ツンデレの「デレ」はわんこにお見通し

ぽんぽこまだむ

文字の大きさ
9 / 20

第9話:泊まりはダメだぞ(フラグ)

しおりを挟む
 アーロンの背中で、ルーイが微かに身じろぎをした。

「う……ん……」

「あ、ルーイ、 目が覚めた?」

 ルーイは、魔力を使い果たして気絶してしまい、アーロンがおんぶして町へ戻ることになったのだ。

「ああ……」

 ルーイは気だるげな声で返事をして、顔を上げて前を見た。少し先をイスラとローナが歩いている。

「ハーピーは全部倒したよ! すごいねルーイ!」

 ルーイが最後に放ったメテオ・ストライクで、残っていたハーピーも全滅した。

「いや、お前も……」

 背中のルーイの心拍数がちょっと上がったのを感じて、アーロンは、でへへと笑った。



 ──俺も、ちょっとはカッコよく活躍できたかなぁ……。

 だったら告白してくれてもいいのにな。

 そう思ったが、ルーイは、

「悪いなおんぶなんかしてもらって。もう下ろしてくれていいぞ」

 と体を起こして背中から降りようとした。



「いいよ。疲れたでしょ。町までおぶっていくよ」

 ルーイをおんぶしていると、あったかいルーイのぬくもりが伝わってくる。背中からいい匂いも漂ってくる。

 このぬくもりを手放したくない……。



 ルーイは、きまり悪そうに、

「町のちょっと手前で下ろしてくれよ」

 と言ったが、力を抜いてアーロンの背中に寄りかかり、さっきより少しだけ体温の上がった頬が、首の後ろにもたれかかった。



 ──えへへ、嬉しいな……。

 アーロンの心が、わっふるわっふるしてきた。



「……ちっちゃい頃、ルーイにおんぶしてもらった時みたい。あの時とは逆だけど」

「あれは、お前が勝手に俺におぶさってきたんだろ」

 今では、アーロンのほうが、ルーイよりも頭1個分は背が高い。もうルーイがアーロンをおんぶするのは、とうてい無理だろう。



「あったかくて気持ちよかったな~」

「やめろよ恥ずかしい……」



 ──トクン、トクン、とルーイの心臓の音が伝わってきた。

 ルーイは、疲れたのかそれ以上ごたくを並べることはせずに、おとなしくアーロンの背中に顔を埋めて、また眠り始めた。



 ◇ ◇ ◇



 ギルドに報告に行くと、当日は報酬の半額、翌日担当者と依頼主が直接現場を確認して、ハーピーが全滅していれば残りの半額が支払われる、ということになった。

「高額報酬のクエストって、やっぱりちゃんとチェックがあるんだな」

 ルーイが感心していた。ギルドのクエスト管理の仕組みは雑すぎる、と日頃ぷりぷりしていたが、高額報酬にはちゃんとこのような仕組みがあるようだ。

「残り半額、ちゃんと明日もらえるんでしょうか……」

 ローナが、心配そうな顔でうつむいた。

「大丈夫だって!」

 イスラが励まし、とりあえず半額の報酬、10万Gを四人で2万5千Gずつ分配した。



「この後どうする? 晩御飯食べに行く?」

 アーロンが聞いた。女の子を誘っているように見えて、実はそうではない。

「どうせ女の子からルーイと一緒に食べに行きたいって言われるけど、結局普通に仲良く解散して、俺とルーイで部屋で二次会やるだけだから、それだったら最初からルーイと二人で晩御飯食べたい」という意味だ。



「私は、家に帰ります。ありがとうございました」

 ローナが、小さな声で言った。2万5千の報酬を受け取ったとは思えない、小さな声だ。

「え、いいの? せっかくだから食べて行こうよ」

 イスラが声をかけたが、

「いいんです。……また明日」

 と言って、とぼとぼと立ち去っていった。

「ローナ、疲れてるのかな。じゃあ、晩御飯は、せっかくだし皆で食べたいから、明日残りの報酬を受け取ってから、また考えよっか」

 イスラもそう言うと、手を振って帰って行った。



「よし! これで家が買えるかも……」

 二人だけになると、ルーイは金貨の入った革袋を見つめて目を輝かせた。

「そっか! よかったね! ……じゃあ、おいしいもの買って、ルーイの家で食べようよ!」

 アーロンはそう言って手を突き上げ、ルーイの腕を取って、ぐいぐい引っ張っていった。

「ちょ……ちょっと……! なんで俺ん家なんだよ」

 ルーイは、慌ててアーロンを振りほどこうとした。

「え、ダメ?」

 アーロンはきょとんとして言った。アーロンの家に来てもいいが、アーロンの母親は、ルーイが来るとわかったら、張り切って色々料理してしまうので、かえってルーイに気を使わせてしまうのだ。



「……いいか、ちゃんと皿は洗えよ。それから泊まりはダメだぞ、ちゃんと帰るんだぞ」

 ルーイは、しぶしぶ仕方なく、といった表情で、了承した。

「うん!」

 ルーイからは、嫌がっている匂いは全然しなかった。アーロンはわっふるわっふるとついていった。



 アーロンにはわかっていた。

 昨日の夜、こっそり布団に潜り込んで一緒に寝た翌朝のこと。

 早朝、ルーイがアーロンの腕の中で目を覚まし、めちゃくちゃドキドキしていたことを。

 あれは、「目が覚めたらアーロンがいたのでびっくりした」じゃなくて、「目が覚めたらアーロンがいたのでドキドキした」匂いだった。

 なのにルーイは、頑張って起きてないフリをして、そのままアーロンの腕の中で寝ていたのだ。

 顔を真っ赤にして目をつぶっている姿を、薄目を開けて見ていたら、触りたくなってしまったので、アーロンは仕方なく、こっそり床に戻って、最初からそこで寝ていたようなフリをした。



 そうしたら、ルーイがおもむろに、「たった今目覚めました」みたいなていで、「う~ん」などと伸びをしてベッドの上に起き上がったのだ。



 ──ルーイ、かわいかったなあ。でへへへへ……。

 

 もちろん、アーロンは今日も泊まって行くつもりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

数百年ぶりに目覚めた魔術師は年下ワンコ騎士の愛から逃れられない

桃瀬さら
BL
誰かに呼ばれた気がしたーー  数百年ぶりに目覚めた魔法使いイシス。 目の前にいたのは、涙で顔を濡らす美しすぎる年下騎士シリウス。 彼は何年も前からイシスを探していたらしい。 魔法が廃れた時代、居場所を失ったイシスにシリウスは一緒に暮らそうと持ちかけるが……。 迷惑をかけたくないイシスと離したくないシリウスの攻防戦。 年上魔術師×年下騎士

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

待っててくれと言われて10年待った恋人に嫁と子供がいた話

ナナメ
BL
 アルファ、ベータ、オメガ、という第2性が出現してから数百年。  かつては虐げられてきたオメガも抑制剤のおかげで社会進出が当たり前になってきた。  高校3年だったオメガである瓜生郁(うりゅう いく)は、幼馴染みで恋人でもあるアルファの平井裕也(ひらい ゆうや)と婚約していた。両家共にアルファ家系の中の唯一のオメガである郁と裕也の婚約は互いに会社を経営している両家にとって新たな事業の為に歓迎されるものだった。  郁にとって例え政略的な面があってもそれは幸せな物で、別の会社で修行を積んで戻った裕也との明るい未来を思い描いていた。  それから10年。約束は守られず、裕也はオメガである別の相手と生まれたばかりの子供と共に郁の前に現れた。  信じていた。裏切られた。嫉妬。悲しさ。ぐちゃぐちゃな感情のまま郁は川の真ん中に立ち尽くすーー。 ※表紙はAIです ※遅筆です

処理中です...