ツンデレの「デレ」はわんこにお見通し

ぽんぽこまだむ

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第8話:目指せ高額報酬

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 今回のクエストは、街道沿いの渓谷に現れるハーピーの群れの駆除だ。

 街道を通る旅人の馬や、商人の荷馬車に積まれた食べ物などを奪って大繁殖しており、このままでは街道が安全に通れない。

 大きな商会が多額の報酬を賭けており、完全に駆除した場合には、20万Gもの報酬を手にすることができる。

 ハーピーは、上半身は美しい女性の体だが、下半身は鳥で鋭い爪とくちばしを持つ。

 高額報酬のクエストだが、飛行タイプが相手のモンスターのため、挑戦できる者が限られており、魔法が使えて家を建てるお金が欲しいルーイには、狙い目のクエストだった。



「土蜘蛛族のローナです。魔術師です。よろしくお願いします」

 白に近いふわふわの金髪を二つに分けて緩く結んだ、内気そうな女の子だ。小さな声でペコリとお辞儀をした。

「大鷲族のイスラです! ルーイとは前も一緒にクエストやったよね。よろしく!」

 オリーブグリーンのおかっぱの女の子がさわやかに挨拶した。背中に長い鎖のついたモーニングスターを背負い、短めの剣を腰に挿している。



「魔術師のルーイと、こっちは戦士のアーロンです。よろしくお願いします」

 ルーイも自己紹介してあいさつした。

 今回は、この四人でクエストに挑む。

 渓谷までは、馬車で行ったほうがよいくらい距離があるのだが、ハーピーに襲われるのを恐れて、なかなか馬車を出してもらえないため、仕方がないので歩いて行く。



「ルーイさんとアーロンさんと組めてよかったです」

 てくてくと連れ立って歩きながら、ローナが微笑んだ。

「ローナは、おとなしそうに見えるから、男性冒険者と組むと、しょっちゅうセクハラされたり、舐められて重要な役割を回してもらえなかったりするんだって」

 イスラが解説した。

「その点、ルーイさんとアーロンさんは、女の子を誘うけど、セクハラしたり無理に飲ませたり、家に連れ込もうとしたりしないって聞いて、安心したんです」



 カイラとニーアの時もそうだったが、婚活という不純極まりない動機で冒険者をやっているのに、結果としてルーイは、紳士的な男性冒険者だという評判が広まってしまったようだ。



「そんな不埒な奴がいるんだな」

 ルーイは義憤を抱いた。

「いるいる! 酒場で晩御飯食べた後、家までつけられたこととかあるよ! 稼げる女性冒険者にタカる男とかもいるみたいだし」

 イスラがぷんぷん怒って言った。ローナも眉をひそめている。

「そういうわけで、一人暮らしするのも危ないし、家賃もかさむから、今、友達と二人で住める家を探してるんだ」

 とイスラが言った。だからこの高額報酬のクエストに挑戦することにしたのだという。



「そうなのか。俺も家を持ちたいと思っていて、冒険者稼業をやっているんだ。奇遇だな」

 ルーイは言った。

 イスラと二人で、しばし「どのあたりの物件がいいか」「どの商会に聞くのがいいか」と盛り上がっているうちに、渓谷の入り口についた。



 平野部に突き出た台地の端が、赤茶けた岩だらけの急峻な崖となって、街道の両側に覆いかぶさるようにしてそびえたっている。

 早くも、ギャー、ギャー、というハーピーの鳴き声が、どこかから聞こえてくる。



「よし、行くぞ」

 ルーイが言うと、イスラが

「アーロンは、あたしが崖の上に連れて行くね」

 大鷲族のイスラは、部族の固有スキルとして、空を飛ぶことができる。ルーイとローナも魔法で飛ぶことができるが、魔力がもったいないので、アーロンを運ぶのはイスラにやってもらった。



「おお~! すっげ~~!」

 イスラにぶら下がって宙に浮かぶと、アーロンは歓声を上げた。

 ルーイとアーロン、ローナとイスラのチームに分かれて、それぞれ渓谷を挟む両側の崖のてっぺんに陣取った。ルーイが反対側の崖を見ると、ほぼ垂直に切り立った斜面にに、ハーピーが何羽か止まっているのが見えた。わずかな岩の出っ張りに作られた巣も見える。

 ハーピーの群れは、すでにこちらの気配を察知しているようで、何羽かは、叫び声を上げながらぐるぐると飛び回っている。



「アーロン、ホントに崖の上スタートでいいのか?」

 事前の打ち合わせでアーロンは、「崖から飛び降りながらハーピーを倒す」と言っていたが、すぐ足元の斜面は、ほぼ垂直だ。

「大丈夫だって! わくわくするな!」

 アーロンは、嬉しそうに肩をぐるぐる回し、剣を抜いた。

 例によってアーロンは、何の防具もつけていない。心配になったルーイは、またしてもキュルキュルと物理防御上昇の魔法をかけてあげるのだった。



「それじゃ、ローナ、頼むぞ~!」

 ルーイが手を振ると、ローナが両手を広げて前に突き出した。



「スパイダー・ウェブ!」



 ローナの指先から、しゅるしゅると蜘蛛の糸が出て、渓谷の入り口と出口の側面を包み始めた。

 街道の上に広がる空間は、シャッターを閉められたように前後を閉ざされた。

「くうっ……」

 両手を突き出しながら、ローナが顔をしかめた。これだけの面積の糸を出すのは、相当な精神力を使う。

 ハーピーたちは、焦ってギャアギャアと叫びながら、こぞって上空へ舞い上がり始めた。

「ライトニング・ボルト!」

 ルーイは、目の前に上がってきたハーピーたちを、魔法で次々と撃ち落とし始めた。

 致命傷を与える必要はない。

 少しでも当たれば、ハーピーたちはバランスを失い、あるいは避けようとして、次々と下降していく。

「よっしゃ! 俺の出番だぜ!」

 アーロンが、崖の両脇からズザザザーーッと駆け下りながら、行き場を失って崖に止まろうとするハーピーを、次々と切り落としていく。



 ──すごいバランス感覚だな……。

 ルーイは、魔法を撃ちながらもアーロンの動きに感嘆した。

 ほぼ垂直に切り立った崖の、ちょっとした足場を瞬時に見抜いて、平地と変わりない速度で駆け抜けていく。

 ジグザグに崖を駆け下りながら、目ざとく巣を見つけると、剣で崖下に払い落とし、瞬時に向きを変えると、またハーピーを斬りながら駆け下りていく。

 いつもの無邪気な表情が嘘のように、アイスブルーの瞳は、瞳孔が針のように小さくなって、獲物を狩る狼のようにギラギラと光っている。

「どりゃー!」

「っしゃー!」

 アーロンが気勢を上げるたびに、ハーピーが撃ち落とされ、崖下に落ちていく。

 上に逃れようとするものは、ルーイが撃ち落とし、渓谷の真ん中や反対側の崖に逃げて行こうとするものは、イスラが飛びながらモーニングスターで叩き落としていく。



 ズザザザーーッとアーロンは渓谷の底、街道脇に降り立った。

 ルーイやイスラに撃たれて、翼が傷ついたハーピーたちが、一気にアーロンに襲い掛かる。

 アーロンは、臆するどころか、舌なめずりをして、次々とハーピーを切り捨てていった。



 ──やっぱりあいつの戦闘センス……というか野生の勘みたいなものは、すごいな。

 ハチミツ牧場の時にも思ったが、ルーイは崖の上からアーロンの勇姿を見つめて、あらためて感嘆した。



 ある程度腕に覚えがあっても、練習と実際の冒険は異なるもので、ギルドに入りたての冒険者は、そんなすぐには活躍できない。

 しかし、戦士としてのアーロンの能力はずば抜けており、あっという間にルーイと遜色ない戦いぶりを見せるようになった。

 鋭い嗅覚は、洞窟や遺跡の道順を調べるにも役立つし、仲間の位置も見失わない。

 集団戦になった時に、どの獲物から狙うべきか、瞬時に正しく判断し、素早く襲い掛かる。



 ──カッコイイな……。

 と思いかけて、ルーイはハッとした。

 ──いやいや、何を考えてるんだ俺は……。付き合いが長い方が、よく見えるのは当たり前だ。うん。



 お互いのことをよく知っているので、次にルーイが何をするつもりなのか、ちょっと言葉を交わしただけで、すぐに理解してもらえるのも、ルーイにとっては大いに助かった。

 戦闘中のコミュニケーションというのは意外と難しい。離れた距離にいることも多いし、「あっちから行く」と手で示されても、言われた側には「どっちから」なのかいまいちわからないし、込み入った話をしている時間もない。

 遠距離から魔法を撃ちたいのに、射線に入り込まれることもしょっちゅうあったが、アーロンはルーイの雰囲気を察して、魔法を撃つ時は、射線から外れてくれる。

 結局ルーイは、毎度毎度、アーロンと一緒にクエストに行ってしまうのだった。



「よっしゃー!」

 アーロンが最後のハーピーを斬り捨てた時、ちょうどローナのスパイダー・ウェブが焼き切れて、元に戻った。

「はぁ……、はぁ……」

 ローナは、肩で息をしながら、崖の上にへたりこんだ。



「これで全部か? イスラ、見回ってみてくれ」

 ルーイが言うと、イスラは飛び回って岩陰を探し始めた。



 ルーイも、辺りを見回してみる。

 すると、地上からアーロンが、

「まだハーピーの匂いがする!」と上に向かって叫んだ。

 その時、「ギャーー!!」

 という大きな鳴き声とともに、五羽ほどのハーピーが、岩と岩の間から飛び上がってきた。



 ──まずい!

 イスラは少し離れた岩場にいるし、ローナは魔力切れだ。



 ──くっそ……!

 ハーピーは、ぐんぐんと上空に向かって飛びあがってくる。一羽一羽撃ち落としていたら取りこぼしが出てしまう。

 ──でも、あきらめてたまるか! 俺のマイホーム!



 ルーイは天に向かって両手を広げ、

「メテオ・ストライク!」

 と叫んで、残り全部の魔力を振り絞った。

 ドカドカドカッ!!

 と大岩が次々と上空からハーピーに降り注ぎ、残るハーピーも撃ち落とされていった。



「やっ……た……ぞ……」

 最後のハーピーが錐もみしながら崖下に落ちていくのを見届けると、ルーイの意識は途絶えた。
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