【完結】ガン=カタ皇子、夜に踊る

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First Chapter

オレ達は踊る、真夜中の舞台で

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 ――さて。
 その噂は、いつ誰が最初に口にしたのかはどの者も知らないのに――ガルヴァリナ帝国の偉大なる帝都ガルヴァリーシャナで暮らす民の中で、謎めいた空想話のような内容をひっさげながら、あっという間に広まっていたのだった。
「その仮面の者は不思議な武器を両手に宿し、闇夜のごとき黒い装束をまとって、この帝都に蔓延る邪知奸悪と戦っているそうだ」
「どうも、さる高貴な方のご落胤らしい」
「何でも、皇太子殿下の密命で動いているとか」
「いや、神々が遣わした正義の執行者だと聞いたぞ」

 どれも正解だし、どれも不正解だ。
オレ達はただ、『ガン=カタの極致』を目指しているのだ。
皇太子の兄貴の悩みの種の大悪人共と戦うのだって、最強で無敵、最高に格好良くて最愛の零距離近接戦闘術『ガン=カタ』を何処までも極めるためだ。
何のためにって?
そんなの、決まっているだろう。
オレ達のようなロマンチストにとって『イカしている』以外の理由なんて要らないのさ。

 「なあ、相棒。オレ達にとって浪漫ほど大事なものは存在しない。そうだろ?」
 「別に君がロマンチストなのは構わないけれど、勝手に僕までロマンチストにしないでくれたまえ。僕はリアリストを自負している」


 ――オレ達の見つめる前で、違法物の取引が行われている。正確に言えば帝国治安局の潜入調査員が、ようやく帝都で蔓延る違法物の流通を牛耳る親玉の所までたどり着く事に成功したのだ。
「やあ、よく来てくれた」
貧民街の空き家に作られた秘密の地下室。
穏やかな声でそう挨拶した親玉は一見、好々爺と言った風体だ。
しかしこの老人、平和だった田舎村の丸ごと一つを違法物の原材料の飼育拠点に変えた正真正銘の悪魔なのだ。
「いつもお世話になっております。今日は連絡した分、お持ちしましたよ」
そう言って金塊の入った包みを差し出した調査員は若い美女だった。こう言った悪党には色仕掛けも効くからな。
「これはどうも。……おい、確認しろ」
「はっ」
部下が動いて、金塊を全て確認した。
「間違いありません、ホンモノです」
「よし。……お待たせしました、どうぞこちらを」
机の上に、違法取締対象物である『神々の血雫』が詰まっているのであろう豪華な装飾の木箱が差し出される。
「確認します」
調査員は頷いて、木箱を開けた。途端に顔が引きつる。
「――っ!」
「おや、そんなに行方不明だったお仲間と再会できて驚いたのかい?」
楽しそうに嗤った親玉の言う通り、木箱の中には行方不明になったはずの別の調査員の生首が入っていた。
「本当ならコイツも飼育してやろうと思ったんだが、自害されちゃあね……」
残念そうに呟いた後、親玉が指を鳴らすと控えていた屈強な部下どもが、我先に立ち上がって刃物を手にした。
「傷を付けるなよ、首から下にはな。女は家畜を産むのに使える。今度こそ上手く家畜を囲わなきゃならんからな」
「――っ!」
調査員の彼女が咄嗟に非常事態を知らせる笛を鳴らしたが――。
何も物音がしない。外で控えているはずの仲間や協力者の動く気配がない。
「遅いよ、アンタら。そんなのろまの愚図の癖に、よくもまあ治安局に飼われる犬っころになれたもんだよ」
「…………」
調査員の彼女は短刀を抜いた。この悪夢のような修羅場で、流石の度胸だと思う。
「おい、今度こそ自害させるなよ!大損失だぞ!」
親玉が命じると部下達が彼女を囲んだ。

 ――ドカン!と地下室の扉を蹴り破って、オレ達はその瞬間に登場したのだった。

 「「誰だ!!?」」

 「誰と聞かれたら応えてやろう」
 「ガン=カタを愛する者として!」

 決まった。ポーズと言いシチュエーションと言い完璧だ。
「何をしている、早く始末しろ!コイツは噂の『シャドウ』に違いない!」
親玉はそう喚くなり、金塊を抱えて素早く隠し階段から逃げた。
「『シャドウ』ですって……?噂じゃなかったの!?」
部下が彼女を人質にする前に、オレ達はさっさと攻撃を開始したのだった。

 「――ガン=カタForm.9『ハーミット』!」
2丁拳銃『シルバー』&『ゴースト』を構え、オレ達は空中でふわりふわりと踊りながら銃弾を放つ。相手の動きを完全に見切り、その攻撃を躱しながら零距離で弾丸を叩き込む。
Form.9『ハーミット』とは、その見切りに最大の重点を置いたガン=カタの型だ。
その一体多数の圧倒的に不利な状況でこそ真価を発揮する最強の近接戦闘術を体得して戦う、オレ達の姿を見た者は揃ってこう言う――

「真夜中の舞台で……踊っているようだわ」と。

 10秒後に一斉に倒れる部下達を飛び越え、オレ達は親玉を追いかけた。
だが、一歩遅かった。
「――ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」
凄まじい悲鳴。
オレ達が追いかけていた親玉が、見えざる手に囚われて空中高く吊り上げられたかと思うと、グシャリと全身を握りつぶされたのだ。
「……」
城壁の上に、顔を隠した何者かが立っていた。
その人物は追いかけてきたオレ達を見た瞬間、周囲を煙幕で覆って行方をくらました。
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