ホラー短編集

デコポン

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ある日、雨が降りしきる中、主人公はひとりで帰宅していました。道路は水たまりで満ちており、水しぶきがはねる音が響いていました。濡れた服を身にまとい、風に吹かれながら歩く主人公の目の前に、ひとつの傘が捨てられているのを見つけました。

その傘は、黒くて大きく、古びたものでした。見るからに使い古され、長い間放置されていたような傘です。主人公はなぜかその傘に引かれるように感じ、傘を手に取りました。

すると、突然、傘が震え始めました。主人公は驚きつつも、なぜかその傘を持ち続けたくなってしまいました。不思議な魅力に引かれているような感覚がありました。

帰宅後、主人公はその傘を玄関に立てかけました。しかし、夜中になると、傘から奇妙な音が聞こえてきました。まるで、風に傘が揺れる音のような、しかし違う何かが交じった音です。

主人公は興味津々で、音のする方へと近づいていきました。廊下に足を踏み入れると、音はますます大きくなり、どんどん不気味な響きを増していきます。

すると、突然、廊下の光が消えてしまいました。主人公は暗闇に包まれ、恐怖で身体が凍りついてしまいました。しばらくすると、廊下の奥からほんのりと赤い光が漏れてきました。

主人公は怯えながらも、その光の方へと進んでいきました。すると、光の中には何やら異様な光景が広がっていました。廊下には無数の傘が立てかけられ、傘の中には何かがいるような気配がありました。

そして、その傘の中には目があり、口があり、歪んだ笑みが浮かんでいました。主人公は恐怖に震えながらも、言葉を発しました。

「何が起きているんだ…?」

すると、傘たちが一斉に蠢き始め、主人公に向かって迫ってきました。その時、傘たちから不気味な笑い声が聞こえ、主人公は恐怖に打ち震えました。

「キキキキキ…」

主人公は必死に逃げようとしましたが、傘たちは執拗に追いかけてきます。廊下は闇に包まれ、主人公の足音が響き渡ります。

息も切れ、逃げる力もなくなった主人公は、傘たちに囲まれてしまいました。そして、傘たちが主人公の上に集まり、彼を完全に覆い尽くしました。


主人公の叫び声が聞こえなくなるまで、傘たちは彼を飲み込んでいきました。彼の存在は完全に消え去り、傘たちも再び静かに立ち並びました。

その後、その場所では誰も傘を手に取ることはありません。ただ、時折、傘たちの中から不気味な笑い声が聞こえるという噂が広まりました。そして、人々はその場所を避けるようになりました。

傘の中に隠された恐怖の存在は、いつも誰かを待ち構えているのかもしれません。それを知る者はいないまま、この怪奇な事件は続いていくのでした。

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