【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第1章 復讐の魔女

第6話 裏切り

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 いや、リョウが隣で寝てるって状況で寝られるか!

 商人のおじさんはまあどうでもいいや。
 すやすや眠っているし、たとえ良からぬ考えを起こそうものなら魔法をお見舞いしてやろう。

 毛布に潜り込んで横になったまま、幌の中の暗闇をじっと見つめた。

 リョウ、まだ起きてるのかな?
 それとももう寝ちゃった?

 物音も寝息も聞こえないリョウが被ったはずの毛布。

 ……あれ? もしかしていない?
 私はもそりと毛布から抜け出す。

 馬車の外の様子を見ると、見張りをしているはずのアンナさんとクロードさんもいない。
 火も消されていて、月明かりと星の煌めきが周囲を照らすだけである。

 ……どこに行ったんだろ?
 護衛対象のおじさんは幌の中でぐっすり寝てるけど、私1人に任せて遠くに行くなんて……

 もしや危険が迫っていて対処してるとか?

 私は外に出て、周囲の様子を探る。
 静かだ……虫の声や夜行性の獣の鳴き声はまったく聞こえない。
 馬車から少し離れて見渡してみたが、人影は見当たらない。
 仕方がない、探索魔法を使用しますか。

『大地よ風よ。我が瞼になりて見渡せ』

 私の詠唱と共に周囲の地面が淡く光り出す。
 よし、これで探索魔法発動だ。
 私は目を瞑り、視覚以外の感覚を研ぎ澄ませる。

 ……いた、良かった3人一緒だ。

 すぐ近くの森の中で立ってるし、体温も正常っぽいし、賊や魔物の襲撃とかではなさそう。

 アンナさんに私の探索魔法、気づかれたっぽいな。
 クスッと笑う表情には、悪戯がバレた子供のような茶目っ気があった。
 もう、何がなんだか……とりあえず行ってみますか。

 私はゆっくりと森の中へと歩みを進める。
 夜の森は暗いし不気味……まあ、怖いけど、なんかワクワクするかな?
 ちょっとウキウキしながら進んでいると、大きな木にもたれかかるクロードさんとアンナさんが見えてきた。

 そしてリョウが2人の前に立って剣を抜いていた。

 え…………? 何、この状況?
 ちょっと頭が混乱してきた。

「ほら傭兵クン。ローゼちゃん来たでしょ。賭けは私たちの勝ちよ。だからこのまま黙って見逃してくれないかしら」

 アンナさんの口調は変わってない。
 でも言っている内容は、まるで悪事を働いた人そのもののセリフ。

 そしてクロードさんがリョウに近づくと、おもむろに自分の剣を抜く。
 その刃は月光に照らされ、鈍くギラリと光った。
 え……? ちょっと……何? これ……

「頭の固い傭兵君だなあ。行きずりのテメエらには関係ねえだろ? なあ、お嬢ちゃんもそう思うよなあ、関係ねえって」

 クロードさんの口調が、さきほどまでの気さくなお兄さんみたいな感じから、粗野で乱暴なものに変わる。
 そして鋭い眼光を私に向けた。

 ……え? 何これ……?
 意味がわからないんですけど……

「ど、どういうことです⁉ 何を言ってるのか全然わかんないんですけど! リョウ! なんなのこの状況⁉」

「……この2人は護衛主の金銭を懐に入れ、護衛任務を放棄して去ろうとした」

 え⁉……私はクロードさんとアンナさんを見る。

「嘘……ですよね。ビオレールで長年一緒に冒険者やってる夫婦で、私なんかにも優しく接してくれて……それがこんな……」

 私の目の前で剣を構えている2人。

 たしかにさっきまではこんなんじゃなかったよね?
 え……? 何これ? ドッキリ? いやでもそんな雰囲気じゃないし……

 私が混乱していると、クロードさんが突然ゲラゲラと笑い出した。
 その不自然な笑い声に私は思わずビクッとなる。

 そしてクロードさんは笑いながら言う。

「で? どうするよ。戦うかい? アランの傭兵君よお」

「……ゴブリンの襲撃の時、1体だけわざと当て身だけで倒したのは、そいつに商人を殺させるためか?」

 リョウがクロードさんを睨みながら、静かに口を開いた。
 私はクロードさんとアンナさんを凝視する。
 2人の表情には、これまで見せていた優しさの影はなく、代わりに冷たい決意が浮かんでいた。

 私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

「……さすがだな。まだ少年だというのにアランの傭兵団てのは納得だぜ。ただ勘違いするなよ? あの商人、死にはしなかったさ」

「……金を置いていけ。それが条件だ」

「そいつはできない相談だ。この金が俺たちの今後の生活に関わる」

 クロードさんはそう答えてニヤリと笑う。
 リョウは苛立ちを隠そうともせずに舌打ちすると、剣を構え直す。

 私は混乱しながらも、2人の会話から状況を整理する。

 つまりこの2人は護衛任務を放棄して商人から金品を奪い、それを元手にどこか別の地で暮らそうとでも企んでいたわけか。

 ……もし本当にクロードさんとアンナさんがそんな悪事に手を染める人だとしたら、それは悲しいことだし寂しいことだ。
 2人からは下品さや野蛮さが感じられなかった。
 むしろ気さくで優しく接してくれたし、その笑顔は心からのものだと感じた。

「なぜです? なんでこんなことを?」

「……ごめんなさいねローゼちゃん。でもこれが私たちが選んだ道。この国が10年前までのように希望で溢れた国だったら……ううん、これは言い訳ね……」

 アンナさんが力なく呟くのと同時に、リョウはクロードさんに斬りかかる。
 クロードさんはそれを受け流すと舌打ちをする。

 剣戟の音が森に響く。
 私はただ呆然と2人の戦いを眺めることしかできないでいた。

「なるほど、強いな。……だが、勝負は俺たちの勝ちだ」

 クロードさんの呟きと共にアンナさんの杖が光る。
 すると馬車のある方角から、魔犬の遠吠えが聞こえてきた。

「早く戻らないとあの商人が死ぬわ。……さあどうするのかしら、傭兵クンにローゼちゃん」

 私はハッとする。
 もし魔犬に襲われれば、力のない人間は一瞬で餌になってしまう。

 ……やられた!

 2人の思惑に気づいたリョウも舌打ちし、戻るぞと私に声を飛ばす。

「ローゼちゃんがここに来なければ傭兵君の勝ちだったな……あばよ」

 クロードさんのその言葉に愕然とし振り返るが、2人の姿はもう見えなかった。

 ……転移魔法か、アンナさんの実力ならどこまで飛べるのだろう。

「気にするな」

 リョウは私に短くそう声をかける。

「……ごめん」

 私の謝罪の言葉にリョウは何も答えずに、馬車へと走る。

 私はその後に続く。

 どうしてだろう? 私が2人の思惑に気づけなかったばかりに、こんなことになるなんて……とても悔しい。

 私の胸中はぐちゃぐちゃだった。

 馬車に戻ると、今にも飛びかかろうとしている魔犬が十数頭。
 幌の中では商人のおじさんの悲鳴が聞こえるが、まだ無事なようで少しホッとする。

 私は魔犬の群れを見据える。
 そして魔法を唱え、周囲に無数の火球が現れる。
 飛散する火の玉は次々と魔犬の身体に突き刺さり爆発を起こす。

 逃れた魔犬はリョウの剣の餌食になった。
 馬車の周囲には魔犬の死骸が散乱する。
 幌の中に入ると商人のおじさんは恐怖で腰を抜かしていたが、私たちに気づくと安堵の表情を見せる。

「クロードとアンナはどうしたのだ?」

 おじさんの言葉に私たちは黙り込む。
 気まずい沈黙が流れた後、リョウが口を開く。

「あなたの金を奪い逃亡しました。どこへ行ったかは不明です」

「まさか⁉……いや……そうか……すまなかったな」

 と、おじさんは申し訳なさそうな顔でうつむく。

 本当のことを話したら、おじさんがショックを受けるだろうと思ってたけど、思い当たる節があったのだろうか。

 私たちが魔犬を全て倒したのを確認して、商人は恐る恐る馬車から降りて立ち上がる。
 そしてゆっくりと周囲を見渡した後、大きなため息と共に肩を落とした。

「リョウ様とローゼ様、ビオレールまで数時間ですが、私の護衛をお願いしてよろしいでしょうか?」

 商人の言葉に私は頷く。
 リョウは何も言わないが、反対もしてないので問題ないのだろう。

 夜が明け、私たちは再びビオレールに向かって進み始めた。

 しばらくの間、車輪の音だけが響いていたが……不意に静寂を破ったのはおじさんだった。
 私たちに聞こえるか聞こえないかくらいの、小さな声でボソリと呟いた。

「クロードとアンナとは10年の付き合いでしたが……まさかこんなことになるとは……」

 おじさんの言葉に私は何も言えなかった。

 そして馬車はビオレールの門をくぐったのだった。
 
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