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一章 第三節

座敷童子、洗濯たたむ

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「あのな、もう一度言うぞ。コイツは妖怪だ。この家に取り憑いてるだけで、別に好きで一緒に住んでる訳じゃない」

「い、一緒に住んでるッ!? 同棲……毎晩……一緒に……ハレンチ! 翔くんのスケベ!」

 何を言おうと、メリーは聞く耳を持たない。大体、自分のポジションをなんだと思っているのだろうか。さっきからの発言を聞いてる限り、完璧に彼女ヅラをしている。

 そんな風に悔しがるメリーを見て、座敷童子は更に追い込みをかける。

「まあ、翔也さんは私と一緒に住んでますし? 私の作ったご飯を食べて、私が洗濯した洋服を着て、私が掃除した部屋に帰ってくるんです。あ、それに必ず幸せにすることを誓った仲ですね」

「……翔くん、このちんちくりんのどこがいいの?」

「あ、また言いましたねっ!? 大体、そのギャルファッションなんです? 似合ってませんよ?」

「よーし、ちんちくりん。あんたはもう電話かけるのすっ飛ばして、そのまま闇に葬ってあげるから」

 また、二人してギャーギャー始まった。
 コイツらはここにかぐやがいることをすぐ忘れるのだろうか。

「かぐや、無駄口叩いたヤツから容赦なく仕留めていいぞ」

(承知しました。この世に存在したことを後悔する苦痛を浴びせ、祓います」

「……」 「……」

 一瞬で大人しくなった。従わせるためには、恐怖心を使うのが一番手っ取り早い。


◇◇◇

「なーんだっ、そういうことね! もうっ、私早とちりしちゃった!」

 静まった場を利用し、座敷童子が取り憑いてから現在までの流れを一通り説明した。
 なぜメリーに言い訳がましくこんな説明をしているのか釈然としない部分はあったが、とりあえず納得はしたようだ。

「まあ、そういうことだ。よし、帰れ」

「いやいや、翔くん。私、さっき来たばっかよ?」

「そうだな。帰れ」

「またまたー、翔くんって本当にツンデレさんなんだから!」

「帰れ」

 マジトーンに、流石にポジティブ返しが出なくなったようだ。メリーは瞳をウルウルと滲ませながら、俯いている。
 しかし、急に何かのスイッチが入ったかのようにいつもの如く喚き出した。

「……いやだっ! 私、絶対に帰らない! せっかく可愛いネイルとゆるふわパーマかけたり、原宿でクレープ食べたり、猫カフェ入り浸ったりしてギャル力磨いてきたのに! ひどいよっ!」

「遊んでただけじゃねえか」

 恨めしそうな顔を俺に向けている。なんか、俺が悪いみたいな空気出してくるあたりがとにかく面倒臭い。
 これは何を言っても無駄だろうと、俺はかぐやに視線をやる。

(かしこまりました。今すぐに惨たらしくーー)

「ちょ、ちょっと待ってよ! あ、そうだ! 私さ、面白い話題持ってるの! 翔くんにとっても割と有益な情報だと思うんだけどなー?」

 ドヤ顔がムカつく。
 ……しかし、やけに自信満々だ。


 人間社会に紛れ込んでいる妖怪というのは、実は多い。人型の妖怪であれば、姿・形は普通に人間だ。人に化けている妖怪もいる為、妖気を感じとれない一般人であればまず人外であることは気づけない。

 そして、そんな人の世に紛れた妖怪だからこそ気づけることがある。同族の気配。つまり、怪異だ。

 一つ断っておくが、俺も陰陽師だ。
 悪意のない妖怪に対しては、世のルールを守らせ、人との共存に支障がないように更生させる。

 ただし、人に悪行をもたらす怪異に対しては勿論対処をする。易々と被害者を出すつもりはない。
 そのために、情報というものは限りなく大切になってくる。


「わかった。一応、話しは聞いてやる」

「ふっふっふ、翔くんがそこまで言うなら教えてあげよう! ほら、ちんちくりん。お茶出して」

「私、洗濯物たたんでますね」

 座敷童子は完璧にスルーし、日々の業務に戻る。さすがにこれ以上の喧嘩は危ういと踏んだようだ。

「ちっ。まあ、いーや。この前さ、ちょっと翔くんに会いたくなっちゃって、大学まで足を運んだ訳よ」

「いや、来んなよ。何してんだ、お前」

 普通に迷惑な話しだ。そもそも、何故俺の大学を知っているのか。これだから特殊能力を持つ妖怪はタチが悪い。

「でもさ、翔くんの気配を感じなくて。仕方ないからそのままキャンパス内をお散歩してたのよね」
 
 渚の緊縛の術式で動けず、泣く泣く休んだ日だろう。ある意味、不幸中の幸いだったな。
 しかし、他の学生達も、堂々とキャンパス内を歩き回っているギャルがまさかメリーさんだとは思わなかろう。

「それでね、散策中に……なんていうか、おかしい娘がいてさ」

「妖怪か?」

「いやねー。私も上手く言えないんだけど。なんか……変なんだよ。人なんだけど、人じゃないっていうか」
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