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 セレスティさんが家に来て1週間、何事も変わらず僕の日々は過ぎて行く。午前中にルシルと稽古して、午後は魔道具作りだ。

 変わったとしたら、家に毎日の様に何かの業者が来ている位かな。家が徐々に貴族の屋敷っぽくなって行く。

 えーと、婚約者に手を出すのはアウトなの?セーフなの?って言うかよく考えたらセレスティアさんって15歳なんだよな。日本基準なら完全にアウトだよな。まあ、僕も一応15歳だから良いのかな?この世界は15歳で成人だって言うしな。

 とりあえず完成した魔道具を売りに行く。ルーメンさんに断って、ルシルを連れて行く。なんだろう?何故か魔道具屋に行く時はルシルを連れて行くのが普通になってるぞ。

 魔道具屋に着くと相変わらず人っ子一人居ない。これで繁盛しているのかな?

「お主か?また、何か作って来たのか?」

 このお婆さんは気配を消して忍び寄るので心臓に悪い。

「今日は3重付与ですが、付与を変えてみました。物理防御、魔法防御、状態異常回復です。」

「ほう?お主なかなかセンスがあるのお。値段は前回と一緒で良いか?」

「構いませんよ。前回と同じく指輪と腕輪が100個ずつです。」

「うむ、では代金じゃ。」

 そう言って白金貨の入った麻袋を投げてよこす。

「ちなみに、デザインなんですが、売れ筋のデザインとかあるんですか?」

 今は、地球の指輪やブレスレットを参考にデザインしている。

「そうじゃな。やはりドラゴンの意匠などが人気がたかいのぉ。」

「ドラゴンですか?見本とかあったら見せて貰えませんか?」

「こんな感じじゃな。」

 そう言って、小さな杖の様な物を見せてくれた。杖の柄の部分にドラゴンっぽい模様が入っている。絵文字の様な感じだ。

「こんな、簡単な模様で良いのですか?」

「指輪の様な小さな物に複雑な模様は付けられんじゃろ?」

「まあ、確かに。」

「ドラゴンの意匠を掘れば、通常の2割増しで買い取ってやろう。」

「解りました。次回はドラゴンをデザインして来ます。ところで、僕が卸した魔道具は何処で売ってるんですか?」

「それは企業秘密じゃよ。」

「あ、そうすか。まあ、無理には聞きませんよ。こちらは買い取って貰えれば問題ありません。」

「面白い小僧じゃな。気に入った、これをやろう。」

 そう言って古びた1冊の本をくれた。

「これは?」

「読めたらお主の人生が変わるかもしれん。読めなければ売れば良い。白金貨100枚位にはなるじゃろうて。」

「そんな凄い物を貰って良いのですか?」

「お主が連れている、その子只者では無いだろう?お主ならその本、無駄にしないとワシは思って居る。謂わば先行投資じゃな。」

 おっと、ルシルの事までお見通しとは恐ろしい婆さんだ。

「期待に応えられるよう努力します。」

 魔道具屋を辞し、屋敷に帰る。屋敷がまた変化してる。

 セレスティアさんとルーメンさんが何やら話をしているので邪魔にならない様に、これ何時ものとだけ言って、ルーメンさんに麻袋を渡し部屋へ戻る。ルシルは厨房へ向かった、おやつだろう。

 セレスティさんが何時ものってなんですか?と聞いて居る。

「これはご主人様の収入です。週に1度持ってこられます。」

「週に一度ですか?」

 はいと言ってルーメンさんが中を検める。セレスティさんは白金貨が大量に入っているので驚いている。

「毎週こんなに稼いでいるのですか?公爵家でも月に30枚位ですよ。」

「うちのご主人様は甲斐性がありますからな。」

「エイジさんって何者なんでしょう?」

 と言う会話があったのは知らずにエイジは部屋でブラスマイヤーと相談している。

「ドラゴンの意匠って言うけど、もっとリアルなの作れるよね?」

「この国の技術では無理だな。あと数百年は先の技術だぞ。」

「例えばこう言うのとか作ったら不味いかな?」

 そう言って、立体的なドラゴンの顔を模した指輪を出す。

「あの婆さんなら喜びそうだな。」

「そう言えばお婆さんから貰った本、なんだろう?」

 ストレージから解析する。どうやら古代文明の魔法書の様だ。読めれば人生が変わるって言ってたな。って言うか、普通に読めるんだが、普通の人には読めないの?

「それは多分、俺の生きていた時代の本だな。だからお前にも読めるのだ。」

「ああ、なるほど、文明は崩壊したけど、まったく生き残った人が居なかった訳では無いんだね。」

「そうだな、僅かだが生存者はいたはずだ。」

「でもさ、そうなるとこの魔法書に載ってる魔法は全部ブラスマイヤーが知ってる魔法って事になるよね?人生が変わるほどの本では無いって事?」

「いや、俺は人間だった頃は剣を主に使って居た。魔法は補助だったな。そう考えると俺の知らない魔法もその本には載ってるかもしれない。」

「ん?おかしくない?神になれば全知全能なんでしょ?知らない魔法があるって矛盾してない?」

「矛盾はしてないぞ。神は全知全能だ、理さえ解ればその魔法は使える。しかし、失われた魔法は何の魔法なのかが解らない。魔法名を聞いても理が解らなければ使えない。」

「なるほど、つまり、どんな魔法なのか解れば使える訳だね?」

「そう言う事になるな。なのでその本、俺も興味がある。」

 その後、食事をしてから部屋に籠って本を読みふけった。知ってる魔法が知らない名前で出ている。中には知らない魔法も出て来るが、ブラスマイヤーは知っている様だ。中盤に差し掛かった頃、ブラスマイヤーも知らない魔法が出て来た。

「これは、通信の魔法かな?」

「用途はそうだが、この魔法を使えばこうやって喋らなくても意思の疎通が可能になるぞ。」

「って事は、人前でもブラスマイヤーと会話出来るって事?」

「そう言う事だ。」

「魔法名は『念話』と読むのかな?」

「うむ、そう言う魔法があると言う事は聞いた事がある。」

「他には何か無いかな?」

「その、刻印魔法と言うのは俺も知らんぞ。」

「ん?これか?魔法を刻印して付与する、これってエンチャントとは違うの?」

「俺の時代には魔法陣と言う物があった。多分これは魔法陣を使った付与だろうな。」

「普通の付与と何が違うの?」

「普通の付与は1度しか出来ない。この刻印魔法は刻印する事で付与を増やして行く事が出来る。」

「って事は多重付与が簡単になるって事?」

「簡単に言えばそうだな。だが、膨大な魔法陣を覚えなければならないぞ。」

「ストレージを使えば簡単なんじゃない?」

「うむ、ストレージを多少いじれば、装備→付与→刻印と言う風に選択式に出来るかもしれんな。」

「ストレージっていじれるの?」

「知識があればな。」

 ストレージってパソコンの画面みたいだよな。って事は中身も似た様な物かな?

「この本をストレージに入れて解析すれば解析結果から新規でフォルダを作成できないかな?」

「む?フォルダと言う言葉は教えて無いのだが何故知っている?」

 やはりストレージはパソコンの感覚でいじれるらしい。

「僕の世界にパソコンと言うのがあってね、このストレージに似たインターフェイスなんだよ。だから、構造も似てるのかと思ってね。」

「ほう?それは興味深いな。神のツールと似た様な機械を人間が使って居るのか?」

「ちょっといじってみるよ。」

 まず、本をストレージに仕舞い解析をする。思った通り刻印の所で魔法陣を読み込んでいる。暫く待つとストレージが止まる。新規作成を選択して、刻印と言うフォルダを作り、魔法陣を中に入れると、付与の欄に刻印が現れる。これで刻印を選択すれば魔法陣を選ぶ画面が出るはずだ。

 試しに指輪を選択し付与→刻印と進むと魔法陣の一覧が出る。

「おお、成功したぞ。だがこのままじゃ何の魔法陣か解らないな。」

「魔法陣の選択画面の上に『詳細』と言う文字は無いか?」

「あるぞ、これを押せばよいのか?」

 おお、魔法陣の横に名前が出た。これで何の魔法陣か判るぞ。

 試しに魔法反射の魔法陣を選んでみる。特に変わった様子は無いがこれで完成なのだろうか?ストレージから指輪を取り出す。

 鑑定を掛けるとちゃんと魔法反射が付与されている。

「成功だ。これで付与が楽になるな。」

「うむ、しかし、これだけでは人生を変える程の物とは思えんのだが、まだなにかあるのかな?」

 本を取り出し続きを読み始める。それは一番最後に載っていた。

「時越えの魔法?知ってるか?」

「解らんが、文字通りなら確かに人生を変える魔法だな。」

「どう言う事?」

「おそらくだが、時間を操る魔法だろう。過去へ行ったり未来へ行ったり出来るのでは無いかと思う。」

 タイムマシン?

「神の魔法で時間を止める魔法はあるが、これは人間が使って良い魔法では無いぞ。」

「あのお婆さん、この魔法を使ってるんじゃ?」

「過去から来た人間か、ありうるな。あの者、見た目通りの歳では無いと暗黒竜も言って居た。」

「問題は一方通行なのかどうかだな。」

「どう言う事だ?」

「過去でも未来でも行ったは良いが帰れないんじゃ使い物にならないじゃん。」

「ああ、人間はそう言う所を気にするのだな。」

 え?神は気にしないの?

「とにかく、その魔法は封印して置け。どうしても必要な時にだけ使う最終手段だと思え。」

 あとでお婆さんに聞こう。それまでは怖くて使えないよ。
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