キラキラ大学生のこの俺が、陰キャオタクのお嫁さん?

ぽんぽこまだむ

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第一章 なれそめ編

(1)サークルの幽霊部員が生きてるのか死んでるのかわからないのでちょっと見に行ったら、誕生日プレゼントとして処女を要求された

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 荒巻(あらまき)達琉(たつる)は、サークルの新歓飲み会以降、一度も来ていない幽霊部員だ。それどころか、授業に出ているのかいないのかすら、同じ学科の子でもわからないらしい。

「あの人どこの学科でしたっけ?」
「生物」
「え、俺も生物だけど全然見たことねー」

 次回のミートアップの企画中。サークル仲間で話していたところ、今回は「みんなで」「インクルーシブ」をテーマに、子ども食堂とコラボする予定なのに、荒巻君は全然サークルに来ていなくて、「みんな」でもなければ「インクルーシブ」でもない、ということがわかったのだ。

「連絡先から外しちゃってもいいんじゃないですか?」
「だよね~。オタクだしこういうの興味ないでしょ」
「一人暮らしみたいだし、死んでたりして」
「え~? 誰か見に行った方が良くない?」

 などと言いつつ、ちっとも心配した表情ではないサークルメンバーに、俺は苦言を呈した。

「そういう言い方よくないよ。ホントに具合悪くなってたりしたらどうするのさ」
「諒真(りょうま)先輩って、優しいんですね」
「俺もう、顔忘れたわ」

 優しいかというとそんなこともなく、俺はただ、副部長だから責任もあるし、交流系のサークルなんだから、オタクとか言わずに、もうちょっと積極的に絡んだっていいんじゃないかと思ったのだ。

 俺はちゃんと、荒巻君が入部した時や新歓の飲み会に来た時のことを覚えている。もっさもっさの頭に黒縁メガネ、チェックのだぼだぼのシャツ、ユニクロのチノパンにデカくて黒いリュック。いまどき珍しいレベルのいわゆるオタクで、いくら話しかけても「あ、あのっ……」とか終始キョドッていた。みんなで仲良くしようと思ってたのに、それっきり来なくなってしまったのだから、やっぱりオタクの人は難しい。

「じゃあ、俺が行ってくるよ」

 というわけで、悪ふざけや野次馬根性も絶対に混じっている薄汚い期待を背負い、入部した時に書いてもらった住所を頼りにして、俺は西永福の駅を降りた。肩に担いだトレジョの布バッグには、サークルメンバーから持たされた、コンビニ菓子やモンエナなどが詰め込まれている。好きかどうかもわからないのになぁ。突然訪ねるわけだし、なんだかこれでは申し訳ないので、俺は渋谷スクランブルスクエアで、ちょっとおしゃれなチョコを買っていった。



   静かな住宅街を抜けてアパートのインターホンを押すと、返事の代わりにドアが開いた。

「えっ、あ、あ、りょ、諒真先輩?」

 Tシャツとスウェットの上に、お年寄りみたいな半纏(はんてん)を羽織った荒巻君は、俺の姿を見ると、あからさまにキョドキョドした。新歓で会ったきりの先輩が来たら、そりゃ戸惑うよな。

「あんまり大学に来てないみたいだから、心配になって来てみたんだけど、大丈夫?」
「え、あ、いや全然っ! だだだ大丈夫です、どぞどぞどぞ」

 へどもどしながら、荒巻君は俺を中へと案内した。
 ベッドとパソコンデスクがあるだけのワンルームには、ラグも敷いておらず、カラーボックスには縦横に本が積み重なっている。デスクの下では、やたらどでかい自作PCが、フォーンとかすかな音を立てていた。

「これ、サークルのみんなから。俺はこのチョコね」
「お、俺にチョコをっ? そ、そんな、あありがとうございます!」

 へこへこしながら手土産を受け取ると、荒巻君は一口電気コンロでお湯を沸かし始めた。
 半年以上前、新歓の時に見たのと同じ、モッサモサの黒髪とレンズのデカいメガネ。半纏を着た背中を丸めて狭いキッチンに立つ姿は、意外とでかい。太っているわけでもないし、骨格も悪くないし、ちゃんとおしゃれして笑顔を心掛ければ、友達もできるんじゃないだろうか。

「ごめんね突然」
「いえ、大丈夫です……」
「大学にあんまり来られてないんじゃないかって、みんなが心配してたから来たんだ」
「はあ、そうなんですね……。授業は出てます……。でも俺、誰とも話さないから……」

 ええっ? 来てないんじゃなくて、来てるのを誰にも気づかれてなかったパターンなのか? 悲しすぎない?
 どうしてそうなるのか、俺には全然わからない。色々用事とかあるし、話す機会なんていくらでもあるよな? 「よろしく~」とか初日に話しかければいいじゃん、と思うのだが、そう言うと友達にも「みんながみんな、お前みたいなコミュ強キラキラ男子じゃないんだよ」などと言われたりする。

「サークル……行けてなくてすみません」

 椅子がパソコン用のものしかないのでそれをすすめられ、出てきたお茶をすすっている横で、荒巻君はぬぼっと立ちつくしている。入部の時と新歓しか出ていなくて、むしろサークルに入っている意識があったことに驚きだ。

「え、別にいいよ。ウチのサークルわりとゆるいし、そこは誰も気にしてないよ」
「そう、ですか……」
「うん」
「……」

――話が、続かない……。

 沸かしたての茶は熱く、猫舌の俺はなかなか飲み進めることができない。荒巻君は、背中を丸めてベッドに腰かけているだけで、何も言わない。
 話題に困った俺の目に、ふと、パソコンデスクに置かれた圧着ハガキが飛び込んできた。

『今月お誕生日のあなたに、お誕生日クーポンプレゼント!』

「荒巻君、誕生日近いんだ?」
「あ、はい。……今日」
「ええっ! 今日なの? おめでとう!」

 俺が素(す)で驚いて拍手をすると、荒巻君は、前髪とメガネで上半分が隠れた顔を赤くして、消え入りそうな声で礼を言った。

「え、あ、あああああ……。ありがとうございます……」
「なんかお祝いしようよ!」

 初めてリアクションらしいものを得た俺が、気をよくして言うと、荒巻君は首を傾げた。

「え? お祝い……?」
「うん、なんか欲しいものないの?」
「いえいえいえ特にないです……」
「え~、せっかくの誕生日なのに」
「別に……ただの日ですし」

 ボソッとつぶやいた荒巻君の口調は、どこか投げやりで、むしろ不機嫌そうだった。なんとなく、このまま引き下がってしまう気にもなれずに、俺は食い下がった。

「じゃあ、したいこととかさ」

 買い物とか映画とか、どこか連れて行ってやるくらいならしてやろう。なんなら荒巻君の好きそうな、メイドカフェとかに一緒に行くのでもいい。そうしたら、サークルにも来やすくなるかもしれないし。

「……い」

 長い沈黙の後、ボサボサ頭を下に向けて、荒巻君が何かをつぶやいた。

「え? なに?」

 まるでよく聴こえないので、俺がベッドの方に身を乗り出すと、荒巻君が俺の襟首をグッとつかんで引き寄せた。

「うわあっ!」

 荒巻君の上に倒れ込むように、俺はベッドに引き倒され、そのままゴロンと半回転させられた。頭の両脇に荒巻君がドスンと腕をついて、見上げると顔は真っ赤になっていた。

「じゃ、じゃあっ……! 先輩の処女が、欲しいですっ!」
「……え?」
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