【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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Final Chapter

反撃の狼煙

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 例えばこんな事を考えたら如何かしら、とサルサは汚らわしいと見下す地上の帝都を見つめながら呟く。
夜の帝都は人家や街並みの明りがまるで数多の星のように灯っていて、今だけは美しいと思えた。

 「私達エルフがこの世界を見限って、聖なる裁きを下そうとしている事に対して……ひそひそと噂したり、噂に対して恐怖し不安を抱いている者を、『スキル:インフルエンス・ベルゼブブ』の力で草の根を分けてでも探し出して……『スキル:ペナルティー・アスモデウス』の力で絡め取ったとしたら?」
クスクスと、まるで楽しい噂話をしているかのように――サルサと同時に、タルタも冷酷な言葉を紡ぐ。
「何て惨い事をって貴様達ニンゲンは思うかも知れないけれど、『先んじて私達の下僕になる』のだから――私達は逆に優しいのよね、サルサ姉様」
「ええそうよ、タルタちゃん。これは世界の救済なのだわ。汚らわしいニンゲン共が綺麗さっぱりいなくなれば……この世界は今度こそ美しくなるわよ」
しばらく二人は黙って帝都の夜景に見入っていたが、どちらからともなく呟いた。
「だって……あり得ないわよ。……私達のような高貴なエルフが幾ら血涙を流しても子孫を作れないのに、鱗まみれの竜人族にちんちくりんのドワーフ、緑で誤魔化す吸血鬼や数ばかり多いニンゲン共が!こんなにも地上に蔓延る事を許されるなんて!」
「そうよサルサ姉様、決して許されるべきでは無いわ!神々は私達エルフを見捨てたのに、どうして他の種族には手を貸すの!こんな差別、絶対に許してはならないわ!」
二人は手を繋いで、それぞれの隷械獣を顕現させた。
「行くわよ、『タイラント・ゼノ』……!」
「悉くやっておしまいなさい、『スレイブ・アモル』!」
隷械獣は、咆えた。そして『スキル』をそれぞれ発動させたのだった。



 聖地が帝国と争っていると言う噂をした者で、恐怖や不安を抱いている者に異変が起きた。
何者かに取り憑かれたかのように、場所も相手も構わず滅茶苦茶に暴れ始めたのだ。
――世界各地、帝国各地、帝都、帝国城の彼方此方から悲鳴と騒乱が巻き起こり、それは全く収拾の付かない大混乱となって、そのまま世界は破綻するかに見えた。
サルサとタルタは胸のすく思いでその大混乱を見下ろし、その破綻の時を今か今かと待ちわびていた――。

 『眠れ、眠れ、子守歌に眠れ。母の腕の中の夢を見るが良い……』

 『『――!?』』

 いきなり全ての『罰の支配』が途切れた反動をまともに受けた『スレイブ・アモル』は膝を突き、『タイラント・ゼノ』は危うい所で『影響の罠』を解除したがそれでも一部の余波を受け、数歩はよろめいた。
当然、サルサとタルタも無事では済まない。
「な、何が――!?」
隷械獣でも肩代わりできない程の深刻なダメージを内臓に受けて、同時に盛大に血を吐いた。
「一体誰の精霊獣の『スキル』だと言うの――!?」



 ――帝国城、控えの間にて。
『今暴れている者は、全て眠らせた。しかし根源の「スキル」を……隷械獣を断たぬ限り、目覚めても彼らはまた暴れるであろう。それに、あまりにも範囲が広すぎる故、持っても数時間だ……』
『その間に決着を付ける。……礼を言うぞ、ドルマー』
『何の。ホーロロは予想以上に我らにとって良い地であったからな』
精霊獣ロードとドルマーのやり取りが終わり――その間も怒りに震えていたセージュドリックは、傍らで眠るジュイの顔にそっと手を触れた。
「……許せない。僕の、大事な人を操って、暴れさせる、なんて……!」
ドルマーはセージュドリックの側で告げる。
『セージュドリックよ。我らは我らのやり方で聖地に一矢報いたのだ』
「うん、分かっている。分かって、いる……」
それでも、これだけは許せない。
彼がぐっと怒りをこらえていると、軽やかな足音と共にロサリータ姫が姿を見せる。
「貴方……もしかしてセージュドリック殿下でいらっしゃいますか?」
「うん、そう、だけど……貴女は?」
ロサリータ姫は、見知らぬ相手にやや警戒するセージュドリックの、その隣にいたドルマーに視線を移し、
「あら!とっても可愛い精霊獣なのね!ちっちゃな赤ちゃん!」
『可愛い……だと?可愛い……可愛い……この私が……可愛い……』とやるせないような顔をするドルマー。
「見える……の!?」
驚いたセージュドリックの前に、マスコットが登場する。
『わたしのロサリータも、殿下と同じよ!わたし達も……わたし達に、出来る事をやるために来たの。だって私はもう不幸を招く「ジンクス」じゃなくて、幸運をもたらす「マスコット」になったのだから!』
それからロサリータ姫と精霊獣マスコットは精霊獣ロードに向けて、恭しく一礼し、
「今から陛下と共に聖地へ階をお架けになると伺いました。僭越ながら、加勢をさせて頂きたく存じますの」
『「聖地」はヘルリアンを使って、とにかく魔力をため込んでいる……って聞きました。何処まで通用するかは分からないけれど……わたしの「スキル:カタストロフィー」を蓄積させてから放って「聖地」のステータスを限界まで下げます!』
それからロサリータ姫とマスコットは手を繋いだ。
「やるわよ、マスコット!」
『ええ!わたしのロサリータ!』


 ――『スキル:レイン』が発動した。帝都を目映いまでの光が包んだかと思うと、光は空へと浮かび上がって『結界』で構築された階段に変わっていく。
それは瞬く間に夜空の聖地に至り、あまつさえ逃げられぬように『結界』で全域を覆って封じ込めたのだった。
「行け!」
皇帝のその一声で、帝国十三神将に率いられた帝国軍の精鋭部隊が吶喊を開始する。


 我らの生きる世界を、汚らわしいと見下す者に好き勝手に滅ぼさせて堪るか。
彼らの背中越しに聖地を鋭い眼差しで見やる皇帝に、精霊獣ロードが告げる。
『後戻りするな、ヴァンよ。背後には帝国のみならず世界の命運がある!』
「ただ勝つのみだ!」
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