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第九十三話
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結局、『聞く物語』第1弾は6日間で5万台以上売れた。毎日の集計の数字を見る限りまだまだ売れそうだ。月に10万台は不可能な数字では無いだろう。そして明日はいよいよ第2弾のミステリーが発売される。
ユーリは開店前に各店舗に商品を卸し明日の10時に一斉に発売する事を伝える。また、店頭宣伝用の魔道具も明日からはこれにして下さいと新しいのを渡す。それから第1弾のポスターの隣に第2弾のポスターを貼って来た。今日来た客はポスターを見て第2弾が出る事を口コミしてくれるだろう。
一方でチェスカさんの商会に卸したタオルも順調だ。まったく新しい生地と言う事で注目を集め、すぐに追加注文が1000枚ずつ入った。
「これで洋服を作る事も可能ですよね?反物はありませんか?」
チェスカさんが尋ねて来た。
「洋服も作れますが、これでシーツを作ると気持ち良いですよ。って事で140センチ×30メートルの生地を10種類預けます。価格設定は自由に行って構いません。売り上げの20%を仕入れ値として頂きます。この条件で如何でしょう?」
「解りました。その条件で問題ありません。」
じゃあと言って、何時もの様にマジックバッグに入れてチェスカさんに渡す。
「うちの商会で独占商品が扱えるなんて夢みたいです。お父さんも私が役に立ったので喜んでます。」
「チェスカさんが見つけて、自分で決断したんだから。自信をもって良いと思うよ。」
「そうですかね?でも、元々はユーリさんがお風呂場に置いて置いた備品ですから、私が開発した訳じゃないですし、まだまだですね。」
チェスカさんはまだ自信を持つには至っていない様だが、商才はあるとユーリは睨んでいる。
ミステリーが発売される日が来た。各店舗で魔道具が起動された10時、ユーリの隣にはユーカとイルミが居た。
「なんで学院休んでるの?」
「いや、やっぱり気になるじゃん。」
「そうそう、どうせ学院は辞めるし、こっちの方が面白いから。」
やはり学院は辞めると言う結論になった様だ。
「バートさん、偵察の方お願いします。」
「解りました。商会でじっとしてるのは気が気じゃないですからね。」
そう言って商会から出て行く。
「さて、他の皆も気になるだろうけど、新商品のアイデアは見つかったかい?」
「あー、私はタオル生地の使い道で頭が一杯で・・・」
チェスカさんが目を逸らす。
「ユーカとイルミは?」
「私は、あの魔道具に貼ってあるステッカーが気になります。」
ユーカの発言だ。『聞く物語』の魔道具にはパッケージと同じ絵柄のステッカーが本体の裏面に貼ってある。これは後々本数が増えた時に、判別が出来るようにだ。
「どう言う風に気になるの?」
「あれって何にでも貼れるんですか?」
「基本的には平らな所なら貼れるね。ただ水に弱いので濡れてる物とかは駄目かな。」
「では、あれに魔道具の使い方とか書いて魔道具に貼ったり出来ますか?魔道具って使い方を説明してから販売するんですが、結構後から使い方が解らなくなったって言う問い合わせが多いんですよ。」
「なるほど、そう言う使い方はありだと思うよ。他にも魔道具に作者の名前や商会の名前を入れるとかね。」
発想は面白いが、商売としてはどうだろう?
「イルミはどう?」
「私は小冊子の方が面白いと思うな。あんな感じで絵を沢山並べて、最小限の文字でストーリーを付けて行ったら、小説とは違う物語が出来そう。」
それは最早マンガだな。まだこの世界でマンガは早いのではないだろうか?
そんな雑談をしていたらバートさんが帰って来た。
「どうでした?」
「凄い事になってましたよ。まだ、販売開始して何分も経ってないのに大行列が出来てました。3店舗全部が同じ状況です。」
「うーん。商会2つは大丈夫だろうけど、雑貨屋イルミは応援が必要かな?」
「大丈夫よ。ベンマック商会から応援を3人出してるから。」
イルミが勝ち誇ったような顔で言った。どうやら、こうなる事を見越して先に手を打っていたらしい。流石はイルミだ。
「流石はオーナーと褒める所かな?」
「でしょ?」
「じゃあ、ちょっと早いけど昼食にしようか?何が食べたい?」
「「「甘い物!!」」」
女性3人がハモってる。
ユーリは、意表をついて大福を出してみた。飲み物は甘くない紅茶だ。皆、初めて見る甘味に興味津々だ。イルミとユーカも餡子は初めて食べるはずなので反応が楽しみだ。
「これはこのまま噛り付けば良いの?」
早速イルミが大福を突きながら質問してくる。
「そうだね、特に作法は無いから、片手で持って噛り付いて下さい。あまり沢山口に入れると喉に詰まるのでそれだけ注意してね。」
「面白い食感ね。中に入っているのは何かのジャムかしら?」
「これは大福と言う食べ物です。中に入っているのは甘く煮た豆ですね。餡子と言います。」
「これは何と言うか優しい甘さですね、男性にも受けそうです。」
バートさんが半分に割ってまじまじと餡子を見ている。
「そうですね。ケーキなどと違って油分が少ないので沢山食べても太り難いし、あっさりとした甘味を食べたい時にお勧めです。」
「太り難い?」
「物には限度ってものがあるからね、特にユーカ。」
食事休憩が済むとまた雑談タイムに入る。この雑談の中から新製品が生まれるのでユーリは積極的に話をするように推奨している。
「そう言えば、ユーカにはお兄さんが居るんだよね?会った事無いけど何してるの?」
「兄は12歳の時から魔道具職人の家に住み込みで弟子入りしています。月に1度くらいは帰ってきますね。」
「商会はお兄さんが継ぐの?」
「はい、一人前になったら帰って来いって父に言われてるそうです。」
「チェスカさんは兄弟は居るの?」
「うちは弟が居ます。今、12歳で、家の手伝いをしながら商会を継ぐ勉強をしています。」
「なるほど、と言う事は問題はイルミの所だけか。イルミは一人っ子だったよね?」
「そうだよ。でも、その辺はユーリ君に何か策があるんでしょ?」
「まあね。バートさんの所はお兄さんが継ぐんでしょ?今後ライビット商会とはどう言う関係にするつもりですか?」
急に振られてバートさんが慌てる。
「あの商会は僕が色々と手を加えているので、正直愛着があります。兄は頭が良いので、売れる商品を提供すれば断る事はしないでしょう。」
「じゃあ、今後もライビット商会にアドバイスして行くと?」
「そうですね、毎日実家に帰っているので家族とは色々な話をします。その中で気が付いた点があれば、ライビット商会にアドバイスしたり、バート商会に生かしたり出来ればと。」
「良いんじゃない?私もそんな感じだし。」
イルミが賛同している。
雑談をしているとたまに通信が入る。各店舗からの報告である。その時点ではユーリは何も言わない。
全ての商会からの通信が入り集計が出ると、ユーリはようやく発表する。
「集計が出ました。今日の販売本数は18、690個です。」
おお~と歓声が上がる。
「もう少しで2万だったのに惜しかったですね。」
「いやいや、十分な数字だから。」
イルミから突っ込みが入る。
「今月はこの2作品でどれだけ売り上げが伸びるか様子見だね。」
「来月は恋愛物ともう1本だよね?準備は出来てるの?」
「ストーリーは出来てるよ。後は魔道具にするだけだね。」
「相変わらずやる事早いね。」
「これで、一段落着いたからあまり学院を休むなよ。」
「「はーい!」」
ユーリは開店前に各店舗に商品を卸し明日の10時に一斉に発売する事を伝える。また、店頭宣伝用の魔道具も明日からはこれにして下さいと新しいのを渡す。それから第1弾のポスターの隣に第2弾のポスターを貼って来た。今日来た客はポスターを見て第2弾が出る事を口コミしてくれるだろう。
一方でチェスカさんの商会に卸したタオルも順調だ。まったく新しい生地と言う事で注目を集め、すぐに追加注文が1000枚ずつ入った。
「これで洋服を作る事も可能ですよね?反物はありませんか?」
チェスカさんが尋ねて来た。
「洋服も作れますが、これでシーツを作ると気持ち良いですよ。って事で140センチ×30メートルの生地を10種類預けます。価格設定は自由に行って構いません。売り上げの20%を仕入れ値として頂きます。この条件で如何でしょう?」
「解りました。その条件で問題ありません。」
じゃあと言って、何時もの様にマジックバッグに入れてチェスカさんに渡す。
「うちの商会で独占商品が扱えるなんて夢みたいです。お父さんも私が役に立ったので喜んでます。」
「チェスカさんが見つけて、自分で決断したんだから。自信をもって良いと思うよ。」
「そうですかね?でも、元々はユーリさんがお風呂場に置いて置いた備品ですから、私が開発した訳じゃないですし、まだまだですね。」
チェスカさんはまだ自信を持つには至っていない様だが、商才はあるとユーリは睨んでいる。
ミステリーが発売される日が来た。各店舗で魔道具が起動された10時、ユーリの隣にはユーカとイルミが居た。
「なんで学院休んでるの?」
「いや、やっぱり気になるじゃん。」
「そうそう、どうせ学院は辞めるし、こっちの方が面白いから。」
やはり学院は辞めると言う結論になった様だ。
「バートさん、偵察の方お願いします。」
「解りました。商会でじっとしてるのは気が気じゃないですからね。」
そう言って商会から出て行く。
「さて、他の皆も気になるだろうけど、新商品のアイデアは見つかったかい?」
「あー、私はタオル生地の使い道で頭が一杯で・・・」
チェスカさんが目を逸らす。
「ユーカとイルミは?」
「私は、あの魔道具に貼ってあるステッカーが気になります。」
ユーカの発言だ。『聞く物語』の魔道具にはパッケージと同じ絵柄のステッカーが本体の裏面に貼ってある。これは後々本数が増えた時に、判別が出来るようにだ。
「どう言う風に気になるの?」
「あれって何にでも貼れるんですか?」
「基本的には平らな所なら貼れるね。ただ水に弱いので濡れてる物とかは駄目かな。」
「では、あれに魔道具の使い方とか書いて魔道具に貼ったり出来ますか?魔道具って使い方を説明してから販売するんですが、結構後から使い方が解らなくなったって言う問い合わせが多いんですよ。」
「なるほど、そう言う使い方はありだと思うよ。他にも魔道具に作者の名前や商会の名前を入れるとかね。」
発想は面白いが、商売としてはどうだろう?
「イルミはどう?」
「私は小冊子の方が面白いと思うな。あんな感じで絵を沢山並べて、最小限の文字でストーリーを付けて行ったら、小説とは違う物語が出来そう。」
それは最早マンガだな。まだこの世界でマンガは早いのではないだろうか?
そんな雑談をしていたらバートさんが帰って来た。
「どうでした?」
「凄い事になってましたよ。まだ、販売開始して何分も経ってないのに大行列が出来てました。3店舗全部が同じ状況です。」
「うーん。商会2つは大丈夫だろうけど、雑貨屋イルミは応援が必要かな?」
「大丈夫よ。ベンマック商会から応援を3人出してるから。」
イルミが勝ち誇ったような顔で言った。どうやら、こうなる事を見越して先に手を打っていたらしい。流石はイルミだ。
「流石はオーナーと褒める所かな?」
「でしょ?」
「じゃあ、ちょっと早いけど昼食にしようか?何が食べたい?」
「「「甘い物!!」」」
女性3人がハモってる。
ユーリは、意表をついて大福を出してみた。飲み物は甘くない紅茶だ。皆、初めて見る甘味に興味津々だ。イルミとユーカも餡子は初めて食べるはずなので反応が楽しみだ。
「これはこのまま噛り付けば良いの?」
早速イルミが大福を突きながら質問してくる。
「そうだね、特に作法は無いから、片手で持って噛り付いて下さい。あまり沢山口に入れると喉に詰まるのでそれだけ注意してね。」
「面白い食感ね。中に入っているのは何かのジャムかしら?」
「これは大福と言う食べ物です。中に入っているのは甘く煮た豆ですね。餡子と言います。」
「これは何と言うか優しい甘さですね、男性にも受けそうです。」
バートさんが半分に割ってまじまじと餡子を見ている。
「そうですね。ケーキなどと違って油分が少ないので沢山食べても太り難いし、あっさりとした甘味を食べたい時にお勧めです。」
「太り難い?」
「物には限度ってものがあるからね、特にユーカ。」
食事休憩が済むとまた雑談タイムに入る。この雑談の中から新製品が生まれるのでユーリは積極的に話をするように推奨している。
「そう言えば、ユーカにはお兄さんが居るんだよね?会った事無いけど何してるの?」
「兄は12歳の時から魔道具職人の家に住み込みで弟子入りしています。月に1度くらいは帰ってきますね。」
「商会はお兄さんが継ぐの?」
「はい、一人前になったら帰って来いって父に言われてるそうです。」
「チェスカさんは兄弟は居るの?」
「うちは弟が居ます。今、12歳で、家の手伝いをしながら商会を継ぐ勉強をしています。」
「なるほど、と言う事は問題はイルミの所だけか。イルミは一人っ子だったよね?」
「そうだよ。でも、その辺はユーリ君に何か策があるんでしょ?」
「まあね。バートさんの所はお兄さんが継ぐんでしょ?今後ライビット商会とはどう言う関係にするつもりですか?」
急に振られてバートさんが慌てる。
「あの商会は僕が色々と手を加えているので、正直愛着があります。兄は頭が良いので、売れる商品を提供すれば断る事はしないでしょう。」
「じゃあ、今後もライビット商会にアドバイスして行くと?」
「そうですね、毎日実家に帰っているので家族とは色々な話をします。その中で気が付いた点があれば、ライビット商会にアドバイスしたり、バート商会に生かしたり出来ればと。」
「良いんじゃない?私もそんな感じだし。」
イルミが賛同している。
雑談をしているとたまに通信が入る。各店舗からの報告である。その時点ではユーリは何も言わない。
全ての商会からの通信が入り集計が出ると、ユーリはようやく発表する。
「集計が出ました。今日の販売本数は18、690個です。」
おお~と歓声が上がる。
「もう少しで2万だったのに惜しかったですね。」
「いやいや、十分な数字だから。」
イルミから突っ込みが入る。
「今月はこの2作品でどれだけ売り上げが伸びるか様子見だね。」
「来月は恋愛物ともう1本だよね?準備は出来てるの?」
「ストーリーは出来てるよ。後は魔道具にするだけだね。」
「相変わらずやる事早いね。」
「これで、一段落着いたからあまり学院を休むなよ。」
「「はーい!」」
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