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魔王の噂
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新たに大盾使いの戦士シャムロムをメンバーに迎え入れたスズネたち。
パーティ名も『宿り木』に決まり、気持ちも新たに一致団結して日々のクエストに励んでいた。
加入から一週間が経ちシャムロムも新たな環境に慣れ始めてきたある日の夜、スズネたちは食卓を囲みながら今日のクエストについて話をしていた。
「いや~今日のは会心の勝利だったわね。まさかアタシたちだけで大爪熊を打ち取れる日が来るなんて」
「本当にビックリだよ。やっぱり前衛にシャムロムがいてくれると余裕が生まれるね」
「へへへっ、お役に立てて嬉しいっす」
前回大爪熊と遭遇した時には、誰一人として動くことすら出来ずクロノに任せきりだった宿り木の面々。
しかし、今回は前衛でシャムロムが大爪熊の攻撃を防ぎ、その隙にミリアとマクスウェルが近距離から、ラーニャが遠距離から攻撃し、スズネが補助魔法によるサポートと見事な連携をみせて見事に打ち取ることに成功したのだった。
「この前クロノさんに頂いた“青龍の息吹”の効果で身体が軽く動きやすくなったんで相手の攻撃も防ぎ易いんすよね」
クロノから貰った短剣“青龍の息吹”を手にしながらシャムロムが興奮気味にその効果を熱弁する。
「おい!!あまり調子に乗るんじゃないのじゃ、この巨乳ロリババア」
声の主は相当にお怒りのようである。
そこには憎悪にも似た感情を抱きながらメラメラと怒りのオーラをその身に纏い、鋭い眼光でシャムロムを睨みつけるラーニャの姿があった。
「べ…別にウチは調子に乗ってなんか ───── 」
「黙れ黙れ黙れ!!旦那様からのプレゼントをこれ見よがしに見せびらかしよって」
どうやらラーニャとしては、妻(になる予定)である自分ですらクロノからまだ何も貰っていないのに、パーティに加入して間もないシャムロムが“青龍の息吹”をプレゼントされていることが面白くないようである。
「何よラーニャ、アンタ最近やけに不貞腐れてると思ったら、シャムロムがクロノから短剣を貰ったことに嫉妬してたの」
「なんじゃミリア、お主だって妾なのに旦那様から何も貰っておらぬではないか。悔しくないのか」
「誰が妾よ!!こんなワガママ魔王なんてこっちから願い下げよ。それに、アタシにはこの愛すべき“炎帝の剣”があるから他なんて必要ないわ」
そう言うと、ミリアは優しく微笑みながら愛剣である“炎帝の剣”を抱き寄せるのだった。
そんなミリアの姿を見て、ラーニャの機嫌がさらに悪くなる。
「う~なんじゃなんじゃ、どいつもこいつも。旦那様~~~愛する妻が懇願しておるぞ。わっちにも綺麗で超強力な杖をプレゼントしてくれてもいいんじゃぞ」
瞳をウルウルとさせながら上目遣いでクロノを見つめるラーニャ。
しかし、そんなラーニャの必死の訴えも虚しく、クロノは目の前の食事に夢中なのであった。
その状況を側で見ていたスズネがラーニャを不憫に思い助け舟を出す。
「ちょっとクロノ、ラーニャちゃんが一生懸命お願いしてるんだから、話くらいちゃんと聞いてあげなよ」
その言葉を聞き、無心で食事を続けていたクロノの手が止まる。
そして、口に入っている物を飲み込むと呆れたように話し始めた。
「なんで俺がコイツに何かを与えなくちゃいけないんだよ?少なくともシャムロムはその実力以上のモノを俺に示したわけだ。それに比べてラーニャは何を示した?」
クロノからの厳しい言葉を受けてラーニャは俯き加減で落ち込んでしまう。
他のメンバーたちは落ち込むラーニャを心配しつつも、クロノの言葉に対して返す言葉を見つけられないでいた。
「そもそも他よりも多少威力が強いだけで、魔力操作もまともに出来ん分際のくせに他を求めようなど話にもならん。まずは、今自分の目の前にある課題と向き合って一つでも結果を出せ。話はそれからだ」
至極真っ当なことを言っているクロノの話にそれぞれ思うところがあるのか、全員が黙り込んでしまう。
そんな沈黙を打ち破るようにシャムロムが口を開いた。
「なんかクロノさんって、ウチが噂に聞いてたのと違うんすね。もっと怖い人だと思ってたっす」
「それに関しては僕も思うところがありますね」
シャムロムの意見にマクスウェルが頷きながら同意を示す。
王城にいたマクスウェルや冒険者をしていたシャムロムと違い、ずっと学校に通っていたスズネとミリア、そしてこれまで魔法以外の事に全く興味がなかったラーニャの三人はその噂を知らないようで不思議そうな顔をしている。
「クロノの噂ってどんなの噂なの?」
「確かにワガママ魔王の噂ってのがどんなものか気になるわね」
「うむ。旦那様のことであればわっちも聞きたいのじゃ」
三人とも興味津々な様子で話に食いつく。
そのあまりの勢いに押されながらもマクスウェルがその“噂”について話し始める。
「僕が王国騎士団の中で聞いたのは、絶対的な実力主義の魔族において史上最年少で王座に就き、あまりの強さに同じ魔族からも恐れられており、その実力は千年前の大戦の際に魔族を率いたとされる魔王ゼノンをも凌ぐ歴代最強の魔王。それが現魔王クロノである ───── というものです」
マクスウェルの話を聞いた三人は少し圧倒されつつ、その視線をクロノへと向ける。
「なんだよ、他のやつがどう思ってるかなんて知るか。だいたい千年前の魔王って誰だよ。自分から戦争仕掛けてといて敗けてんじゃね~よ、カスが」
心の底からどうでもいいという反応を示すクロノ。
他人の評価など一切気にしない、自分以外の者などどれも同じだと言わんばかりのその姿は、まさに唯我独尊という言葉がピッタリである。
「なんか凄~く恐そうな感じだね・・・」
「歴代最強とは、さすが旦那様なのじゃ」
マクスウェルの話を聞いて対照的な反応を見せるスズネとラーニャ。
そして、その話に付け加えるようにしてシャムロムが話し始める。
「ウチが冒険者の間で聞いてたのも同じような感じっすね。なので、実際に会ってみたクロノさんが暴力的でもなければ無茶苦茶するような感じでもなく、むしろ面倒見が良く優しい印象を受けてビックリしてるんすよ」
「誰が面倒見が良いんだよ」
シャムロムからの評価に対して即座に否定するクロノ。
「いや、僕も概ねシャムロムと同じ印象を受けています。にわかには信じ難いことではありますが、実際に目の当たりにしてしまっている以上、強く否定することも出来かねています」
聖騎士を目指している以上、当面の敵と目されている魔族を、ましてやその王を認めるわけにはいかないと言いたげな表情をしながらもマクスウェルが率直な今の心境を口にする。
「えへへへへ」
「何を笑ってんだよ、気色悪いな」
「だって嬉しいんだもん」
巷に広がる噂に捉われることなく、目の前にいるクロノという存在に対して好印象を持っている仲間たちの言葉を聞いて、嬉しさのあまり思わず笑みが溢れてしまうスズネなのであった。
「歴代最強って・・・やっぱり相当強かったのね。しかも最年少って、アンタいったいいくつの時に魔王になったのよ」
「あ?五歳の時だ」
!?!?!? ────────── 。
あまりの衝撃に全員言葉を失う。
何度もいうようだが、魔族という種族は力が全ての実力主義である。
古い伝承によれば、一体の魔族によって人族の都市ひとつが滅ぼされたという話も残されているほど強力な力を持つ種族なのだ。
そんな魔族を率い、魔族領を治めるということは、そこに住まう全ての魔族を認めさせる圧倒的な力が必要となるのだ。
それをわずか五歳にしてやってのけたという事実こそが、クロノを歴代最強といわしめる所以なのである。
「五歳で王様なんて、本当に凄いね」
「まさか、それ程とは・・・」
「さすがは旦那様なのじゃ。いずれ全ての種族の王となるのじゃ」
「ホントもう何でもありね。チートよ、チート」
皆一様に驚きを表す中で、シャムロムだけは別の感情を持ちつつ歯切れの悪い声を漏らした。
「五歳なんて本当に凄いっすね。でも、確か魔王になる為には ───── 」
言葉を濁すようなシャムロムの様子に他のメンバーたちは不思議そうな顔をして視線を送る。
その中で唯一シャムロムが言葉を濁した理由を理解したクロノが口を開く。
「魔族の王が代わるというのは、人族における継承性とは大きく異なる。なぜなら魔族にはお前らのような王族と呼ばれる者は存在しないからだ」
魔族においての王というものについて語るクロノ。
その話に真剣な表情で聞き入るスズネたち。
「それでは、どうやって次の王を決めるのか。お前らも知っての通り俺たち魔族は完全なる実力主義だ」
「なんとなく見えてきたわ。現魔王と戦って勝てば新しい王になれるって話でしょ」
話の流れを察したミリアが口を挟む。
そんなミリアの予想を鼻で笑いつつクロノは話を続ける。
「フンッ、甘いな。人族と違い魔族は気性が荒く好戦的なやつが多いからな。遺恨を残すわけにはいかね~んだよ」
「えっ…それって ───── 」
スズネ以外のメンバーは全てを察し口を噤む。
そして、先程まで勝ち誇った方な顔をしていたミリアの表情が暗く曇ったことを確認したクロノは口元を緩め話を続ける。
「敗者には“死”を。それが魔族だ」
沈黙が部屋を包み込む。
人族には人族のルールがあるように、魔族にもまた魔族のルールがある。
至極当然のことではあるが、スズネたちにとっては馴染みのない感覚に言葉を失ってしまったようだ。
「その…クロノは前の魔王を殺したの?」
沈黙が続く中、意を決して口を開いたのはスズネだった。
自身が行き着いた“答え”を確認するかのように恐る恐るクロノに尋ねる。
「そうだ」
スズネの問い掛けに対して平然とした態度でクロノが答える。
人族にとって同族殺しは罪となるが、魔族にとっては日常的な事であるがゆえに当然といえば当然である。
「はぁ~、まぁ~魔族のルールや常識に対してあれこれ言うのも野暮な話よね。どうせアンタのことだから強いやつと戦いたいとかそんな理由でしょ」
重苦しい空気に痺れを切らしたミリアが口を開く。
まとわりつくような空気を振り払うかのように明るく振る舞っている。
「お前らには関係ないことだ。俺には俺の事情があんだよ。そうでもなきゃ自分の父親を殺すかよ」
「「「「「 えっ!? 」」」」」
クロノによる衝撃的な告白に全員が驚きの声を上げる。
「ちょっと待って…アンタが殺したっていう前魔王って、アンタのお父さんなの?」
「ああそうだ。詳しく話すつもりもないが、俺にとって到底許すことの出来ないことをしたからな。決闘を申し込み、そして俺が勝った…それだけの話だ」
クロノと父親の間にいったい何があったのか。
クロノが話さない以上、今のスズネたちにその理由を知る術はない。
人それぞれ事情があり、いくら同じパーティの仲間だとしてもこれ以上の詮索はすべきではない。
皆がそう思い話を終わらせようとしたが、スズネだけは黙っていられなかった。
「でも、たとえどんな事情があったとしても親子で殺し合うなんてしちゃダメだよ。そんなの…悲しすぎるよ」
両親を亡くしているスズネだからこそ思うところがあったのだろう。
今にも泣き出しそうな表情をしながら発せられたスズネの声は悲しみで震えていた。
「チッ、だから話したくなかったんだよ。まぁ~安心しろ、もう二度とあんな力任せに暴れるようなことはしね~よ」
「本当?無闇に殺したりしちゃダメだからね」
「おい!!人のことを殺戮狂みたいに言うな」
「いやいや、アンタ最初に召喚された時、会場にいた全員を殺そうとしたじゃない。殺戮狂よ、殺戮狂」
いつの間にか先程まで感じていた重い空気がどこかへ消え失せ、皆の顔から“”不安”や“恐れ”といったものが無くなっていた。
「わっちは旦那様の為ならば何でもするぞ」
「スズネさんも安心してください。もし、クロノが暴れるようであれば僕の剣で止めてみせますよ」
「はぁ?何だ色ガキ、この俺と戦ろうってのか」
「必要とあらば!!」
「見習いのくせに生意気な」
いつもの調子を取り戻したスズネたち。
種族も違えば、育った場所も環境も違う。
それぞれの思いや考えはあれど、その一つ一つを繋げていく。
それがパーティ名の『宿り木』に込められた想いでもある。
和気藹々と食卓を囲むメンバーの姿を見てシャムロムが呟く。
「やっぱり噂はあくまでも噂っすね」
「ん?シャムロム、何か言った?」
嬉しそうにメンバーの様子を見つめるシャムロムに気が付いたスズネが声を掛ける。
「いや、何でもないっす。ウチ、このパーティに入って良かったっす」
こうして笑顔と笑い声が響く中、長かった一日が終わりを迎え、夜は更けていくのであった。
パーティ名も『宿り木』に決まり、気持ちも新たに一致団結して日々のクエストに励んでいた。
加入から一週間が経ちシャムロムも新たな環境に慣れ始めてきたある日の夜、スズネたちは食卓を囲みながら今日のクエストについて話をしていた。
「いや~今日のは会心の勝利だったわね。まさかアタシたちだけで大爪熊を打ち取れる日が来るなんて」
「本当にビックリだよ。やっぱり前衛にシャムロムがいてくれると余裕が生まれるね」
「へへへっ、お役に立てて嬉しいっす」
前回大爪熊と遭遇した時には、誰一人として動くことすら出来ずクロノに任せきりだった宿り木の面々。
しかし、今回は前衛でシャムロムが大爪熊の攻撃を防ぎ、その隙にミリアとマクスウェルが近距離から、ラーニャが遠距離から攻撃し、スズネが補助魔法によるサポートと見事な連携をみせて見事に打ち取ることに成功したのだった。
「この前クロノさんに頂いた“青龍の息吹”の効果で身体が軽く動きやすくなったんで相手の攻撃も防ぎ易いんすよね」
クロノから貰った短剣“青龍の息吹”を手にしながらシャムロムが興奮気味にその効果を熱弁する。
「おい!!あまり調子に乗るんじゃないのじゃ、この巨乳ロリババア」
声の主は相当にお怒りのようである。
そこには憎悪にも似た感情を抱きながらメラメラと怒りのオーラをその身に纏い、鋭い眼光でシャムロムを睨みつけるラーニャの姿があった。
「べ…別にウチは調子に乗ってなんか ───── 」
「黙れ黙れ黙れ!!旦那様からのプレゼントをこれ見よがしに見せびらかしよって」
どうやらラーニャとしては、妻(になる予定)である自分ですらクロノからまだ何も貰っていないのに、パーティに加入して間もないシャムロムが“青龍の息吹”をプレゼントされていることが面白くないようである。
「何よラーニャ、アンタ最近やけに不貞腐れてると思ったら、シャムロムがクロノから短剣を貰ったことに嫉妬してたの」
「なんじゃミリア、お主だって妾なのに旦那様から何も貰っておらぬではないか。悔しくないのか」
「誰が妾よ!!こんなワガママ魔王なんてこっちから願い下げよ。それに、アタシにはこの愛すべき“炎帝の剣”があるから他なんて必要ないわ」
そう言うと、ミリアは優しく微笑みながら愛剣である“炎帝の剣”を抱き寄せるのだった。
そんなミリアの姿を見て、ラーニャの機嫌がさらに悪くなる。
「う~なんじゃなんじゃ、どいつもこいつも。旦那様~~~愛する妻が懇願しておるぞ。わっちにも綺麗で超強力な杖をプレゼントしてくれてもいいんじゃぞ」
瞳をウルウルとさせながら上目遣いでクロノを見つめるラーニャ。
しかし、そんなラーニャの必死の訴えも虚しく、クロノは目の前の食事に夢中なのであった。
その状況を側で見ていたスズネがラーニャを不憫に思い助け舟を出す。
「ちょっとクロノ、ラーニャちゃんが一生懸命お願いしてるんだから、話くらいちゃんと聞いてあげなよ」
その言葉を聞き、無心で食事を続けていたクロノの手が止まる。
そして、口に入っている物を飲み込むと呆れたように話し始めた。
「なんで俺がコイツに何かを与えなくちゃいけないんだよ?少なくともシャムロムはその実力以上のモノを俺に示したわけだ。それに比べてラーニャは何を示した?」
クロノからの厳しい言葉を受けてラーニャは俯き加減で落ち込んでしまう。
他のメンバーたちは落ち込むラーニャを心配しつつも、クロノの言葉に対して返す言葉を見つけられないでいた。
「そもそも他よりも多少威力が強いだけで、魔力操作もまともに出来ん分際のくせに他を求めようなど話にもならん。まずは、今自分の目の前にある課題と向き合って一つでも結果を出せ。話はそれからだ」
至極真っ当なことを言っているクロノの話にそれぞれ思うところがあるのか、全員が黙り込んでしまう。
そんな沈黙を打ち破るようにシャムロムが口を開いた。
「なんかクロノさんって、ウチが噂に聞いてたのと違うんすね。もっと怖い人だと思ってたっす」
「それに関しては僕も思うところがありますね」
シャムロムの意見にマクスウェルが頷きながら同意を示す。
王城にいたマクスウェルや冒険者をしていたシャムロムと違い、ずっと学校に通っていたスズネとミリア、そしてこれまで魔法以外の事に全く興味がなかったラーニャの三人はその噂を知らないようで不思議そうな顔をしている。
「クロノの噂ってどんなの噂なの?」
「確かにワガママ魔王の噂ってのがどんなものか気になるわね」
「うむ。旦那様のことであればわっちも聞きたいのじゃ」
三人とも興味津々な様子で話に食いつく。
そのあまりの勢いに押されながらもマクスウェルがその“噂”について話し始める。
「僕が王国騎士団の中で聞いたのは、絶対的な実力主義の魔族において史上最年少で王座に就き、あまりの強さに同じ魔族からも恐れられており、その実力は千年前の大戦の際に魔族を率いたとされる魔王ゼノンをも凌ぐ歴代最強の魔王。それが現魔王クロノである ───── というものです」
マクスウェルの話を聞いた三人は少し圧倒されつつ、その視線をクロノへと向ける。
「なんだよ、他のやつがどう思ってるかなんて知るか。だいたい千年前の魔王って誰だよ。自分から戦争仕掛けてといて敗けてんじゃね~よ、カスが」
心の底からどうでもいいという反応を示すクロノ。
他人の評価など一切気にしない、自分以外の者などどれも同じだと言わんばかりのその姿は、まさに唯我独尊という言葉がピッタリである。
「なんか凄~く恐そうな感じだね・・・」
「歴代最強とは、さすが旦那様なのじゃ」
マクスウェルの話を聞いて対照的な反応を見せるスズネとラーニャ。
そして、その話に付け加えるようにしてシャムロムが話し始める。
「ウチが冒険者の間で聞いてたのも同じような感じっすね。なので、実際に会ってみたクロノさんが暴力的でもなければ無茶苦茶するような感じでもなく、むしろ面倒見が良く優しい印象を受けてビックリしてるんすよ」
「誰が面倒見が良いんだよ」
シャムロムからの評価に対して即座に否定するクロノ。
「いや、僕も概ねシャムロムと同じ印象を受けています。にわかには信じ難いことではありますが、実際に目の当たりにしてしまっている以上、強く否定することも出来かねています」
聖騎士を目指している以上、当面の敵と目されている魔族を、ましてやその王を認めるわけにはいかないと言いたげな表情をしながらもマクスウェルが率直な今の心境を口にする。
「えへへへへ」
「何を笑ってんだよ、気色悪いな」
「だって嬉しいんだもん」
巷に広がる噂に捉われることなく、目の前にいるクロノという存在に対して好印象を持っている仲間たちの言葉を聞いて、嬉しさのあまり思わず笑みが溢れてしまうスズネなのであった。
「歴代最強って・・・やっぱり相当強かったのね。しかも最年少って、アンタいったいいくつの時に魔王になったのよ」
「あ?五歳の時だ」
!?!?!? ────────── 。
あまりの衝撃に全員言葉を失う。
何度もいうようだが、魔族という種族は力が全ての実力主義である。
古い伝承によれば、一体の魔族によって人族の都市ひとつが滅ぼされたという話も残されているほど強力な力を持つ種族なのだ。
そんな魔族を率い、魔族領を治めるということは、そこに住まう全ての魔族を認めさせる圧倒的な力が必要となるのだ。
それをわずか五歳にしてやってのけたという事実こそが、クロノを歴代最強といわしめる所以なのである。
「五歳で王様なんて、本当に凄いね」
「まさか、それ程とは・・・」
「さすがは旦那様なのじゃ。いずれ全ての種族の王となるのじゃ」
「ホントもう何でもありね。チートよ、チート」
皆一様に驚きを表す中で、シャムロムだけは別の感情を持ちつつ歯切れの悪い声を漏らした。
「五歳なんて本当に凄いっすね。でも、確か魔王になる為には ───── 」
言葉を濁すようなシャムロムの様子に他のメンバーたちは不思議そうな顔をして視線を送る。
その中で唯一シャムロムが言葉を濁した理由を理解したクロノが口を開く。
「魔族の王が代わるというのは、人族における継承性とは大きく異なる。なぜなら魔族にはお前らのような王族と呼ばれる者は存在しないからだ」
魔族においての王というものについて語るクロノ。
その話に真剣な表情で聞き入るスズネたち。
「それでは、どうやって次の王を決めるのか。お前らも知っての通り俺たち魔族は完全なる実力主義だ」
「なんとなく見えてきたわ。現魔王と戦って勝てば新しい王になれるって話でしょ」
話の流れを察したミリアが口を挟む。
そんなミリアの予想を鼻で笑いつつクロノは話を続ける。
「フンッ、甘いな。人族と違い魔族は気性が荒く好戦的なやつが多いからな。遺恨を残すわけにはいかね~んだよ」
「えっ…それって ───── 」
スズネ以外のメンバーは全てを察し口を噤む。
そして、先程まで勝ち誇った方な顔をしていたミリアの表情が暗く曇ったことを確認したクロノは口元を緩め話を続ける。
「敗者には“死”を。それが魔族だ」
沈黙が部屋を包み込む。
人族には人族のルールがあるように、魔族にもまた魔族のルールがある。
至極当然のことではあるが、スズネたちにとっては馴染みのない感覚に言葉を失ってしまったようだ。
「その…クロノは前の魔王を殺したの?」
沈黙が続く中、意を決して口を開いたのはスズネだった。
自身が行き着いた“答え”を確認するかのように恐る恐るクロノに尋ねる。
「そうだ」
スズネの問い掛けに対して平然とした態度でクロノが答える。
人族にとって同族殺しは罪となるが、魔族にとっては日常的な事であるがゆえに当然といえば当然である。
「はぁ~、まぁ~魔族のルールや常識に対してあれこれ言うのも野暮な話よね。どうせアンタのことだから強いやつと戦いたいとかそんな理由でしょ」
重苦しい空気に痺れを切らしたミリアが口を開く。
まとわりつくような空気を振り払うかのように明るく振る舞っている。
「お前らには関係ないことだ。俺には俺の事情があんだよ。そうでもなきゃ自分の父親を殺すかよ」
「「「「「 えっ!? 」」」」」
クロノによる衝撃的な告白に全員が驚きの声を上げる。
「ちょっと待って…アンタが殺したっていう前魔王って、アンタのお父さんなの?」
「ああそうだ。詳しく話すつもりもないが、俺にとって到底許すことの出来ないことをしたからな。決闘を申し込み、そして俺が勝った…それだけの話だ」
クロノと父親の間にいったい何があったのか。
クロノが話さない以上、今のスズネたちにその理由を知る術はない。
人それぞれ事情があり、いくら同じパーティの仲間だとしてもこれ以上の詮索はすべきではない。
皆がそう思い話を終わらせようとしたが、スズネだけは黙っていられなかった。
「でも、たとえどんな事情があったとしても親子で殺し合うなんてしちゃダメだよ。そんなの…悲しすぎるよ」
両親を亡くしているスズネだからこそ思うところがあったのだろう。
今にも泣き出しそうな表情をしながら発せられたスズネの声は悲しみで震えていた。
「チッ、だから話したくなかったんだよ。まぁ~安心しろ、もう二度とあんな力任せに暴れるようなことはしね~よ」
「本当?無闇に殺したりしちゃダメだからね」
「おい!!人のことを殺戮狂みたいに言うな」
「いやいや、アンタ最初に召喚された時、会場にいた全員を殺そうとしたじゃない。殺戮狂よ、殺戮狂」
いつの間にか先程まで感じていた重い空気がどこかへ消え失せ、皆の顔から“”不安”や“恐れ”といったものが無くなっていた。
「わっちは旦那様の為ならば何でもするぞ」
「スズネさんも安心してください。もし、クロノが暴れるようであれば僕の剣で止めてみせますよ」
「はぁ?何だ色ガキ、この俺と戦ろうってのか」
「必要とあらば!!」
「見習いのくせに生意気な」
いつもの調子を取り戻したスズネたち。
種族も違えば、育った場所も環境も違う。
それぞれの思いや考えはあれど、その一つ一つを繋げていく。
それがパーティ名の『宿り木』に込められた想いでもある。
和気藹々と食卓を囲むメンバーの姿を見てシャムロムが呟く。
「やっぱり噂はあくまでも噂っすね」
「ん?シャムロム、何か言った?」
嬉しそうにメンバーの様子を見つめるシャムロムに気が付いたスズネが声を掛ける。
「いや、何でもないっす。ウチ、このパーティに入って良かったっす」
こうして笑顔と笑い声が響く中、長かった一日が終わりを迎え、夜は更けていくのであった。
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黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
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