魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ

文字の大きさ
180 / 200

撤退

しおりを挟む
「キャーーーーーッ」


!?!?!?!?!?!?

突如として山中に響き渡った悲鳴。
それは疑うべくもなく助けを求めるものであった。
そして、それを耳にしたスズネたちは迷うことなく走り出したのだった。

ザッザッザッザッザッ ──────── 。


「なんすか、なんすか、今の叫び声は」

「あの声の感じからしてピンチってことよね」

「とにかく急ごう」


ザッザッザッザッザッ ──────── 。


「み…見えました!どうやら単眼巨人サイクロプスに襲われているようです」

「ありがとうセスリー。それじゃ、ミリアとマクスウェル君は先行して!セスリーは後方から援護を、ラーニャちゃんはいつでも魔法を放てるように準備しておいて」

「「「「了解!!」」」」


スズネたちが悲鳴が聞こえた方角へ急いで駆けつけると、そこには五体の単眼巨人サイクロプスに囲まれた一組の冒険者パーティの姿があった。
遠目で見たところ四人一組のパーティのようだが、タンク役であると思われる大柄の男が頭から血を流して気を失っているようだ。
そして、その傍には彼の物であろう大盾が転がっていたのだが、その形状を見てスズネたちは驚愕する。
彼女たちがそうなってしまうのも当然。
大盾はちょうど真ん中辺りで大きく折れ曲がり、くの字にへしゃげてしまっていたのだ。
その光景だけでも単眼巨人サイクロプスがどれほどの力を有しているのかを思い知るには十分であった。


「グオォォォォォ ──────── 」


そして、スズネたちがその場に駆け付けたのは、まさに窮地の冒険者たち目掛けて一体の単眼巨人サイクロプスがトドメの一撃を放とうと拳を振り上げている時だった。


「ヤバいっすよ!?あんな分厚い大盾がへしゃげちゃってるっす」

「とんだ馬鹿力ね。まともにぶつかったらひとたまりもないわよ」

「一先ずあの人たちの救助を優先。セスリーとラーニャちゃんは単眼巨人サイクロプスを牽制して近づけさせないようにして」

「は…はい!頑張ります」


ギッ…ギギギッ ───── ヒュンッ。


「任せるのじゃ!あんな奴、わっちの魔法でぶっ飛ばしてやるのじゃ」


ゴゴゴゴゴッ…バキバキバキッ ───── 。


「喰らうのじゃ ───── 岩石砲ロックキャノン


ドシュンッ ──────── 。

セスリーの手から放たれた風を纏いし疾風の矢とラーニャによって放たれた巨大な岩石が冒険者たちに襲いかかろうとしていた単眼巨人サイクロプスに襲いかかる。

ブシュッ!!

ドゴーン!!


「ヴゥゥゥ ───── イダイ」


グラッ…グラッ… ───── ドシーーーン。


「やったっす」

「みんな急いで」


ザッザッザッザッザッ ─────── 。


「大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとう。助かったわ。」

「君たちも冒険者かい?」

「はい。皆さんと同じく今回のクエストでモンナケルタに来ました」

「そうかい。俺はこのパーティ“黒狼の牙”のリーダーをしているアレスだ。本当に助かったよ」

「私はパーティ“宿り木”でリーダーをしています、スズネです」

「二人とも気を抜かないでください!そんな悠長に話をしていられるほど余裕のある状況ではありませんよ」

「ごめん、マクスウェル君。みんな急いでここから ───── 」


同じ冒険者として同業者の危機を救うべく窮地へと飛び込んだ宿り木。
しかし、ここで彼女たちが予想だにしていなかった出来事が起こる。

ドシーン、ドシーン、ドシーン。

ドシーン、ドシーン、ドシーン。

ドシーン、ドシーン、ドシーン。

彼女たちの耳に届いた地響きの正体。
それは攻撃を受けた仲間の元へと集まってきた敵の別動隊であった。
その数 ──── なんと十五体。
冒険者たちの助けに入ったはずの宿り木であったが、気づいた時には四方にわたり周囲を囲まれていたのだった。


「あわわわわ…。囲まれちゃったっすよ」

「クソッ!コイツらいったいどこから湧いて出たのよ」


ドシーン、ドシーン、ドシーン。

そんな彼女たちの動揺など一切気にすることもなく、単眼巨人サイクロプスたちは慎重かつ大胆に距離を詰めてくる。


「あ…足止めします」


バシュンッ ─── バシュンッ ─── バシュンッ ─── 。


「わっちに任せるのじゃ ───── 火球ファイアボール


ヒューーーン ───── ドーーーン!!


「アタシたちもやるわよ!マクスウェル」

「言われなくても分かっていますよ」


ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── ヒュンッ ─── 。

ザシュッ ─── ザシュッ ─── ザシュッ ─── 。


向かってくる敵に対して、セスリーの弓撃、ラーニャの魔法攻撃、ミリアとマクスウェルの斬撃と、あらゆる方法で迎撃しようとする宿り木であったのだが、そんなことなどお構い無しとでも言いたげに彼らは前進することを止めない。
そして、とうとうスズネたちの目の前までやってきた単眼巨人サイクロプス
その内の一体が咆哮をあげながら大きな拳を振り下ろす。


「ヴオォォォォォ ──────── 」


グググッ…ブウォン ───── ドガンッ!!


「ウググググッ…。凄いパワーっす。でも…そう簡単にはやらせないっすよ」


単眼巨人サイクロプスの強烈な一撃をその身ひとつで受け止めたシャムロム。
しかし、いくら頑丈さが売りの彼女であってもその強大な力の前では問題なしとはいかなかった。

ググッ…グググッ…グググググッ…。


「ヤ…ヤバいっす…。手が痺れて力が入らないっす」


そして、その圧倒的な体躯の差に加え、遠心力と重力が合わさった剛力の拳を小さな身体で受け止めていたシャムロムに限界が訪れようとしていた。
その時、必死に仲間たちを守ろうとする彼女の頑張りを無駄にしまいと、ミリアとマクスウェルが打って出る。
自分たち目掛けて繰り出された長い腕を駆け上がるミリア。
そして頂上まで登りきると、くるりと身体を一回転させながら敵の頭部目掛けて炎の剣を振り下ろす。


「デカい図体で偉そうに見下してんじゃないわよ! ───── 火炎輪かえんりん


さらにミリアの攻撃に連動したマクスウェルが敵の足元へと潜り込み、その動きを封じるべくアキレス腱へと斬りかかる。


「目の前の事にばかり気を取られていてはいけませんよ!ミロク剣術 基之型 ~ 一文字 ~」


ガンッ!

ザシュッ!


「グウォォォォォ」


ミリアの一撃をなんとか腕でガードした単眼巨人サイクロプスであったが、死角から繰り出されたマクスウェルの一振りはアキレス腱を庇うことが精一杯で足の側面を深く斬り込まれる形となり、悲痛な叫びを上げたのだった。
しかし、それでも致命傷を与えたとは言い難い。
それどころか仲間を傷つけられたことにより、他の単眼巨人サイクロプスたちが怒り心頭でスズネたちに襲いかかってきたのだった。


「ゴロゼ!ゴロゼ!」

「ナガマガ、ヤラレダ。ゼッダイニ、ユルザナイ」

「ゴロゼ!ゴロゼ!」


ドシーン、ドシーン、ドシーン。

ドシーン、ドシーン、ドシーン。


「ヤバい、ヤバい、ヤバい」


まさに絶体絶命のピンチ。
二十体にも及ぶ単眼巨人サイクロプスが四方よりじわりじわりと距離を詰めてくる。
もはや逃げる場所などない。
その時、現状を分析したアレスが口を開く。


「スズネ、俺たちを助けにきてくれたこと、本当に感謝している。しかし、このままでは君たちまで巻き添えをくうことになる。それだけはなんとしてでも避けたい。だから、俺たちがコイツらの注意を引き付けておいている間に君たちだけでも逃げてくれ」


元はと言えば自分たちが招いた窮地。
そこにたまたま居合わせただけの若い冒険者たちを巻き込むわけにはいかない。
そう思っての言葉であろう。
そして、そのことは十分にスズネたちにも伝わっていた。
だがしかし、それを真に受け、自分たちだけが助かることを許容出来るような彼女たちではない。


「それは絶対にダメです!!」


アレスからの提案を即座に拒否するスズネ。
そして、それは彼女一人の意思ではなく宿り木としての総意であった。


「せっかく助けに来たのにアンタたちだけ残して逃げられるわけないでしょ」

「そうです。助けを求める者を見殺しにしていては騎士の名折れです」

「それはいいっすけど、とりあえずピンチな状況には変わりないっすよ」

「みんな聞いて!今の状況でこの数を相手にするのは無茶だと思う。だから、ここは一点突破で一気に山を駆け下りよう」

「オッケー。分かりやすくていいわ。殿はアタシとマクスウェルが受け持つから、とりあえずラーニャ、一発ド派手なのいっちゃって!」


現状の自分たちと相手の戦力差に加え、さらに負傷者を抱えての戦いは無謀だと判断したスズネからメンバーたちに指示が出され、それぞれが臨戦態勢を取りつつ撤退の準備を始める。
そして、作戦開始の合図となる一撃は彼女に託された。


「ワーッハッハッハッ。わっちに任せるのじゃ!あんなデカブツどもなど、わっちの魔法で吹き飛ばしてやるのじゃ」


任された大役。
いつにも増してやる気満々のラーニャ。
そして、その言葉通り彼女の強力な魔法によって退路は開かれる。

バリバリッ…バリバリバリッ。

ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ。

右手に雷。
左手に暴風。
自信に満ちた表情で笑みを浮かべるラーニャの両手にはそれぞれ異なる属性の魔法が。
そして彼女が両手を合わせた時、これまでとは異なる二属性の魔法が姿を現す。


「雷と風による混合魔法じゃ。とくと味わうがよい。雷宿る暴嵐よ、我が敵を穿て ───── 雷嵐サンダーストーム


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ ──────── 。

放たれた暴嵐は木々を薙ぎ倒し、迫り来る巨漢の魔獣さえも吹き飛ばす。
さらに、雷を宿したその攻撃は弾き飛ばした敵の身体を痺れさせ、その動きも止めたのだった。


「よし!今のうちに駆け抜けよう」

「アンタたちもさっさと行きなさい。追いかけてくる奴らはアタシたちで相手しといてあげるわ」

「クッ…すまない…」


窮地の中で生まれた光明。
それ目掛けて一斉に走り出したスズネたち。
もちろん単眼巨人サイクロプスたちもみすみす逃すようなことはせず、必死に逃げる獲物を懸命に追いかける。


「ニガズナ!」

「ゴロズ。ゼンブ、ゴロズ」

「ダメダ。オンナハ、ヅガマエロ。ヅガマエデ、オウノモドヘヅレデイグ」

「えっ!?」


ドシーン、ドシーン、ドシーン。

そこからはまさに必死の逃走劇であった。
殿を務めたミリアとマクスウェルの奮闘、セスリーの弓による援護、ラーニャの魔法攻撃、クロノの防御魔法によってなんとかモンナケルタからの脱出に成功。
そして、スズネたちは身体に溜まった疲れを振り払い、その足で報告も兼ねて冒険者ギルドへと向かったのであった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

ウォーキング・オブ・ザ・ヒーロー!ウォークゲーマーの僕は今日もゲーム(スキル)の為に異世界を歩く

まったりー
ファンタジー
主人公はウォークゲームを楽しむ高校生、ある時学校の教室で異世界召喚され、クラス全員が異世界に行ってしまいます。 国王様が魔王を倒してくれと頼んできてステータスを確認しますが、主人公はウォーク人という良く分からない職業で、スキルもウォークスキルと記され国王は分からず、いらないと判定します、何が出来るのかと聞かれた主人公は、ポイントで交換できるアイテムを出そうとしますが、交換しようとしたのがパンだった為、またまた要らないと言われてしまい、今度は城からも追い出されます。 主人公は気にせず、ウォークスキルをゲームと同列だと考え異世界で旅をします。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

現世に侵略してきた異世界人を撃退して、世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。

佐久間 譲司
ファンタジー
突如として人類世界に侵略を始めた異世界人達。圧倒的な戦闘能力を誇り、人類を圧倒していく。 人類の命運が尽きようとしていた時、異世界側は、ある一つの提案を行う。それは、お互いの世界から代表五名を選出しての、決闘だった。彼らには、鉄の掟があり、雌雄を決するものは、決闘で決めるのだという。もしも、人類側が勝てば、降伏すると約束を行った。 すでに追い詰められていた人類は、否応がなしに決闘を受け入れた。そして、決闘が始まり、人類は一方的に虐殺されていった。 『瀉血』の能力を持つ篠崎直斗は、変装を行い、その決闘場に乱入する。『瀉血』の力を使い、それまでとは逆に、異世界側を圧倒し、勝利をする。 勝利後、直斗は、正体が発覚することなく、その場を離れることに成功した。 異世界側は、公約通り、人類の軍門に下った。 やがて、人類を勝利に導いた直斗は、人類側、異世界側両方からその身を狙われるようになる。人類側からは、異世界の脅威に対する対抗策として、異世界側からは、復讐と力の秘密のために。

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...