【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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Third Chapter

戦人たち

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 ホーロロ国境地帯近隣、国境の要所に置かれている大砦にて。
「どうにも嫌な予感がする……あの公国もどきはまた攻めてくるぞ」
そうやってバズム将軍が言い出した時はいつだって的中するので、それを聞いた参謀達は全員が顔を強ばらせた。ましてやマーロウスント公国(仮)のきな臭い動きについて最新の情報を共有している軍議の最中であったから、予感の信憑性どころではなく、その再侵攻は確定したようなものだった。
「急ぎ帝都に増援を求めましょう!我らは1万弱しかおりませぬ故!」
「書状をしたためする!」
副官の一人が携帯式の筆記具を執った。
「おい、帰ってきたばかりで済まんが、また走ってくれるか」
バズムは伝令部隊の精鋭達に声をかける。
「「承知!」」と彼らは敬礼した。
彼らに書状を託した後で、副官は訪ねる。
「それで、将軍。奴等の動くのはいつ頃かと思われますか?」
「ホーロロ国境地帯の部族衆への調略が完全に否まれたからには、多少の遅延はあるじゃろう。それでも……それでも来月までは持たぬ。お互いの国で収穫期が近いからのう。それに……」
参謀達は頷く。
「マーロウスントの王太子が、ようやく役に立って参りましたな」
「ええ、少しずつですが、公国もどきに従う貴族達の切り崩しに成功している模様」
「公国もどきの動きがこの頃鈍っている事も幸いしましたな」
「しかし相手は公国を勝手に名乗って独立した僭主ブォニート、何を企んでいるのか?」
バズムは目を閉じて、白色ばかりが目立つひげ面に手をやる。
「……どうにも、どうにも嫌な予感がする。夜討ちの備え、くれぐれも怠るなよ」
「「はっ!」」


 「公国(仮)、まだ変な動きをしているのね……」
「ああ、あの大砦に駐屯している『逆雷』の1万の軍隊が全く警戒を解いていない。偵察に行ったけど、下手したら増援が来るかもってくらい張り詰めていた」
「僕達が、公国(仮)には協力しないって言ったから?」
獣の声が時々、森の合間にこだまする以外は、静まりかえっている夜更け。
ホーロロ国境地帯の部族衆の居住地の一角の館の中で、コトコカとトウル、そしてセージュドリックは話し合っている。揃ってホーロロ国境地帯の部族衆の民族衣装を着て、首からは民族のお守りを下げていた。
「だってあの僭主ブォニートに協力なんかしたって何も良い事無いもの。国力の差以前に、公国(仮)は内情がズタボロで、ブォニートのカリスマと帝国への対抗心だけで保っているようなものなんだから……」
そう言うコトコカは、帝国城にいた時より少し体重が増えて、日焼けして、そして顔つきが明るくなった。灯りの下でサラサラと流麗な書体で書をしたためている。
「どうしてそこまで帝国に対抗したがるんだろうな?国力の差だって歴然なんだろう?」
トウルは更に背が伸びた。明らかに強弓と分かる大きな弓を手入れしながら、首をかしげている。
「だってブォニートの母親は元皇女ディユニ様でしょ。マーロウスントの正統な血筋と皇族の血を引いているのだもの、両方欲しいと野心を抱いたとしても無理も無いわよ」
それに、と書を書き上げてコトコカは頷いた。中々の出来の作である。
「そのディユニ様の件で、『赤斧帝』にマーロウスントは攻められたでしょう?その時に対帝国の旗手となったのがブォニートだったそうだから……帝国許すまじになったとしても当然よ」
「そう言うものかー」と脳天気な声でトウルは返事した。
「全く、トウルは暢気なんだから」
セージュドリックまで呆れてしまった。彼は、炉端で火に当たりながら飲み物を温めていた。
「きゃあああああ!?」コトコカがいきなり書を放り投げて悲鳴を上げた。彼女の視線の先を見れば、大きな毛むくじゃらの蜘蛛がいた。「――いやああああああああああああ!!!!」
「全く、たかが蜘蛛だろうが……しかもホーロロ国境地帯にいるのは毒も無いし大人しいヤツばっかりなんだぞ?害虫をしっかり食べてくれるし……」
トウルがさっと蜘蛛を手で掴んで外に放り出しても、コトコカは震えている。
「駄目なの、蜘蛛だけは!どうしても駄目なの!絶対に嫌ぁああああああああああああ!!!!」
「ったく……」トウルは弓の手入れを再開する。
「それで、今後、僕達はどうすべきだろうか」
セージュドリックが温かい飲み物を器に注いで勧めると、コトコカは震えながら飲んで、
「……帝国に恩義を売れるだけ売った方が良いわね。いざって時にこちらを助けてくれるとは思わないけれど、交渉材料は増やすべきでしょ?でも表立って公国(仮)に喧嘩を売るのも愚策だから……上手くやらないと……」


 「『逆雷』将軍から急ぎの伝令が。『マーロウスント公国なる連中』に不審な動きありとの事」
『賢梟のフォートン』から知らされた皇帝ヴァンドリックは、即座に判断を下す。
「各地より送れるだけの増援部隊をバズム将軍の下へ急ぎ送るように。サレフィの身柄は投獄せよ。……15万の総軍が壊滅し、あれだけの賠償金と人質を取られても尚動くと言うか……」
「恐ろしい『執念』でございますな」
フォートンも同意するしかない。ミマナ皇后は気遣わしげに、
「マーロウスント公国なる所には『昏魔』を潜入させていますが、何と?」
「重税と徴兵のため民が逃げ出す直前らしい。王太子ガレトンの調略による貴族の離反が上手く行ってしまう程には」
「では王太子に働きかけて、『公国なる連中』を挟撃には出来ません事?それが出来ずとも両方面からの圧力をかける事が出来ましたら、『逆雷』の負担も少しは減る事でしょう」
「やらせてみよう」
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