10 / 20
第二章 婚姻届編
(3)サークルに夫(自称)が押しかけてきました①
しおりを挟む
「諒真君、この前のイベントのインスタ、見たよ~」
「ありがとうございます! 木村さん、いいねしてくれてましたよね!」
ミートアップイベント後のサークルの部室。俺は学生課から依頼のあった、サークル紹介の記事を書いていた。サークル代表の木村さんは三年生。やる気マンマンでリーダーシップのある、元気なお姉さんだ。
あれこれ相談しながら記事を書いて、だいたい出来上がったので、そろそろ学食に行こうかと話していた時。ガチャっと部室のドアが開いた。
「ご、ごめんください……」
――サークルに、ごめんくださいって言いながら入ってくるヤツ……。
「まきま……」
荒巻か――と思ったのだが、そこにいたのは、スラリとした長身のイケメンだった。
――だ、誰?
ボリューミーに上や横に膨らんでいた黒い髪は、さっぱりとカットされて、もともとのクセを活かすような感じに軽く流している。大きく額を上げてスッキリした顔からは、丈夫さだけが取り柄のようなメガネは姿を消して、優しそうな垂れ気味の目が、こちらを見てほほ笑んでいた。
スウェットの上にボテッとした半纏ではなく、茶色のチェスターコートの中に、白シャツと柄のニットをレイヤードして、下半身はカーキ色のユルッとしたパンツと、コートの色に合わせたシューズ。
肩にかけたトートバッグも、オタクが求める大容量と地味さを備えながら、上品なグレーとオレンジに近いレザーのバイカラーが、「おたくっぽさ」ではなく「知性」を演出している。
――めっちゃ大人っぽい! カッコいい! どうしたんだ? ……いや、それともまさか、似た感じの別人?
俺は一応、荒巻の素顔を見ているけれど、だいたい裸なので、オシャレしている姿は初めてだ。
オタクどころか、家庭教師に来た優しいお兄さんみたいな雰囲気である。
木村さんは、ガチで誰だかわからないらしく、遠慮がちに話しかけた。
「……えっと、入部希望ですか?」
「いえ、あのですね、荒巻です部員のっていっても新歓に来たっきりで一度も来てないんですけれどこれからはちゃんと活動しようかなと思ってそれで」
あまりの変貌ぶりに別人かと思ったが、やっぱり荒巻で間違いなかったようで、そいつは猫背になってモジモジし始めた。
「えええ~? 荒巻君!?」
「え、あ、はいまあ」
「うっそ、めっちゃオシャレになってるじゃん!」
木村さんがきゃあっと声を上げると、荒巻は居心地悪そうにうつむいたが、ちらっと俺を見上げ、はらりと落ちた前髪の下から口元をフヒッと緩ませた。
――こ、こいつまさか、俺に対するアピールでおしゃれを?
「久しぶりだね! 今ね新歓パンフの記事を書いてるんだけど、これからお昼なんだ。部室に鍵かけちゃうんだけど、荒巻君も一緒に来る?」
「え、あ、それは……もしも、り、りょ……えーとその」
ちらちらこっち見てないで、聞くなら堂々と「諒真さんも一緒に行くんですか、それとも木村さんと二人でっていうことですか」って聞こうよ!
「俺も一緒に行くよ」
「あじゃあ行きます」
コミュニケーションに不安を感じた俺が会話をサポートすると、荒巻は即刻ランチに参加を表明した。
部室棟の狭い廊下を縦になって歩きながら、後ろをぴったりとついてくる荒巻に声をかける。
「今日オシャレだね、どうしたの?」
「デュヒッ!」
なんか、高身長のオシャレイケメンがキモイ笑いを浮かべてる図って、すごい違和感だな。
「インターネッツでですね、ココナラとかスキマとかで、ファッションの相談に乗ってくれて全身コーディネートしてくれるサービスがあってですねそれで……」
「へ~! クラウドワークスみたいなやつ? そういうのって、翻訳とかデザインとかじゃなくてもあるんだね! 俺も今度やってもらおうかな~。いくらくらいするんだろ」
「諒真さんは今のままで十分かわいいから必要ないですよグフフ」
「そうそう、諒真君、王子みたいでかわいいから、四年生の女の子とかに、しょっちゅう意味なくお菓子とかホッカイロとかもらってるんだよね~」
「ちょっと木村さんまでやめてくださいよ」
顔の問題ではなく、仲良くさせてもらってるからなんかの機会にくれるだけだし、俺もそのたびにちゃんとお返ししてるし。
スンッ――。
すると、デュヒデュヒと緩めていた荒巻の口元が、突然真っ平らに閉じた。どうしたんだ?
「木村さん、俺たちトイレに行ってくるので、先に行っていてください」
俺たち? なんで連れションすることになってるの?
しかしガシッと腕を組まれて、俺は曲がり角でトイレの方に連れていかれてしまった。
――何をされるんだ~!
不幸なことに、トイレには他に誰もいない。
「じゃあ、俺は大のほうで――」
いち早く個室に閉じこもって逃げようとしたが、荒巻はレザーシューズをガツッとドアに割り込ませてきた。
「奇遇ですね俺もなんですよ」
「うわあああ、なんで入ってくるんだよ~!」
場合によっては――場合によらなくても多分――えっちなマンガでよく見る展開になっちゃうだろ~!
「えっちなマンガではよくあることですよ」
――やっぱり~!
無理矢理個室に入りこんで、荒巻はガチャッとロックをかけた。
「ありがとうございます! 木村さん、いいねしてくれてましたよね!」
ミートアップイベント後のサークルの部室。俺は学生課から依頼のあった、サークル紹介の記事を書いていた。サークル代表の木村さんは三年生。やる気マンマンでリーダーシップのある、元気なお姉さんだ。
あれこれ相談しながら記事を書いて、だいたい出来上がったので、そろそろ学食に行こうかと話していた時。ガチャっと部室のドアが開いた。
「ご、ごめんください……」
――サークルに、ごめんくださいって言いながら入ってくるヤツ……。
「まきま……」
荒巻か――と思ったのだが、そこにいたのは、スラリとした長身のイケメンだった。
――だ、誰?
ボリューミーに上や横に膨らんでいた黒い髪は、さっぱりとカットされて、もともとのクセを活かすような感じに軽く流している。大きく額を上げてスッキリした顔からは、丈夫さだけが取り柄のようなメガネは姿を消して、優しそうな垂れ気味の目が、こちらを見てほほ笑んでいた。
スウェットの上にボテッとした半纏ではなく、茶色のチェスターコートの中に、白シャツと柄のニットをレイヤードして、下半身はカーキ色のユルッとしたパンツと、コートの色に合わせたシューズ。
肩にかけたトートバッグも、オタクが求める大容量と地味さを備えながら、上品なグレーとオレンジに近いレザーのバイカラーが、「おたくっぽさ」ではなく「知性」を演出している。
――めっちゃ大人っぽい! カッコいい! どうしたんだ? ……いや、それともまさか、似た感じの別人?
俺は一応、荒巻の素顔を見ているけれど、だいたい裸なので、オシャレしている姿は初めてだ。
オタクどころか、家庭教師に来た優しいお兄さんみたいな雰囲気である。
木村さんは、ガチで誰だかわからないらしく、遠慮がちに話しかけた。
「……えっと、入部希望ですか?」
「いえ、あのですね、荒巻です部員のっていっても新歓に来たっきりで一度も来てないんですけれどこれからはちゃんと活動しようかなと思ってそれで」
あまりの変貌ぶりに別人かと思ったが、やっぱり荒巻で間違いなかったようで、そいつは猫背になってモジモジし始めた。
「えええ~? 荒巻君!?」
「え、あ、はいまあ」
「うっそ、めっちゃオシャレになってるじゃん!」
木村さんがきゃあっと声を上げると、荒巻は居心地悪そうにうつむいたが、ちらっと俺を見上げ、はらりと落ちた前髪の下から口元をフヒッと緩ませた。
――こ、こいつまさか、俺に対するアピールでおしゃれを?
「久しぶりだね! 今ね新歓パンフの記事を書いてるんだけど、これからお昼なんだ。部室に鍵かけちゃうんだけど、荒巻君も一緒に来る?」
「え、あ、それは……もしも、り、りょ……えーとその」
ちらちらこっち見てないで、聞くなら堂々と「諒真さんも一緒に行くんですか、それとも木村さんと二人でっていうことですか」って聞こうよ!
「俺も一緒に行くよ」
「あじゃあ行きます」
コミュニケーションに不安を感じた俺が会話をサポートすると、荒巻は即刻ランチに参加を表明した。
部室棟の狭い廊下を縦になって歩きながら、後ろをぴったりとついてくる荒巻に声をかける。
「今日オシャレだね、どうしたの?」
「デュヒッ!」
なんか、高身長のオシャレイケメンがキモイ笑いを浮かべてる図って、すごい違和感だな。
「インターネッツでですね、ココナラとかスキマとかで、ファッションの相談に乗ってくれて全身コーディネートしてくれるサービスがあってですねそれで……」
「へ~! クラウドワークスみたいなやつ? そういうのって、翻訳とかデザインとかじゃなくてもあるんだね! 俺も今度やってもらおうかな~。いくらくらいするんだろ」
「諒真さんは今のままで十分かわいいから必要ないですよグフフ」
「そうそう、諒真君、王子みたいでかわいいから、四年生の女の子とかに、しょっちゅう意味なくお菓子とかホッカイロとかもらってるんだよね~」
「ちょっと木村さんまでやめてくださいよ」
顔の問題ではなく、仲良くさせてもらってるからなんかの機会にくれるだけだし、俺もそのたびにちゃんとお返ししてるし。
スンッ――。
すると、デュヒデュヒと緩めていた荒巻の口元が、突然真っ平らに閉じた。どうしたんだ?
「木村さん、俺たちトイレに行ってくるので、先に行っていてください」
俺たち? なんで連れションすることになってるの?
しかしガシッと腕を組まれて、俺は曲がり角でトイレの方に連れていかれてしまった。
――何をされるんだ~!
不幸なことに、トイレには他に誰もいない。
「じゃあ、俺は大のほうで――」
いち早く個室に閉じこもって逃げようとしたが、荒巻はレザーシューズをガツッとドアに割り込ませてきた。
「奇遇ですね俺もなんですよ」
「うわあああ、なんで入ってくるんだよ~!」
場合によっては――場合によらなくても多分――えっちなマンガでよく見る展開になっちゃうだろ~!
「えっちなマンガではよくあることですよ」
――やっぱり~!
無理矢理個室に入りこんで、荒巻はガチャッとロックをかけた。
12
あなたにおすすめの小説
売り物の身体ー社長に躾けられる美形タレントー
しち
BL
芸能界で生き残るために身体を武器にしてきた清瀬累。
枕営業も厭わない累の“商品価値”に口を出してきたのは、所属事務所の若き社長・剣崎だった。
「価値を下げるな」
そう言って累を囲い込む男の真意は――。
身体で仕事を取ってきた若手タレント兼俳優を事務所社長が躾け直す話です。
この世界で生きるための「価値」を教え込まれる話。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
俺の指をちゅぱちゅぱする癖が治っていない幼馴染
海野
BL
唯(ゆい)には幼いころから治らない癖がある。それは寝ている間無意識に幼馴染である相馬の指をくわえるというものだ。相馬(そうま)はいつしかそんな唯に自分から指を差し出し、興奮するようになってしまうようになり、起きる直前に慌ててトイレに向かい欲を吐き出していた。
ある日、いつもの様に指を唯の唇に当てると、彼は何故か狸寝入りをしていて…?
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
