97 / 297
First Chapter
脱獄
しおりを挟む
まだ『神々の血雫』を所持していた、もしくは身に着けようとした、だけなら、皇族の名誉のために静かに毒杯をあおる事が許されたかも知れない。
子を宿した皇太子妃を襲撃した。
同時に皇太子も襲った。
逃走を助けようと東宮御所に付け火をした。
『清滝宮』からシャドウの偽の仮面や短刀やら何から何まで、襲撃と火付けの証拠がこれでもかと出てきた。
仕えていた女官や宦官達は悉く翻り、罪一等を減じて貰おうと証言をした。
それでもアルドリック達は、投獄されてなお、皇太子や皇帝への恨み言ばかり叫んでいる。
己達の無実や冤罪を訴え叫ぶのではなく、こんな事ならもっと早くに邪魔者を殺しておけば良かった、もっと早く『神々の血雫』を手に入れていれば良かった、と。
――この醜聞はあっと言う間に帝都の民にも知れ渡った。
きっと地獄横町がその発生源だろうな、とオレ達は思っている。娘を害するような存在をあの『スーサイド・レッド』の党首がそのまま放置する訳がないから。
このまま二人に厳重な処断を下さねば、帝都の民が皇族の品位を疑い、上に立つ者としての有様を侮るのは時間の問題だった……。
基本的にお人好しで「死刑は、その、ちょっと……」とよく口にする『善良帝』でさえ、「これはもはや庇いようが…………」と見捨てたほどの罪状と状態が露呈した事。
そして民衆の反感を抑える目的で――すぐさま処刑場でのアルドリックとアーリヤカの公開処刑が確定したのだった。
「あらテオ様、どちらに行かれますの?」
オレ達が車椅子で外に出かける仕度を始めたので、ユルルアちゃんが不思議そうな顔をする。
「アルドリックにぶつける石を探しに……」
ユルルアちゃんは微笑んで、
「オユアーヴが鍍金に使う薬品には、原液で浴びると肌を爛れさせる作用のものもあるとか」
「それも良い案だけれども、万が一飛び散ったりして無関係の人にかかったら詫びようがないだろう」
――ハッ!とユルルアちゃんは我に返って謝ってくれた。
「ああ、仰るとおりでしたわ!私、ついカッとなってしまって……」
オレ達は少し考え込んでから、
「君の恨みを晴らすため、ここは金貨を多めに用意しないか」
「金貨……ですか?」
「処刑人に、もっと苦しめて処刑するように袖の下を贈ると言うのはどうだろうか」
まあ、とユルルアちゃんは目を輝かせた。
「それでしたら、誰も危険ではありませんのに最も効果的ですわね!」
……ん?遠くで何か騒ぎが起きているようだ。また小火騒ぎじゃないだろうなと、念のためクノハルに様子見に行って貰う。
たまたまオユアーヴは顧問役をやっていて今は『黒葉宮』を不在にしていたから、クノハルが戻るまで俺達二人は待つ事にした。
「何だろうな?」
「何が起きているのでしょうね?」
おい、その騒ぎが近付いてくるみたいだぞ……?
念のためオレ達はユルルアちゃんに車椅子を押して貰って、扉が頑丈な奥の部屋に隠れようとした。
それが最大のミスだった。車椅子の方向転換のため、オレ達じゃなくてユルルアちゃんを玄関に一番近い位置に移動させてしまったのだ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
――雄叫びを上げながら、オレ達とユルルアちゃん二人だけがいた『黒葉宮』に、釘のようなものを握りしめたアルドリックが飛び込んできた。
子を宿した皇太子妃を襲撃した。
同時に皇太子も襲った。
逃走を助けようと東宮御所に付け火をした。
『清滝宮』からシャドウの偽の仮面や短刀やら何から何まで、襲撃と火付けの証拠がこれでもかと出てきた。
仕えていた女官や宦官達は悉く翻り、罪一等を減じて貰おうと証言をした。
それでもアルドリック達は、投獄されてなお、皇太子や皇帝への恨み言ばかり叫んでいる。
己達の無実や冤罪を訴え叫ぶのではなく、こんな事ならもっと早くに邪魔者を殺しておけば良かった、もっと早く『神々の血雫』を手に入れていれば良かった、と。
――この醜聞はあっと言う間に帝都の民にも知れ渡った。
きっと地獄横町がその発生源だろうな、とオレ達は思っている。娘を害するような存在をあの『スーサイド・レッド』の党首がそのまま放置する訳がないから。
このまま二人に厳重な処断を下さねば、帝都の民が皇族の品位を疑い、上に立つ者としての有様を侮るのは時間の問題だった……。
基本的にお人好しで「死刑は、その、ちょっと……」とよく口にする『善良帝』でさえ、「これはもはや庇いようが…………」と見捨てたほどの罪状と状態が露呈した事。
そして民衆の反感を抑える目的で――すぐさま処刑場でのアルドリックとアーリヤカの公開処刑が確定したのだった。
「あらテオ様、どちらに行かれますの?」
オレ達が車椅子で外に出かける仕度を始めたので、ユルルアちゃんが不思議そうな顔をする。
「アルドリックにぶつける石を探しに……」
ユルルアちゃんは微笑んで、
「オユアーヴが鍍金に使う薬品には、原液で浴びると肌を爛れさせる作用のものもあるとか」
「それも良い案だけれども、万が一飛び散ったりして無関係の人にかかったら詫びようがないだろう」
――ハッ!とユルルアちゃんは我に返って謝ってくれた。
「ああ、仰るとおりでしたわ!私、ついカッとなってしまって……」
オレ達は少し考え込んでから、
「君の恨みを晴らすため、ここは金貨を多めに用意しないか」
「金貨……ですか?」
「処刑人に、もっと苦しめて処刑するように袖の下を贈ると言うのはどうだろうか」
まあ、とユルルアちゃんは目を輝かせた。
「それでしたら、誰も危険ではありませんのに最も効果的ですわね!」
……ん?遠くで何か騒ぎが起きているようだ。また小火騒ぎじゃないだろうなと、念のためクノハルに様子見に行って貰う。
たまたまオユアーヴは顧問役をやっていて今は『黒葉宮』を不在にしていたから、クノハルが戻るまで俺達二人は待つ事にした。
「何だろうな?」
「何が起きているのでしょうね?」
おい、その騒ぎが近付いてくるみたいだぞ……?
念のためオレ達はユルルアちゃんに車椅子を押して貰って、扉が頑丈な奥の部屋に隠れようとした。
それが最大のミスだった。車椅子の方向転換のため、オレ達じゃなくてユルルアちゃんを玄関に一番近い位置に移動させてしまったのだ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
――雄叫びを上げながら、オレ達とユルルアちゃん二人だけがいた『黒葉宮』に、釘のようなものを握りしめたアルドリックが飛び込んできた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる