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第百二十九話
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食堂の開店は迫っているが、なかなか方針が決まらない。メニュー問題は思ったより難しい様だ。
最初はメニューを3つ位に絞って、常連が付いたら徐々に増やすと言う案が今の所現実的だ。
飲み物はエールと日本酒を出す予定だ。ソフトドリンクは果実水のみにした。
エリシアたちが狩りに出ている間は俺が一人になるので店員を雇う事も考えているが、面接に来る子をエリシアが全員不合格にしてしまうので未だに決まっていない。
エリシア曰く近所のおばちゃんを雇うのが安くて効率的だそうだ。まあ、最初からそんなに繁盛しないだろうからそれでも良いんだけどね。
三日後ひっそりと店をオープンした。メニューは3種類、牛丼と角煮定食、焼き魚定食の3つだ。サイドメニューとしてフライドポテトと唐揚げを出す事に決めた。
暫くはこのスタイルでやって行こうと思う。今日は数人客が来ればよいだろうと考えていたが、冒険者仲間がちらほらやってきて、1日で20人位の客が来た。
パンを出さない食堂としてオープンした訳だが、意外にも評判は良く。ライスの普及に自信を持った。
ちなみに店を閉めた後は内臓料理を研究している。オークのもつ煮を作ろうと思って居る。もつの処理は内臓が大きめなので結構楽だ。小麦粉と塩でもんで臭みをとり、2回にこぼして完全に白もつに仕上げる。これを味噌で煮込めばもつ煮の完成だ。寸胴に大量に作ったので、翌日の店で小鉢としてメニュー全部にサービスとして付けてみた。評判は上々だ。
今日は30人ほど客が来たのだが、エリシアたちが手伝ってくれたので、俺は楽だった。
1週間ほどそんな感じで営業していると、常連が数人着いた。もっとメニューは無いのかと言う声と、おすすめを求める声が多いので、明日から焼き肉丼を提供しようと思って居る。
焼き肉丼はヒットした。甘辛いタレで肉を食うと言う概念が無かったらしく、また、ご飯との相性も良いので、評判を呼び客の数も若干増えた気がする。
翌週はとんかつ定食をおすすめにしてみた。定食と言ってもこの世界にキャベツに似た野菜が無かったので、カツとサラダとおにぎりのセットだ。これもなかなかの評判を呼んだ。特に揚げ物と言う新しいジャンルの肉料理に甘めのソースと言う組み合わせが珍しいのか、常連たちも焼き肉丼にするか、とんかつ定食にするか迷う物が続出した。
そんなこんなで1か月程営業をしていると、毎日の客数が100人を超える様になった。流石に一人では捌き切れないので店員を雇う事を決めた。エリシアは自分が決めると強硬に主張していたが、俺の体がもたないと言うと引き下がってくれた。
翌日店員候補の女の子がやって来た。リロルと言う成人したての15歳の子だ。開店前にざっと面接をして、その場で働いて貰う事を決める。今日から行けるか?と聞いたら行けると言うので早速、店のシステムを説明して行く。文字の読み書きと計算が出来るらしい。これは拾い物かもしれない。
「なぁ、リュート。リュートはああいう子が好みなのか?」
エリシアが訳の分からない事を言って居る。
「好みの問題じゃない。要は使えるか使えないかだよ。」
「むむむ」
エリシアは何かと葛藤している様だ。
「今日は狩りに行くんだろう?早くしないとミントとシーネに遅れを取るぞ。」
「ギンガ、リュートを見張ってるのだぞ。」
そう言い残してエリシアは狩りに出かけた。
リロルは宿屋の次女らしく、食堂の仕事に慣れていた。非常に助かった。
賄いとして余ったカツでかつ丼を作ってあげたら。これは店では出さないのですかと聞かれた。
出したいんだけど、卵が高いんだよね。
日本では卵は特売なら1個10円程度で買える。しかし、この世界の卵は1個100円はする。理由は簡単、個数が取れないからだ。ちなみにこの世界にも鶏が居る。ただ、日本のそれとは色々な意味で違って居る、まず、肉が不味い。見た目が七面鳥の様だ。そして非常に気性が荒い。よって日本の様な養鶏場が出来ないのだ。
必然的に卵の値段が上がると言う訳だ。そうなると安食堂では卵は気軽に使える食材では無い。ってな事を話すと、リロルが何やら思いついた様だ。
「鶏じゃなく、アヒルの卵では駄目ですか?」
「アヒルの卵?それは安く手に入るのか?」
「確か、3個で銅貨1枚位で手に入るはずです。うちの宿屋でもハムエッグはアヒルの卵を使ってます。」
「ほう?安定して入手が可能なら、是非欲しいな。買える場所を教えてくれ。」
「朝市に行けば手に入りますよ。」
「朝市?」
「はい、中央の広場で毎朝6時から8時くらいまで開いてます。良い物が欲しければ早めに行かないと駄目ですけどね。」
マジか?そんなものが合ったなんて何年も住んでいるが知らなかったぞ。
「冒険者は朝が遅いですからね。知らなくても仕方がありません。でも、食堂関係者は大抵そこでその日のおすすめメニューを決めますよ。」
「解った。明日行ってみるよ。情報ありがとう!」
翌朝早めに起きて中央広場に行ってみた。なんと言うか活気が凄い。目的の卵を探しながら、他にも何か掘り出し物があるかもしれないと色々と見て回る。ジャガイモが新鮮で安かったので店ごと買った。目的の卵もすぐに見つかった。
「これってアヒル?」
「そうだよ、どの位欲しいだい?」
「全部くれ。」
「全部って、200個以上あるよ。」
「構わん全部だ。」
「初めてのお客さんだし、じゃあ、大銅貨6枚で」
1個30円か、思いっきり使えるな。
「ちなみに毎日店を出しているのか?」
「毎日って訳じゃないね。三日に1度くらいかな。」
「解った。また買いに来るよ。」
それから、朝市をくるりと一周回ると、ミルクを見つけた。
「なあ、このミルク何のミルクだ?」
「これはヤギだね。」
ヤギが、そう言えばチーズもヤギで作ると美味いって聞くしな。
「全部で、何リットル位ある?」
「半分位売れたから、30リットル位かな。」
「解った。全部貰おう。」
「気前がいいね兄さん。大銅貨3枚だよ。」
リッター100円か。悪く無いな。砂糖もあるし、アレを作るか?
そう言えば、ここ1か月くらいの間にリュートは20人近い人を雇った。米、砂糖大根の畑を任せる者、醤油、味噌、酒、みりんの醸造所の増員。砂糖の精製の人員。等を手伝って貰って居る。また焼き肉のタレやとんかつソースの製造にも人を雇った。今は赤字だが、その内黒字になるだろう。先行投資って奴だ。
家に帰ったリュートはミルクとたまごと砂糖である物を再現していた。出来ればバニラエッセンスが欲しいな。似た様な植物無いかな?
朝食の匂いに釣られて起きて来た。3人に、食事を食べさせ、最後のデザートとして、それを出してみた。
「これはなんだ?」
「新作の甘味だ。評判が良ければ店で出す。」
みんなはじっくりと味見をする様にスプーンを動かす。徐々にスプーンのスピードが上がる。
「これは、初めて食べる食感だ、面白いな。」
「滑らかさと甘みが止まりません。」
あっという間に食べ切る3人。
「お替りは無いぞ。」
目に見えてがっかりする3人。カラメルソースが欲しいな。もう少し研究するか。
「また、夕食後に出してやるからそんな顔するな。」
と、そろそろ食堂の仕込みをしないと。
「俺は食堂に行くが、エリシアたちは今日は何をするんだ?」
「私たちは今日は休みだ。ギンガを貸してくれ。」
「構わんが、暇なら少しくらい店を手伝ってくれ。」
「解った。買い物が終わったら店に行くよ。」
「頼んだぞ。」
女3人の買い物は長い。さて、当てにしないで待ってるか。そう呟いてリュートは店に向かった。
ここの所1日の客は100人程度。アルコールも出るので一人頭の単価は大銅貨1枚位。大銅貨100枚は金貨1枚、日本円で10万円だ。材料費と人件費を引くと半分の5万が儲けになる。正直食堂だけでは儲けにならない。
リュートが狙っているのは食堂で広めた味をどこかの商会で販売する事。米や酒、調味料の売り上げが本命だ。その為ならレシピは無料で配っても良いと考えている。
特に酒に関しては、焼酎やウイスキーにも手を出す予定だ。
また、砂糖が順調に取れる様になれば甘味の売り上げも馬鹿に出来ないだろう。
まあ、急ぐ必要は無い。じっくり進めて行こう。
最初はメニューを3つ位に絞って、常連が付いたら徐々に増やすと言う案が今の所現実的だ。
飲み物はエールと日本酒を出す予定だ。ソフトドリンクは果実水のみにした。
エリシアたちが狩りに出ている間は俺が一人になるので店員を雇う事も考えているが、面接に来る子をエリシアが全員不合格にしてしまうので未だに決まっていない。
エリシア曰く近所のおばちゃんを雇うのが安くて効率的だそうだ。まあ、最初からそんなに繁盛しないだろうからそれでも良いんだけどね。
三日後ひっそりと店をオープンした。メニューは3種類、牛丼と角煮定食、焼き魚定食の3つだ。サイドメニューとしてフライドポテトと唐揚げを出す事に決めた。
暫くはこのスタイルでやって行こうと思う。今日は数人客が来ればよいだろうと考えていたが、冒険者仲間がちらほらやってきて、1日で20人位の客が来た。
パンを出さない食堂としてオープンした訳だが、意外にも評判は良く。ライスの普及に自信を持った。
ちなみに店を閉めた後は内臓料理を研究している。オークのもつ煮を作ろうと思って居る。もつの処理は内臓が大きめなので結構楽だ。小麦粉と塩でもんで臭みをとり、2回にこぼして完全に白もつに仕上げる。これを味噌で煮込めばもつ煮の完成だ。寸胴に大量に作ったので、翌日の店で小鉢としてメニュー全部にサービスとして付けてみた。評判は上々だ。
今日は30人ほど客が来たのだが、エリシアたちが手伝ってくれたので、俺は楽だった。
1週間ほどそんな感じで営業していると、常連が数人着いた。もっとメニューは無いのかと言う声と、おすすめを求める声が多いので、明日から焼き肉丼を提供しようと思って居る。
焼き肉丼はヒットした。甘辛いタレで肉を食うと言う概念が無かったらしく、また、ご飯との相性も良いので、評判を呼び客の数も若干増えた気がする。
翌週はとんかつ定食をおすすめにしてみた。定食と言ってもこの世界にキャベツに似た野菜が無かったので、カツとサラダとおにぎりのセットだ。これもなかなかの評判を呼んだ。特に揚げ物と言う新しいジャンルの肉料理に甘めのソースと言う組み合わせが珍しいのか、常連たちも焼き肉丼にするか、とんかつ定食にするか迷う物が続出した。
そんなこんなで1か月程営業をしていると、毎日の客数が100人を超える様になった。流石に一人では捌き切れないので店員を雇う事を決めた。エリシアは自分が決めると強硬に主張していたが、俺の体がもたないと言うと引き下がってくれた。
翌日店員候補の女の子がやって来た。リロルと言う成人したての15歳の子だ。開店前にざっと面接をして、その場で働いて貰う事を決める。今日から行けるか?と聞いたら行けると言うので早速、店のシステムを説明して行く。文字の読み書きと計算が出来るらしい。これは拾い物かもしれない。
「なぁ、リュート。リュートはああいう子が好みなのか?」
エリシアが訳の分からない事を言って居る。
「好みの問題じゃない。要は使えるか使えないかだよ。」
「むむむ」
エリシアは何かと葛藤している様だ。
「今日は狩りに行くんだろう?早くしないとミントとシーネに遅れを取るぞ。」
「ギンガ、リュートを見張ってるのだぞ。」
そう言い残してエリシアは狩りに出かけた。
リロルは宿屋の次女らしく、食堂の仕事に慣れていた。非常に助かった。
賄いとして余ったカツでかつ丼を作ってあげたら。これは店では出さないのですかと聞かれた。
出したいんだけど、卵が高いんだよね。
日本では卵は特売なら1個10円程度で買える。しかし、この世界の卵は1個100円はする。理由は簡単、個数が取れないからだ。ちなみにこの世界にも鶏が居る。ただ、日本のそれとは色々な意味で違って居る、まず、肉が不味い。見た目が七面鳥の様だ。そして非常に気性が荒い。よって日本の様な養鶏場が出来ないのだ。
必然的に卵の値段が上がると言う訳だ。そうなると安食堂では卵は気軽に使える食材では無い。ってな事を話すと、リロルが何やら思いついた様だ。
「鶏じゃなく、アヒルの卵では駄目ですか?」
「アヒルの卵?それは安く手に入るのか?」
「確か、3個で銅貨1枚位で手に入るはずです。うちの宿屋でもハムエッグはアヒルの卵を使ってます。」
「ほう?安定して入手が可能なら、是非欲しいな。買える場所を教えてくれ。」
「朝市に行けば手に入りますよ。」
「朝市?」
「はい、中央の広場で毎朝6時から8時くらいまで開いてます。良い物が欲しければ早めに行かないと駄目ですけどね。」
マジか?そんなものが合ったなんて何年も住んでいるが知らなかったぞ。
「冒険者は朝が遅いですからね。知らなくても仕方がありません。でも、食堂関係者は大抵そこでその日のおすすめメニューを決めますよ。」
「解った。明日行ってみるよ。情報ありがとう!」
翌朝早めに起きて中央広場に行ってみた。なんと言うか活気が凄い。目的の卵を探しながら、他にも何か掘り出し物があるかもしれないと色々と見て回る。ジャガイモが新鮮で安かったので店ごと買った。目的の卵もすぐに見つかった。
「これってアヒル?」
「そうだよ、どの位欲しいだい?」
「全部くれ。」
「全部って、200個以上あるよ。」
「構わん全部だ。」
「初めてのお客さんだし、じゃあ、大銅貨6枚で」
1個30円か、思いっきり使えるな。
「ちなみに毎日店を出しているのか?」
「毎日って訳じゃないね。三日に1度くらいかな。」
「解った。また買いに来るよ。」
それから、朝市をくるりと一周回ると、ミルクを見つけた。
「なあ、このミルク何のミルクだ?」
「これはヤギだね。」
ヤギが、そう言えばチーズもヤギで作ると美味いって聞くしな。
「全部で、何リットル位ある?」
「半分位売れたから、30リットル位かな。」
「解った。全部貰おう。」
「気前がいいね兄さん。大銅貨3枚だよ。」
リッター100円か。悪く無いな。砂糖もあるし、アレを作るか?
そう言えば、ここ1か月くらいの間にリュートは20人近い人を雇った。米、砂糖大根の畑を任せる者、醤油、味噌、酒、みりんの醸造所の増員。砂糖の精製の人員。等を手伝って貰って居る。また焼き肉のタレやとんかつソースの製造にも人を雇った。今は赤字だが、その内黒字になるだろう。先行投資って奴だ。
家に帰ったリュートはミルクとたまごと砂糖である物を再現していた。出来ればバニラエッセンスが欲しいな。似た様な植物無いかな?
朝食の匂いに釣られて起きて来た。3人に、食事を食べさせ、最後のデザートとして、それを出してみた。
「これはなんだ?」
「新作の甘味だ。評判が良ければ店で出す。」
みんなはじっくりと味見をする様にスプーンを動かす。徐々にスプーンのスピードが上がる。
「これは、初めて食べる食感だ、面白いな。」
「滑らかさと甘みが止まりません。」
あっという間に食べ切る3人。
「お替りは無いぞ。」
目に見えてがっかりする3人。カラメルソースが欲しいな。もう少し研究するか。
「また、夕食後に出してやるからそんな顔するな。」
と、そろそろ食堂の仕込みをしないと。
「俺は食堂に行くが、エリシアたちは今日は何をするんだ?」
「私たちは今日は休みだ。ギンガを貸してくれ。」
「構わんが、暇なら少しくらい店を手伝ってくれ。」
「解った。買い物が終わったら店に行くよ。」
「頼んだぞ。」
女3人の買い物は長い。さて、当てにしないで待ってるか。そう呟いてリュートは店に向かった。
ここの所1日の客は100人程度。アルコールも出るので一人頭の単価は大銅貨1枚位。大銅貨100枚は金貨1枚、日本円で10万円だ。材料費と人件費を引くと半分の5万が儲けになる。正直食堂だけでは儲けにならない。
リュートが狙っているのは食堂で広めた味をどこかの商会で販売する事。米や酒、調味料の売り上げが本命だ。その為ならレシピは無料で配っても良いと考えている。
特に酒に関しては、焼酎やウイスキーにも手を出す予定だ。
また、砂糖が順調に取れる様になれば甘味の売り上げも馬鹿に出来ないだろう。
まあ、急ぐ必要は無い。じっくり進めて行こう。
応援ありがとうございます!
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