21 / 78
第二部
@21 中華人民共和国
しおりを挟む
人民航空3007便への搭乗から約四時間後、僕たちは北京の地に足を立てた。僕は空港に大きく掲示されていた広告に注目した。中国共産党の宣伝のようだった。下には英訳もあり、僕は簡単にその意味を摑めた。
“新しい共産党なくして新しい中国はない”
観光客のように広い空港を見て回る暇もなく、僕たちは高速列車に乗り今は宿泊先に向かっている。
ようやく酒の抜けかけた僕の頭には拭い去れない疑問があった。彼女の言うところによると彼女は親から忌まれている。しかし僕のもとに届いたビデオ通話ではとてつもなく彼女に関心があるように見えた。これは矛盾と言っても良いだろう、嫌いな相手にわざわざ深い関心を抱くのは不可解だ。
僕はため息をつき、隣で車窓に頭を預け寝息を立てるユヅハを見た。陽が彼女の髪に当たり、赤い髪の毛は輝いて燃えているようにも見えた。彼女の無防備な寝顔は暗い過去を抱え込んでいるようには到底見えない。
僕はこれ以上彼女の親について考えることをやめた。一人でぐつぐつと考え詰めても結果は出ないだろう。
明るい窓の外を眺める。遠くに見える整然とした町並みや高層建築は東京のものと形は違えど全く劣らない気がした。首都近郊だからというのもあるだろうが、ニュースで見るのは物騒な話ばかりだったから整然とした都市風景を見て僕はすこし安心した。
街中のところどころに高い柱が立っていた。柱には監視カメラが鳥の巣のようについている。きっと環華人民銀行の所有だ。
「移動が多いと疲れてしまうよ」
「それに海外だもんね、色々慣れないんじゃないかな」
ユヅハが眠った今、僕の話し相手は雪だった。白い髪と肌と服、そして赤い瞳を持つ幽霊の少年。彼は座席の上をふわふわと浮きながら僕の話に耳を傾けてくれた。
「それに腹も空いた。ホテルに着いたらすこし街を探索してみよう」
酒で腹の膨れた僕たちは機内食を食べなかったのだ。
「中国語は話せるの?」
「端末に翻訳機能を入れておいたんだ。飯を買う程度なら不便しないだろうさ」
僕はグラスを指で押し上げた。
ユヅハが疲れているならば夕飯に同行させるのも申し訳ない、そう思った僕は一人で街に出てみようと思ったのだ。駅に着き、僕はユヅハの肩を揺すって起こした。ユヅハは駅前でタクシーを呼んだ。
疲れた。ユヅハは座席に着くなりそう言った。僕は日本のとは少し違う車内に戸惑いながらも言われた通りに宿泊場所の座標を入力した。英語も対応してくれているのはありがたかった。
「朝も早かったしね。ホテルに着いたらゆっくり休もう」
本当は酒を飲みすぎたのもあるんじゃないかと僕は思ったが、わざわざ言うことはしなかった。
街の中心部から外れ、夕方前に僕たちはそこそこ大きなホテルに着いた。チェックインを済まし僕たちはそれぞれの部屋に別れた。部屋は広く清潔だった。ユヅハのことだからきっとかなり良いホテルなのだろう。
僕は多機能端末に通知が来ていることに気づいた。フィネコン社からの自動送信だ。
[仁山 コズさんの位置は北京市です。北京市はフィネコン社の対応範囲外ですので、個人信用度数の更新と安全保障サービスは対応範囲内に戻るまで停止されます。対応範囲外への移動は推奨されていません。速やかな帰還を推奨します]
僕は自分に確認するように頷いた。中国ではフィネコン社ではなく環華人民銀行が最大の個人証明企業だ。フィネコン社の対応範囲を出たということは安全保障サービスも停止されるということだ。犯罪被害に遭った際の自動通報や、健康保険などが全て停止されるというのはすこし心細かった。何かあった際には自分で現地の警察組織や医療機関に頼らなくてはならない。今から渡航保険を購入するのも遅すぎる、僕にできるのは何も起こらないよう祈るだけだった。
「ユヅハはお疲れだ。僕たちだけで外に出てみよう」
僕は上着を脱いだ。日本からずっと冷房の効いた快適な飛行機や列車に乗ってすっかり忘れていたが、今はしっかりとした夏だ。
ホテルを出てすぐに何軒かレストランを見つけた。ホテルの近くだから言葉や決済に困ることもまずなさそうだが、僕はもう少し歩いてみることにした。
「すごいな、全て漢字だ」
僕は周りを見渡した。当たり前だが看板などは全て中国語で書かれている。漢字といっても日本の漢字と違って省略された字体を使っている。
「ねぇねぇお兄ちゃん、どこまで行くの?」
「そうだな、地図があるから迷うことはないだろうが…あまり遠くに行くのは得策じゃなさそうだ。目的は観光じゃないしね」
僕はGDAIグラスを付けていた。こうすればすぐに翻訳機能を動かせるし、何より通話しているフリができる。耳に指を当てていれば僕にしか見えない幽霊と話していたって誰も気にかけない。
「周り全員が自分と違う言語を話しているというのは落ち着かないものだな」
「違う世界に来ちゃったみたいだね」
英語なら自信はあったが、中国語はさっぱりだった。僕は雪と共に道の端っこを歩いた。せっかくだから写真でも撮っておこう、そう思った僕は多機能端末を取り出して適当に写真を撮った。建物はほとんど日本と違わなかったが、個人向けに最適化されていない広告は新鮮だった。グラスを付けないと表示されないフィネコン社系の広告媒体と違って、ここでは広告そのものが街中のスクリーンに表示されていた。最適化をしないで需要を確保できるのだろうか、僕はそう疑問を抱きながらも写真を撮った。
「○、○○○○○○○○?」
背後から中国語が聞こえ、僕は振り向いた。僕に向けられた言葉のように感じられたからだ。それは合っていたが、声の主は警官だった。警官の持っているゴテゴテとした自動小銃を見て僕は背筋が凍った。
「何か撮っちゃまずいものでも撮っちゃったんじゃない?」
雪は言う。
「やあ、朝鮮人?」
僕が翻訳機能を有効にする前に警官は英語に切り替えた。統一朝鮮からの訪中者と間違われているようだった。
「いえ、日本から来ました」
「へえ、珍しいね。観光で?」
警官は顔の上半分が隠れるような黒いバイザーつきのヘルメットを被っており、表情が読み取れなかった。これは怪しまれているのだろうか?
「友人の付き添いで」
「やけにキョロキョロしているからひと目で外国人だとわかったよ。何か尋ねたいことがあるなら助けるよ」
僕は安心した。この警官は善意で僕に声をかけてくれたのだ。
「ありがとう、ではこの近くでおすすめの食事処はありますか?」
警官は自信ありげに微笑み、僕の端末に座標を共有してくれた。中華料理店だそうだ。
「じゃあまたね、日本人。中国を楽しんで」
警官はそう言ってパトカーに乗って去っていった。英語圏では中華人民共和国とFRCを区別するために”China”のみの呼称は避けられている。もし使われる場合は日本語の”中国”と同じように中華人民共和国を指すことが多い。しかし"中国語"や"Mandarin Chinese"などといった語彙はちょうどよい言い換えが見つからないのか、未だに使われていた。
警察が中華人民共和国(People’s Republic of China)という語彙をわざわざ使わなかったのは唯一の中国という共産党の主張に対する自信に感じられた。
「けっこう優しかったね」
僕は雪の言葉に同意した。もらった座標をたどると地下にある小さな中華料理店にたどり着いた。目立たない立地にも関わらず、店内はそこそこ繁盛していた。
「入ってみよう」
席に着き、僕は据え付けのタブレットを眺めた。炒飯と水餃子を頼むことにした。運ばれてきた商品はメニュー写真よりもかなり量があった。それは予想外だったが見た目と香りは悪くない。
「なかなか美味しいなこれは」
警官に聞いて大正解だった。知る人ぞ知る名店というやつだろう。
「中華料理は味付けにとてつもない情熱を感じるよ」 「日本料理とは違う?」
僕はあくまで通話しているふりを保ちながら雪と話す。
「そう、肥沃じゃない土地で生まれた料理が多いらしいんだ。だからどうにかして食べられるものにするという意味で味付けが育ったんだろうね。日本のように食べ物が豊富じゃなかったのさ」
学校の地理科の先生の雑談の受け売りだ。
「それもずっとずっと昔の話さ。今は世界どこでも同じ料理を食べられる」
「世界は小さくなったね」
「ああ、本当に」
僕は店で一番大きいスクリーンを眺めた。主に広告を流しているらしく、企業のロゴが映っており、女性の声で何かが話されていた。僕はグラスの翻訳機能を有効にしてみた。起動して数単語はAIが文脈を拾いきれてないらしく支離滅裂なものが再生された。
「───を重視、です。ありがとう視聴を。…さて、次は我々環華人民銀行の人気サービスを紹介しましょう。まずはお子様がいる家庭におすすめのサービス、安心育児プランB35です。我が社の緻密な追跡網で子供の移動情報を常に保護者の皆様に提供します。これで子供を犯罪や悪友から守ることができます。このサービスは育児健康プランC21との併用で32.6%の割引を適用することが───」
「へぇ~中国ではこうゆうサービスが人気なんだ」
僕は雪の声を聞くために翻訳の再生を切った。
「フィネコン社にも似たようなサービスがあった気がするな」
僕は炒飯を食べながら独り言のように雪に話す。今日は薀蓄を垂れたい気分だった。ユヅハの前ではこうはいかない。彼女は僕より博識だから。
「───公平審査っていうのがあるんだ。個人証明企業の間でやるんだけどね、契約者間の公平性担保のための仕組みなんだ」
個人証明は人々の生活の基盤となっている。万が一そこに不正があれば問題は大きい。そこで審査所と呼ばれる施設を他の個人証明企業の管理下に置くのだ。審査所は自社の本社とデータリンクで繋がれている。基本的に審査所の活動に管理側の企業が触れることはないが、万が一があった場合はデータリンクを通じて本社の記録を検証するといった仕組みだ。
この公平審査を図で表すとすると三角形になるだろう。公平審査には三つの企業が必要なのだ。フィネコン社はフォーディール社の審査所を管理し、フォーディール社は環華人民銀行の審査所を管理し、環華人民銀行はフィネコン社の審査所を管理している───。僕はよく使われる三権分立の例えを使ってこれを雪に説明した。初めてこれを聞いた時、よくできた仕組みだと僕は思った。
「それってどこにあるの?」
「もちろん場所は極秘だ。フィネコン社の審査所は中華人民共和国のどこかにあるって話だけどね。僕が知る機会は一生来ないだろうさ」
“新しい共産党なくして新しい中国はない”
観光客のように広い空港を見て回る暇もなく、僕たちは高速列車に乗り今は宿泊先に向かっている。
ようやく酒の抜けかけた僕の頭には拭い去れない疑問があった。彼女の言うところによると彼女は親から忌まれている。しかし僕のもとに届いたビデオ通話ではとてつもなく彼女に関心があるように見えた。これは矛盾と言っても良いだろう、嫌いな相手にわざわざ深い関心を抱くのは不可解だ。
僕はため息をつき、隣で車窓に頭を預け寝息を立てるユヅハを見た。陽が彼女の髪に当たり、赤い髪の毛は輝いて燃えているようにも見えた。彼女の無防備な寝顔は暗い過去を抱え込んでいるようには到底見えない。
僕はこれ以上彼女の親について考えることをやめた。一人でぐつぐつと考え詰めても結果は出ないだろう。
明るい窓の外を眺める。遠くに見える整然とした町並みや高層建築は東京のものと形は違えど全く劣らない気がした。首都近郊だからというのもあるだろうが、ニュースで見るのは物騒な話ばかりだったから整然とした都市風景を見て僕はすこし安心した。
街中のところどころに高い柱が立っていた。柱には監視カメラが鳥の巣のようについている。きっと環華人民銀行の所有だ。
「移動が多いと疲れてしまうよ」
「それに海外だもんね、色々慣れないんじゃないかな」
ユヅハが眠った今、僕の話し相手は雪だった。白い髪と肌と服、そして赤い瞳を持つ幽霊の少年。彼は座席の上をふわふわと浮きながら僕の話に耳を傾けてくれた。
「それに腹も空いた。ホテルに着いたらすこし街を探索してみよう」
酒で腹の膨れた僕たちは機内食を食べなかったのだ。
「中国語は話せるの?」
「端末に翻訳機能を入れておいたんだ。飯を買う程度なら不便しないだろうさ」
僕はグラスを指で押し上げた。
ユヅハが疲れているならば夕飯に同行させるのも申し訳ない、そう思った僕は一人で街に出てみようと思ったのだ。駅に着き、僕はユヅハの肩を揺すって起こした。ユヅハは駅前でタクシーを呼んだ。
疲れた。ユヅハは座席に着くなりそう言った。僕は日本のとは少し違う車内に戸惑いながらも言われた通りに宿泊場所の座標を入力した。英語も対応してくれているのはありがたかった。
「朝も早かったしね。ホテルに着いたらゆっくり休もう」
本当は酒を飲みすぎたのもあるんじゃないかと僕は思ったが、わざわざ言うことはしなかった。
街の中心部から外れ、夕方前に僕たちはそこそこ大きなホテルに着いた。チェックインを済まし僕たちはそれぞれの部屋に別れた。部屋は広く清潔だった。ユヅハのことだからきっとかなり良いホテルなのだろう。
僕は多機能端末に通知が来ていることに気づいた。フィネコン社からの自動送信だ。
[仁山 コズさんの位置は北京市です。北京市はフィネコン社の対応範囲外ですので、個人信用度数の更新と安全保障サービスは対応範囲内に戻るまで停止されます。対応範囲外への移動は推奨されていません。速やかな帰還を推奨します]
僕は自分に確認するように頷いた。中国ではフィネコン社ではなく環華人民銀行が最大の個人証明企業だ。フィネコン社の対応範囲を出たということは安全保障サービスも停止されるということだ。犯罪被害に遭った際の自動通報や、健康保険などが全て停止されるというのはすこし心細かった。何かあった際には自分で現地の警察組織や医療機関に頼らなくてはならない。今から渡航保険を購入するのも遅すぎる、僕にできるのは何も起こらないよう祈るだけだった。
「ユヅハはお疲れだ。僕たちだけで外に出てみよう」
僕は上着を脱いだ。日本からずっと冷房の効いた快適な飛行機や列車に乗ってすっかり忘れていたが、今はしっかりとした夏だ。
ホテルを出てすぐに何軒かレストランを見つけた。ホテルの近くだから言葉や決済に困ることもまずなさそうだが、僕はもう少し歩いてみることにした。
「すごいな、全て漢字だ」
僕は周りを見渡した。当たり前だが看板などは全て中国語で書かれている。漢字といっても日本の漢字と違って省略された字体を使っている。
「ねぇねぇお兄ちゃん、どこまで行くの?」
「そうだな、地図があるから迷うことはないだろうが…あまり遠くに行くのは得策じゃなさそうだ。目的は観光じゃないしね」
僕はGDAIグラスを付けていた。こうすればすぐに翻訳機能を動かせるし、何より通話しているフリができる。耳に指を当てていれば僕にしか見えない幽霊と話していたって誰も気にかけない。
「周り全員が自分と違う言語を話しているというのは落ち着かないものだな」
「違う世界に来ちゃったみたいだね」
英語なら自信はあったが、中国語はさっぱりだった。僕は雪と共に道の端っこを歩いた。せっかくだから写真でも撮っておこう、そう思った僕は多機能端末を取り出して適当に写真を撮った。建物はほとんど日本と違わなかったが、個人向けに最適化されていない広告は新鮮だった。グラスを付けないと表示されないフィネコン社系の広告媒体と違って、ここでは広告そのものが街中のスクリーンに表示されていた。最適化をしないで需要を確保できるのだろうか、僕はそう疑問を抱きながらも写真を撮った。
「○、○○○○○○○○?」
背後から中国語が聞こえ、僕は振り向いた。僕に向けられた言葉のように感じられたからだ。それは合っていたが、声の主は警官だった。警官の持っているゴテゴテとした自動小銃を見て僕は背筋が凍った。
「何か撮っちゃまずいものでも撮っちゃったんじゃない?」
雪は言う。
「やあ、朝鮮人?」
僕が翻訳機能を有効にする前に警官は英語に切り替えた。統一朝鮮からの訪中者と間違われているようだった。
「いえ、日本から来ました」
「へえ、珍しいね。観光で?」
警官は顔の上半分が隠れるような黒いバイザーつきのヘルメットを被っており、表情が読み取れなかった。これは怪しまれているのだろうか?
「友人の付き添いで」
「やけにキョロキョロしているからひと目で外国人だとわかったよ。何か尋ねたいことがあるなら助けるよ」
僕は安心した。この警官は善意で僕に声をかけてくれたのだ。
「ありがとう、ではこの近くでおすすめの食事処はありますか?」
警官は自信ありげに微笑み、僕の端末に座標を共有してくれた。中華料理店だそうだ。
「じゃあまたね、日本人。中国を楽しんで」
警官はそう言ってパトカーに乗って去っていった。英語圏では中華人民共和国とFRCを区別するために”China”のみの呼称は避けられている。もし使われる場合は日本語の”中国”と同じように中華人民共和国を指すことが多い。しかし"中国語"や"Mandarin Chinese"などといった語彙はちょうどよい言い換えが見つからないのか、未だに使われていた。
警察が中華人民共和国(People’s Republic of China)という語彙をわざわざ使わなかったのは唯一の中国という共産党の主張に対する自信に感じられた。
「けっこう優しかったね」
僕は雪の言葉に同意した。もらった座標をたどると地下にある小さな中華料理店にたどり着いた。目立たない立地にも関わらず、店内はそこそこ繁盛していた。
「入ってみよう」
席に着き、僕は据え付けのタブレットを眺めた。炒飯と水餃子を頼むことにした。運ばれてきた商品はメニュー写真よりもかなり量があった。それは予想外だったが見た目と香りは悪くない。
「なかなか美味しいなこれは」
警官に聞いて大正解だった。知る人ぞ知る名店というやつだろう。
「中華料理は味付けにとてつもない情熱を感じるよ」 「日本料理とは違う?」
僕はあくまで通話しているふりを保ちながら雪と話す。
「そう、肥沃じゃない土地で生まれた料理が多いらしいんだ。だからどうにかして食べられるものにするという意味で味付けが育ったんだろうね。日本のように食べ物が豊富じゃなかったのさ」
学校の地理科の先生の雑談の受け売りだ。
「それもずっとずっと昔の話さ。今は世界どこでも同じ料理を食べられる」
「世界は小さくなったね」
「ああ、本当に」
僕は店で一番大きいスクリーンを眺めた。主に広告を流しているらしく、企業のロゴが映っており、女性の声で何かが話されていた。僕はグラスの翻訳機能を有効にしてみた。起動して数単語はAIが文脈を拾いきれてないらしく支離滅裂なものが再生された。
「───を重視、です。ありがとう視聴を。…さて、次は我々環華人民銀行の人気サービスを紹介しましょう。まずはお子様がいる家庭におすすめのサービス、安心育児プランB35です。我が社の緻密な追跡網で子供の移動情報を常に保護者の皆様に提供します。これで子供を犯罪や悪友から守ることができます。このサービスは育児健康プランC21との併用で32.6%の割引を適用することが───」
「へぇ~中国ではこうゆうサービスが人気なんだ」
僕は雪の声を聞くために翻訳の再生を切った。
「フィネコン社にも似たようなサービスがあった気がするな」
僕は炒飯を食べながら独り言のように雪に話す。今日は薀蓄を垂れたい気分だった。ユヅハの前ではこうはいかない。彼女は僕より博識だから。
「───公平審査っていうのがあるんだ。個人証明企業の間でやるんだけどね、契約者間の公平性担保のための仕組みなんだ」
個人証明は人々の生活の基盤となっている。万が一そこに不正があれば問題は大きい。そこで審査所と呼ばれる施設を他の個人証明企業の管理下に置くのだ。審査所は自社の本社とデータリンクで繋がれている。基本的に審査所の活動に管理側の企業が触れることはないが、万が一があった場合はデータリンクを通じて本社の記録を検証するといった仕組みだ。
この公平審査を図で表すとすると三角形になるだろう。公平審査には三つの企業が必要なのだ。フィネコン社はフォーディール社の審査所を管理し、フォーディール社は環華人民銀行の審査所を管理し、環華人民銀行はフィネコン社の審査所を管理している───。僕はよく使われる三権分立の例えを使ってこれを雪に説明した。初めてこれを聞いた時、よくできた仕組みだと僕は思った。
「それってどこにあるの?」
「もちろん場所は極秘だ。フィネコン社の審査所は中華人民共和国のどこかにあるって話だけどね。僕が知る機会は一生来ないだろうさ」
0
あなたにおすすめの小説
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる