魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

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歪な愛

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ロザリーの誕生日会からの帰り道で今巷で噂となっている魔人に遭遇したスズネたち。
そして、魔人の行いを目の当たりにし怒りを覚えたスズネたちは一戦交えることに。
しかし何をやっても再生を繰り返す魔人。
その再生能力に手を焼きながらも奮闘するスズネたちであったが、その戦闘の最中に突然涙を流し始めた魔人の姿に困惑してしまう。

その時、突如として発せられた男性の声により怯え出した魔人は、逃げるようにその場から去っていった。
魔人を取り逃し打つ手が無くなったかと思われたが、ラーニャが戦闘中に付けた魔法感知用の印を頼りにスズネたちは魔人を追いかけることにしたのだった。


「ラーニャちゃん、魔人は何処に向かってるの?」

「場所までは分からんが、どんどん街の外へと向かっておるようじゃ」

「はぁ…はぁ…戦闘直後の追跡はキツいっす~」

「つべこべ言わずに走りなさい。それより、セスリー上からは見えないの?」


街中を走るスズネたちとは別でセスリーだけはその身軽さを活かして建物の屋根から屋根へと飛び移りながら魔人を追っていた。


「ダ…ダメですね。街中で反応が多過ぎるのと遮蔽物の多さで捉えきれません」


そんなやり取りをしながら走り続けたスズネたちは、とうとうモアの街を囲う防壁へと辿り着いたのだった。


「ちょっと、壁まで来ちゃったじゃない」

「ラーニャちゃん、魔人は ───── 」

「外じゃ。このデカい壁を越えて外に逃げたようじゃ」

「ここまで来たんですから追いかけましょう」


マクスウェルの一言に反応し、スズネたちはモアの外へ出て魔人を追う。
そうして行き着いたのは、モアの街から少し外れた名も無き小さな森の中にある寂れ果てた廃墟であった。


「うわぁ~なんすか、この明らかに不気味な建物は」

「本当だね!今にもオバケとか出そう」

「ヒィッ!?へ…変なこと言わないでよ…スズネ」

「あはははは。ミリアはオバケとか苦手なんだよね」


他のメンバーたちから少し離れた後方で怯えた様子を見せるミリア。
いつもの勝気な印象からは想像し難い姿を呆然と眺めるしかないメンバーたち。
しかし、ミリアを見つめるスズネたちの目にはもう一つの人物の姿がしっかりと映っていた。


「あれ?そんなところで何してるんすか?ラーニャ」

「べ…別に、廃墟の全体像を見ておっただけじゃ。オ…オバケが怖いとか、そういうことでは決してないぞ」


明らかな動揺を見せるラーニャ。
そこにはいつもの自信に満ち溢れた彼女の姿はなく、ただでさえ大きな三角帽子エナンを深々と被り目元まで隠していたのだった。
そして、ちゃっかりとミリアの背後に隠れようとしていた。


「ちょっとラーニャ、アンタ何アタシの後ろに隠れようとしてんのよ」

「うるさい。わっちは後方支援でミリアは前衛じゃろ、わっちの前を歩くのじゃ」

「アンタふざけたこと言ってんじゃないわよ」


オバケに対する恐怖心は何処へやら、どちらが前を歩くかで揉め始める二人。
その緊張感のない小競り合いを呆れながら見つめる他のメンバーたちなのであった。


「二人とも~ぐずぐずしてたら置いて行くよ~」

「ちょっと、待ちなさいよ」

「わ…わっちを置いて行くでない」


こうして一悶着あったスズネたちであったが、いよいよ廃墟の中へ入ることに。
そして恐る恐る足を踏み入れてみるがそこに魔人の姿はなく、崩れた屋根の隙間から月明かりが差し込んではいても廃墟の中は薄暗い闇が広がっているだけなのであった。


「うわぁ~薄暗くて気味悪いっすね」

「でも~…魔人の姿が見当たらないね」

「い…いつ襲って来るかも分からないので、注意はした方がいいと思います」

「セスリーの言う通りです。十分に警戒していきましょう」


廃墟の中に入り周囲を見回しつつ警戒を強める四人とは違い、二人で抱き合いながらゆっくりと後を追うミリアとラーニャ。
そして、先行する四人による魔人の姿が見当たらないという会話を聞いたラーニャが強く否定する。


「間違いなく魔人はココにおる。今もこの建物内に反応が出ておるから絶対じゃ」


別にラーニャの言葉や魔法を疑っているわけではない。
むしろパーティメンバー全員がいつでも真っ直ぐなラーニャのことを信頼している。
そのラーニャが“絶対だ”と言い切ったということは、確実に魔人がこの廃墟にいるということだ。
しかし、肝心の魔人の姿が見つけられない。
どうしたものかと困りながらスズネたちが話し合いをしていると、それまで廃墟の中をキョロキョロと見ていたクロノが口を開いた。


「下だ」

「「「「「「 えっ!? 」」」」」」

「だから、お前らが追っている木偶の坊は地下にいるって言ってんだよ」

「アンタ、なんでそんなことが分かるのよ」

「はぁ?この廃墟をグルッと見て何処にもいないからな。そして上にもいないとなると ───── 残るは下だろ」

「クロノさん、地下とは言ってもどうやって行くんすか?」


確かにシャムロムの言う通り何処を見ても地下へ繋がる階段のようなものは見当たらない。
本当にクロノの言う通り地下があるのであれば、下に降りるための何かしらの手段があるはず。
しかし、スズネたちが廃墟に入って中を見回ったが、そんなものは誰一人として見掛けなかった。


「安心しろ。あの木偶の坊の残滓を辿ればいいだけのことだ。仕方ねぇ~から案内してやるよ」

「ありがとう!!クロノ」


廃墟内に残された魔人の残滓を追って行けば隠された地下への道が開かれるというクロノに先導され後をついていくスズネたち。
そして、クロノが行き着いた先の壁に取り付けてあった鷲の頭の形をした石像を押すと、壁の一部が動き出し地下へと繋がる階段が姿を現した。


「凄い!!本当にあった。さすがはクロノだね」

「馬鹿かお前は。本番はこれからだぞ」


クロノの言葉を聞き改めて気を引き締めるスズネたち。
そして、階段を降りていき地下に到着すると奥からシクシクと啜り泣く声が聞こえたのだった。
スズネたちが無き後へのする方へ向かうとそこには膝を抱えて泣く少年の姿が  ───── 。


「えっ!?ザザ君?」


なんと廃墟の地下で泣いていたのは、以前アーサーに呼ばれて行った王城で一緒に遊んだ少年ザザであった。
驚きと共にザザの元へと駆け寄ろうとしたスズネをラーニャが大きな声を上げて止める。


「待つのじゃ!!」

!?


突然発せられた大声にびっくりし、歩む足を止めてラーニャへと視線を向けるスズネ。


「ど…どうしたの?ラーニャちゃん」

「そいつじゃ・・・」

「え?」

「その少年が・・・魔人の正体じゃ」


!? !? !? !? !? !? 


「グスッ、グスッ、グスッ。ごめんなさい、ごめんなさい」


衝撃の事実に驚きを隠せないスズネたちに対して涙ながらに謝り続けるザザ。
そうこうしていると暗闇の中からメイニエルが姿を現したのだった。


「これはこれは、みなさんお揃いで。こんな夜更けにこのような場所に何のご用でしょうか?」

「メイニエルさん、ザザ君が魔人だというのは本当なんですか?」


スズネの問い掛けに対し不敵な笑みを見せたメイニエル。


「フハハハハ。その通りです。私の研究の成果 ───── 楽しんで頂けましたでしょうか」

「自分の息子になんてことを ───── 」


一切悪びれる様子もなく高笑いをして見せるメイニエル。
その姿に溢れる怒りを抑えることが出来ず、歯を食いしばり、力の限り拳を握り締めるマクスウェル。


「メイニエルさん、どうしてこんな酷いことを」


この一言によってメイニエルの顔付きが変わる。
以前会った時に見せた優しい父親の顔でも、先程まで見せていた余裕のある顔でもなく、どこか陰のあるような静かな怒りが滲み出た表情を見せたのだった。


「酷い…だと?何も知らないガキの分際で私たちのことを知った風に語るんじゃない!!」


声を荒げて感情を全面に出すメイニエルはここに至るまでの経緯を語り出した。


「私には何よりも大事な人がいた。共に研究に励み、力を合わせ、数多くの成果も上げてきた。そして、私たちは結ばれ新たな命を授かった ─── それがザザだ。しかし、私が愛した最愛の妻は、この子を産むと同時に亡くなってしまった・・・。そして、生まれてきたこの子も身体が弱く、そのままにしておけば一年と保たず絶命する病気を患っていたのだ」

「えっ?でも…ザザ君は生きてるっすよ」


再びメイニエルが不敵に笑う。


「ああそうだ、ザザは生きている。最愛の妻を殺してまで生まれておいて、何ひとつ成すことなく死ぬなど到底許すことは出来ない。そこで私は考えた・・・どうせ死ぬようならば、せめて私たち夫婦が目指した究極の生物を創り出すための研究に協力するべきだとな ───── そして、幸運にもザザにはその適性があったのだ」


ここでメイニエルの狂気にも似た一面が顔を出す。
そして、この瞬間にスズネたちは全てを理解した。
メイニエルにとってザザは、“この世でたった一人の大事な息子”ではなく、“この世でたった一体の大事な実験体”なのだと ───── 。


「クックックックックッ。ザザは私に身体を提供し、私はザザに死なない肉体を提供する。そうすることによって妻が命を賭してザザを産んだ意味もあるというものだ」

「なんて身勝手な」

「話を聞いてるだけでこっちまで頭がおかしくなりそうっす」

「ザザ君が・・・可哀想です」


メイニエルが語る自分よがりな言葉の数々に怒りと嫌悪感を抱くスズネたち。
そんなスズネたちのことなどお構いなしに自分の考えを語り続けるメイニエル。


「そして、あのノイマンでさえ成し遂げられなかったこの研究を成功させれば、やつではなくこの私こそが世界最高の頭脳だという証明になるのだ。これは、私と妻とザザによる人生を賭けた研究であり、私たち家族三人による“究極の愛”なのだ!!」


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