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 さて、帝国の戦争騒ぎはひとまず落ち着いた。しかし僕は今回ずっと裏方だったので、力を持て余し気味だ。

 大森林に行って3か月に1度の間引きをしたが、イマイチすっきりしない。

 王国の冒険者ギルドと帝国のハンターギルドに白金貨5枚分ずつ魔物を売却したが、まだ3分の2位残っている。少し時間を空けて再度売りに行こう。

 季節は知らない間に春になっていた。あと1か月半でリアンが15歳の誕生日を迎える。大々的に祝ってやると約束したしなぁ。例の件は誤魔化せないだろうな。

 そう言えば古龍と呑みに行った。人化した古龍は渋いおっさんだった。基本ドラゴンは綺麗な顔をしている。更に銀髪をオールバックにした古龍のおっさんは、人間の世界ではモテるだろう。

 場所的に近いと言う理由で共和国の大衆酒場に行って見た。共和国の言葉は帝国語によく似ている。そう言えば街の雰囲気も何となく似て居るかもしれない。

 共和国は民主主義を布いているのだったかな?人の営みはあまり変わらないのに戦争が絶えないのは、そう言った主義主張のせいなのかもしれない。

 大衆酒場で適当に食べ物を頼んで、エールで乾杯した後は竜泉酒で盛り上がった。盛り上がったついでにブルードラゴンの串焼きもご馳走した。

 古龍はえらく竜泉酒が気に入った様で、自分でも作れる様に研究してみると言って居た。長く生きる古龍なので、そう言った楽しみを見つけるのも難しいのかもしれない。

「そう言えば、まだしばらくこの大陸に居るのか?」

「そうだな。そう長くは居るつもりは無いが、すぐに去る訳でも無いな、5年位はここに居ようと思っている。」

「じゃあ、時々で良いのでこの大陸の上を飛んでくれないか?」

「諍いを止めると言う奴か?」

「まあ、そうですね。」

「まあ、暇だから構わんぞ。」

 と言う事で、年に数回ドラゴンが空を飛ぶことになる。これによって各国は、戦争に向ける力を上空へと向ける事になり、戦争が起こる事が減るのであった。

 さて、これで終わればハッピーエンドなのだが、後日、帝国城に呼び出された。

 応接室に通されると、皇帝陛下とフローネル嬢が待っていた。なんか嫌な予感しかしないぞ。

「救国の英雄エイジ・フォン・フェリクス子爵。そなたを伯爵に叙する。」

 やっぱ陞爵ですか?これは断れない奴だよね?つーか、救国の英雄ってなんぞや?

「謹んで拝命致します。」

「うむ、それでじゃ、お主現在は独身だと聞いたが本当か?」

 それって、あれだよね?フローネル嬢を押し付けようって話かな?

「独身ではありますが、既に妻になる女性は居ます。もうすぐ成人するので、それを待って婚約を発表する予定です。」

「その話はアーベルシュタイン侯爵から聞いておる。平民の女性だそうだな。正妻は貴族の娘の方が良いぞ。フローネルを妻に迎えるつもりは無いか?」

 やっぱり来たな。

「フローネル嬢は年上ですし、なにより身分が違います。僕も平民出身なので、フローネル嬢をどう扱って良いか困ります。」

「しかしのぉ、現状貴族で、フローネルより強いもしくは同等の力を持っているのはお主だけなのじゃ。フローネルを一生独り身にして置くのも不憫だとは思わんか?」

 それはそうなんだけどねぇ、僕としてもこれ以上嫁を増やすのは困る訳で。

「それについては、僕も考えない事も無いのですが、実情、嫁を養っていく余裕が無いのです。」

「なんじゃ?金が無いのか?だったらフローネルを娶れば持参金を持たせるぞ?」

「いや、お金は十分あります。時間的な余裕の話です。」

「ほう?何やらお主は色々とやっておる様じゃのぉ。」

「まあ、それについては否定しませんが、僕と結婚しても幸せになれないと思いますよ。父親としては幸せになれない結婚には反対ですよね?」

「幸せかどうかはフローネルが決める事じゃ。我々が勝手に決めて良い物でもあるまい?」

 むむ、意外と手ごわいな。しかし、ここで折れたらセリーに殺されそうだ。

「当のフローネル嬢の意見は聞かなくて良いのですか?」

 フローネル嬢の援護射撃を期待しよう。

「私は、貰って頂けるなら、文句は言いません。力を得ると決めた時に結婚は諦めていましたので。」

 ええ、ちょっと、何言ってるの?

「どうじゃ?本人もこう言ってる事だし、考えてみても良いのでは無いか?」

 ヤバい、詰むぞ。これは時間を稼いでセリーと相談しないと。

「すぐに答えが出る問題では無いので、少し考える時間を下さい。」

「ふむ、今ここで決めろとは言わんよ。そうじゃな、1か月後位に答えを聞かせてくれ。」

「解りました。」

 僕は城を辞し、子爵邸には帰らず、適当な食堂に入った。適当に食べ物を頼み、酒を貰う。呑まないとやってられない。

 酒を呑んでも良い考えが浮かぶ訳では無いのだが、こういう時間も必要だと思う。

 どうする?帝国を捨てるか?王国には3人の妻とアスアスラが居る。王国に帰らないと言う選択肢は無い。帝国と王国の2重生活は難しいだろう。いや、待てよ、時空魔法で何とかならないかな?

 セリーに相談する前に、古代の魔法書で時空魔法で使えそうな物が無いか調べよう。

 決めたら行動は早い方だ。すぐに食堂を出て、王国へ転移し、自室に篭る。古代の魔法書を読み進めると、1つ使えそうな魔法がある。理論的にはこれを使えば、2重生活が可能になるはずだ。

 時間逆行の魔法。これと転移魔法を組み合わせれば、上手くすれば1日を2回送る事が可能になる。

 問題はそう上手く行くかどうか実験が必要だと言う事だな。

 まず、王国で1日過ごす。そして、帝国に転移する前に時間逆行を1日掛ける。この時間逆行は現実の時間を戻す訳では無く、僕自身に対して相対的に掛かる。つまり、1日前にタイムスリップするのと同じ効果だ。これで帝国に転移すれば同じ日を2回繰り返す事になる。

 ややこしいが、上手く使えば、同じ日の同時間に王国と帝国で活動できると言う仕組みだ。

 僕自身への負担が大きいが、僕はそれ程軟では無いと思っている。まあ、無理がある様なら止めれば良いだけだ。

 こうして、2重生活のお試し期間が始まる。普段あまりカレンダーを意識していなかったのが良かったのか、僕的には1日ごとに王国と帝国を行き来しているだけに感じる。だが、ルシルとの稽古が1日置きになったり、明日の約束が明後日になったりと、慣れるまでに時間が掛かる事も多い。

 1か月程、この生活をしてみて、イケると確信した頃、また帝国城から呼び出しが掛かった。僕的には2か月なんだけどね。

「して、答えは出たかね?エイジ・フォン・フェリクス伯爵。」

 この1か月で伯爵に相応しい家を購入し、使用人も増やした。リアンには色々と苦労をかけたが、ようやく伯爵家が稼働し始めたタイミングだ。皇帝陛下は、このタイミングを待っていた様だ。

「フローネル嬢の件、引き受けさせて頂きます。ただし、1年間の婚約期間を頂きたいと思います。」

「ふむ、それで構わん。よろしく頼むぞ。」

 賽は投げられた、セリーに内緒の2重生活だ。バレたら色々と面倒な事になりそうだが。

 新しい伯爵邸にはフローネル嬢を迎え入れる部屋を用意してある。当然リアンの部屋も劣らない様に体裁を整えた。

 陛下と協議の上、5日後にフローネル嬢が伯爵邸に来ることになった。

 ここの所、僕は伯爵邸にほぼ毎日来ている。リアンにもフローネル嬢が正妻として来る事は伝えてある。そして、リアンも第2夫人として正式に扱う事を約束した。

 これは2人の子供を作ると言う事を宣言した事になる。

 リアンはあと10日もすれば15歳になる。本当は1回切りのはずだったのだが、正式に妻にしてしまった。これは、セリーに会わせる訳には行かなくなったな。

 基本帝国に行けるのは僕の転移だけだが、ルシルなら飛んで行く事が出来る。だが、ルシルにとっては、毎日僕は王国に居る事になるので、わざわざ帝国に行く用事は無いはずだ。

 完全犯罪って成功するのかな?
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