魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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微かな痕跡

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ガルディア王国をさらなる狂気が襲い、人々の心を不安と恐怖が侵食していく。
とうとう王国に仕える騎士が討たれた。
それも国の中枢である首都メルサで行われた犯行。
その事実は、犯人からの標的は冒険者だけではないという宣言であると共にガルディア王国に対する宣戦布告を意味し、それが国内で拡大し続けている恐怖を加速させることとなった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ドンッ!!


「ふざけやがって!」


ガルディア王国王城 ~ 円卓の間 ~

中央に置かれた円卓が強く叩かれ、部屋の中に怒る男の声が広がる。
声の主は第四聖騎士団団長にして十二の剣ナンバーズの第四席ガウェイン。
今回の円卓会議に出席した十二の剣ナンバーズは五名。
第三席ケイ、第四席ガウェイン、第七席ベディヴィア、第十席グリフレット、第十一席エクター。
その他の十二の剣ナンバーズたちは、別の任務に赴いているか、外せぬ所用のため欠席をしており、円卓を囲うように並べられた十三個の椅子には空席が目立っているのだが、その事については誰も触れはしない。
むしろ日々忙しく国内を動き回っている彼らからすると、五名というのはよく集まった方だと考えるものであった。


「落ち着きなさいガウェイン、今ここで騒いだところで何の解決にもなりませんよ」

「いや…分かってる・・・。分かってるけどよ・・・」


その言葉からは悔しさが滲み出る。
当然その場にいる全員が彼と同じ想いである。

ガチャッ。

その時、重苦しい空気が漂う部屋のドアが開かれ、今回も会議の進行を行う男が足を踏み入れる。



「待たせたな」


最後に到着したアーサーが席に着くと室内は静寂に包まれる。
先程まで声を荒げて騒いでいたガウェインも燃え上がる憤怒の感情を抑え込み口を噤むのだった。


「皆忙しい中よく集まってくれた。まさか五名もの団長が来てくれるとは思っていなかった」

「アーサー様、我々への気遣いなど無用でございます。皆ある程度の状況は把握しておりますので本題に移っていただいて問題ありません」

「ありがとうケイ。それでは本題に入ろうか。今我が国を騒がせている事件において、昨夜この首都メルサにて街を警邏していた騎士小隊が襲われ惨殺された。これは明確な宣戦布告であり、ガルディア王国及び我々騎士に対する挑戦状である」


一瞬にして部屋の空気が張り詰める。
普段は温厚な性格をしているアーサーだが、この時ばかりは人を人とも思わぬ常軌を逸した方法で殺害を楽しむ犯人に対して明確に怒りを示す。
それは他の団長たちも驚くほどに意外な姿であった。


「それでどうするの?アーサー様」

「無論、我々聖騎士団の名に懸けて犯人を捕まえる。そして、この国の法に則り報いを受けてもらう」

「生け捕りということでよろしいですか?」

「極力生きたまま捕らえてもらいたいが、相手は複数人いる上に我々の想像を超える残忍さをもっている。それ故場合によっては殺しても構わん。その点については各自の即時判断に任せる」


今回の犯人は普通ではない。
それは殺害された騎士たちの亡骸を見ただけでも容易に想像がつく。
そうした人物と相対した場合、一瞬の迷いが判断を鈍らせ最悪の結果を招くことになる。
それを十分に理解しているからこそ、アーサーはその対処を現場の判断に任せたのだった。


「はぁ~・・・面倒なことになったな・・・。グリフレット・・・とりあえず、犯人を全員捕まえてこい」

「ウッス!!で、犯人の特徴は?」

「知らん・・・。とりあえず・・・怪しい奴を片っ端から連れてこい・・・。あとは俺が吐かせる」

「ウッス!!全員捕まえてくるッス」

「待ちなさいグリフレット。そんなやり方では時間がかかり過ぎます。それからベディヴィア、あなたも探すのです。後輩にばかり仕事を押し付けていてはなりませんよ」

「は…はい。すみません」

「アハハハハ。あの面倒くさがりなベディヴィアさんもケイさんには逆らえないんだね。面白~い」

「黙れ・・・殺すぞ」


バンッ!!

普段なかなか顔を合わせることのない団長たちによるいつもと変わらぬ軽口の叩き合いが行われる中で、円卓を叩く大きな音がその緩んだ空気を切り裂く。


「お前らいい加減にしろよ。仲間が殺されているんだぞ!」


熱い思いを解放したガウェインが再び吠える。
荒めに放たれた言葉は熱を帯びており、全身から溢れ出る空気には怒りが込められていた。
そんな彼の言葉により部屋の空気は一変する。
殺人事件が起きたとはいえ、どこかでまだ少し余裕を感じさせていた団長たちであったが、ガウェインの一言で気を引き締め直す。
そして、それを感じ取りアーサーは会議の終了を告げる。


「犯人は残忍かつ狡猾だ。決して気を抜くな。そして、我々はこの国の剣であり盾である。そのことを胸に刻み事に当たってくれ。では、解散!!」


ザッ ───────── 。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「殺害現場以外の場所にも目を光らせろ。目視だけではなく、魔法での探索も同時に行え。どれだけ些細な痕跡でも構わん。塵ひとつ見逃すな!」

「「「「「ハッ!!」」」」」


アーサーたちが円卓の間にて会議を行なっていた頃、事件現場では第三聖騎士団所属の部隊と魔法師団による現場検証が行われていた。
現場周辺は魔法によって完全に隔離され、許可された者以外の立ち入りは禁じられた。

バサッ ───────── 。

現場に残された死体と思われるモノを覆っていた布が外されると、中から目を背けたくなるほどに損傷した人間の姿が露わになる。
遺体の数は全部で五つ。
何か巨大なもので一気に叩き潰されたような死体が三つ、両腕を斬り落とされた上で首をはねられた死体が一つ、そして最後の一つ ───── これは本当に元が人間だったのかどうかさえ分からないほどに肉体が細切れにされており、その欠片を山積みにした頂上に苦痛に歪められた表情をした頭部を置くという狂気的なものであった。


「グッ…」

「ウップ ────── オエェェェェェ」


それはあまりにも度を超えた光景であり、目にした者たちは怒りよりも先に恐怖に支配されてしまうのだった。
そして、それらを直視した者の中には吐き気を訴える者も現れ、犯人たちの残虐さを思い知らされることとなった。


「目を背けるな!むしろこの光景を目に焼き付けておけ。これは我々ガルディア王国に仕える者に対する侮辱以外の何物でもない。こんなイカれた行いをする犯人を許すな!必ず見つけ出すぞ!!」

「「「「「オウ!!」」」」」


今回派遣された部隊の隊長らしき人物による掛け声と共に騎士たちの恐怖心が振り払われる。
弱者をいたぶり、敗者を辱めるような行いは彼らの騎士道に反する行いである。
そんな熱い想いを胸に動き出す騎士たちとは対照的に、魔法師たちはただ冷静に粛々と現場検証を行うのであった。


─────────────────────────


こうして半日にも及ぶ現場検証を行なった結果、一連の事件に関して重要なことが判明する。
それは『魔法』である。
魔法師団により魔力捜査が行われたことで新たに判明したことが二つ。
まず巨大な何かによって圧し潰された死体の一部から微量ではあるものの魔力が検知されたのだ。
さらに犯行現場近くの空間から魔力の残滓が確認されたのだった。
これらの情報を元に考えると、犯人は魔法師であるかもしくは魔法具を使用した可能性が高くなる。
王宮の中でもその方向で捜査を進めていくと結論づけられたのだが、国王レオンハルトと聖騎士長アーサーの脳裏には極々僅かながらも別の選択肢がチラついていた。
その選択肢とは ──────── 犯人が『魔族』であるという可能性である。

では、なぜその可能性が極々僅かなのか。
それは魔族が棲まう魔族領とガルディア王国との間に精霊族が住むといわれる大森林があり、その一帯は大精霊による大規模な結界が張られているため、おいそれと魔族が侵入することができないからである。
事実として、その強力な結界によって千年近くもの間、魔族軍はこの大森林を越えられずにいた。
しかし、どんなものにも抜け道というものは存在する。
実際に以前起きたグリーンアイランドの件では、魔族が関わっていたという報告も上がってきている。
その件も含めて考えると、彼らはその可能性が全く無いという結論を出すわけにはいかなかった。


「レオンハルト様」

「ああ、考えただけでもゾッとする。しかしまだ確証がない以上、憶測だけで現場を混乱させるわけにはいかない。一先ずこの件は我々の中だけに留めておこう」

「はい。かしこまりました」


もし、今回の事件が魔族によるものであった場合 ───── その可能性を感じ取った時、レオンハルトとアーサーは背筋が凍るような感覚を覚えるのであった。




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