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弱肉強食の世界
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「なっ…なんということだ・・・」
玉座に座るレオニスは頭を抱えながら俯いていた。
その原因は、先ほどまで獣王と謁見していた際にゼリックが放ったひと言にある。
『力による支配』
力こそが正義であり、実力主義を掲げる獣王国にとってそれは至極当然のこと。
強き者が頂点に立ち、皆を導く。
それはこれまでの歴史が物語っている。
それ故にゼリックが言っていることは大きく間違っていないのだ。
そして、そんなことは獣王であるレオニスが誰よりも理解している。
だが、しかし ──────── 。
「獣王様、お気を確かに」
「ああ…すまんなザックス。少し動揺した」
「いえ、無理もありません。愚息が馬鹿なことを申し上げました。あとで私の方からキツく言っておきます」
「まさか、ゼリックがあのようなことを考えていたとはな」
ゼリックの口から出たヒト族との戦争宣言とも取れる発言。
そこにはヒト族から虐げられている同胞を救い出したいという思いと、そんな非道を行うヒト族に対しての憎悪が溢れ出ていた。
そして、その強烈な思いを直接的に受けたレオニスはあまりの衝撃にショックを隠すことが出来なかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
コンコンコン ──────── 。
「私だ!ゼリック、入るぞ」
──────── ガチャッ。
謁見の時から数時間後、ザックスが息子の部屋を訪れるとそこにはゼリックと共に獣王国へとやってきた十二名の仲間たちがいた。
「誰だ?このジジイは」
「俺の父だ」
「ウッキッキッ。タイガードってばゼリックのお父さんに対して失礼過ぎるッキ」
「うるせーな!うん?ゼリックの父親ってことは、この国最強の戦士じゃねーのか?俺様と勝負してくれよ」
目の前にいるのがゼリックの父親だと聞き、獣王国最強の戦士と戦ってみたいという衝動を抑えることが出来ず、ザックスに対して手合わせを願い出るタイガード。
「すまんな、今はそれどころではないのだ。少し息子と二人で話したい。君たちは席を外してくれないか?」
「「「「「・・・・・」」」」」
「悪いがみんな席を外してくれ」
「ゼリック様!」
「心配するな。親子水入らずで話をするだけだ」
ガタッ、ガタッ、ガタッ、ガタッ ──────── 。
ゼリックの指示によって他の仲間たちは席を立ち部屋を後にする。
この一連の流れを見ただけでも彼が仲間たちから信頼を得ていることがよく分かる。
そして、深々と椅子に座るゼリックと向かい合う形で腰を下ろしたザックス。
誰もいなくなった部屋で二人が話す内容は、もちろん謁見の場での発言についてである。
「ゼリック、獣王様との謁見の場にて発した言葉は本気なのか?」
「父上、本気とはどういう意味でしょうか?」
「私は真剣に話しているんだ。ふざけてないで本心を言え」
質問に対して少しとぼけたような返答をする息子を真っ直ぐに見つめ、鋭い眼光を飛ばしながらザックスは語気を強める。
「ハッハッハッ。そんなに怒らないでください。別に俺はふざけてなどいませんよ。本心は先ほど獣王様にお伝えした通りです。自分たちの力にのぼせ上がったヒト族どもに現実を教えてやるんですよ。本当に強いのは誰なのか。己の愚かさをその身体と記憶に刻み込んでやる」
怒りの表情を滲ませるゼリック。
ヒト族に対する憎悪を隠すつもりもなく冷たく鋭い言葉を並べる。
そこに優しく穏やかだった頃の息子の面影はなく、父としてその成長を喜びつつも、どこか寂しさを覚えるザックスなのであった。
しかし、今はそんな感傷に浸っている時ではない。
「お前がやろうとしていることは、この数十年に及ぶ世界を壊すということなんだぞ!」
「ええ、理解していますよ」
「いや、何ひとつ理解していない!!それ以前の世界がどれほどの混沌に包まれ、どれだけの人々が犠牲となってきたか」
獣王レオニス、そして他の種族の代表者たちと共にいくつもの障害を乗り越えやっとの思いで辿り着いた世界。
その苦労を知る一人であるからこそ、息子とはいえその軽はずみな発言を許すことは出来なかった。
『和平協定を破る』ということは、この大陸に再び混沌が広がり、あちこちで争いが起き血が流れるということ。
「別に世界を巻き込んで戦争をしようってわけじゃない。ヒト族以外の種族を巻き込むつもりもない。ただ、獣人族を虐げているヒト族を根絶やしにして、それを見て見ぬふりして放置している王たちにも代償を支払わせてやるだけだ」
「大馬鹿者!!お前にそのつもりがなくとも相手が反撃してきたらどうする。和平協定を結んでいる種族が、ヒト族側に付くか、協定を破った獣人族側に付くか、その答えは明白であろう。お前はヒト族側に付いた種族に対してどう対処するつもりだ」
「相手が敵意を向けてくるならばこちらも黙っているわけにはいかない。それを選んだ時点でヒト族と同罪だ」
「それでは・・・種族大戦になるではないか」
「それが世界の選択であるならば致し方ない」
「考えは変わらないのか?話し合いで解決することは ──────── 」
「話し合い?自国で起きている自国民による愚行を知りながら放置するような奴らと何を話し合うんだ?実際に世界を見て回り、現状を把握した上での決断だ。変えるつもりはない」
ゼリックの意志は固い。
父と子、師匠と弟子、そんな関係だからこそ耳を傾けてくれるかと思っていたザックスは己の浅はかさを痛感する。
実際のところレオニスやザックスも一部のヒト族による蛮行が行われているという情報を得ていた。
そして、ガルディア王国の国王に向けて書簡を送ったり、直接王都メルサに出向き会談の場を儲けたこともあった。
その結果、いくつかの組織を壊滅させることは出来たのだが根本的な問題の解決には至らなかったのだ。
しかし、そういった事実を今のゼリックに話したとしてもただの言い訳にしか聞こえないだろう。
「フゥー・・・。お前の考えは理解した。だが、それを実行しようとするならば我々も黙って見過ごすわけにはいかぬぞ」
「でしょうね。それも承知の上です」
「馬鹿息子が・・・。私はもう行く。しかし、忘れるな!私たちもヒト族の王たちもその問題に対してただただ手をこまねいていたわけではない。そのことだけは知っておいてくれ」
最後にそう言うとザックスは席を立ち部屋を後にする。
ガタッ ───── スタッスタッスタッ。
ガチャッ ──────── 。
「父上、今日は話し合いの場を設けてくれてありがとう。話せて良かったよ」
「・・・大馬鹿者が」
──────── バタン。
「フゥーーー」
ガチャッ!!
「ゼリック様!如何でしたか?」
ザックスが立ち去った後、すぐに仲間たちが部屋へと雪崩れ込んできた。
よほど心配だったのか、誰よりも早くスネルが慌てた様子でゼリックに駆け寄る。
「ただの親子話さ。心配することなんてないよ」
「で、どうするんだ?まさか父親と話して気が変わったとか言わないだろうな」
「アハハハハ・・・。まさか ────── 」
笑顔から一変して冷たく殺意に満ちた表情を見せるゼリック。
その背筋も凍るような冷たい殺気を肌で感じ、その場にいた全員が改めてこの男の恐ろしさを実感する。
「俺は獣人族に生まれて本当に良かったと思っている。『力こそが正義』、『実力主義』、それこそがこの世界の真理だ。強き者が全てを奪い、弱き者は全てを奪われる。それがこの身に染み付いている」
「でも、獣王たちが黙ってないピョン」
「クワックワックワッ。まぁ~そうだろうよん」
「ガルルルル。邪魔するってんなら俺たちだって黙ってねぇーよ」
「全面~対決は~避けられ~ないの~」
ゼリックの意志に変わりがないことを確認した仲間たちは俄然士気を高める。
しかし、獣王に仕える者たちも当然強者揃い。
決して一筋縄ではいかないだろう。
それを見越して十二人の中で最もやる気のない男が口を開く。
「はぁ~。みんなしてやる気になってるところ悪いんだけどさ、獣王はもちろんのこと側近たちも相当強いよ。勝ち目なんてあるの?」
「「「「「・・・・・」」」」」
意気揚々と盛り上がりを見せる仲間たちに対して発せられたマウルスの言葉によって部屋の中が静寂に包まれる。
獣王レオニス、戦士長ザックス、近衛隊隊長パンサー、重装部隊隊長ライノス、空軍部隊隊長イグル、超音波を操る戦士バット、獣王国随一の瞬足を誇る戦士チタ、さらに新進気鋭の若き天才戦士ドラー、数え出したらキリがない強者たち、それに加えて獣王国ビステリアが誇る屈強な戦士たちが控えているのだ。
これら全てをたった十三名で相手にすることなど自殺行為である。
しかし、そんなことは最初から分かりきっていたこと。
すでに進むべき道は決まっている。
静寂が続く中で仲間たちの顔を見回したゼリックが静かに口を開く。
「俺たちしかいないんだ。今も苦しんでいる者たちを絶望の中から救い出せるのは。それを邪魔するというのならば、たとえ同族であろうとも容赦しない。そして、奪われた同胞たちの誇りを取り戻し、俺は世界の王となる!!」
玉座に座るレオニスは頭を抱えながら俯いていた。
その原因は、先ほどまで獣王と謁見していた際にゼリックが放ったひと言にある。
『力による支配』
力こそが正義であり、実力主義を掲げる獣王国にとってそれは至極当然のこと。
強き者が頂点に立ち、皆を導く。
それはこれまでの歴史が物語っている。
それ故にゼリックが言っていることは大きく間違っていないのだ。
そして、そんなことは獣王であるレオニスが誰よりも理解している。
だが、しかし ──────── 。
「獣王様、お気を確かに」
「ああ…すまんなザックス。少し動揺した」
「いえ、無理もありません。愚息が馬鹿なことを申し上げました。あとで私の方からキツく言っておきます」
「まさか、ゼリックがあのようなことを考えていたとはな」
ゼリックの口から出たヒト族との戦争宣言とも取れる発言。
そこにはヒト族から虐げられている同胞を救い出したいという思いと、そんな非道を行うヒト族に対しての憎悪が溢れ出ていた。
そして、その強烈な思いを直接的に受けたレオニスはあまりの衝撃にショックを隠すことが出来なかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
コンコンコン ──────── 。
「私だ!ゼリック、入るぞ」
──────── ガチャッ。
謁見の時から数時間後、ザックスが息子の部屋を訪れるとそこにはゼリックと共に獣王国へとやってきた十二名の仲間たちがいた。
「誰だ?このジジイは」
「俺の父だ」
「ウッキッキッ。タイガードってばゼリックのお父さんに対して失礼過ぎるッキ」
「うるせーな!うん?ゼリックの父親ってことは、この国最強の戦士じゃねーのか?俺様と勝負してくれよ」
目の前にいるのがゼリックの父親だと聞き、獣王国最強の戦士と戦ってみたいという衝動を抑えることが出来ず、ザックスに対して手合わせを願い出るタイガード。
「すまんな、今はそれどころではないのだ。少し息子と二人で話したい。君たちは席を外してくれないか?」
「「「「「・・・・・」」」」」
「悪いがみんな席を外してくれ」
「ゼリック様!」
「心配するな。親子水入らずで話をするだけだ」
ガタッ、ガタッ、ガタッ、ガタッ ──────── 。
ゼリックの指示によって他の仲間たちは席を立ち部屋を後にする。
この一連の流れを見ただけでも彼が仲間たちから信頼を得ていることがよく分かる。
そして、深々と椅子に座るゼリックと向かい合う形で腰を下ろしたザックス。
誰もいなくなった部屋で二人が話す内容は、もちろん謁見の場での発言についてである。
「ゼリック、獣王様との謁見の場にて発した言葉は本気なのか?」
「父上、本気とはどういう意味でしょうか?」
「私は真剣に話しているんだ。ふざけてないで本心を言え」
質問に対して少しとぼけたような返答をする息子を真っ直ぐに見つめ、鋭い眼光を飛ばしながらザックスは語気を強める。
「ハッハッハッ。そんなに怒らないでください。別に俺はふざけてなどいませんよ。本心は先ほど獣王様にお伝えした通りです。自分たちの力にのぼせ上がったヒト族どもに現実を教えてやるんですよ。本当に強いのは誰なのか。己の愚かさをその身体と記憶に刻み込んでやる」
怒りの表情を滲ませるゼリック。
ヒト族に対する憎悪を隠すつもりもなく冷たく鋭い言葉を並べる。
そこに優しく穏やかだった頃の息子の面影はなく、父としてその成長を喜びつつも、どこか寂しさを覚えるザックスなのであった。
しかし、今はそんな感傷に浸っている時ではない。
「お前がやろうとしていることは、この数十年に及ぶ世界を壊すということなんだぞ!」
「ええ、理解していますよ」
「いや、何ひとつ理解していない!!それ以前の世界がどれほどの混沌に包まれ、どれだけの人々が犠牲となってきたか」
獣王レオニス、そして他の種族の代表者たちと共にいくつもの障害を乗り越えやっとの思いで辿り着いた世界。
その苦労を知る一人であるからこそ、息子とはいえその軽はずみな発言を許すことは出来なかった。
『和平協定を破る』ということは、この大陸に再び混沌が広がり、あちこちで争いが起き血が流れるということ。
「別に世界を巻き込んで戦争をしようってわけじゃない。ヒト族以外の種族を巻き込むつもりもない。ただ、獣人族を虐げているヒト族を根絶やしにして、それを見て見ぬふりして放置している王たちにも代償を支払わせてやるだけだ」
「大馬鹿者!!お前にそのつもりがなくとも相手が反撃してきたらどうする。和平協定を結んでいる種族が、ヒト族側に付くか、協定を破った獣人族側に付くか、その答えは明白であろう。お前はヒト族側に付いた種族に対してどう対処するつもりだ」
「相手が敵意を向けてくるならばこちらも黙っているわけにはいかない。それを選んだ時点でヒト族と同罪だ」
「それでは・・・種族大戦になるではないか」
「それが世界の選択であるならば致し方ない」
「考えは変わらないのか?話し合いで解決することは ──────── 」
「話し合い?自国で起きている自国民による愚行を知りながら放置するような奴らと何を話し合うんだ?実際に世界を見て回り、現状を把握した上での決断だ。変えるつもりはない」
ゼリックの意志は固い。
父と子、師匠と弟子、そんな関係だからこそ耳を傾けてくれるかと思っていたザックスは己の浅はかさを痛感する。
実際のところレオニスやザックスも一部のヒト族による蛮行が行われているという情報を得ていた。
そして、ガルディア王国の国王に向けて書簡を送ったり、直接王都メルサに出向き会談の場を儲けたこともあった。
その結果、いくつかの組織を壊滅させることは出来たのだが根本的な問題の解決には至らなかったのだ。
しかし、そういった事実を今のゼリックに話したとしてもただの言い訳にしか聞こえないだろう。
「フゥー・・・。お前の考えは理解した。だが、それを実行しようとするならば我々も黙って見過ごすわけにはいかぬぞ」
「でしょうね。それも承知の上です」
「馬鹿息子が・・・。私はもう行く。しかし、忘れるな!私たちもヒト族の王たちもその問題に対してただただ手をこまねいていたわけではない。そのことだけは知っておいてくれ」
最後にそう言うとザックスは席を立ち部屋を後にする。
ガタッ ───── スタッスタッスタッ。
ガチャッ ──────── 。
「父上、今日は話し合いの場を設けてくれてありがとう。話せて良かったよ」
「・・・大馬鹿者が」
──────── バタン。
「フゥーーー」
ガチャッ!!
「ゼリック様!如何でしたか?」
ザックスが立ち去った後、すぐに仲間たちが部屋へと雪崩れ込んできた。
よほど心配だったのか、誰よりも早くスネルが慌てた様子でゼリックに駆け寄る。
「ただの親子話さ。心配することなんてないよ」
「で、どうするんだ?まさか父親と話して気が変わったとか言わないだろうな」
「アハハハハ・・・。まさか ────── 」
笑顔から一変して冷たく殺意に満ちた表情を見せるゼリック。
その背筋も凍るような冷たい殺気を肌で感じ、その場にいた全員が改めてこの男の恐ろしさを実感する。
「俺は獣人族に生まれて本当に良かったと思っている。『力こそが正義』、『実力主義』、それこそがこの世界の真理だ。強き者が全てを奪い、弱き者は全てを奪われる。それがこの身に染み付いている」
「でも、獣王たちが黙ってないピョン」
「クワックワックワッ。まぁ~そうだろうよん」
「ガルルルル。邪魔するってんなら俺たちだって黙ってねぇーよ」
「全面~対決は~避けられ~ないの~」
ゼリックの意志に変わりがないことを確認した仲間たちは俄然士気を高める。
しかし、獣王に仕える者たちも当然強者揃い。
決して一筋縄ではいかないだろう。
それを見越して十二人の中で最もやる気のない男が口を開く。
「はぁ~。みんなしてやる気になってるところ悪いんだけどさ、獣王はもちろんのこと側近たちも相当強いよ。勝ち目なんてあるの?」
「「「「「・・・・・」」」」」
意気揚々と盛り上がりを見せる仲間たちに対して発せられたマウルスの言葉によって部屋の中が静寂に包まれる。
獣王レオニス、戦士長ザックス、近衛隊隊長パンサー、重装部隊隊長ライノス、空軍部隊隊長イグル、超音波を操る戦士バット、獣王国随一の瞬足を誇る戦士チタ、さらに新進気鋭の若き天才戦士ドラー、数え出したらキリがない強者たち、それに加えて獣王国ビステリアが誇る屈強な戦士たちが控えているのだ。
これら全てをたった十三名で相手にすることなど自殺行為である。
しかし、そんなことは最初から分かりきっていたこと。
すでに進むべき道は決まっている。
静寂が続く中で仲間たちの顔を見回したゼリックが静かに口を開く。
「俺たちしかいないんだ。今も苦しんでいる者たちを絶望の中から救い出せるのは。それを邪魔するというのならば、たとえ同族であろうとも容赦しない。そして、奪われた同胞たちの誇りを取り戻し、俺は世界の王となる!!」
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