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闇魔狼《ガルム》
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「そっち行ったよ」
「OK。任せて」
「次、デカいの来ました」
「了解っす。ウチが止めておくっす」
今日もスズネたち『宿り木』は、素材集めのクエストを進めながらパーティの連携を深めていた。
本日の標的は『漆黒の狼』である。
一般的な狼よりも俊敏性が高く、鋭い牙や爪による攻撃も強力なのだが、最も厄介なのが群れのリーダーを中心とした人間顔負けの統率された組織力である。
低ランクの冒険者にとっては一頭を相手にするだけでも厄介なスピードを有しているにも関わらず、きっちりとした連携で相手を取り囲み追い詰めてくるのだ。
そんな相手を前にしても今のスズネたちは慌てる素振りを見せることなく、一人一人が自分の役割をこなしていく。
「もう、ホント切りがないわね」
「無駄口を叩く暇があるならまだまだ大丈夫そうですね。次来たやつもお願いします」
「マクスウェル…アンタこのクエストが終わったら覚えときなさいよ」
そんな軽口を交わしながらミリアとマクスウェルは目の前の敵を次々と切り伏せていく。
これまでの鍛錬の成果なのであろう。
二人は漆黒の狼のスピードにも難なくついていっている。
「シャムロム、もう一頭そっちに行ったよ」
「うわわわわ、ちょっと待っ…待つっす、待つっすよ~」
ミリア・マクスウェル・シャムロムを前衛に配置し、後方からスズネが指示を出しつつサポート及びバックアップをしているのだが、ミリアとマクスウェルは状況判断が早くスズネの指示が遅れることもしばしば・・・。
そして、シャムロムに関してはまだまだ複数体を相手にするのが苦しそうな状況であった。
「風刃」
─────── ズバン!! ───────
放たれた風の刃によって、シャムロムに迫っていた漆黒の狼が胴体から真っ二つに切り裂かれた。
「た…助かったっすー」
「ありがとうクロノ」
漆黒の狼を切り裂いた風刃を放ったのはクロノである。
基本的に戦闘時には傍観しているクロノであったが、スズネたちだけでは手に負えないような状況の時には手を貸してくれるのだった。
「おい、油断するな!!シャムロムはそのままデカいのを抑えておけ。後続の駄犬どもが来るぞ」
クロノの言葉通り、前衛で戦っているミリアたちのその先に十頭以上の漆黒の狼が迫ってきていた。
「準備はいいなラーニャ。集中しろ」
「準備万端じゃ。あれしきの雑魚どもくらいわっち一人で十分なのじゃ」
クロノの問い掛けに対し、自信満々の表情で答えるラーニャ。
「雷雲より生まれし雷を以って敵を撃ち倒せ ───── 雷撃」
────── バチンッ。
────── バチンッ。
────── バチンッ。
ラーニャの放った魔法によって、迫っていた十頭以上の漆黒の狼が一瞬の内にその場に倒れたのだった。
以前のような焼け焦げた臭いもなくきっちりと急所を射抜いており、確かな成長が感じ取れる。
「凄いよラーニャちゃん、あんなにたくさんの魔獣を一遍に倒しちゃうなんて」
「そうじゃろう、そうじゃろう。まぁ~天才であるわっちにかかれば容易いもんじゃ」
スズネに褒められ鼻高々で調子に乗るラーニャであったが、先生はそんなに甘くはない。
「おい、なんだ今のは。魔力操作が雑だから発動に誤差が出てんじゃね~か!!お前…準備万端って言ったよな?」
先生はお怒りである。
それも相当に・・・。
それまでの戦闘を他のメンバーに任せ、しっかりと準備する時間を与えたにも関わらず、及第点にすら届かない生徒の出来の悪さに抑えきれない怒りが漏れ出している。
「えっ…あはははは…。まぁ~以前と比べたら微々たるもんじゃろ?もっと成長に目を向けるべきじゃと思うぞ」
結果だけではなく過程においても厳しい目を向けるクロノに迫られ、顔を赤らめながらも必死に言い訳を並べるラーニャなのであった。
「ちょっと、アンタたち痴話喧嘩なんて後にしなさいよ」
戦闘の最中に説教を始めるクロノたちに対して、今もなお前線で敵を食い止めているミリアから声が飛ぶ。
「痴話喧嘩じゃね~よ。コイツの魔法があまりにも酷いあり様だから ───── 」
「そんなもん後にしなさいよ!!アンタ今の状況分かってんの」
次から次へと現れる漆黒の狼への対応にイライラしているのか、ミリアは強い口調でクロノの言葉を遮る。
そんなミリアの態度に納得がいかないクロノ。
“なぜ自分が怒られないといけないんだ”と言いたげな表情をしつつも、必死にその怒りを押し殺そうとしている。
「今はそんな言い合いしてる場合じゃないっすよ」
一際大きな漆黒の狼をなんとか一人で倒したシャムロムが疲れた様子をみせつつ声を掛ける。
「みんな見て!!群れの後ろに何かいる」
スズネの声に反応した他のメンバーがジリジリと迫り来る漆黒の狼の大群の後方に目をやると、一際目を引く一頭の狼が鋭い眼光をスズネたちへと向けていた。
明らかにこれまでの|漆黒の狼(ブラックウルフ)たちとは異質なのが一目で分かる。
他の|漆黒の狼(ブラックウルフ)と比べて一回り以上大きく、全身の毛は深い紫色をしており、その身には黒いオーラを纏っている。
「あれは、闇魔狼!!」
その姿を目にしたマクスウェルが驚いたように叫んだ。
「なんかヤバそうなのが出てきたけど、その闇魔狼ってなんなのよ」
「闇魔狼は、闇属性の魔狼で闇魔法も使用することが出来る魔獣です。僕も実際に目にするのは初めてですが、その獰猛さと残忍さは漆黒の狼の比ではないと聞いたことがあります」
─────── ワォォォーーーン。
闇魔狼のひと吠えに呼応するように二十頭程の漆黒の狼が正面と左右の三つに部隊を分けてスズネたちに襲い掛かろうと走り始めた。
「癒しの光」
このタイミングでスズネが全員に回復魔法をかける。
「サンキュー、スズネ」
「ありがとうございます。助かります」
「ありがたいっす~」
「わっちも全快なのじゃ」
パーティメンバー全員を回復させたスズネは、続けざまにミリア・マクスウェル・シャムロムの近接系三人に身体強化の魔法をかける。
「女神の祝福」
「キタキタキターーー」
「気を引き締めていきますよ」
「よ…よし、やるっすよ」
スズネの魔法によって身体強化された三人は、漲る力を実感し笑顔を見せつつ迫り来る脅威に対して臨戦態勢をとる。
そして、準備が整ったことを確認したスズネが全員に指示を出す。
「正面はミリア、右はマクスウェル君、左はシャムロム、ラーニャちゃんは後方からみんなの援護をお願い」
「「「「了解(っす・じゃ)」」」」
三つの部隊に分かれた漆黒の狼が三方向からほぼ同時に襲いかかる。
ミリアは“炎帝の剣”の力を解放し、燃え盛る愛剣で次々と斬り伏せていく。
マクスウェルも“女神の祝福”の効果によって身体も軽くなったようで、鍛え上げてきた剣技を駆使しその力を遺憾なく発揮する。
一方のシャムロムは、一頭ずつ確実に倒していくがまだまだ複数体を相手にすることには骨が折れる様子。
しかし、そこはクロノからの指示を受けたラーニャが魔法によって援護することで補っていく。
そして数分の後、各自が相対した敵を全て打ち倒したのであった。
「フゥ~、まぁ~こんなもんね」
満足気な表情を見せるミリアの周辺には、炎帝の剣によって斬り倒された漆黒の狼たちがその身を炎に包まれながら息絶えていた。
迫り来る脅威を退けたスズネたちがホッとしているとクロノが冷静に声を掛ける。
「おい、油断するな。次が来るぞ」
クロノの言葉を聞いたスズネたちが周囲に目をやると、敵の正面に位置していたミリア目掛けて黒い炎の球が飛んできていた。
「ちょっと、何よあの黒い炎は」
不意をつかれた上、これまで見たことのない魔法を前に慌てた様子を見せるミリア。
「岩壁」
突如としてミリアの前の地面が盛り上がり、瞬く間に大きな岩の壁が現れる。
───── ドン!! ─────
ガラガラガラガラ。
黒炎と岩壁がぶつかり合うと、大きな爆発音と共に岩壁が崩れ落ちる。
「助かったわ。ありがとうクロノ」
「油断しすぎだ。まだ終わってないぞ」
クロノの言う通りである。
数十頭にも及ぶ漆黒の狼の群れは倒したが、まだ大本命が残っている。
改めて気を引き締め直したスズネたちの視線の先には、禍々しいオーラを纏った闇魔狼が牙を剥き出しにしてこちらを睨みつけていたのだった。
─────────────────────────
先程ミリアに向かって黒炎を放ったのは、間違いなくあの闇魔狼である。
漆黒の狼より一回り以上の巨体を持ちながらも、それを凌駕するスピードに加え、近接ではその獰猛な牙と爪で襲いかかり、遠距離からは黒炎を放つという遠近両方での戦闘を可能としている。
正直に言って、今のスズネたちでは全員で戦っても軽く倒せる相手ではない。
「さぁ~て、メインディッシュね。魔獣なんて初めてだわ。どうやって仕留めてやろうかしら」
“宿り木”の切込隊長は今日も絶好調である。
目の前に現れた強敵に対し、その瞳をキラキラと輝かせながら嬉々とした表情をしている。
「ミリア、あんまり無茶しないでよ」
「分かってる、分かってる。でも、マジでやんないとヤバイ相手よ。最初から全力でいくわ」
さすがミリアとでも言うべきか。
早く戦いたくてウズウズしてはいるが、頭は至って冷静である。
そして、スズネたちがミリアの元へ集まり臨戦態勢を整え終えると、それを待っていたかのように闇魔狼がこちらへと一気に駆け出したのだった。
「来ました!!」
マクスウェルの声が全員の耳に届く頃には、相対する闇魔狼がもう目と鼻の先程の距離まで迫っていた。
油断しているつもりはなかったが、百メートル以上あった距離があっという間に詰められてしまう。
「こんにゃろう」
目の前まで接近してきた闇魔狼に対してミリアが勢い良く剣を振り下ろす。
ヒュンッ ────────── 。
しかし、その攻撃は空を切りいとも簡単に躱されてしまう。
そして、ミリアの攻撃を見切り躱した闇魔狼が鋭い爪を振り下ろそうと上体を起こし、その巨体を大きくのけ反らせる。
三メートルを超えようかというその大きさと迫力にスズネたちは息を呑む。
「危ないっす!!」
────────── ガンッ 。
咄嗟にミリアと闇魔狼の間に割って入ったシャムロムが強力な一撃を受け止める。
「ナイスです。シャムロム」
シャムロムに攻撃を受け止められ闇魔狼の意識がそちらへと向いた瞬間に、その隙を見逃さなかったマクスウェルが真横から闇魔狼の首目掛けて剣を振り下ろした。
タイミングもバッチリであり、マクスウェル自身も完全に打ち取ったと確信していた。
しかし、その攻撃も虚しく空を切ることになる。
剣を振り下ろす際に放たれたマクスウェルの殺気を感じ取った闇魔狼は、全ての力を四本の足に込めると一気に後方へと飛び跳ねてその攻撃を躱したのだった。
まさに緊急回避である。
「苛烈なる業火を以って敵を焼き払え。火球」
マクスウェルの攻撃を回避した闇魔狼に対して休む暇を与えんとばかりに、ラーニャによる追撃が放たれる。
ヴゥゥゥゥゥ ─────── 。
唸り声を上げた闇魔狼は、黒炎を放ちラーニャからの攻撃を相殺する。
───── ドーーーン ─────
両者の間に土煙が立ち昇る。
そして、土煙が晴れると改めてお互いに目の前の敵に対して視線を送り合う。
「もう、何なのよアイツ。すばしっこいにも程があるわ」
「すみません、完全に仕留めたと思ったんですが」
「“女神の祝福”で身体強化した二人でも捉えられないなんて凄いスピードだね」
「ウチは何とかついていくので精一杯っす」
「わっちはすばしっこいのは苦手じゃ。ここら一帯をまとめて吹き飛ばしていいなら話は別じゃがのう」
「ダメに決まってんでしょ・・・」
やはり今のスズネたちには少々荷が重いようである。
ギリギリのところでそのスピードについていけはするが、肝心の攻撃を当てることが出来ない。
さらに、今のスズネたちはその問題を解決する術を持ち合わせていない。
まぁ~今回のクエストの目的である素材(漆黒の狼)は十分手にしており、無理をして闇魔狼と戦う必要もない。
そう考えると、このまま逃げてしまうというのもアリな状況ではある。
しかし、自身が率いる群れを全滅させられた闇魔狼にそんなことをさせる気は全く無いようだ。
乱れた呼吸を整えると再度スズネたちに向かって突進してきた。
前回と違うのは途中で黒炎を放ってきたことである。
そうして放たれた黒炎であったが、スズネたちに当たるよりも前に急激に方向を変え地面に衝突するとスズネたちの前に土煙が立ち昇った。
「クソッ、アイツ目眩しなんて小癪な真似を」
「みんな、どこから来るか分からないから注意して!!」
スズネの声に呼応するように宿り木のメンバーたちは互いに背を向け合い、敵がどこから来ても対応出来るように構える。
そして、急な展開に慌てるスズネたちを嘲るかのごとく、闇魔狼はその中で最も無防備な者へと襲いかかるのだった。
しかし、それは闇魔狼にとって最悪の結果を生むこととなる。
そう ───── 闇魔狼が狙ったのは・・・クロノであった。
グゥォォォ ─────── 。
猛スピードでクロノに向かって行き、先程と同様に上体を起こし背を大きくのけ反らせて鋭い爪を振り下ろそうとしている。
「あ?なんだテメェー、躾が必要か?」
強烈な殺気をその身に漂わせ、振り上げた右前足に禍々しい闇属性のオーラを纏わせながら迫る闇魔狼を前にしてもクロノは余裕である。
一切の力感も無く、あくまでも自然体。
スズネたちではついていくのがやっとのスピードを前にしても、目の前に迫っている相手をどうしてやろうかと考えるくらいの時間は十分にあるようだ。
そして、その状況に気付いたスズネたちが一斉にそちらの方へと視線を送る。
「あっ!!ちょっと待っ ───── 」
────────── ザンッ 。
全てを察したミリアの叫びも虚しく、闇魔狼の首はスパッと綺麗に刎ね飛ばされたのであった。
「OK。任せて」
「次、デカいの来ました」
「了解っす。ウチが止めておくっす」
今日もスズネたち『宿り木』は、素材集めのクエストを進めながらパーティの連携を深めていた。
本日の標的は『漆黒の狼』である。
一般的な狼よりも俊敏性が高く、鋭い牙や爪による攻撃も強力なのだが、最も厄介なのが群れのリーダーを中心とした人間顔負けの統率された組織力である。
低ランクの冒険者にとっては一頭を相手にするだけでも厄介なスピードを有しているにも関わらず、きっちりとした連携で相手を取り囲み追い詰めてくるのだ。
そんな相手を前にしても今のスズネたちは慌てる素振りを見せることなく、一人一人が自分の役割をこなしていく。
「もう、ホント切りがないわね」
「無駄口を叩く暇があるならまだまだ大丈夫そうですね。次来たやつもお願いします」
「マクスウェル…アンタこのクエストが終わったら覚えときなさいよ」
そんな軽口を交わしながらミリアとマクスウェルは目の前の敵を次々と切り伏せていく。
これまでの鍛錬の成果なのであろう。
二人は漆黒の狼のスピードにも難なくついていっている。
「シャムロム、もう一頭そっちに行ったよ」
「うわわわわ、ちょっと待っ…待つっす、待つっすよ~」
ミリア・マクスウェル・シャムロムを前衛に配置し、後方からスズネが指示を出しつつサポート及びバックアップをしているのだが、ミリアとマクスウェルは状況判断が早くスズネの指示が遅れることもしばしば・・・。
そして、シャムロムに関してはまだまだ複数体を相手にするのが苦しそうな状況であった。
「風刃」
─────── ズバン!! ───────
放たれた風の刃によって、シャムロムに迫っていた漆黒の狼が胴体から真っ二つに切り裂かれた。
「た…助かったっすー」
「ありがとうクロノ」
漆黒の狼を切り裂いた風刃を放ったのはクロノである。
基本的に戦闘時には傍観しているクロノであったが、スズネたちだけでは手に負えないような状況の時には手を貸してくれるのだった。
「おい、油断するな!!シャムロムはそのままデカいのを抑えておけ。後続の駄犬どもが来るぞ」
クロノの言葉通り、前衛で戦っているミリアたちのその先に十頭以上の漆黒の狼が迫ってきていた。
「準備はいいなラーニャ。集中しろ」
「準備万端じゃ。あれしきの雑魚どもくらいわっち一人で十分なのじゃ」
クロノの問い掛けに対し、自信満々の表情で答えるラーニャ。
「雷雲より生まれし雷を以って敵を撃ち倒せ ───── 雷撃」
────── バチンッ。
────── バチンッ。
────── バチンッ。
ラーニャの放った魔法によって、迫っていた十頭以上の漆黒の狼が一瞬の内にその場に倒れたのだった。
以前のような焼け焦げた臭いもなくきっちりと急所を射抜いており、確かな成長が感じ取れる。
「凄いよラーニャちゃん、あんなにたくさんの魔獣を一遍に倒しちゃうなんて」
「そうじゃろう、そうじゃろう。まぁ~天才であるわっちにかかれば容易いもんじゃ」
スズネに褒められ鼻高々で調子に乗るラーニャであったが、先生はそんなに甘くはない。
「おい、なんだ今のは。魔力操作が雑だから発動に誤差が出てんじゃね~か!!お前…準備万端って言ったよな?」
先生はお怒りである。
それも相当に・・・。
それまでの戦闘を他のメンバーに任せ、しっかりと準備する時間を与えたにも関わらず、及第点にすら届かない生徒の出来の悪さに抑えきれない怒りが漏れ出している。
「えっ…あはははは…。まぁ~以前と比べたら微々たるもんじゃろ?もっと成長に目を向けるべきじゃと思うぞ」
結果だけではなく過程においても厳しい目を向けるクロノに迫られ、顔を赤らめながらも必死に言い訳を並べるラーニャなのであった。
「ちょっと、アンタたち痴話喧嘩なんて後にしなさいよ」
戦闘の最中に説教を始めるクロノたちに対して、今もなお前線で敵を食い止めているミリアから声が飛ぶ。
「痴話喧嘩じゃね~よ。コイツの魔法があまりにも酷いあり様だから ───── 」
「そんなもん後にしなさいよ!!アンタ今の状況分かってんの」
次から次へと現れる漆黒の狼への対応にイライラしているのか、ミリアは強い口調でクロノの言葉を遮る。
そんなミリアの態度に納得がいかないクロノ。
“なぜ自分が怒られないといけないんだ”と言いたげな表情をしつつも、必死にその怒りを押し殺そうとしている。
「今はそんな言い合いしてる場合じゃないっすよ」
一際大きな漆黒の狼をなんとか一人で倒したシャムロムが疲れた様子をみせつつ声を掛ける。
「みんな見て!!群れの後ろに何かいる」
スズネの声に反応した他のメンバーがジリジリと迫り来る漆黒の狼の大群の後方に目をやると、一際目を引く一頭の狼が鋭い眼光をスズネたちへと向けていた。
明らかにこれまでの|漆黒の狼(ブラックウルフ)たちとは異質なのが一目で分かる。
他の|漆黒の狼(ブラックウルフ)と比べて一回り以上大きく、全身の毛は深い紫色をしており、その身には黒いオーラを纏っている。
「あれは、闇魔狼!!」
その姿を目にしたマクスウェルが驚いたように叫んだ。
「なんかヤバそうなのが出てきたけど、その闇魔狼ってなんなのよ」
「闇魔狼は、闇属性の魔狼で闇魔法も使用することが出来る魔獣です。僕も実際に目にするのは初めてですが、その獰猛さと残忍さは漆黒の狼の比ではないと聞いたことがあります」
─────── ワォォォーーーン。
闇魔狼のひと吠えに呼応するように二十頭程の漆黒の狼が正面と左右の三つに部隊を分けてスズネたちに襲い掛かろうと走り始めた。
「癒しの光」
このタイミングでスズネが全員に回復魔法をかける。
「サンキュー、スズネ」
「ありがとうございます。助かります」
「ありがたいっす~」
「わっちも全快なのじゃ」
パーティメンバー全員を回復させたスズネは、続けざまにミリア・マクスウェル・シャムロムの近接系三人に身体強化の魔法をかける。
「女神の祝福」
「キタキタキターーー」
「気を引き締めていきますよ」
「よ…よし、やるっすよ」
スズネの魔法によって身体強化された三人は、漲る力を実感し笑顔を見せつつ迫り来る脅威に対して臨戦態勢をとる。
そして、準備が整ったことを確認したスズネが全員に指示を出す。
「正面はミリア、右はマクスウェル君、左はシャムロム、ラーニャちゃんは後方からみんなの援護をお願い」
「「「「了解(っす・じゃ)」」」」
三つの部隊に分かれた漆黒の狼が三方向からほぼ同時に襲いかかる。
ミリアは“炎帝の剣”の力を解放し、燃え盛る愛剣で次々と斬り伏せていく。
マクスウェルも“女神の祝福”の効果によって身体も軽くなったようで、鍛え上げてきた剣技を駆使しその力を遺憾なく発揮する。
一方のシャムロムは、一頭ずつ確実に倒していくがまだまだ複数体を相手にすることには骨が折れる様子。
しかし、そこはクロノからの指示を受けたラーニャが魔法によって援護することで補っていく。
そして数分の後、各自が相対した敵を全て打ち倒したのであった。
「フゥ~、まぁ~こんなもんね」
満足気な表情を見せるミリアの周辺には、炎帝の剣によって斬り倒された漆黒の狼たちがその身を炎に包まれながら息絶えていた。
迫り来る脅威を退けたスズネたちがホッとしているとクロノが冷静に声を掛ける。
「おい、油断するな。次が来るぞ」
クロノの言葉を聞いたスズネたちが周囲に目をやると、敵の正面に位置していたミリア目掛けて黒い炎の球が飛んできていた。
「ちょっと、何よあの黒い炎は」
不意をつかれた上、これまで見たことのない魔法を前に慌てた様子を見せるミリア。
「岩壁」
突如としてミリアの前の地面が盛り上がり、瞬く間に大きな岩の壁が現れる。
───── ドン!! ─────
ガラガラガラガラ。
黒炎と岩壁がぶつかり合うと、大きな爆発音と共に岩壁が崩れ落ちる。
「助かったわ。ありがとうクロノ」
「油断しすぎだ。まだ終わってないぞ」
クロノの言う通りである。
数十頭にも及ぶ漆黒の狼の群れは倒したが、まだ大本命が残っている。
改めて気を引き締め直したスズネたちの視線の先には、禍々しいオーラを纏った闇魔狼が牙を剥き出しにしてこちらを睨みつけていたのだった。
─────────────────────────
先程ミリアに向かって黒炎を放ったのは、間違いなくあの闇魔狼である。
漆黒の狼より一回り以上の巨体を持ちながらも、それを凌駕するスピードに加え、近接ではその獰猛な牙と爪で襲いかかり、遠距離からは黒炎を放つという遠近両方での戦闘を可能としている。
正直に言って、今のスズネたちでは全員で戦っても軽く倒せる相手ではない。
「さぁ~て、メインディッシュね。魔獣なんて初めてだわ。どうやって仕留めてやろうかしら」
“宿り木”の切込隊長は今日も絶好調である。
目の前に現れた強敵に対し、その瞳をキラキラと輝かせながら嬉々とした表情をしている。
「ミリア、あんまり無茶しないでよ」
「分かってる、分かってる。でも、マジでやんないとヤバイ相手よ。最初から全力でいくわ」
さすがミリアとでも言うべきか。
早く戦いたくてウズウズしてはいるが、頭は至って冷静である。
そして、スズネたちがミリアの元へ集まり臨戦態勢を整え終えると、それを待っていたかのように闇魔狼がこちらへと一気に駆け出したのだった。
「来ました!!」
マクスウェルの声が全員の耳に届く頃には、相対する闇魔狼がもう目と鼻の先程の距離まで迫っていた。
油断しているつもりはなかったが、百メートル以上あった距離があっという間に詰められてしまう。
「こんにゃろう」
目の前まで接近してきた闇魔狼に対してミリアが勢い良く剣を振り下ろす。
ヒュンッ ────────── 。
しかし、その攻撃は空を切りいとも簡単に躱されてしまう。
そして、ミリアの攻撃を見切り躱した闇魔狼が鋭い爪を振り下ろそうと上体を起こし、その巨体を大きくのけ反らせる。
三メートルを超えようかというその大きさと迫力にスズネたちは息を呑む。
「危ないっす!!」
────────── ガンッ 。
咄嗟にミリアと闇魔狼の間に割って入ったシャムロムが強力な一撃を受け止める。
「ナイスです。シャムロム」
シャムロムに攻撃を受け止められ闇魔狼の意識がそちらへと向いた瞬間に、その隙を見逃さなかったマクスウェルが真横から闇魔狼の首目掛けて剣を振り下ろした。
タイミングもバッチリであり、マクスウェル自身も完全に打ち取ったと確信していた。
しかし、その攻撃も虚しく空を切ることになる。
剣を振り下ろす際に放たれたマクスウェルの殺気を感じ取った闇魔狼は、全ての力を四本の足に込めると一気に後方へと飛び跳ねてその攻撃を躱したのだった。
まさに緊急回避である。
「苛烈なる業火を以って敵を焼き払え。火球」
マクスウェルの攻撃を回避した闇魔狼に対して休む暇を与えんとばかりに、ラーニャによる追撃が放たれる。
ヴゥゥゥゥゥ ─────── 。
唸り声を上げた闇魔狼は、黒炎を放ちラーニャからの攻撃を相殺する。
───── ドーーーン ─────
両者の間に土煙が立ち昇る。
そして、土煙が晴れると改めてお互いに目の前の敵に対して視線を送り合う。
「もう、何なのよアイツ。すばしっこいにも程があるわ」
「すみません、完全に仕留めたと思ったんですが」
「“女神の祝福”で身体強化した二人でも捉えられないなんて凄いスピードだね」
「ウチは何とかついていくので精一杯っす」
「わっちはすばしっこいのは苦手じゃ。ここら一帯をまとめて吹き飛ばしていいなら話は別じゃがのう」
「ダメに決まってんでしょ・・・」
やはり今のスズネたちには少々荷が重いようである。
ギリギリのところでそのスピードについていけはするが、肝心の攻撃を当てることが出来ない。
さらに、今のスズネたちはその問題を解決する術を持ち合わせていない。
まぁ~今回のクエストの目的である素材(漆黒の狼)は十分手にしており、無理をして闇魔狼と戦う必要もない。
そう考えると、このまま逃げてしまうというのもアリな状況ではある。
しかし、自身が率いる群れを全滅させられた闇魔狼にそんなことをさせる気は全く無いようだ。
乱れた呼吸を整えると再度スズネたちに向かって突進してきた。
前回と違うのは途中で黒炎を放ってきたことである。
そうして放たれた黒炎であったが、スズネたちに当たるよりも前に急激に方向を変え地面に衝突するとスズネたちの前に土煙が立ち昇った。
「クソッ、アイツ目眩しなんて小癪な真似を」
「みんな、どこから来るか分からないから注意して!!」
スズネの声に呼応するように宿り木のメンバーたちは互いに背を向け合い、敵がどこから来ても対応出来るように構える。
そして、急な展開に慌てるスズネたちを嘲るかのごとく、闇魔狼はその中で最も無防備な者へと襲いかかるのだった。
しかし、それは闇魔狼にとって最悪の結果を生むこととなる。
そう ───── 闇魔狼が狙ったのは・・・クロノであった。
グゥォォォ ─────── 。
猛スピードでクロノに向かって行き、先程と同様に上体を起こし背を大きくのけ反らせて鋭い爪を振り下ろそうとしている。
「あ?なんだテメェー、躾が必要か?」
強烈な殺気をその身に漂わせ、振り上げた右前足に禍々しい闇属性のオーラを纏わせながら迫る闇魔狼を前にしてもクロノは余裕である。
一切の力感も無く、あくまでも自然体。
スズネたちではついていくのがやっとのスピードを前にしても、目の前に迫っている相手をどうしてやろうかと考えるくらいの時間は十分にあるようだ。
そして、その状況に気付いたスズネたちが一斉にそちらの方へと視線を送る。
「あっ!!ちょっと待っ ───── 」
────────── ザンッ 。
全てを察したミリアの叫びも虚しく、闇魔狼の首はスパッと綺麗に刎ね飛ばされたのであった。
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地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。
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すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。
『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。
勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。
異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。
やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。
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―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
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4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
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