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19.新たな取引-2
しおりを挟む前日の内に今日の朝一番に会う約束をしておいた相手と、イザークは人払いを済ませた上で対面していた。
テーブルを挟んで向かいの、三人掛けのソファへ腰かける同年代の女性。明るく輝く金色の豊かな髪を背に流した彼女こそが、この部屋の主だ。そしてここは王妃の居室である。約束の相手とは王妃のオフェリアだった。
オフェリアは冷たい、どこか呆れたような表情で、イザークと目を合わせることもしない。イザークが話し始めるのを待っているようだ。
彼女の斜め後ろに立つ、金に近い茶色の髪の長身の男は、言わずもがな護衛騎士のグスタフである。普段通り目を伏せ、まるで存在しないかのように気配を消し微動だにしない。グスタフはオフェリアが祖国から帯同した供の中の一人である。
この二人は、イザーク以外知らないことだが、密かに愛し合っている。かつてそれに気づいたイザークは、オフェリアに取引を持ち掛けた。ヴィオラへの許されない愛情を捨てずにいる代わりに、オフェリアも本当に愛する人へ心を向ける。そして愛情が伴ってはならないはずの年初の行為の相手として、グスタフを指名してしまえばいいと。表面上は仲睦まじい夫婦を演じつつ、慣習を利用して年に一度だけ最愛の人に触れる。イザークとオフェリアは、禁忌を破る共犯者であり、義務を果たしつつ同じ心情を理解し合う協力者でもあった。
「王妃よ」
イザークはオフェリアを、周囲に人がいるときは親しげに名前で呼び、二人きりかグスタフを加えた三人の時は、王妃としか呼ばなかった。
本来、王妃のオフェリアの名を呼ぶことが許されるのは、夫であるイザークだけだ。良好な関係を演出すべく人前では呼ぶようにしている。しかし彼女が叶うならばその名を呼ばせたい相手はグスタフである。だから二人の胸中を思って、そうできる場所では遠慮していた。オフェリアとグスタフが二人きりのときは、お互い名前で呼び合っている様子だ。
「また一つ、取引をしないか」
そう持ちかけると、オフェリアは眉を上げて、ようやくイザークを見た。国王が元秘書官と姦通した噂は、当然彼女の耳にも入っている。
「まあ。てっきり謝罪でもなさるのかと思っておりましたが、取引の中身ぐらいは聞いて差し上げましょう」
彼女は、イザークの思い続ける相手がヴィオラだと知っている。だから今回の不貞の噂は、ヴィオラではなく、イザークの方が自制心を失った結果の暴挙だと認識しているだろう。ただし、それが突発的な行動ではなく、周到に練られた計画に基づいているとまでは思いもよらないはずだ。
「謝罪か……。王が年初の相手と不貞に走り、あまつさえその女を囲っているとなれば、仲睦まじいはずの王妃の面目も立たない。そなたの祖国も黙ってはいないだろうな」
オフェリアの祖国である北の隣国は、重要な同盟国だ。
「祖国へ、この件について納得していると弁解してくれないか」
普段、悠然としているオフェリアも、イザークのこの厚顔無恥な提案には目を丸くした。後ろのグスタフもだ。
すぐにオフェリアの目には蔑みの色が映る。
「私が、夫である陛下の不義を責めないと、我が祖国へ弁明するのですか。正気でしょうか?」
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