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Second Chapter
騏驎も老いては
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古傷が痛んで目が覚めたバズムは、寝起きの不機嫌をやっつけるために朝飯と一緒に酒を飲もうとしたが、今日は帝国城に行かねばならぬ事を思い出して、止めたのだった。
「……年老いたものじゃな」
昔だったら平然と酔ったまま顔を出したのに。
もう、彼は無体も無茶も出来なくなりつつある。
「バズム様?」
セージュがパクパクと美味しそうに並べられた食事を片っ端から頬張っていたが、すぐにキョトンとした顔でバズムを見つめた。老人が目の前のご馳走を、何も食べようとしなかったのだ。
「ああ、何、少し二日酔いでのー」
「あの、ええと。お体、大事にして下さいね」
「子供に心配される程、ワシは耄碌はしておらん!」
安堵したらしく、セージュは笑った。
「それなら、良かったです!」
「おい、人の心配なぞする前に、セージュよ、しっかり食うのだぞ」
「はい!あの、美味しいご馳走、ありがとうございます」
「うむ、うむ」
「いやー美味いですねー!将軍閣下のお抱えの料理人は本当に腕が良い!」
ハルハも、そのしなやかな体の何処に詰め込んでいるのか――並べられたご馳走の皿をほとんど空にしている上に、給仕に飲み物のお代わりまで頼んでいる。
「えと、ご馳走様、でした!」
「む?」
セージュが一つだけ手を付けずに残した料理があったので、バズムは訊ねた。
「焼いた鶏肉は嫌いなのか?」
「あ、いえ!ブン兄が、大好きなんです、半分こしたくて……」
「何じゃ、それなら後で作らせてやるから、今はしっかり食え」
「わあ!ありがとうございます」
笑顔でセージュは食べようとして、突如、食器を置いた。
「その……ごめんなさい」
ハルハがどうにも困った顔をする。
「ですからー、アナタが謝る必要なんて何処にも無いと申し上げたはずですー」
「違うんです、少し思い出したんです……」
この子の様子がおかしいので、バズムもハルハも顔を引き締めた。
「凄く…………凄く、暗い地下室、です。外に出たかった、痛いのは嫌だった……こんなにお腹いっぱい、美味しいものを、食べた事なんて、一度も無くて!」
恐怖を吐き出すように言葉にしながら、頭を抱えて、セージュは震えだした。
「深呼吸出来ますかー。スー、ハー、スー、ハー、ですよー」
ハルハは駆け寄って体を丸めて震えるセージュを抱き起こす。
「違う、そうだ、そうだ、あいつら、『トドラー』の事を知ってた、でもどうして?違う、そうだ、精霊獣の魔力を使うって。嫌だ、叩かないで!痛いのは嫌!」
「心の傷か。……これが兵士だったら殴っとるわい」
ぶっきらぼうに言うバズムに向けて、糸目のハルハは少し目を細めたものの、気付かれはしなかった。
「将軍閣下も本当に素直じゃないですねー、この子は兵士じゃないから絶対に殴らないんでしょうー?そんな体たらくだからギルガンドといつも喧嘩になるんですよー、アレって物凄くはた迷惑なんですけれどー」
「喧しいわ!あの程度の挑発に乗る青二才が悪いんじゃ!」
「はいはいー。そう言う事にしておきますー。じゃ、この子を休ませてきますねー」
ハルハはセージュを抱きかかえて去って行く、その背に向けてバズムは小声で呟いた。
「老いた犬の楽しみなぞ、生意気な若造をからかう事くらいなもんじゃろうがよ……」
「……年老いたものじゃな」
昔だったら平然と酔ったまま顔を出したのに。
もう、彼は無体も無茶も出来なくなりつつある。
「バズム様?」
セージュがパクパクと美味しそうに並べられた食事を片っ端から頬張っていたが、すぐにキョトンとした顔でバズムを見つめた。老人が目の前のご馳走を、何も食べようとしなかったのだ。
「ああ、何、少し二日酔いでのー」
「あの、ええと。お体、大事にして下さいね」
「子供に心配される程、ワシは耄碌はしておらん!」
安堵したらしく、セージュは笑った。
「それなら、良かったです!」
「おい、人の心配なぞする前に、セージュよ、しっかり食うのだぞ」
「はい!あの、美味しいご馳走、ありがとうございます」
「うむ、うむ」
「いやー美味いですねー!将軍閣下のお抱えの料理人は本当に腕が良い!」
ハルハも、そのしなやかな体の何処に詰め込んでいるのか――並べられたご馳走の皿をほとんど空にしている上に、給仕に飲み物のお代わりまで頼んでいる。
「えと、ご馳走様、でした!」
「む?」
セージュが一つだけ手を付けずに残した料理があったので、バズムは訊ねた。
「焼いた鶏肉は嫌いなのか?」
「あ、いえ!ブン兄が、大好きなんです、半分こしたくて……」
「何じゃ、それなら後で作らせてやるから、今はしっかり食え」
「わあ!ありがとうございます」
笑顔でセージュは食べようとして、突如、食器を置いた。
「その……ごめんなさい」
ハルハがどうにも困った顔をする。
「ですからー、アナタが謝る必要なんて何処にも無いと申し上げたはずですー」
「違うんです、少し思い出したんです……」
この子の様子がおかしいので、バズムもハルハも顔を引き締めた。
「凄く…………凄く、暗い地下室、です。外に出たかった、痛いのは嫌だった……こんなにお腹いっぱい、美味しいものを、食べた事なんて、一度も無くて!」
恐怖を吐き出すように言葉にしながら、頭を抱えて、セージュは震えだした。
「深呼吸出来ますかー。スー、ハー、スー、ハー、ですよー」
ハルハは駆け寄って体を丸めて震えるセージュを抱き起こす。
「違う、そうだ、そうだ、あいつら、『トドラー』の事を知ってた、でもどうして?違う、そうだ、精霊獣の魔力を使うって。嫌だ、叩かないで!痛いのは嫌!」
「心の傷か。……これが兵士だったら殴っとるわい」
ぶっきらぼうに言うバズムに向けて、糸目のハルハは少し目を細めたものの、気付かれはしなかった。
「将軍閣下も本当に素直じゃないですねー、この子は兵士じゃないから絶対に殴らないんでしょうー?そんな体たらくだからギルガンドといつも喧嘩になるんですよー、アレって物凄くはた迷惑なんですけれどー」
「喧しいわ!あの程度の挑発に乗る青二才が悪いんじゃ!」
「はいはいー。そう言う事にしておきますー。じゃ、この子を休ませてきますねー」
ハルハはセージュを抱きかかえて去って行く、その背に向けてバズムは小声で呟いた。
「老いた犬の楽しみなぞ、生意気な若造をからかう事くらいなもんじゃろうがよ……」
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