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第1章 復讐の魔女
第5話 冒険者夫婦
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御者のおじさんは商人で、護衛者2人の雇い主のようだ。
幌の中は商売道具や生活雑貨、食料品などが入っており、かなり手狭だったが座れないほどではない。
「兄ちゃん、いいところのお嬢ちゃんの護衛かい? 一応聞くが、愛の逃避行とかじゃねえよな」
馬車が動き出して幌の中で、金髪剣士がリョウに話しかけた。
愛の逃避行? なんじゃそりゃ??
「それはそれで面白そうだけど……恋人同士には見えないわね。まあ余計な詮索はしないわ」
亜麻色の髪の魔女が、私たちを値踏みするように見て言った。
「あ、えっと、私はローゼ・スノッサと申しまして、こちらの傭兵のリョウ・アルバースとビオレールまで同行をしております。年齢は15歳で魔女です」
自己紹介をしてペコリとお辞儀をした。
なんかこの2人、初対面なのにグイグイくるね? まあ悪い人たちじゃなさそうだけど。
「俺はクロード・スタルークだ。ビオレールで冒険者をやっている。こっちは家内のアンナだ。同じ冒険者で魔女さ」
クロードと名乗った金髪の剣士が隣に目線を送り、妻と紹介してくる。
うーん、夫婦かあ……私こういう関係に憧れてたりするんだよねえ、同じ仕事を相棒として共に過ごしていくっての。
ちょっと羨ましいかも。
「魔女のローゼちゃんね。私はアンナ・スタルーク。クロードの奥様をしてるわ」
亜麻色の髪をした魔女さんが、微笑みながら自己紹介を返してくれた。
凄く綺麗な人……それにクロードさんと同じぐらいの身長だけど、スラっとしていてスタイルもいい。
「この規模の馬車で、護衛者2人も必要なのかって感じで傭兵君は考えてそうね。雇い主の商人からすれば、儲けを出すために品物を高くせざるを得ないけど、命あっての物種って言葉もあるのよ?」
アンナさんがリョウに顔を向けて言う。
物流に輸送費や人件費がかかれば、その分品物の値段が上がる。
治安が悪いと盗賊とかに狙われやすくもなるしね。
私も書籍で経済を勉強していたから、その辺の事情は理解できる。
リョウはコクリと頷き返すと、馬車の外を流れていく景色を眺めていく。
「魔物と盗賊、どっちが遭遇率高いんですか?」
気になったので訊いてみる。
「そうだなあ。半々ってとこか」
クロードさんが答えてくれる。
やっぱり危険度は高そうだ。
その時、ヒュンと風を切る音が遠くからしたかと思うと、御者台の方から叫び声がして馬車が急停車したのだった。
「あんたらは雇われちゃいねえから、ここで待機してな」
クロードさんは剣を抜くと、幌から顔を出して御者台の方へ視線を向けながら私たちに言う。
その視線の先には、武装した魔物ゴブリンが10体ほど、馬車を囲うようにして立っていた。
「あらあら、こんな場所にゴブリンだなんて珍しいわね」
アンナさんは何か知っているかのように呟くと、クロードさんと一緒に幌から外へ出る。
「私も行きます!」
私が身を乗り出したがリョウは動こうとしない。
「彼らの仕事だ。任せておけ」
「でも何もしないってのも……」
私の言葉にリョウは首を横に振る。
「他人の仕事の邪魔をするのは冒険者としてやっちゃいけないことだ。それにあの2人なら大丈夫だろう」
クロードさんとアンナさんは馬車の前方へ躍り出ると、襲い掛かってきたゴブリンたちの攻撃をひらりと躱し、反撃に移る。
クロードさんの剣が閃くと、1体目のゴブリンの胴を薙ぎ払う。
アンナさんの長い杖の先端が光を放ち、風の刃がゴブリンを切り裂いていく。
2人は数分足らずで、10体ものゴブリンたちを制圧していたのだった。
リョウの言う通り、2人の実力は確かなようだ。
むむむ、でも危険があるのに見ているだけというのは、どうにも落ち着かないなあ。
「ゴブリン……スノッサの森から出てきたのかねえ」
御者のおじさんも無事のようで、ゴブリンの死骸を調べながら何やら呟いている。
「もう大丈夫だろう。出発しよう」
クロードさんが御者のおじさんに声をかけた瞬間だった。
ゴブリンの死骸の1体の目が見開き、剣を構えて御者のおじさんに斬りかかろうとする。
私は咄嗟にそのゴブリンへ炎の魔法を放つ。
炎に包まれたゴブリンは焼き尽くされ、その目から光が失われた。
ふう……危なかった。
2人は驚いた様子で私を見ていたが、やがて笑い出したのだった。
「凄い魔法ね。助かったわ。危うく依頼人の命が失われるところだったわ」
アンナさんが感心した様子で私に声をかけてくる。
「死んだふりしてた奴がいたなんてな。それにしてもお嬢ちゃんはホントに魔女なんだな」
クロードさんが私の顔を覗き込みながら訊いてくる。
「いやはや助かりました。これはお嬢ちゃんの分の馬車代をいただくわけにはいかなくなりましたなあ」
商人のおじさんも感謝してくる。
ふふん♪ 人を助けてちゃんと感謝されるってのは嬉しいかな。
リョウは我関せずといった様子でゴブリンの他の死骸を見ているけど、私を褒める輪に加わってくれてもいいのに。
「傭兵君、何か気になるのか?」
「いえ、大丈夫です。他はちゃんと死んでます」
クロードさんがリョウに声をかけるが、リョウはゴブリンの死骸を検分してそう答えていた。
まあ傭兵だし、魔物とかにも詳しいのかな?
「あの傭兵クン、ローゼちゃんが動くのを想定していたような反応だったわね」
アンナさんがボソッと私の耳元に囁いてくる。
「そうなんですか?」
「ええ、ローゼちゃんが失敗してもフォローできるようにって感じでね。フフフ、貴方たちの関係も気になるけど、これ以上の詮索は野暮ってものよね」
アンナさんはそう囁くとクスリと笑った。
むう……それはそうかもだけど、そこまで深い関係ってわけじゃないしなあ……
「もう少し進んだ先に丘があるから、今日はそこで野営ですな。ビオレールには明日の昼前には着くでしょう」
正直なところ夜も馬車を飛ばして欲しかった。
でも商人のおじさんが言うには、魔物や盗賊の類いに遭遇する可能性を考慮して夜通しは走らないらしい。
それに馬も人と同じで、無限の体力があるわけではないのだ。
当然といえば当然か。
丘を登りきると少し開けた場所があり、そこで野営の準備を始める。
と言っても幌付きの馬車内で雇い主のおじさんが寝て、護衛者2人が交代で見張りをするためと、夕食の準備のための火を焚くぐらいだ。
「私も見張りしますよ。リョウもいいよね?」
私はリョウに声を掛けると、彼もコクリと頷き返してくる。
さすがに何もせずにただ馬車で寝ているだけってのは性に合わないしね。
夕食は、保存食の固いパンを水でふやかしてスープに入れて食べるというものだった。
味気ない食事だけど、温かいものは温かくて美味しかった。
「その申し出はありがたい。1人っきりの見張り作業って結構寂しいからな」
「それじゃ順番はくじ引きで決めましょう。先と後ね。私とクロード。ローゼちゃんと傭兵クンのペアは決まりでいいわよね?」
クスッと笑うアンナさん。
なんかその言い方だと、私とリョウが恋人みたいでちょっと……
いやいや、仕事だし変に意識しないようにしなきゃ。
でもリョウめ、ちょっとは顔を赤らめろっての。
目つき悪いんだから、少しは愛想良くしないと人生損するぞ。
それからくじ引きの結果、私とリョウが前半で、クロードさんとアンナさんの冒険者夫婦が後半となった。
商人のおじさんは食事後、もう幌の中で寝息をかいている。
私とリョウは馬車の後方で2人きりだった。
傭兵として仕事モードなせいなのか、リョウは特に会話してこようとはしない。
星空が綺麗だなあ……風も心地いい。
寝てる人たちの邪魔しちゃいけないからちょっとこう撃てば魔法の威力上がるんじゃない? って魔法を連打して試すわけにもいかないし……
こういう時、何を話せばいいの?
というか2人っきりで夜空の下で焚き火を見つめている、若い男女の私たちって構図はなんかアレじゃない?
なんか話さなきゃ……でも何を話せばいいかな?
……やっぱりアレかな。私の旅の同行を断ったリョウがビオレールに到着後、どうするのか訊いてみようかな?
うん、そうしよう、それで私に手伝えることだったら手伝うのもありだし。
「リョウは……その、ビオレールに着いたら、どうするの?」
私はちょっと口ごもりながら彼に訊いてみる。
「やることはある。だが、言えん。漏洩したら台無しになるからな」
リョウは淡々とした口調でそう答えてくる。
う、なんかはぐらかされた気が……
でも確かに傭兵ってのは秘密厳守な仕事だよね。
機密情報をペラペラ話すわけにはいかないかあ……
ちょっと落ち込む私を見て察したのか、リョウが続けて口を開く。
「ローゼは王都で両親を殺されたんだろ? 真っ直ぐ王都に向かわないのか?」
「そりゃあ、お金があればそうしてたけど」
険しい山々が連なる王都ベルンへの道程は、何事もなくても最低2ヶ月かかる。
その分の生活費を工面しておかなくちゃいけないし、盗賊や魔物に襲撃されたりしたら更に時間がかかる。
まずは金銭を得る。
それと両親の仇の情報を集めるのを優先し、ビオレールに向かっているのだ。
「魔女なら空をひとっ飛びで行けるんじゃないのか?」
「浮遊魔法なんて長時間無理。リョウは見たことあるの? 空に魔女が飛んでる姿なんて」
「ないな」
「でしょ? 魔法は万能じゃないの。浮遊魔法も30分が限界かなあ。その浮いてる間に弓矢をさみだれ撃ちされたら死んじゃうし。だから浮遊魔法発動時には、信頼できる剣士や戦士が盾役になってくれないと怖いんだよね」
浮遊魔法を発動している間は無防備になる。
まあ、浮遊魔法中も攻撃や防御手段がないわけではないけれど……
「ほら、七英雄の魔女アニスが剣士レインに守られたガイアスの戦いのようにさ」
「……悪い、知らん」
「ガイアスの戦いってのは最終決戦で魔界への門を開く直前の戦いのこと。魔王軍に致命的な打撃を与えたのはアニスの大魔法なんだけど、ずっとアニスを守ってたのがレインなのよね」
私はフフンと得意げに知識を披露するが、リョウの表情は微妙であった。
むう……ちょっと悔しかったので更に追撃してみることにする。
「人類側が七英雄も含め2万の軍勢、対する魔王軍の数が10万っていう絶望的な戦力差だったんだけど、形勢逆転を決定させるアニスの魔法は発動までに時間を要したの。魔王軍もあの魔法はヤバいと察して、全力でアニスを屠ろうと攻め立てた。しかし七英雄の筆頭格だったレインがたった1人でアニスを守り抜いたんだ。そこまでして守り抜くレインの覚悟と、守ってもらえると信じたアニスの強い信頼関係……私、あの話大好きなんだ!」
私はちょっと興奮気味に語ってしまう。
いやしょうがないじゃん、大好きな七英雄の話だし、ディル以外と話すのなんて10年ぶりなんだし。
「あらあら、七英雄の話? ローゼちゃんもアニスに憧れているのかしら?」
突然背後から声が掛かり、私は思わずビクっとなって振り返る。
そこにはニコニコと微笑むアンナさんがいた。
あ、もう交代の時間?
いや別に聞かれてマズイわけじゃないけど。
……なんか恥ずかしいというか……気まずいというか。
「まあ、魔女ですし、憧れる存在ではあります」
私がそう答えるとアンナさんはクスリと笑う。
なんかその笑顔は、意味ありげな感じがしてちょっと怖い。
いや別にやましいこととか考えてないけど……
「私もよ。魔女アニスと剣士レインの恋の行方も素敵よねえ。それに憧れて、私も冒険者で組むなら剣士で守ってくれて、ついでにちょっと甘い言葉も囁いてくれるようなイケメンがいいなあって思ってギルドの門を叩いたもの」
アンナさんは少し照れたように笑う。
なんかその笑顔も素敵ですよ、ほんと。
「俺、甘い言葉囁いたっけかあ?」
クロードさんの言葉にアンナさんはクスクス笑う。
私もちょっとクスリとしてしまった。
だってなんか甘い言葉……似合わなさそうなんだもん。
「特に異常はなしでした」
「そう、ありがとう。では交代するから2人は馬車の中で休んでて」
ふわ~。緊張の糸が切れたのか、思わずあくびが漏れる。
「それじゃお休みなさい。明日、アニスの話をアンナさんといっぱいしたいです!」
私はヒラヒラと手を振り馬車の中に戻ると、リョウにお休みと言って毛布にくるまった。
幌の外からクロードさんとアンナさんの話し声が聞こえてくる。
それを子守唄にして、私は眠りにつくのであった……
幌の中は商売道具や生活雑貨、食料品などが入っており、かなり手狭だったが座れないほどではない。
「兄ちゃん、いいところのお嬢ちゃんの護衛かい? 一応聞くが、愛の逃避行とかじゃねえよな」
馬車が動き出して幌の中で、金髪剣士がリョウに話しかけた。
愛の逃避行? なんじゃそりゃ??
「それはそれで面白そうだけど……恋人同士には見えないわね。まあ余計な詮索はしないわ」
亜麻色の髪の魔女が、私たちを値踏みするように見て言った。
「あ、えっと、私はローゼ・スノッサと申しまして、こちらの傭兵のリョウ・アルバースとビオレールまで同行をしております。年齢は15歳で魔女です」
自己紹介をしてペコリとお辞儀をした。
なんかこの2人、初対面なのにグイグイくるね? まあ悪い人たちじゃなさそうだけど。
「俺はクロード・スタルークだ。ビオレールで冒険者をやっている。こっちは家内のアンナだ。同じ冒険者で魔女さ」
クロードと名乗った金髪の剣士が隣に目線を送り、妻と紹介してくる。
うーん、夫婦かあ……私こういう関係に憧れてたりするんだよねえ、同じ仕事を相棒として共に過ごしていくっての。
ちょっと羨ましいかも。
「魔女のローゼちゃんね。私はアンナ・スタルーク。クロードの奥様をしてるわ」
亜麻色の髪をした魔女さんが、微笑みながら自己紹介を返してくれた。
凄く綺麗な人……それにクロードさんと同じぐらいの身長だけど、スラっとしていてスタイルもいい。
「この規模の馬車で、護衛者2人も必要なのかって感じで傭兵君は考えてそうね。雇い主の商人からすれば、儲けを出すために品物を高くせざるを得ないけど、命あっての物種って言葉もあるのよ?」
アンナさんがリョウに顔を向けて言う。
物流に輸送費や人件費がかかれば、その分品物の値段が上がる。
治安が悪いと盗賊とかに狙われやすくもなるしね。
私も書籍で経済を勉強していたから、その辺の事情は理解できる。
リョウはコクリと頷き返すと、馬車の外を流れていく景色を眺めていく。
「魔物と盗賊、どっちが遭遇率高いんですか?」
気になったので訊いてみる。
「そうだなあ。半々ってとこか」
クロードさんが答えてくれる。
やっぱり危険度は高そうだ。
その時、ヒュンと風を切る音が遠くからしたかと思うと、御者台の方から叫び声がして馬車が急停車したのだった。
「あんたらは雇われちゃいねえから、ここで待機してな」
クロードさんは剣を抜くと、幌から顔を出して御者台の方へ視線を向けながら私たちに言う。
その視線の先には、武装した魔物ゴブリンが10体ほど、馬車を囲うようにして立っていた。
「あらあら、こんな場所にゴブリンだなんて珍しいわね」
アンナさんは何か知っているかのように呟くと、クロードさんと一緒に幌から外へ出る。
「私も行きます!」
私が身を乗り出したがリョウは動こうとしない。
「彼らの仕事だ。任せておけ」
「でも何もしないってのも……」
私の言葉にリョウは首を横に振る。
「他人の仕事の邪魔をするのは冒険者としてやっちゃいけないことだ。それにあの2人なら大丈夫だろう」
クロードさんとアンナさんは馬車の前方へ躍り出ると、襲い掛かってきたゴブリンたちの攻撃をひらりと躱し、反撃に移る。
クロードさんの剣が閃くと、1体目のゴブリンの胴を薙ぎ払う。
アンナさんの長い杖の先端が光を放ち、風の刃がゴブリンを切り裂いていく。
2人は数分足らずで、10体ものゴブリンたちを制圧していたのだった。
リョウの言う通り、2人の実力は確かなようだ。
むむむ、でも危険があるのに見ているだけというのは、どうにも落ち着かないなあ。
「ゴブリン……スノッサの森から出てきたのかねえ」
御者のおじさんも無事のようで、ゴブリンの死骸を調べながら何やら呟いている。
「もう大丈夫だろう。出発しよう」
クロードさんが御者のおじさんに声をかけた瞬間だった。
ゴブリンの死骸の1体の目が見開き、剣を構えて御者のおじさんに斬りかかろうとする。
私は咄嗟にそのゴブリンへ炎の魔法を放つ。
炎に包まれたゴブリンは焼き尽くされ、その目から光が失われた。
ふう……危なかった。
2人は驚いた様子で私を見ていたが、やがて笑い出したのだった。
「凄い魔法ね。助かったわ。危うく依頼人の命が失われるところだったわ」
アンナさんが感心した様子で私に声をかけてくる。
「死んだふりしてた奴がいたなんてな。それにしてもお嬢ちゃんはホントに魔女なんだな」
クロードさんが私の顔を覗き込みながら訊いてくる。
「いやはや助かりました。これはお嬢ちゃんの分の馬車代をいただくわけにはいかなくなりましたなあ」
商人のおじさんも感謝してくる。
ふふん♪ 人を助けてちゃんと感謝されるってのは嬉しいかな。
リョウは我関せずといった様子でゴブリンの他の死骸を見ているけど、私を褒める輪に加わってくれてもいいのに。
「傭兵君、何か気になるのか?」
「いえ、大丈夫です。他はちゃんと死んでます」
クロードさんがリョウに声をかけるが、リョウはゴブリンの死骸を検分してそう答えていた。
まあ傭兵だし、魔物とかにも詳しいのかな?
「あの傭兵クン、ローゼちゃんが動くのを想定していたような反応だったわね」
アンナさんがボソッと私の耳元に囁いてくる。
「そうなんですか?」
「ええ、ローゼちゃんが失敗してもフォローできるようにって感じでね。フフフ、貴方たちの関係も気になるけど、これ以上の詮索は野暮ってものよね」
アンナさんはそう囁くとクスリと笑った。
むう……それはそうかもだけど、そこまで深い関係ってわけじゃないしなあ……
「もう少し進んだ先に丘があるから、今日はそこで野営ですな。ビオレールには明日の昼前には着くでしょう」
正直なところ夜も馬車を飛ばして欲しかった。
でも商人のおじさんが言うには、魔物や盗賊の類いに遭遇する可能性を考慮して夜通しは走らないらしい。
それに馬も人と同じで、無限の体力があるわけではないのだ。
当然といえば当然か。
丘を登りきると少し開けた場所があり、そこで野営の準備を始める。
と言っても幌付きの馬車内で雇い主のおじさんが寝て、護衛者2人が交代で見張りをするためと、夕食の準備のための火を焚くぐらいだ。
「私も見張りしますよ。リョウもいいよね?」
私はリョウに声を掛けると、彼もコクリと頷き返してくる。
さすがに何もせずにただ馬車で寝ているだけってのは性に合わないしね。
夕食は、保存食の固いパンを水でふやかしてスープに入れて食べるというものだった。
味気ない食事だけど、温かいものは温かくて美味しかった。
「その申し出はありがたい。1人っきりの見張り作業って結構寂しいからな」
「それじゃ順番はくじ引きで決めましょう。先と後ね。私とクロード。ローゼちゃんと傭兵クンのペアは決まりでいいわよね?」
クスッと笑うアンナさん。
なんかその言い方だと、私とリョウが恋人みたいでちょっと……
いやいや、仕事だし変に意識しないようにしなきゃ。
でもリョウめ、ちょっとは顔を赤らめろっての。
目つき悪いんだから、少しは愛想良くしないと人生損するぞ。
それからくじ引きの結果、私とリョウが前半で、クロードさんとアンナさんの冒険者夫婦が後半となった。
商人のおじさんは食事後、もう幌の中で寝息をかいている。
私とリョウは馬車の後方で2人きりだった。
傭兵として仕事モードなせいなのか、リョウは特に会話してこようとはしない。
星空が綺麗だなあ……風も心地いい。
寝てる人たちの邪魔しちゃいけないからちょっとこう撃てば魔法の威力上がるんじゃない? って魔法を連打して試すわけにもいかないし……
こういう時、何を話せばいいの?
というか2人っきりで夜空の下で焚き火を見つめている、若い男女の私たちって構図はなんかアレじゃない?
なんか話さなきゃ……でも何を話せばいいかな?
……やっぱりアレかな。私の旅の同行を断ったリョウがビオレールに到着後、どうするのか訊いてみようかな?
うん、そうしよう、それで私に手伝えることだったら手伝うのもありだし。
「リョウは……その、ビオレールに着いたら、どうするの?」
私はちょっと口ごもりながら彼に訊いてみる。
「やることはある。だが、言えん。漏洩したら台無しになるからな」
リョウは淡々とした口調でそう答えてくる。
う、なんかはぐらかされた気が……
でも確かに傭兵ってのは秘密厳守な仕事だよね。
機密情報をペラペラ話すわけにはいかないかあ……
ちょっと落ち込む私を見て察したのか、リョウが続けて口を開く。
「ローゼは王都で両親を殺されたんだろ? 真っ直ぐ王都に向かわないのか?」
「そりゃあ、お金があればそうしてたけど」
険しい山々が連なる王都ベルンへの道程は、何事もなくても最低2ヶ月かかる。
その分の生活費を工面しておかなくちゃいけないし、盗賊や魔物に襲撃されたりしたら更に時間がかかる。
まずは金銭を得る。
それと両親の仇の情報を集めるのを優先し、ビオレールに向かっているのだ。
「魔女なら空をひとっ飛びで行けるんじゃないのか?」
「浮遊魔法なんて長時間無理。リョウは見たことあるの? 空に魔女が飛んでる姿なんて」
「ないな」
「でしょ? 魔法は万能じゃないの。浮遊魔法も30分が限界かなあ。その浮いてる間に弓矢をさみだれ撃ちされたら死んじゃうし。だから浮遊魔法発動時には、信頼できる剣士や戦士が盾役になってくれないと怖いんだよね」
浮遊魔法を発動している間は無防備になる。
まあ、浮遊魔法中も攻撃や防御手段がないわけではないけれど……
「ほら、七英雄の魔女アニスが剣士レインに守られたガイアスの戦いのようにさ」
「……悪い、知らん」
「ガイアスの戦いってのは最終決戦で魔界への門を開く直前の戦いのこと。魔王軍に致命的な打撃を与えたのはアニスの大魔法なんだけど、ずっとアニスを守ってたのがレインなのよね」
私はフフンと得意げに知識を披露するが、リョウの表情は微妙であった。
むう……ちょっと悔しかったので更に追撃してみることにする。
「人類側が七英雄も含め2万の軍勢、対する魔王軍の数が10万っていう絶望的な戦力差だったんだけど、形勢逆転を決定させるアニスの魔法は発動までに時間を要したの。魔王軍もあの魔法はヤバいと察して、全力でアニスを屠ろうと攻め立てた。しかし七英雄の筆頭格だったレインがたった1人でアニスを守り抜いたんだ。そこまでして守り抜くレインの覚悟と、守ってもらえると信じたアニスの強い信頼関係……私、あの話大好きなんだ!」
私はちょっと興奮気味に語ってしまう。
いやしょうがないじゃん、大好きな七英雄の話だし、ディル以外と話すのなんて10年ぶりなんだし。
「あらあら、七英雄の話? ローゼちゃんもアニスに憧れているのかしら?」
突然背後から声が掛かり、私は思わずビクっとなって振り返る。
そこにはニコニコと微笑むアンナさんがいた。
あ、もう交代の時間?
いや別に聞かれてマズイわけじゃないけど。
……なんか恥ずかしいというか……気まずいというか。
「まあ、魔女ですし、憧れる存在ではあります」
私がそう答えるとアンナさんはクスリと笑う。
なんかその笑顔は、意味ありげな感じがしてちょっと怖い。
いや別にやましいこととか考えてないけど……
「私もよ。魔女アニスと剣士レインの恋の行方も素敵よねえ。それに憧れて、私も冒険者で組むなら剣士で守ってくれて、ついでにちょっと甘い言葉も囁いてくれるようなイケメンがいいなあって思ってギルドの門を叩いたもの」
アンナさんは少し照れたように笑う。
なんかその笑顔も素敵ですよ、ほんと。
「俺、甘い言葉囁いたっけかあ?」
クロードさんの言葉にアンナさんはクスクス笑う。
私もちょっとクスリとしてしまった。
だってなんか甘い言葉……似合わなさそうなんだもん。
「特に異常はなしでした」
「そう、ありがとう。では交代するから2人は馬車の中で休んでて」
ふわ~。緊張の糸が切れたのか、思わずあくびが漏れる。
「それじゃお休みなさい。明日、アニスの話をアンナさんといっぱいしたいです!」
私はヒラヒラと手を振り馬車の中に戻ると、リョウにお休みと言って毛布にくるまった。
幌の外からクロードさんとアンナさんの話し声が聞こえてくる。
それを子守唄にして、私は眠りにつくのであった……
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