【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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Final Chapter

だってゲイブンだもの

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 なあ相棒……『即堕2コマ』って言葉を知っているか?
 全く知らないが、言葉の意味はとても良く通じたとも……。


 「へぇー!ハルハさんも嘘が苦手って大変なんですぜー。おいらなんか嘘の達人なんですぜ!娼婦の姐さん達に良くお菓子を貰う時にお腹ペッコペコなんですぜーって上手い事嘘を言うんですぜ!」

 ……嘘つけ。ゲイブンは顔にすぐに諸々が出るから誰よりも嘘が下手くそだろうが。
 それとゲイブンはニコニコしながら肉以外何でも美味しそうに食べるから、全員が嘘だって知った上で分けてくれるんだぞ……。

「じゃあブンちゃんに嘘をつかれたら私なんかじゃ絶対に見抜けないですねー!」

 ……見抜く前にバレているの間違いだろうが。
 ああ、いちいち看破する必要さえ無いだろうな、ゲイブンの表情が何も嘘になっていないから。


 朝、あれほど注意するよう言ったのに、放課後になって下校しようと帝国第一高等学院を出たら、まるで長年の友人のようにゲイブンとハルハが笑って立ち話していたんだ。
帰り際、ちょっとハルハの姿が見えないと思ったら……!
「ゲイブンですもの、仕方がありませんわ」
「見るからに無邪気な子だもの。あのハルハに注意し続ける方が無理だったのね」
それからユルルアちゃんとロサリータ姫は声を揃えて、
「「ねーっ?」」
と言って楽しそうに笑ったがオレ達は何も楽しくなんて無い。
ずーっと信じていたユルルアちゃんに裏切られた気持ちで一杯だった。
「ゲイブン」
声をかけるとゲイブンは何時ものようにオレ達を車椅子から牛車に乗せたのだが、
「ハルハさんすっごく良い人ですぜーっ!今度聖地に連れて行ってくれるって約束してくれましたぜ!」


 ……なあ、相棒。
 ……僕達が愚かだった。全部ゲイブンなのだから仕方ない……。


 牛車がゆっくりと動き始める。ひたすら落ち込んでいるオレ達の背後で、ユルルアちゃんとロサリータ姫はとても楽しそうにオレ達(※『シャドウ』含む)について話しているが、加わる気にもなれない。
――が、往来の激しい帝都の大通りまでもう少しの岐路へ差し掛かった時、ふと顔を牛車の外に向けたユルルアちゃんがゲイブンを止めた。
「ゲイブン!牛車を止めて!あの馬車に乗っているのは……!」
「えっ?――は、はいですぜ!」
牛車が急停止した所でユルルアちゃんは顔を出して叫んだ。
「シャル爺!私よ、ユルルアよ!」


 すぐさますれ違いかけていた馬車を止め、御者台から降りてきたのは、オレ達も良く知るシャルだった。
かつてロウの家に仕えていたが、今はユルルアちゃんの実家であるカドフォ公家で働いているのだ。
……オレ達がロウと知り合う、そのきっかけにもなった男である。
早速にシャルは帽子を取って、日焼けした皺だらけの顔をもっとしわくちゃにしながら、
「こりゃあちぃ姫様!お元気でいらっしゃったんで!?」
「爺こそ。父上や兄上達もお変わりないかしら?」
「へえ、へえ!旦那様も若旦那様も、奥方様もピンピンされてまさあ!ですけどねえ、ちぃ姫様からのお便りがなしのつぶてだったもんですから、旦那様も奥方様も本当に心配されてやしたんですよ!」
「私は幸せにやっているから何も案じないでと伝えて頂戴な。これから帝国城へ帰る所だったの。爺は?」
シャルは少し顔をしかめて、
「いや、それがですねえ……『怪盗アルセーヌ』ってちぃ姫様はご存じで?」

 ……『怪盗アルセーヌ』だと!?誰だ、『オレのいた世界の知識』を持っているヤツは!?
 これは、ロウに頼んで情報を集めて貰う必要がありそうだな。

 「まあ、初耳だわ。一体何かしら?」
「近頃、帝都にまでやって来て悪徳貴族の財物を荒らしている義賊らしいんですがねえ……」
「そうなの……義賊の、『怪盗アルセーヌ』……?」
「へえ、そう名乗っているらしいんですがね。ただ、若旦那様のお話だと、義賊にしてはどうにもきな臭いそうで……若旦那様が随分と難儀されていやした……」
「まあ……!」
「あっしはね、被害に遭った悪徳貴族の屋敷を調べに若旦那様が赴かれた、そのお迎えなんでさ!」
「そうだったの……。道中気を付けて安全にね、爺」
「ありがてえ、ちぃ姫様!昔だったら馬車の一つや二つ限界までかっ飛ばしましたがね、あっしだっていい加減に弁えましたぜ!それじゃ若旦那様をお待たせするのも申し訳ねえんで、これで!」
シャルは一礼してからサッと帽子を被った。
「ええ!」
そこでシャルとオレ達は分かれる。
また牛車が進み出した。


 『怪盗アルセーヌって……「アルセーヌ・ルパン」なの?でも……あれは、小説の登場人物……のはずで』
マスコットが姿を見せて、話し出した。
『アルセーヌ・ルパンを知っているのか?』
『ええ……大人気だったから。わたしが生きていた頃……お母様からは「そんな本を読むなんてはしたない」と何度も怒られたけれど、お兄様の本棚からお借りして……最新刊を、隠れて読むのが好きだった……』
『君は何時亡くなったんだ』
『世界中でかつて無い大戦争が始まって、終わった後……豪華客船にわたし達は乗っていたのだけれど……機雷に……。逃げる間もなくて、一瞬だったわ……』
『……エージェントは誰に会った?』
『エージェント・H。……あなたは?』
『Eと名乗った』
『そう……。ミマナ皇后様にお目にかかった時、オラクルともお話しする機会があったのだけれど……エージェント・Sだったらしいわ。生きていた頃は、恐らく、古代の神殿にいた巫女だったそうだから……』
『なるほど、こっちと向こうの世界の時間の流れは一致していないらしいな。オレは21世紀に生きていたから』
『21世紀!』マスコットは飛び跳ねた。『車は空を飛んだ?月に行けたの?潜水艦で世界一周旅行――』
『環境問題と人口爆発と戦争で中々に世界は滅茶苦茶だったさ。20世紀の見た夢の結論として現実を突きつけられた感じ』
『そ、そう……』とマスコットは残念そうな顔をした。
『まあ、それは今は置いておいて。怪盗アルセーヌなんて言葉をソイツは何処で知ったんだ?精霊獣絡みの文献からか?後でクノハルに聞いてみよう』
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