ツンデレの「デレ」はわんこにお見通し

ぽんぽこまだむ

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第10話:わんこに餌付けしたと思ったら、狼さんでした。

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「これでよし、と」

 ルーイは、金属でできた丈夫な宝箱に報酬を入れて、魔法でロックをかけた。

 これで、決まった呪文を唱えなければ、この宝箱を開けることはできない。



「今、メシ作ってやるから待ってろ」

 ルーイはかまどに火をつけて、晩御飯の支度を始めた。

 岩塩で干してある羊肉や、リーキ、ニンジン、香草などの具を炒めて、それから水を注ぎ、コトコトと煮込む。

 パンを浸して食べると、固いパンでもけっこうおいしく食べられるのだ。

 今日はせっかく、高額報酬のクエストを達成したから、デザートも作っていいだろう。

「せっかくだから、いいもの出してやるぞ」

 スープをコトコト煮ている間に、ルーイは木箱からリンゴを取り出した。

 リンゴをナイフでスライスし、レーズンと一緒にバターで炒める。



「あっ! アップルパイみたいな匂いがしてきた!」

 バターの焦げる香ばしい匂いと、リンゴの甘酸っぱさが一体となって、アーロンは、心のよだれが止まらなくなった。



「残念ながらパイ生地がないんでな。なんちゃってアップルパイだ」

 そう言ってルーイは、ソテーしたリンゴとレーズンをいったん皿に取り置くと、パンを薄くスライスし、フライパンの上に押し付けて、残っているバターとリンゴのうまみソースを吸わせた。

 別の皿に、パン、リンゴ、パンの順に乗せて、上からぎゅっと押し付けて端っこをなるべく閉じながら、ナイフで二分割する。

「すごい! アップルパイだ!」

 アーロンが待ちきれずに手を伸ばすと、

「駄目だ。デザートはおかずを食べてからだぞ」

 とルーイが手をはたいた。

 アーロンは、ハフハフしながらルーイも座るのを待った。



「おいし~い! ねえルーイ、家を買う時は、俺の部屋も作ってよ」

 ちゃんとスープから先に食べながら、アーロンがホクホク顔で言った。

「なんでお前の部屋を作らなきゃいけないんだ。結婚するんだって言っただろ」

 ルーイが苦々しい顔で言ったが、イヤがっている匂いが全然しない。



 ──ホントに、ルーイと一緒の家に住めたらいいなあ……。

「あのね~、俺の部屋は、通りに面してる二階がいい。見晴らしがいいほうがいいんだ~」

「人の話聞いてるのか?」



 ──隣の部屋をルーイの部屋にしよう。地下にはクエストでもらったアイテムを飾る場所を作りたいな……。暖炉の前で二人でくつろげるぐらいの広さは欲しいな……。

 アーロンの脳内に、暖炉の前でルーイに膝枕されてよしよしされる自分の姿が、ありありと浮かんだ。



 ◇ ◇ ◇



「あ~おいしかった~! アップルパイっぽいやつも、けっこうアップルパイっぽくておいしかった!」

 食事を食べ終わると、アーロンは、ちゃんとお皿を下げて洗った。



「はい、じゃあごはん食べたからおうち帰ろうな」

 流しから部屋に戻ろうとしたアーロンをさえぎって、ルーイが声をかけた。



 アーロンは、しゅんとして、部屋の入口に立ちふさがっているルーイのすぐそばに立つと、

「ルーイと、もっと一緒にいたい……」

 と小さな声で言って、ルーイの頭のてっぺんにおでこを乗せた。



 ルーイと過ごせば過ごすほど、どうしてもっと一緒にいられないんだろう、というもどかしさが募っていく。

「……また明日、一緒にギルド行くだろ」

 少し照れたようにルーイが言ったが、アーロンは、ちょっとの時間でも離ればなれになるのが、切なくてたまらないのだ。



「うん……でも、明日まで待てないもん……」

 アーロンはルーイの肩に鼻先をちょっと当てて、クンクン匂いをかいだ。



 ──ルーイの匂い、いい匂い……世界で一番いい匂い……。ずっと嗅いでいたい……。



「おい……やめろって……」

 そうは言うものの、ルーイの匂いは、イヤがっていなかった。むしろ、いい匂いがさらに強く、身体から立ち上り始めている。ハチミツ牧場でキスをした時に嗅いだ匂いだ。



 ──これ、ルーイが発情ドキドキしてる匂いだ……。



「ねぇ……泊まって行っちゃダメ?」

 アーロンは、ルーイの背中に腕を回して抱き寄せた。

「ダ……ダメだ……」

「なんで? しょっちゅう泊まってるじゃん」

 ルーイが返答に困っている間に、アーロンは、ルーイを強く抱きしめて、肩関節にぴったり顔を当て、フンフンと思いっきり匂いを嗅いだ。



 ルーイはビクッと肩をすくめた。

「ちょ、ちょっとなんで匂い嗅いでるんだよ……」

「だって、ルーイの匂い、好きなんだもん」

「そんな、汗臭いだろ……」

 ルーイは恥ずかしがったが、ルーイの汗の匂いなど、アーロンにとっては臭いうちに入らない。むしろ中毒性を刺激されるいい匂いだった。それに今アーロンが感じているのは、汗の匂いだけではなかった。



「脇の下を嗅いだら、汗の匂いしか嗅げないけど、ここは、うなじから降りてくる髪の毛の匂い、首筋の匂い、顔の匂い、吐息の匂い、服の匂い、全部が嗅げる素晴らしい場所なんだ」

 それらが一体となって、ルーイはとってもいい匂いを出している。

「ルーイ、いい匂い……。世界で一番好きな匂い……」



「ちょ……やめろって……!」

 ルーイは身をよじったが、アーロンが、がっしりと肩関節を抱きしめているので、抜け出すことはできない

「……お……おい……!」

 アーロンは、フンフン匂いを嗅ぎながら、肩から首筋、頬まで鼻を近づけた。

 ルーイの吐息を、唇の気配を、頬に感じた。

 たまらなくなって、ほぼ無意識に、ルーイの唇にちゅっと唇を押し当てた。



 匂いを嗅ぐ動作から、流れるように自然な動作で唇を重ねられ、ルーイには、まったく避ける暇も抵抗する暇もなかった。

 ルーイの唇は、柔らかくて熱かった。

 ちゅっ、ちゅっ、と何度も唇を重ねれば重ねるほど、もっともっとキスしたくなる。ハチミツ牧場でキスをしてから、ずっと我慢していたのだ。

 ルーイがなすがままに唇を貪られている間に、アーロンは、ちゅるっと舌を滑りこませた。



「んぁっ……や、やめろぉ……」

 舌を絡められながらも、ルーイはなんとか声を絞り出した。



 ──はぁ、はぁ……。

 アーロンは、やめることなく、何度も唇を吸い、夢中で舌を絡めた。



 ルーイの匂いはイヤがっていなかった。

 甘酸っぱいようないい匂いが、むしろさっきよりも強く立ち上っている。

 そんなにいい匂いを出しておきながら、口では「やめろ」と言っている……。なぜかわからないが、それがアーロンをさらに興奮させた。



 アーロンは、ルーイの身体を壁に押し付けると、ちゅっちゅっと唇を吸いながら、

「警戒している生き物はね、俺の毛穴が総毛だつくらい、ピリピリしてるんだよ」

 と言って、ルーイの手に指を絡め、トンッと壁に押し付けた。



 ルーイの手は、くにゃくにゃに脱力していて、アーロンのなすがままだ。

「ルーイ、身体に全然力、入ってないじゃん」

 アーロンは、それを見せつけるようにルーイの顔を覗き込みながら、絡めた手をぎゅっと握った。



「ちが……、ちがうんだ……、なんか体が変で……」

 ルーイが真っ赤に頬を染めて必死に言い訳しているのがかわいくなって、アーロンはもう一度唇を奪った。

 とろとろと舌を絡めとり、すくいあげると、アーロンの鋭い犬歯にルーイの舌先が触れた。



「んっ……」

「ルーイ、可愛いね……すっごく興奮する」

 アーロンは、ルーイの耳元ではぁっと吐息をついた。

「ルーイ、ホントは、ハチミツ牧場でキスした時のこと、覚えてるでしょ」



 ルーイの身体がビクッとした。

「お、覚えてな……」

 アーロンは、片手は指を絡め合わせたまま、もう片方の手でルーイの頬を掴み、ちゅぱっと唇を吸いながら舌をぺろっと入れ、すぐに離した。

「嘘ついてたらわかるんだよ。ルーイ、ホントは覚えてる……」

 ルーイの吐息が荒くなった。



「ルーイ、いっぱい舌を絡めて、めちゃくちゃエロかった……。あの時、ルーイもすっごく興奮してたよね……」

 アーロンは、ルーイの頰を撫でながら、甘く深いキスをした。

「ねえ……もっと舌出して。あの時みたいに……」

 アーロンが誘うと、ルーイはおずおずと舌を差し出してきた。それを絡めとり、ねっとりと擦り合わせる。

「……んふっ」

 脳髄までとろけるような気持ちよさが身体を駆け巡る。



 アーロンは、ルーイの首筋に唇を当てながら囁いた。

「……泊まって行っても、いい?」

「だ……だめに、決まって……」

 そう言いながらも、ルーイの身体は、快感に震えている。

 アーロンがルーイの服の中に手を入れようとした時、



 ドンドンドン!! ドンドンドン!!

 と家の扉が勢いよく叩かれた。



「は、はいっ!?」

 驚いたルーイが声をかけると、

「ルーイ? あたし。イスラ! ちょっといい?」

 という声がした。

 ルーイが慌てて扉を開けると、息せき切ったイスラがいた。

「あ、アーロンもいたのね。ちょうどよかった!」

「どうしたんだ、イスラ」

「ローナが、大変なの!」

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