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First Chapter
突き落とす
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真夜中だったらオレ達は『シャドウ』に変身して簡単に撃退できたのに、今はまだ夕暮れだった。そろそろ灯りを付けようとしていた頃だった。
明日の朝にはアルドリック達の処刑が待っていたので、油断していたのもある。
もう少し――後、ほんの少しだけ時間が稼げたら!
「来い!」
アルドリックはユルルアちゃんの首に釘を突きつけて人質に取った。その手首には生々しく魔法封じの入れ墨が刻まれている。
「きゃああっ!助けて、テオ様!」
思わず、オレ達は車椅子から手を伸ばす。
「アルドリック、何をするんだ!」
「うるせえ!邪魔なんだよ!」
蹴られて隣部屋へ車椅子ごと倒れたオレ達をまたいで、アルドリックは抵抗するユルルアちゃんを引きずるようにして壁を背中にすると、追いかけてきた兵士達が既に取り囲んでいるのであろう『黒葉宮』の外にも届く大声で叫んだ。
「入ってくるんじゃねえ!この女を殺すぞ!」
釘の切っ先をユルルアちゃんの首に当てて吠えると、『黒葉宮』に突入しかけていた兵士達が悔しそうな顔をして立ち止まる。
「ハァ、ハァ……」少し呼吸を整えるアルドリックに、ユルルアちゃんが話しかけた。
「……ど、どうやって、脱獄なんて……!」
時間稼ぎをしてくれているのだ、とオレ達は気付いた。
「あ?そんなの決まっているだろうが、母上の一族が手伝ってくれたんだよ!俺様だけでもってな!」
あれだけ可愛がってくれた母親を見捨てたのか、コイツは。アーリヤカの実家のニテロド一族は。
「では……アーリヤカも……!?」
「アーリヤカ皇太后だ!言葉に気を付けろよ、このブス女!」
既に二人とも、皇太后の地位も皇子の地位も――皇族としての全てを剥奪されているのに、よく言えたものだな。
「痛いっ!」
ユルルアちゃんの首から一筋の血が流れた。
それをベロリと舐めると、ゲラゲラとアルドリックは嗤いだした。
「そういやあの時もこうだったなあ!?飛びかかってきた召使いをぶっ殺してその前で愉しんだあの時も!テメエは初めてだったもんなあ!?」
「止めてっ!気持ち悪い!」
「気持ち悪いだと?」アルドリックの形相が変わった。「帝国一の醜女の癖に!不能で不出来なあの陰気男に抱いても貰えない可哀想な女の癖に!何を言ってんだよ!」
「……は?」
――ひっ!?
床に這いながらオレ達は震え上がった。
ユルルアちゃんがキレた。怖い。ヤバい。正直、這いずってでも逃げたい。マジで逃げたいが、今ここで逃げたら後でオレ達の命が無い……。
……ユルルアちゃんがにっこりと微笑んだのが分かる。
「――まあ、嫌だわ」
鬼女の、魔女の、悪女の微笑みだ。
「あの人が死ねと言えば死に、尽くせと言えばこの命のある限り尽くす、神を裏切れと言われたら神に呪詛を向け、肉親を殺せと言えば笑んで殺すわ。
あの人は私に光をくれたのよ、暖かくて優しい眩い光。それが私の背後にいくら真っ黒な影を生み出そうとも、私の魂はあの光にすっかり救われてしまったのよ。
残念でしたわね、私はもはや血液の一滴まであの人のもの。とてもとても残念でしたわねえ……?」
「は……?」
アルドリックが虚を突かれた顔をする。
「うふふふ。お前こそ男を名乗るのも烏滸がましい、ド下手くそお粗末野郎の分際で何を言っているのかしら?」
「……な」
しばらく言われた言葉が理解できず固まっていたアルドリックだったが、ようやく飲み込めたらしく顔を真っ赤にして、ユルルアちゃんを強引に床に押し倒した。右手が無いので抵抗するユルルアちゃんの服を脱がそうとするが、当然上手くはいかない。
「何だと?!この!このブス女!ブス女が!ギャアギャアとうるせえんだよ!」
その時、ようやく辺りが夕闇に包まれた。
明日の朝にはアルドリック達の処刑が待っていたので、油断していたのもある。
もう少し――後、ほんの少しだけ時間が稼げたら!
「来い!」
アルドリックはユルルアちゃんの首に釘を突きつけて人質に取った。その手首には生々しく魔法封じの入れ墨が刻まれている。
「きゃああっ!助けて、テオ様!」
思わず、オレ達は車椅子から手を伸ばす。
「アルドリック、何をするんだ!」
「うるせえ!邪魔なんだよ!」
蹴られて隣部屋へ車椅子ごと倒れたオレ達をまたいで、アルドリックは抵抗するユルルアちゃんを引きずるようにして壁を背中にすると、追いかけてきた兵士達が既に取り囲んでいるのであろう『黒葉宮』の外にも届く大声で叫んだ。
「入ってくるんじゃねえ!この女を殺すぞ!」
釘の切っ先をユルルアちゃんの首に当てて吠えると、『黒葉宮』に突入しかけていた兵士達が悔しそうな顔をして立ち止まる。
「ハァ、ハァ……」少し呼吸を整えるアルドリックに、ユルルアちゃんが話しかけた。
「……ど、どうやって、脱獄なんて……!」
時間稼ぎをしてくれているのだ、とオレ達は気付いた。
「あ?そんなの決まっているだろうが、母上の一族が手伝ってくれたんだよ!俺様だけでもってな!」
あれだけ可愛がってくれた母親を見捨てたのか、コイツは。アーリヤカの実家のニテロド一族は。
「では……アーリヤカも……!?」
「アーリヤカ皇太后だ!言葉に気を付けろよ、このブス女!」
既に二人とも、皇太后の地位も皇子の地位も――皇族としての全てを剥奪されているのに、よく言えたものだな。
「痛いっ!」
ユルルアちゃんの首から一筋の血が流れた。
それをベロリと舐めると、ゲラゲラとアルドリックは嗤いだした。
「そういやあの時もこうだったなあ!?飛びかかってきた召使いをぶっ殺してその前で愉しんだあの時も!テメエは初めてだったもんなあ!?」
「止めてっ!気持ち悪い!」
「気持ち悪いだと?」アルドリックの形相が変わった。「帝国一の醜女の癖に!不能で不出来なあの陰気男に抱いても貰えない可哀想な女の癖に!何を言ってんだよ!」
「……は?」
――ひっ!?
床に這いながらオレ達は震え上がった。
ユルルアちゃんがキレた。怖い。ヤバい。正直、這いずってでも逃げたい。マジで逃げたいが、今ここで逃げたら後でオレ達の命が無い……。
……ユルルアちゃんがにっこりと微笑んだのが分かる。
「――まあ、嫌だわ」
鬼女の、魔女の、悪女の微笑みだ。
「あの人が死ねと言えば死に、尽くせと言えばこの命のある限り尽くす、神を裏切れと言われたら神に呪詛を向け、肉親を殺せと言えば笑んで殺すわ。
あの人は私に光をくれたのよ、暖かくて優しい眩い光。それが私の背後にいくら真っ黒な影を生み出そうとも、私の魂はあの光にすっかり救われてしまったのよ。
残念でしたわね、私はもはや血液の一滴まであの人のもの。とてもとても残念でしたわねえ……?」
「は……?」
アルドリックが虚を突かれた顔をする。
「うふふふ。お前こそ男を名乗るのも烏滸がましい、ド下手くそお粗末野郎の分際で何を言っているのかしら?」
「……な」
しばらく言われた言葉が理解できず固まっていたアルドリックだったが、ようやく飲み込めたらしく顔を真っ赤にして、ユルルアちゃんを強引に床に押し倒した。右手が無いので抵抗するユルルアちゃんの服を脱がそうとするが、当然上手くはいかない。
「何だと?!この!このブス女!ブス女が!ギャアギャアとうるせえんだよ!」
その時、ようやく辺りが夕闇に包まれた。
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