魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

文字の大きさ
168 / 200

魔王、沈黙。

しおりを挟む
ドゴーーーーーン ──────── 。

舞い上がる土埃の中へと姿を消したクロノ。
とてつもない衝撃と鈍い重低音だけを残し、崩れ落ちる瓦礫の下敷きとなったのだった。

ガラッ…ガラガラガラガラッ ──────── 。


「クロノーーーーーーー」


戦場に虚しく響き渡るスズネの声。
しかし、それに対する言葉が返ってくることはない。
隣に立つユニは言葉を失い、共に激闘を繰り広げていたアーサーでさえただ崩れ落ちた瓦礫の山を眺めることしか出来なかった。
そんな静寂だけが漂う闘技場の中で唯一あの男の笑い声だけが聞こえる。


「ガッハッハッハッハッ。ガーッハッハッハッ。何が歴代最強だ!ちょっとばかし強いからといっても所詮は魔法師。近接戦闘でこの俺に勝てるわけがねーだろうが!!」


勝利の咆哮か。
それとも喜びの喚声か。
はたまた怒りの絶叫か。

未だ姿を見せる気配のない魔王に対して向けられる獣王の叫び。
どれだけ挑発されようが、どれだけ悪態をぶつけられようが、瓦礫の山が動くことはない。


魔王、完全沈黙。


この状況にゼリックはこれまでにないほどにご満悦な表情を浮かべ、興奮冷めやらぬ状態のまま改めて次なる標的であるアーサーへと標準を合わせる。


「ガッハッハッ。あの程度の実力で王を名乗っていたとは・・・伝承に聞く魔族も底が知れるな。噂はあくまでも噂というわけだ。さて、次はお前の番だぞアーサー!」

「同じことを何度も言わせるな。魔王クロノが倒れたのは私にとってむしろ好都合。手間が省けただけの話だ。残る貴様の首を斬り落としてこの戦争を終わらせる」

「お前に今の俺を止めることが出来んのか?まぁ~いい。今回の戦争はあくまでも序章だ!お前らヒト族を傘下に入れた後、魔族領に攻め入るってのもいいな」

「傲慢なことを ───── 貴様を生かしておくことは世界のためにならない。後世に汚名を残す前に今ここで潔く散れ!!」


ザッザッザッザッ ──────── タンッ。

天高く跳躍したアーサー。
振り上げられた聖剣エクスカリバーの刀身に光の粒が集約していきキラキラと輝き始める。
そして、光のエネルギーを溜め込んだ剣から黄金の斬撃が放たれる。


「喰らえ! ───── 神聖なる斬撃セイクリッドスラッシュ


ズヴァン!!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ ──────── 。

迫りくる斬撃を前にしても慌てる素振りを見せないゼリック。
いくら獣化をしたとはいえ、あの威力の攻撃を受けて無事でいられるはずなどない。
それでも彼は不敵な笑みを浮かべて笑う。


「クックックックックッ。バカの一つ覚えだな。そう何度も同じ技を見せられて対策を考えないわけがねーだろ」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ ──────── 。


「ハァ~チカチカと眩しいんだよ。失せろ ───── 雷神の咆哮トールロアー


大きく開かれたゼリックの口から黒雷の砲撃が放たれる。
そして、勢いよく飛び出したそれは光の斬撃とぶつかり合うと激しい爆発音と共に対消滅したのだった。


「なっ!?」


今日放った中で最も威力の高い神聖なる斬撃セイクリッドスラッシュを相殺され、驚きのあまり唖然とした表情をみせたアーサーだったのだが、獣化したことによってさらに本能的となったゼリックの攻撃は終わらない。


「何をぼーっとしてんだよ」


その声を聞いた瞬間に背筋が凍るような感覚を覚え、一気に顔が青ざめる。

《想像よりも速い。そして、この距離はマズい。早く逃げないと ───── 》

巨大化したことなど全く関係がないといわんばかりに、これまでと同等かもしくはそれ以上のスピードでアーサーの背後へと回り込んだゼリック。
当然目の前の敵を逃すつもりなど毛頭ない。


「逃さねーよ! ───── 雷神の鉄槌トールハンマー


戦場において一瞬の油断や迷いというものは命取りとなる。
まさにそれを体現しているような光景。
大きく振り上げられた右の拳に剛雷を纏わせたゼリックは、呆気に取られ僅かに動き出しが遅れたアーサー目掛けてそれを容赦なく振り下ろす。

グウワァン ─────── 。

《ダメだ・・・間に合わない》


「クッ…。聖なる守護者セイクリッドシールド


ガンッ!!

間一髪のところで盾の生成が間に合ったのだが、当然のごとく圧倒的な体格差があり、誰がどう見てもゼリックの優位性は明らかであった。

ググッ…バヂバヂバヂッ。

グググググッ…バヂバヂバヂバヂバヂッ。


「クックックッ。いつまで保つかな」

「グッ…グヴゥゥゥゥゥ」

「もう諦めろ。耐えれば耐えるだけ地獄が続くだけだ。さっさと楽になれ」

「ふざ…ける…な…。今…この戦いに…全ガルディア国民の…未来が懸かっている…。貴様などに…好き勝手させるわけには…いかない!!」


ググッ…グググググッ。

少し、ほんの少しだが、ゼリックの腕が上がる。
少しずつではあるが確実に押し返し始めている。
その圧倒的な体格差を前にしても一切諦めることなく、懸命にそれを覆そうと力を振り絞る。
王国最強の聖騎士、全ての聖騎士たちの頂点に立つ聖騎士長、悪しき者より王国を守る守護者、その誇りと使命を胸にアーサーは強大な力に立ち向かう。


「生意気な!どこまでも俺を苛立たせる野郎だ。そっちがその気ならこっちも強烈なのを喰らわせてやるよ」


ゴロゴロゴロゴロ ──────── バヂバヂバヂバヂッ。

ゼリックの言葉に呼応するように再び雷雲が騒ぎ始める。
先ほどクロノの魔法障壁を打ち砕いた一撃に違いない ──── アーサーは直感的にそれを感じ取った。
今この状況でアレを撃ち込まれたら、いくら強力な防御魔法である聖なる守護者セイクリッドシールドであったとしてもただでは済まないだろう。
そんなことを考えながら身動き一つ取れない状況の中でアーサーは腹を括り、限界を超える。


「死ね!アーサーーーーー」


バヂンッ ───── バリバリバリバリバリッ!!!

必死に耐えるアーサーを押し潰さんとする拳に最大威力の黒雷が撃ち落とされる。
それによって勢いを増した拳が小さき者を押し潰すために襲い掛かる。

ググッ…グググググッ。

──────── パリーーーーーンッ。


聖なる守護者セイクリッドシールド


──────── パリーーーーーンッ。


聖なる守護者セイクリッドシールド
聖なる守護者セイクリッドシールド
聖なる守護者セイクリッドシールド
聖なる守護者セイクリッドシールド
聖なる守護者セイクリッドシールド


強烈な重圧を跳ね除けるために一つでも強力な盾を次々に重ね掛けしていくアーサー。
一つ割れ、また一つ割れ、何枚割られようともそれを上回るスピードで重ねていく。
しかし、当然無制限に大量生成できるわけではなく、その分だけ魔力と精神は削られていき、発動者本人への負荷も重くなっていく。


「ハァ…ハァ…ハァ…」

「随分と苦しそうだな。そろそろ潰れろーーーーー」


グググググググググッ ───────── 。


「ウオォォォォォォォォォォ」


ガキーーーーーンッ!!!!!

ゼリックの拳が大きく弾き飛ばされる。
そして、その勢いに引っ張られる形で巨大な身体も後方へ下げさせられてしまった。


「フゥー…フゥー…フゥー…」


驚きと怒りが入り混じった視線の先には、全身から大量の汗と共に白い蒸気を発したアーサーの姿が。

《いったい何が起きた?この体格差だぞ。俺が押し負けるはずがない。俺は雷獣、雷の化身、誰もが恐れる雷帝だぞ》

現実を受け止めることが出来ずに混乱するゼリック。
しかし、事実としてそれは起こったのだ。
小さな一人のヒト族が獣化して巨大になった獣王による渾身の一撃を見事に弾き返したのだ。


「す…凄い。まさかあの体格差で兄様の攻撃を弾き返すなんて」

「アーサー様、凄すぎます」


明らかに勝負を決めにいったゼリックの攻撃を、限界を超えて正面から打ち破ったアーサー。
この二人の壮絶な攻防を目の当たりにしたユニとスズネはただただ圧倒されていた。


「ハッ!?二人の戦いに見入ってしまっていましたが、クロノ様はご無事なのでしょうか」

「クロノ・・・」


二人の視線の先には未だ動かぬ瓦礫の山。
攻撃を受けた際に戦場に響いた骨の軋む音。
いくら強靭な魔族の身体であったとしても、あの巨大な獣王の一撃をまともに喰らえば骨折や内臓破裂などが起きていても不思議ではない。
そんな嫌な想像を脳裏に浮かべながらもクロノの無事を信じて願うスズネなのであった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

ウォーキング・オブ・ザ・ヒーロー!ウォークゲーマーの僕は今日もゲーム(スキル)の為に異世界を歩く

まったりー
ファンタジー
主人公はウォークゲームを楽しむ高校生、ある時学校の教室で異世界召喚され、クラス全員が異世界に行ってしまいます。 国王様が魔王を倒してくれと頼んできてステータスを確認しますが、主人公はウォーク人という良く分からない職業で、スキルもウォークスキルと記され国王は分からず、いらないと判定します、何が出来るのかと聞かれた主人公は、ポイントで交換できるアイテムを出そうとしますが、交換しようとしたのがパンだった為、またまた要らないと言われてしまい、今度は城からも追い出されます。 主人公は気にせず、ウォークスキルをゲームと同列だと考え異世界で旅をします。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。

佐久間 譲司
ファンタジー
突如として人類世界に侵略を始めた異世界人達。圧倒的な戦闘能力を誇り、人類を圧倒していく。 人類の命運が尽きようとしていた時、異世界側は、ある一つの提案を行う。それは、お互いの世界から代表五名を選出しての、決闘だった。彼らには、鉄の掟があり、雌雄を決するものは、決闘で決めるのだという。もしも、人類側が勝てば、降伏すると約束を行った。 すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。 『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。 勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。 異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。 やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...