦まじいはずの王妃の面目も立たない。そなたの祖国も黙ってはいないだろうな」

 オフェリアの祖国である北の隣国は、重要な同盟国だ。

「祖国へ、この件について納得していると弁解してくれないか」

 普段、悠然としているオフェリアも、イザークのこの厚顔無恥な提案には目を丸くした。後ろのグスタフもだ。
 すぐにオフェリアの目には蔑みの色が映る。

「私が、夫である陛下の不義を責めないと、我が祖国へ弁明するのですか。正気でしょうか?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

処理中です...