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Second Chapter
母方の実家
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このガルヴァリナ帝国で『公家』と呼ばれる貴族になるには、皇子もしくは皇女が臣籍降下するか降嫁する事が必須である。
そのため、彼らは貴族の中でも別格扱いを受けていた。
ネロキーア公家はその『公家』の中でも、かつては最も権勢を振るっていた家柄の一つであった。
『赤斧帝』の皇太子妃、後の皇后として娘アマディナを後宮に入れ、ヴァンドリックとテオドリックが生まれた。一族からは優秀な文武官を絶えず輩出した。特にアマディナの兄である跡取り息子コルスには名伯楽としての才覚があり、平民・貴族を問わず優秀な若者を積極的に取り立てる事で、栄華を極めていた。
それこそ飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、彼らはちっとも奢らず質素倹約を第一に尊んだので、帝国城での人望の方も圧倒的だった、と伝わっている。
コルスは『赤斧帝』の幼少期からの忠臣で、盟友でもあった。『乱詛帝』を打つクーデターの際にはよく助けて、特に見極めた有志の者を『赤斧帝』の直参の部下として推挙した。彼らは見事に活躍し、とうとう『乱詛帝』を討ち取るに至った。
ここまでは誰もが疑っていなかった。少なくともネロキーア公家が腐敗するまでは帝国の政治は乱れる事は無いだろうと。もしネロキーアが腐敗したとしても『赤斧帝』は健在、皇太子ヴァンドリックも英明で聞こえ、皇太子妃となるべきミマナ姫はネロキーア公家とは犬猿の仲のモルド公家の出。彼らを支える臣下も粒ぞろいだ。
この通りに政治に対する浄化の力を持つ者は数多く、ガルヴァリナ帝国は今が中興もしくは最盛期への登り道である、と……。
『赤斧帝』が突然の病の後で豹変し、懸命に看護に当たった医者達に毒杯をあおらせた直後。
コルスはすぐさまアマディナの元を訪れ、事情を聞いていた。
「妹よ、陛下に何があらせられたのか。身を粉にして尽くしたトヂノ達に突如として毒杯を賜られたと……」
「病の中には、頭に作用して人格さえも変えてしまう恐ろしい症状を現すものが……」
「しかし陛下は太極殿では何のお変わりもござらぬ。帝国の君主として見事に采配を振るっておいでだ。病の時に陛下の御身に何が起きたと言うのだ……!?」
コルスはそこまで考えて、ゾッとした。
『赤斧帝』の実の父親、かつての『乱詛帝』の暴虐を思い出したのだ。
しかしアマディナは愛する夫をそれでも信じたかった。
「もしも、陛下が病で倒れていらっしゃった時に医者が『もはやこれでは助からぬであろう』等と暴言を吐いたのであれば。もしも、それをお耳に入れたのでしたら。まだ、まだ納得も出来るのですが――」
「トヂノ達はそのような愚者では無いし、何より陛下は斯様に残酷な御方では無い!誰よりも私がよく分かっている!」
高ぶった己自身をなだめるようにコルスは幾度かため息をついてから、アマディナの身重の腹をそっと撫でた。
「ここにいる小さい人よ、何も案じるなよ。困り事は我ら大人に任せて、無事に生まれ、大きく育つが良いのだ……」
テオドリックが生まれて6歳になった時、大逆罪でコルス及びネロキーア公家の主立った者は悉く処刑された。『赤斧帝』がまた別の侵略戦争を始めようとしたのを諫めたため、とうとう逆鱗に触れたのだ。
アマディナは半狂乱で一族の助命嘆願をしたが、聞き入れられる事は無かった。
長年にわたって築き上げた財産も、積み重ねてきた地位も根こそぎ奪われ、ネロキーア公家はそのまま没落した。
そのため、彼らは貴族の中でも別格扱いを受けていた。
ネロキーア公家はその『公家』の中でも、かつては最も権勢を振るっていた家柄の一つであった。
『赤斧帝』の皇太子妃、後の皇后として娘アマディナを後宮に入れ、ヴァンドリックとテオドリックが生まれた。一族からは優秀な文武官を絶えず輩出した。特にアマディナの兄である跡取り息子コルスには名伯楽としての才覚があり、平民・貴族を問わず優秀な若者を積極的に取り立てる事で、栄華を極めていた。
それこそ飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、彼らはちっとも奢らず質素倹約を第一に尊んだので、帝国城での人望の方も圧倒的だった、と伝わっている。
コルスは『赤斧帝』の幼少期からの忠臣で、盟友でもあった。『乱詛帝』を打つクーデターの際にはよく助けて、特に見極めた有志の者を『赤斧帝』の直参の部下として推挙した。彼らは見事に活躍し、とうとう『乱詛帝』を討ち取るに至った。
ここまでは誰もが疑っていなかった。少なくともネロキーア公家が腐敗するまでは帝国の政治は乱れる事は無いだろうと。もしネロキーアが腐敗したとしても『赤斧帝』は健在、皇太子ヴァンドリックも英明で聞こえ、皇太子妃となるべきミマナ姫はネロキーア公家とは犬猿の仲のモルド公家の出。彼らを支える臣下も粒ぞろいだ。
この通りに政治に対する浄化の力を持つ者は数多く、ガルヴァリナ帝国は今が中興もしくは最盛期への登り道である、と……。
『赤斧帝』が突然の病の後で豹変し、懸命に看護に当たった医者達に毒杯をあおらせた直後。
コルスはすぐさまアマディナの元を訪れ、事情を聞いていた。
「妹よ、陛下に何があらせられたのか。身を粉にして尽くしたトヂノ達に突如として毒杯を賜られたと……」
「病の中には、頭に作用して人格さえも変えてしまう恐ろしい症状を現すものが……」
「しかし陛下は太極殿では何のお変わりもござらぬ。帝国の君主として見事に采配を振るっておいでだ。病の時に陛下の御身に何が起きたと言うのだ……!?」
コルスはそこまで考えて、ゾッとした。
『赤斧帝』の実の父親、かつての『乱詛帝』の暴虐を思い出したのだ。
しかしアマディナは愛する夫をそれでも信じたかった。
「もしも、陛下が病で倒れていらっしゃった時に医者が『もはやこれでは助からぬであろう』等と暴言を吐いたのであれば。もしも、それをお耳に入れたのでしたら。まだ、まだ納得も出来るのですが――」
「トヂノ達はそのような愚者では無いし、何より陛下は斯様に残酷な御方では無い!誰よりも私がよく分かっている!」
高ぶった己自身をなだめるようにコルスは幾度かため息をついてから、アマディナの身重の腹をそっと撫でた。
「ここにいる小さい人よ、何も案じるなよ。困り事は我ら大人に任せて、無事に生まれ、大きく育つが良いのだ……」
テオドリックが生まれて6歳になった時、大逆罪でコルス及びネロキーア公家の主立った者は悉く処刑された。『赤斧帝』がまた別の侵略戦争を始めようとしたのを諫めたため、とうとう逆鱗に触れたのだ。
アマディナは半狂乱で一族の助命嘆願をしたが、聞き入れられる事は無かった。
長年にわたって築き上げた財産も、積み重ねてきた地位も根こそぎ奪われ、ネロキーア公家はそのまま没落した。
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