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人魚女王
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「そこまでにしておきなさい」
クロノの指示もありスズネたちが人魚族を追い詰め、それを見ていたクロノが戦いの終焉を告げた瞬間、何処からともなく声が発せられた。
そして、その声と共に一体の人魚が姿を現した。
他の人魚族の者たちと比べて年老いた見た目をしているわけではないが、その纏う空気感と風格によって初見であるスズネたちであってもこの人魚がただ者ではないということがひと目で分かった。
それもそのはず、この人魚こそが人魚族を率いる人魚女王なのである。
そして、女王の登場によって先程まで好戦的な姿勢をとっていた人魚たちが嘘のように大人しくなり、女王に向けて頭を下げ敬意を表したのだった。
一方のスズネたちは突如現れた人魚女王に驚き声を失ってしまう。
「女王様、ご無理をなされないでください」
「マーセル、もう良いのです。そこまでにしておきなさい」
「しかし・・・」
どうやらマーセルというのがあのリーダー格の人魚の名前のようだ。
恐縮しながらも女王を気遣うマーセルに対して優しく微笑む女王。
そして、女王は視線をスズネたちへ向けると人魚族の女王として話し始めた。
「ヒト族の者たちよ、ここは我ら人魚族が住まう地であり、この私の目の黒いうちはなんびとたりとも荒らさせはせんぞ」
「いえ、私たちはこのパルーナ湖も人魚族の生活も荒らすつもりも壊すつもりもありません。ただこの湖で行方不明になったというヒト族の男性を探しているだけなんです」
「嘘をつけ!貴様らヒト族の・・・しかも冒険者であるお前たちの言うことなど信じられるか!!」
「そうです。姉様の言う通りです。女王様、ヒト族など信用してはなりません」
「「「「「 そうだ!そうだ! 」」」」」
人魚女王を前に警戒をしながらも対話を始めたスズネたちに対して、マーセルを始め他の人魚たちがヒト族への想いを口にしながら憤慨する。
「フンッ」
「おい貴様、何がおかしい」
「お止めなさい、マーセル」
次々に発せられる人魚たちの想いを聞いたクロノが鼻で笑うと、それを見逃さなかったマーセルが怒りを露わにする。
そして、今にも飛び掛かろうかという姿勢を見せたマーセルを女王が制止したのだった。
「おい、言いたいことがあるなら言わせてやれよババア」
!? !? !? !? !? !?
「貴っ様~~~・・・不敬だぞ!!」
女王に対するあまりにも礼を欠いたクロノの態度に激怒し怒号をあげるマーセル。
しかし、そんなことなど微塵も気にしないクロノは苦笑いを浮かべる。
「フッ、王都にある城にも似たようなやつがいたな」
クロノがそう呟いた時、遠く離れた首都メルサの王城にて大きなくしゃみをする人物がいた。
────── 王都メルサ ──────
「ぶわっくしょん」
「大丈夫か?ドルーマン」
「はい、問題ありません。失礼いたしました、陛下」
「何処かで噂でもされてるんじゃないのか?頭でっかちの大臣!ってな」
「黙れ、アーサー。陛下の前であるぞ」
「はいはい。大臣様の仰せのままに」
「こんの~・・・」
「二人とも戯れ合うのはそこまでだ。軍議に戻るぞ」
「「 ハッ!! 」」
────── パルーナ湖 ──────
「女王様、このような不届者は女王様に対する不敬で今すぐにでも八つ裂きにしてしまいましょう」
「なりません」
怒りのあまりクロノを八つ裂きにするようにと提言するマーセルであったが、その提言は即座に却下された。
「どうしてですか?あのような輩、我々の力を持ってすれば ───── 」
「実力差があり過ぎます。あの者はあなたたちが束になっても敵う相手ではありません」
「そんな・・・あんな男の何処にそのような力が」
水上であること
数の上でも有利なこと
まだまだ湖の底には戦える者たちが待機していること
そして何より、男なんぞに負けるはずがないという自負
それらを総合した上で、たった一人の男を相手に自分たちが負けるわけがないというマーセル。
そして、それは他の人魚たちも同じ想いなのであった。
「貴様、ヒト族ではないな。何者だ」
「・・・魔王だが、それがどうした?」
!? !? !? !? !?
「う・・・嘘だ!!」
女王の問い掛けに対するクロノの答えに畏怖する人魚族。
そして、その中でただ一人声を絞り出したマーセルであったのだが、その声は微かに震えていた。
それでも何とか気丈に振る舞おうとするマーセル。
その姿を前に女王は落ち着くようにと優しく微笑み掛けたのだった。
「貴様、魔王というのは本当か?」
「どうだろうな…嘘かもしれんぞ。何なら証明するためにこの湖ごとお前らを吹き飛ばしてやろうか?」
「フンッ、その太々しい様は魔王そのものだな。若いくせにそういう所はどの魔王とも変わらんようだ」
呆れたように笑う女王は、自身の記憶の中にある古い思い出を思い返しながら過去に出会った魔王の姿をクロノに重ねていた。
「おいババア、何処見てんだよ。他のやつなんて知ったこっちゃねぇ~んだよ。魔王は俺だ!!」
女王の目に自分が映っていないことを察したクロノが苛立ちを見せる。
そして、いよいよクロノが本題へと入る。
「それで、どうすんだよ。この状況を終わらせる方法なんて一つしかねぇ~ぞ。どうするんのか、さっさと選べ」
それまでの柔らかな物言いではなく、明らかに相手を見下ろした態度で圧をかけるクロノ。
そのとてつもない圧に人魚たちは震えだし、女王の額にも冷や汗が流れ落ちる。
「忙しいやつだな。もちろん分かっている。我々が拐ったヒト族の男たちを返せばいいんだろう?しかし何故だ?何故魔王である貴様がヒト族なんぞの味方をする」
女王の言葉に同意するかのように人魚族の面々がクロノに向けてジッと視線を送る。
「はぁ?こっちにはこっちの事情ってもんがあんだよ。てめぇらこそ、何百年も前の話をネチネチネチネチといつまで引きずってんじゃねぇ~よ。とりあえず、拐った奴らを今すぐに全員解放しろ。それで今回はチャラにしてやる」
クロノの言葉に対して沈黙を返す人魚たち。
そして、それを受けて女王が重い口を開いた。
「魔王よ、貴様にも事情があるのと同じように我々にも事情があるのだ」
「あの~その事情っていうのは何なんですか?それを解決する方法は ───── 私たちに出来ることがあればお手伝いします」
ここで突然スズネが二人の会話に割り込む。
他の宿り木のメンバーたちは、よくこの二人の会話に割って入れるなと驚きながらスズネに視線を送る。
そして、その声に反応した女王はゆっくりをスズネに視線を向け、クロノはまたスズネが面白いことを始めたと静かに笑ったのだった。
伝承によると、ヒト族と人魚族の関係は数百年も前から続くものであり、共に手を取り合い共存共栄を果たしてきた。
しかし、その関係も終わりを告げる。
それはヒト族による一方的な裏切りであり、人魚族を代表して現れた人魚族の姫を殺害するという暴挙によって終焉を迎えたのだ。
実際にこの惨劇を知る者は、人魚族の長である人魚女王と一部の人魚たちだけである。
スズネたちはもちろんのこと、クロノもマーセルを始めこの場にいる人魚たちの中にもそれを知る者はいない。
しかし、その憎しみと苦しみの想いは数百年が経とうとも消えることはなく、今を生きるマーセルたちの代であっても深く心に刻まれているのであった。
そういったものを理解しているのかは分からないが、何とかしたいと思ったスズネはその想いを真っ直ぐに言葉にしたのだ。
まぁ~それもスズネらしいと言えばスズネらしい。
何か裏があったりとかいう計算も無ければ、相手を騙そうという思惑も無い。
ただただ純粋に目の前にあるヒト族と人魚族の壊れてしまった関係を何とかしたいという想いだけで飛び出した言葉なのだ。
そして、その一点の曇りもない真っ直ぐな瞳で想いを告げられた女王は思わず笑ってしまう。
「フッ…フフフフフッ。幼きヒト族の少女よ、そなたは優しいな。皆がそなたのような心の持ち主であったならば、この世界も幾分かマシになろう」
「おいババア、こいつ面白いだろ。あと一度言い出したら聞かねぇ~から覚悟しといた方がいいぞ」
「ちょっ…ちょっとクロノ、それってどういう意味?」
「どうもこうもねぇ~よ。そのままの意味だ」
「ハァ~、昔からスズネは言い出したら止まんないからね。ホントしょうがないんだから」
「何じゃ?もう戦わんのか?」
「わっ…分かんないっすよ。いつまた襲ってくるかもしれないっす」
「一先ずそのような気配は見受けられませんね。とりあえず話を聞きましょう」
「ク…クロノさん、とりあえず待機でよろしいですか?」
「ん?ああ、もう大丈夫だろ。お前もこっちに来い。面白いもんが見られるかもしんねぇーぞ」
「は…はい、了解しました」
そして、女王の前へと並び立ったスズネたち。
先程までの戦闘が嘘のようにマーセルたち人魚も大人しくしている。
そうした中、一呼吸置いたのち女王が口を開く。
「それでは、少し昔話でもするとしようか ──────── 」
こうして人魚女王は数百年前に起きた“ある事件”のことを話し始めたのだった。
クロノの指示もありスズネたちが人魚族を追い詰め、それを見ていたクロノが戦いの終焉を告げた瞬間、何処からともなく声が発せられた。
そして、その声と共に一体の人魚が姿を現した。
他の人魚族の者たちと比べて年老いた見た目をしているわけではないが、その纏う空気感と風格によって初見であるスズネたちであってもこの人魚がただ者ではないということがひと目で分かった。
それもそのはず、この人魚こそが人魚族を率いる人魚女王なのである。
そして、女王の登場によって先程まで好戦的な姿勢をとっていた人魚たちが嘘のように大人しくなり、女王に向けて頭を下げ敬意を表したのだった。
一方のスズネたちは突如現れた人魚女王に驚き声を失ってしまう。
「女王様、ご無理をなされないでください」
「マーセル、もう良いのです。そこまでにしておきなさい」
「しかし・・・」
どうやらマーセルというのがあのリーダー格の人魚の名前のようだ。
恐縮しながらも女王を気遣うマーセルに対して優しく微笑む女王。
そして、女王は視線をスズネたちへ向けると人魚族の女王として話し始めた。
「ヒト族の者たちよ、ここは我ら人魚族が住まう地であり、この私の目の黒いうちはなんびとたりとも荒らさせはせんぞ」
「いえ、私たちはこのパルーナ湖も人魚族の生活も荒らすつもりも壊すつもりもありません。ただこの湖で行方不明になったというヒト族の男性を探しているだけなんです」
「嘘をつけ!貴様らヒト族の・・・しかも冒険者であるお前たちの言うことなど信じられるか!!」
「そうです。姉様の言う通りです。女王様、ヒト族など信用してはなりません」
「「「「「 そうだ!そうだ! 」」」」」
人魚女王を前に警戒をしながらも対話を始めたスズネたちに対して、マーセルを始め他の人魚たちがヒト族への想いを口にしながら憤慨する。
「フンッ」
「おい貴様、何がおかしい」
「お止めなさい、マーセル」
次々に発せられる人魚たちの想いを聞いたクロノが鼻で笑うと、それを見逃さなかったマーセルが怒りを露わにする。
そして、今にも飛び掛かろうかという姿勢を見せたマーセルを女王が制止したのだった。
「おい、言いたいことがあるなら言わせてやれよババア」
!? !? !? !? !? !?
「貴っ様~~~・・・不敬だぞ!!」
女王に対するあまりにも礼を欠いたクロノの態度に激怒し怒号をあげるマーセル。
しかし、そんなことなど微塵も気にしないクロノは苦笑いを浮かべる。
「フッ、王都にある城にも似たようなやつがいたな」
クロノがそう呟いた時、遠く離れた首都メルサの王城にて大きなくしゃみをする人物がいた。
────── 王都メルサ ──────
「ぶわっくしょん」
「大丈夫か?ドルーマン」
「はい、問題ありません。失礼いたしました、陛下」
「何処かで噂でもされてるんじゃないのか?頭でっかちの大臣!ってな」
「黙れ、アーサー。陛下の前であるぞ」
「はいはい。大臣様の仰せのままに」
「こんの~・・・」
「二人とも戯れ合うのはそこまでだ。軍議に戻るぞ」
「「 ハッ!! 」」
────── パルーナ湖 ──────
「女王様、このような不届者は女王様に対する不敬で今すぐにでも八つ裂きにしてしまいましょう」
「なりません」
怒りのあまりクロノを八つ裂きにするようにと提言するマーセルであったが、その提言は即座に却下された。
「どうしてですか?あのような輩、我々の力を持ってすれば ───── 」
「実力差があり過ぎます。あの者はあなたたちが束になっても敵う相手ではありません」
「そんな・・・あんな男の何処にそのような力が」
水上であること
数の上でも有利なこと
まだまだ湖の底には戦える者たちが待機していること
そして何より、男なんぞに負けるはずがないという自負
それらを総合した上で、たった一人の男を相手に自分たちが負けるわけがないというマーセル。
そして、それは他の人魚たちも同じ想いなのであった。
「貴様、ヒト族ではないな。何者だ」
「・・・魔王だが、それがどうした?」
!? !? !? !? !?
「う・・・嘘だ!!」
女王の問い掛けに対するクロノの答えに畏怖する人魚族。
そして、その中でただ一人声を絞り出したマーセルであったのだが、その声は微かに震えていた。
それでも何とか気丈に振る舞おうとするマーセル。
その姿を前に女王は落ち着くようにと優しく微笑み掛けたのだった。
「貴様、魔王というのは本当か?」
「どうだろうな…嘘かもしれんぞ。何なら証明するためにこの湖ごとお前らを吹き飛ばしてやろうか?」
「フンッ、その太々しい様は魔王そのものだな。若いくせにそういう所はどの魔王とも変わらんようだ」
呆れたように笑う女王は、自身の記憶の中にある古い思い出を思い返しながら過去に出会った魔王の姿をクロノに重ねていた。
「おいババア、何処見てんだよ。他のやつなんて知ったこっちゃねぇ~んだよ。魔王は俺だ!!」
女王の目に自分が映っていないことを察したクロノが苛立ちを見せる。
そして、いよいよクロノが本題へと入る。
「それで、どうすんだよ。この状況を終わらせる方法なんて一つしかねぇ~ぞ。どうするんのか、さっさと選べ」
それまでの柔らかな物言いではなく、明らかに相手を見下ろした態度で圧をかけるクロノ。
そのとてつもない圧に人魚たちは震えだし、女王の額にも冷や汗が流れ落ちる。
「忙しいやつだな。もちろん分かっている。我々が拐ったヒト族の男たちを返せばいいんだろう?しかし何故だ?何故魔王である貴様がヒト族なんぞの味方をする」
女王の言葉に同意するかのように人魚族の面々がクロノに向けてジッと視線を送る。
「はぁ?こっちにはこっちの事情ってもんがあんだよ。てめぇらこそ、何百年も前の話をネチネチネチネチといつまで引きずってんじゃねぇ~よ。とりあえず、拐った奴らを今すぐに全員解放しろ。それで今回はチャラにしてやる」
クロノの言葉に対して沈黙を返す人魚たち。
そして、それを受けて女王が重い口を開いた。
「魔王よ、貴様にも事情があるのと同じように我々にも事情があるのだ」
「あの~その事情っていうのは何なんですか?それを解決する方法は ───── 私たちに出来ることがあればお手伝いします」
ここで突然スズネが二人の会話に割り込む。
他の宿り木のメンバーたちは、よくこの二人の会話に割って入れるなと驚きながらスズネに視線を送る。
そして、その声に反応した女王はゆっくりをスズネに視線を向け、クロノはまたスズネが面白いことを始めたと静かに笑ったのだった。
伝承によると、ヒト族と人魚族の関係は数百年も前から続くものであり、共に手を取り合い共存共栄を果たしてきた。
しかし、その関係も終わりを告げる。
それはヒト族による一方的な裏切りであり、人魚族を代表して現れた人魚族の姫を殺害するという暴挙によって終焉を迎えたのだ。
実際にこの惨劇を知る者は、人魚族の長である人魚女王と一部の人魚たちだけである。
スズネたちはもちろんのこと、クロノもマーセルを始めこの場にいる人魚たちの中にもそれを知る者はいない。
しかし、その憎しみと苦しみの想いは数百年が経とうとも消えることはなく、今を生きるマーセルたちの代であっても深く心に刻まれているのであった。
そういったものを理解しているのかは分からないが、何とかしたいと思ったスズネはその想いを真っ直ぐに言葉にしたのだ。
まぁ~それもスズネらしいと言えばスズネらしい。
何か裏があったりとかいう計算も無ければ、相手を騙そうという思惑も無い。
ただただ純粋に目の前にあるヒト族と人魚族の壊れてしまった関係を何とかしたいという想いだけで飛び出した言葉なのだ。
そして、その一点の曇りもない真っ直ぐな瞳で想いを告げられた女王は思わず笑ってしまう。
「フッ…フフフフフッ。幼きヒト族の少女よ、そなたは優しいな。皆がそなたのような心の持ち主であったならば、この世界も幾分かマシになろう」
「おいババア、こいつ面白いだろ。あと一度言い出したら聞かねぇ~から覚悟しといた方がいいぞ」
「ちょっ…ちょっとクロノ、それってどういう意味?」
「どうもこうもねぇ~よ。そのままの意味だ」
「ハァ~、昔からスズネは言い出したら止まんないからね。ホントしょうがないんだから」
「何じゃ?もう戦わんのか?」
「わっ…分かんないっすよ。いつまた襲ってくるかもしれないっす」
「一先ずそのような気配は見受けられませんね。とりあえず話を聞きましょう」
「ク…クロノさん、とりあえず待機でよろしいですか?」
「ん?ああ、もう大丈夫だろ。お前もこっちに来い。面白いもんが見られるかもしんねぇーぞ」
「は…はい、了解しました」
そして、女王の前へと並び立ったスズネたち。
先程までの戦闘が嘘のようにマーセルたち人魚も大人しくしている。
そうした中、一呼吸置いたのち女王が口を開く。
「それでは、少し昔話でもするとしようか ──────── 」
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