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First Chapter
不出来な第十二皇子
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テオドリック・ネロキアス・ガルヴァリーノスはガルヴァリナ帝国の十二番目の皇子だ。
同母兄のヴァンドリック・ネロキアス・ガルヴァリーノスは幼い頃から天才児、神童と呼ばれ、凶悪非道の『赤斧帝』を帝位から追い払い、今上の皇帝『善良帝』を即位させたと同時に皇太子の地位に就いた傑物である。
だが、同母弟の彼は『不出来な第十二皇子』と言われている。皇太子以外の異母兄妹の全員さえも、テオドリックを存在しない者としてしまっている。
兄以外の皇族に見捨てられたテオドリックに付き従うのはほんのわずかな臣下に、国一番の醜女だと陰口を叩かれている婚約者だけ。帝国城の狭く風通しの悪い離宮『黒葉宮』で日陰者として暮らしている。
そこまでテオドリックが冷遇されているのには幾つかの理由があった。
「通行の邪魔だよな、車椅子」
「いつも下を向いて黙っていて陰険な雰囲気だし、あれが皇太子殿下の同母弟だなんて信じられない」
「せめて何か功績を挙げればいいのに、何もしないだなんて……。義務を果たされている他の皇子殿下や姫様達からしたら、邪魔なだけの存在だわ」
「婚約者もさ、少しは補佐したらどうなんだ。いつも同じように俯いて車椅子を押しているだけじゃないか」
テオドリックは単独では歩行できない。車椅子に乗って生活している。
人前で喋る事が無い。いつも黙って下を向いている。
他の皇子達は戦争で、皇太子は政治においてそれぞれ武勲や功績を挙げている。姫達も負けてはいない。学問や外交、芸術、慈善事業、福祉などで上げた成果は、何一つ女の癖にと侮れはしないものだ。だがテオドリックは一人だけ何もやらずにほとんど離宮に引きこもっている。
彼の婚約者もこれまた問題だった。大富豪にして大貴族カドフォ公家の正統な生まれであるのに、国一番の醜い容貌を隠すために仮面を被り、人とすれ違っても俯いていて挨拶さえしようとしない。あれは性格まで醜悪なのだろうと噂されている。
テオドリックの日常は、朝、帝国城から貴族や富裕な臣民の通う『帝国第一高等学院』に婚約者と一緒に登校すると、図書館に行き、始業時間まで本を読み、そして授業を受け、昼食の時間は腰が痛いと保健室で休み、午後の授業を受け、終業の銅鑼が鳴ると朝と同様に帰って行く……これの繰り返しなのだった。
仮に卒業しても、相変わらずテオドリックは『黒葉宮』で食い扶持だけを貰いながら寂しく生きていくのだろうと噂されている。
学友も、教師も、周囲の誰も彼もが『どうしようもない』『助ける価値も無い』と諦めている対象。
それが第十二皇子テオドリックなのだ。
……つまんないと思うだろ?
そうさ、確かに昼間は退屈だ。
オレ達の真の姿を見せる時間は、いつだって真夜中だからな。
同母兄のヴァンドリック・ネロキアス・ガルヴァリーノスは幼い頃から天才児、神童と呼ばれ、凶悪非道の『赤斧帝』を帝位から追い払い、今上の皇帝『善良帝』を即位させたと同時に皇太子の地位に就いた傑物である。
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「通行の邪魔だよな、車椅子」
「いつも下を向いて黙っていて陰険な雰囲気だし、あれが皇太子殿下の同母弟だなんて信じられない」
「せめて何か功績を挙げればいいのに、何もしないだなんて……。義務を果たされている他の皇子殿下や姫様達からしたら、邪魔なだけの存在だわ」
「婚約者もさ、少しは補佐したらどうなんだ。いつも同じように俯いて車椅子を押しているだけじゃないか」
テオドリックは単独では歩行できない。車椅子に乗って生活している。
人前で喋る事が無い。いつも黙って下を向いている。
他の皇子達は戦争で、皇太子は政治においてそれぞれ武勲や功績を挙げている。姫達も負けてはいない。学問や外交、芸術、慈善事業、福祉などで上げた成果は、何一つ女の癖にと侮れはしないものだ。だがテオドリックは一人だけ何もやらずにほとんど離宮に引きこもっている。
彼の婚約者もこれまた問題だった。大富豪にして大貴族カドフォ公家の正統な生まれであるのに、国一番の醜い容貌を隠すために仮面を被り、人とすれ違っても俯いていて挨拶さえしようとしない。あれは性格まで醜悪なのだろうと噂されている。
テオドリックの日常は、朝、帝国城から貴族や富裕な臣民の通う『帝国第一高等学院』に婚約者と一緒に登校すると、図書館に行き、始業時間まで本を読み、そして授業を受け、昼食の時間は腰が痛いと保健室で休み、午後の授業を受け、終業の銅鑼が鳴ると朝と同様に帰って行く……これの繰り返しなのだった。
仮に卒業しても、相変わらずテオドリックは『黒葉宮』で食い扶持だけを貰いながら寂しく生きていくのだろうと噂されている。
学友も、教師も、周囲の誰も彼もが『どうしようもない』『助ける価値も無い』と諦めている対象。
それが第十二皇子テオドリックなのだ。
……つまんないと思うだろ?
そうさ、確かに昼間は退屈だ。
オレ達の真の姿を見せる時間は、いつだって真夜中だからな。
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