魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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|自己分身《ドッペルゲンガー》

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「やっぱりジークさんだ!」

「えっ?誰?誰?誰?」


突然スズネたち宿り木とキャスパリーグの前に姿を現した白猫の獣人。
手にステッキを携えたその佇まいはまさに紳士のそれであった。
そして、その見知らぬ人物に対して親しげに話しかけるスズネの姿に一同は驚きと困惑をみせるのだった。

グヴヴゥゥゥゥゥ ──────── 。

当然驚いたのは彼女たちだけではなく、キャスパリーグもその存在に対して強い警戒を示す。
重く低い唸り声を響かせながらジークと呼ばれる獣人とクロノの二人に向けて殺気を飛ばし続けている。


「ホッホッホッ・・・久しぶりの再会をじっくりと味わいたいところではあるのだが、血気盛んな若人に手ほどきをするというのも年長者の役目。スズネとご友人方、少しそこで待っていなさい」


そして、フーッとひと息吐いたジークはステッキを胸の前で水平に持つと柄の部分を握りゆっくりと引く。
すると、ステッキの中に仕込まれていたレイピアが姿を現した。

スーーーッ ───── カランカランカラン。

胸の前で静かにレイピアを構えるジーク。
その姿を見てキャスパリーグも上半身を低くして攻撃態勢をとる。

グヴヴゥゥゥゥゥ ──────── 。

緊迫した空気が広間を漂う。
しかし、両者が纏う空気感は対照的であった。
顔を顰めて警戒を続けているキャスパリーグに対して、敵意むき出しの相手にも穏やかな表情を向けるジーク。


「そう緊張することはありませんよ。これはレッスン。命を懸けた決闘ではないのです。もっと気軽に挑んで来なさい」


ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ。

無数の黒い影がジークへと襲いかかる。

キンッ、キンッ、キンッ。

しかし、そんなものでは牽制にもならない。
次から次へとやってくる攻撃に対して、ジークはその場から一歩も動くことなく素早い剣さばきで全ての攻撃を難なく弾き返す。
彼にとっては準備運動にすらなっていないようであったが、もちろんキャスパリーグもその程度の攻撃で仕留められるなどとは微塵も思っていない。
あくまでも目眩し。
本当の狙いは別にある。

ズズズッ ───────── 。


「あっ!?」


その時、両者の戦いを眺めていた外野から声が漏れる。
そして、次々と送り込まれてくる攻撃をさばき続けるジークの頭上に黒い円が浮かび上がり、中から鋭い鉤爪を大きく振り上げた状態のキャスパリーグが姿を現したのだった。

シャーーーーーッ!!

ブンッ ──────── 。

振り下ろされた鉤爪がジークへと襲いかかる。
その間にも絶えることなく影による攻撃は続いており、威声を上げながら目の前の標的へ渾身の一撃を繰り出すキャスパリーグであったのだが、ジークの実力は彼の想像を凌駕する。


廻転剣舞リボルブ


ガキーーーーンッ!!!!!

何が起こったのか・・・スズネたちには理解することができなかった。
技を繰り出したジークの周囲に半球状の薄い膜のようなものが見えた気がした瞬間、キャスパリーグの本体を含め全ての攻撃が弾き飛ばされたのだった。

シュタッ ───── ザッザッザッ…ザザーーーッ。

相手の虚を突いたつもりでいたにも関わらず、逆に弾き飛ばされてしまう形となったキャスパリーグは柔軟に身体を捻って受け身を取ると、再び低い姿勢となり警戒を強める。
相手が何をしたのか。
自分は何をされたのか。
なぜ一切の隙を与えずに四方八方より攻撃をしていたのに全てを跳ね除けられたのか。
冷静に分析を進めようと試みるのだが、不明瞭な部分が多すぎて処理しきれない。
そうして数秒ほど思考が混乱していたキャスパリーグであったのだが、すぐさま冷静さを取り戻す。
それは至極簡単なこと。
難しく考えるということを手放したのだ。
分からないことは分からない。
今最も大事なことは考え過ぎることではなく、シンプルに考え行動することである。
そして考えをまとめ終えたキャスパリーグはすぐさま行動に移る。

ニャオゥ!!

ズズーーーッ ──────── 。

ズズーーーッ ──────── 。

ズズーーーッ ──────── 。

ズズーーーッ ──────── 。

静寂の中にキャスパリーグの鳴き声が響く。
すると、それに呼応するように彼の周囲に四つの黒い靄が現れ、それぞれが主人と同じ大きさと形に変化していき、あっという間に五つの個体となったのだった。


「あわわわわ…。なんすかアレ!?キャスパリーグが五体になったっすよ」

「幻影…ではなさそうですね。何かの魔法でしょうか。ラーニャ、アレが何か分かりますか?」

「う~む。確かに幻影を創り出す魔法はあるんじゃが、幻影はあくまでも幻影じゃからな。アレからはハッキリと気配を感じるからの~・・・今のわっちには分からんのじゃ!!」

「ちょっと、あんな化物が四体も増えるなんてたまったもんじゃないわよ!クロノ、アンタはアレがなんだか ──────── 」

「少し黙ってろ」


ミリアの問い掛けを強い口調で制止したクロノ。
その時、彼の鋭い視線は真っ直ぐキャスパリーグへと向けられ、何かブツブツと呟きながら観察を始めていた。


「単純に数を増やしたのか?それとも身体能力を含めて等分に分けたのか?いや、幻影に気配だけを乗せたという可能性も・・・」


突如として現れた四つの分身。
見た目としては黒い靄が主人と同じ形をしているだけのように思えるのだが、ラーニャが口にした通りそれぞれの分身からキャスパリーグの気配を感じ取ることができ、さらに殺気まで放っていたのだった。
そして、その五つの殺気は全てジークへと向けられていた。


「ほほ~う…自己分身ドッペルゲンガーですか。これはまた珍しい魔法を使うものだな。しかも四体もの分身を創り出すとは ───── 少しは楽しめそうだ」


グヴヴゥゥゥゥゥ ──────── 。

自己分身ドッペルゲンガーを発動し四体の分身を創り出したキャスパリーグ。
それは彼が目の前にいる敵のことを全力を出さなければ勝つことができないとその強さを認めた証拠である。
出し惜しみは無し!
今ここで確実に息の根を止めておく。
そういった決意と覚悟が彼の表情から伝わってくる。
しかし、そんな状況の中であってもなおジークの表情は何ひとつ変わらない。
相対する者に対しても穏やかな笑みを送り、勝負を決めようと息巻く相手の気迫までも真正面から受け止めようとしているかに思える。


「さぁ、遠慮することはありませんよ。私を殺すつもりで来なさい!!」


シュンッ ─── シュンッ ─── シュンッ ─── シュンッ ─── シュンッ ─── 。

五体のキャスパリーグが一斉に行動を開始する。
正面から突っ込んでいく分身が一体、それぞれ左右から回り込んでいく分身が二体、そして闇に紛れて忍び寄る本体と分身。
そして最初に攻撃を浴びせたのは正面から突っ込んだ分身であった。

ブウォンッ ────────  キーーーンッ!


「踏み込みが甘い!力が分散されてしまっていますよ」


ズズズズズッ ──────── ガキーーーンッ!


「殺気が漏れ過ぎです!それではせっかく闇に紛れた意味がありませんよ」


ニャオゥ!ニャオゥ! ──────── キーーーンッ!ガキーーーンッ!!


「動きが単調になっていますよ!それではただ同時に攻撃しているだけで連携とは言えませんね」


ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ。

ブシュッッッ ──────── グニャオッ!?


「それで隠れているつもりですか?いくら闇に紛れて身を隠そうとも気配を完全に消さなければ何処に隠れているのかバレバレですよ」


グヴヴゥゥゥゥゥ ──────── 。

その強さ ─── まさに圧倒的。
一瞬相手がSランクの魔獣であることを忘れてしまうほどジークはキャスパリーグを圧倒する。
それはすぐそばで戦いを見守っていたスズネたちの目にも明らかであり、彼女たちはただただ唖然とした表情をしたまま開いた口を閉ざすことすら忘れてしまっていたのだった。


「さぁさぁ、まだまだこんなものではないでしょう?出し惜しみは無用です!今持てる最大限の力でぶつかって来なさい」




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