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26.何事も初回は悪い-4
しおりを挟む「陛下は、どのような私を愛してくださったのですか。幼いころのようにあなたを強引に連れまわす私ですか。秘書官としてあなたに忠実にお仕えした私ですか。年初のお相手を務めてきた私ですか。それとも、自責の念に囚われこの体であなたをお慰めする私ですか。今の私は……、まだ、あなたの愛してくださった私のままですか」
ひたすら静かな口調で、まるで筆頭秘書官として物申すように問いかけを重ねた。
時間が止まったように、しんと静まり返る。遠くの噴水の小さな水音さえ、今の二人には届かない。
ヴィオラが言葉を重ねる間、黙り込んでいたイザークは、やがて震える唇を開いた。
「私が愛したのは……、気兼ねもなく、眩しいほどに輝く瞳で、真っ直ぐに私を見つめてくる、そなたであった……。そのような愁傷と憐憫の眼差しではない……。私が自ら、取り返しのつかない方法で、そなたを損ねてしまったのだな……」
イザークは視線を落とし、そう呟くように認めた。自分が、手に入れようとして、壊してしまったのだと。
本当は分かっていたのだ。
ヴィオラを閉じ込めたばかりのイザークは、安堵の表情を見せていた。だが日を追うごとに、ヴィオラが消耗して彼の望むとおり堕ちつつあるというのに、焦燥感を垣間見せ、それを振り払うように繰り返し体を重ねた。
傷つけ、同じ道へ引きずり落としても、真に望む形でヴィオラを隣に置けるわけではなかった。この温室にいるヴィオラは、無理矢理閉じ込めたがために、もう彼の愛したままの姿ではない。それを受け入れられず、イザークまでもが壊れそうになっていた。
「そなたは、私が唯一愛した女だ。この先も……」
自分にだけ愛情が残っていても、ヴィオラを手放さなくてはならない。そう理解したのか、イザークは痛みをこらえるように顔を歪めながらも、瞳孔の周りに橙の散った緑の瞳は、元の輝きを取り戻している。
ヴィオラは溢れそうな激情と涙を抑え込んだ。隠すことには慣れている。やり遂げなくてはならない。
「陛下は、私の初めて愛した方です。そして、初めてこの身に受け入れた方でした。……こんな私たちが正しい結末を迎えられないことは、必然だったのです」
何事も初回は悪い。
この口碑を受けての慣習を、年に一度、思い人と体を重ねるために利用してきた。それはこの国の誰もが信じるものを、軽んじてきたも同然だ。
しかし今になって、やはり初回は悪い結果を生むと、痛烈に思い知ることになった。
隠しておけばいいと自分に言い聞かせ、目を逸らしてきた口碑。それを改めて突きつけられ、イザークはヴィオラに背を向けた。よろめくように、傍にあった白い椅子の背もたれに手をかける。
もうこれ以上の言葉は必要ない。その確信の元に、ヴィオラはひたすらにイザークを待った。
「明日――」
しばらくして、背を向けたままのイザークから、静かに声がかかる。
イザークは椅子にかけていた手を離し、背筋を伸ばして立っていた。
「明日は、朝が早い。もう休め」
そう言い残して、振り返ることも、立ち止まることもなく、彼の背中は小道の奥へ消えていった。
ヴィオラはそっと、カウチソファに腰を下ろす。まだ気を抜いてはいけない。まだ早い。そう自分へ言い聞かせながら、真っ直ぐに座って、落ち着いて息をする。
ゆっくりと天上へ顔を向ける。この温室の中から見上げる星空は、今度こそ、これが最後で間違いはなさそうだった。
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