【R-18】【完結】何事も初回は悪い

雲走もそそ

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25.届く言葉-3

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「……ベラーネク伯爵夫人。平伏する必要はありません」

 進み出たオフェリアの声が、頭上からかかった。グスタフは広場の出入り口付近に立って控えている。
 ヴィオラは顔を伏せたまま、言われたとおりに立ち上がった。震えを隠すために、両手を握り合わせる。

「顔を、お上げなさい」

 オフェリアは、従前どおりの、静かだが冷たさのない、それでいて厳かな声音で、ヴィオラへ語り掛ける。

 どれほど蔑んだ眼差しをしているのだろうか。それでも、命令に背くことは許されない。ヴィオラは意を決して、顔を上げてオフェリアと目を合わせた。

「……少し、やつれましたね」

 とても、侮蔑など感じられなかった。むしろ案ずるような、痛ましげな表情で、ヴィオラを見つめている。

「座って話をしましょう。あまり時間は許されていませんが、立ち話で済む程でもありませんから」

 そうしてオフェリアは、ヴィオラへ着席するよう促した。



「これを」

 テーブルを挟んで向かいの椅子に座ったオフェリアは、一通の封筒を取り出し、ヴィオラの方へ差し出した。受け取ると、封は開いていて、外側には何も書かれていないことが分かる。

「ルドヴィーク公爵から、私への手紙です」
「父の……」

 娘の罪業を詫びる書状だろうか。最後に会った時の叱責の記憶が甦り、手の中のそれが途端に恐ろしいものに思えた。
 父は、年初の相手と不貞を働いたと告白するヴィオラを、当然に叱責し勘当した。だが、そうしておきながら、公爵家の騎士たちによる帰り道の護衛を許した。社会的に庇いだてすることなど許されない、不道徳に手を染めた娘であるにもかかわらずだ。

「王妃様、どうか、公爵家をお許しください。家人を悪行へ走らせるような家ではございません。私以外は、善良な者しかいないのです。姉たちは真っ当に育ち、今は貞淑な夫人として婚家を差配しております。父は、私の不貞を知って勘当を言い渡しました。私だけが異常で、公爵家に過失など――」
「落ち着きなさい」

 必死に言い募るうちに、涙が溢れてしまう。
 オフェリアはそんなヴィオラの言葉を冷静に遮った。

「それは謝罪の手紙などではありません。公爵は、私に助けを求めてきました」
「助け、ですか……?」
「私個人は、あなたを責めるつもりはありません。お見せした方が早いでしょう。……グスタフ。こちらへ来なさい」
「はっ」

 広場の端に控えていたグスタフが、進み出てくる。
 椅子にかけたオフェリアの傍へ立った彼に、彼女は耳を貸せと言わんばかりにさらに手招きをした。

 不思議そうな表情を浮かべつつ、身を屈めるように近付いた騎士の襟首を、たおやかな手が掴み寄せた。

「な……!」

 王妃の方から、騎士の唇を奪った。
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