【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第1章 復讐の魔女

第7話 エルフの美少女

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 ベルガー王国ビオレール領は隣国ダーランド王国との国境にある街である。
 軍事的重要地であると同時に貿易の窓口として栄えている。
 街は城壁で囲まれており、門には衛兵が常駐していた。
 街の周囲には広大な農地が広がっている。

 王都からの駐屯軍もいるため、盗賊や魔物といった脅威は街の中ではほとんどない。
 商人や旅人が行き交い、賑わいを見せるのがビオレールだ。

 城門の受付で、商人のおじさんは衛兵に身分証を提示した。

「おや? ソフテックさん。クロードさんとアンナさんと一緒じゃないんですかい? そっちの若い男女は……?」

 ソフテック?……ああ、商人のおじさんの名前か。
 そういえば聞いてなかったな。

 リョウがアラン傭兵団の証たる銀の認識証を、門兵にポンと渡す。

「へえ? アランの傭兵か。そっちのお嬢ちゃんは護衛かい?」

「そんなところです」

 あっ、私は身分証を持ってないぞ。
 どうしよう。まさか私だけ街に入れないとか?

 私が焦っていると、門兵のおじさんが笑いながら通りなと言ってくれた。

 よかったぁ、とりあえず街に入ることは出来るみたい。
 私は安堵のため息を漏らした。

 街の中は活気に満ち溢れており商人や冒険者など多くの人々で賑わっている。
 森から出てきた私にとっては新鮮な光景だ。
 王都にいた幼少期は王宮の中の記憶しかないし。

「冒険者ギルドに向かいますが、お二人共よろしいですかな?」

 御者をしているソフテックさんの声。
 それは私にとっては願ってもない話だ。

「クロードとアンナの件も話さねばなりませんので」

 ……その件がなければ、もっと心晴れやかでギルドの門を叩いていたんだけどなあ。

 私もリョウも無言で頷いた。

 ソフテックさんに案内されたのは街の中央にある、大きな建物だった。

「へえ、ここが冒険者ギルド。結構大きいんですね」

 よく物語であるのが年若い新人冒険者がギルドの先輩たちに絡まれ、それを実力で黙らせる展開。

 実はそれに憧れていたりするのだ。
 アニスもそうだったし。

「どうしたローゼ?」

「いやあほら。ギルドの先輩たちに新人が絡まれる展開とかあるじゃない? 私、そういうのに憧れてたんだ」

 私がそう言うと、リョウは呆れた顔でため息を吐く。

「ローゼ様は若者らしく夢見がちですなあ」

 ソフテックさんは苦笑しながらさらに続ける。

「まあ、そういう展開は確かにお約束ですな」

 そりゃだって、それで実力を認められて、おお凄いって周りが騒いで、私にみんなが期待して、その期待に応えるってのが王道でしょ?

 さあいざゆかん! 冒険者ギルド!

 そして開くギルドの門。

 ヒュンと鎧を着たおっさんがぶっ飛んできて、外へと放り出された。

 え? なにこれ? と私は呆然としてしまう。

「喧嘩か」

「……ははあ、これはこれは……どうやらローゼ様の夢を叶えている先達者がいらっしゃるようですなあ」

 ええ……

 見るとスラリとした細い手足をしている、とんでもない美少女がおっさんたちと戦っていた。

 見た目からして私の少し年下かな?

 ちょうど入った瞬間に、彼女の空中蹴りが冒険者らしきおっさんの顔面にめり込んだようだ。

「どう? これでわかったでしょ? あんたたちより私がずっと強いでしょ?」

 そう言ってムフンと平らな胸を張る少女の長い耳がピクピクと動き、長い白銀の髪がフワリとなびく。

 少女特有の高い声がなんだか私の脳を蕩かせそうだ。

 おお! エルフだ! 私の興奮は最高潮。
 エルフなんてここ千年、目撃例も稀なのに、まさかこんな所でお目にかかれるなんて!

 私が感動していると、ふと彼女と目があった。
 ……あ、やば。

「新手かと思ったら……あんたたち、何? あっ! わかった! 依頼でしょ? なら私が受けてあげるわ‼」

 そう言って、ズカズカと私のところまで来るエルフの美少女。
 緑色の旅人服に短い黒のスカートかあ……これ私と同じ魔法服っぽい。

 武器はレイピアかな?
 レイピアとは細身の鋭利な剣だ。刃に湾曲が施されているのが特徴で、刺突攻撃に特化した武器である。

 おお、目も緑で綺麗だなあ。
 ……いや、現実逃避している場合じゃなかった!

 慌てて私は首を横に振る。

 エルフの美少女はリョウを見て、フンと鼻を鳴らす。

「こんな男より私を雇いなさいよ。そこのおっさんは商人でしょ? 金髪ショートのあんたは……魔法使い? 私は今、お金に困ってるから報酬は弾みなさいよね‼」

 な、なんかグイグイ来るぞ。
 杖を持ってるから私を魔法使いって言ったっぽくないなあ。
 なんだろう? 瞳から中を覗かれたような感覚だ。

「えっと、ちょっと落ち着こうかな? 私はローゼ。で、こっちの男が傭兵のリョウで、こっちのおっさ……じゃなかった、おじさんが商人のソフテックさん。大事な報告をソフテックさんがギルドにするから、ちょっと待っててほしいかな?」

 ギルドの中はエルフのこの娘が暴れた後で床でピクピクしている冒険者の人や、我関せずと雑談している人、こっちの様子を遠巻きに見ている人など様々だ。

 リョウがエルフの少女にジロリと視線を向けると、彼女は怯えた様子で一歩後ずさる。

 しかしすぐに彼女はフンスと胸を張り、対抗する姿勢を見せた。

「ベレニスよ。ならちょっと待っててあげる。けどその代償としてお昼奢ってくれないかしら? いいでしょ? ね?」

 何故に私の目を見て言うのだ? 私もお金を持ってないぞ。
 だから復讐の旅路の資金を稼ぐために、冒険者ギルドに訪れたんだぞ。

 でも折角のエルフのすんごい美少女、仲良くなっておくのも悪くないよね。
 多分、ソフテックさんから護衛料を貰えるし、お昼を奢るぐらいなら足りるかも。

「まあ、食事ぐらいなら。……それじゃあベレニス、待っててね」

「わかったわ」

 ソフテックさんが受付の方へ歩いていくのをついていく私とリョウ。
 その後ろから陽気に鼻歌混じりでベレニスもついてくる。
 いや、待っててねって言ったんだけど。
 ……何故についてくるんだ?

「ギルドマスターのバルドさんはいらっしゃいますかな?」

 受付嬢に告げて待つこと数分、現れたのは中々にダンディなおじさんだった。

「これはソフテック殿。無事に戻って来たようで何よりです。おや? そちらの御三方は? エルフとはまた珍しい」

 バルドさんはエルフのベレニスをチラリと見る。

 フンスと胸を張るベレニスだけど、いやあんたはこの件に全くこれっぽっちも関係ないでしょうに。

「クロードとアンナに何かあったのですね」

 何かを察したように呟くバルドさんへ、ソフテックさんが事情を説明する。

「……左様ですか。盗まれた金銭はギルドで補填致しましょう」

「そう言って頂くとありがたいです。はあ~……なんだか悪いですがお金は大事ですので」

「この件で損をしたのは我々ギルドということになりますなあ。まあ致し方ありません。こういう裏切りがあった場合に責任を取るのも我々の仕事ですから」

 ふうと息を吐くバルドさん。
 ふわ~と欠伸をしてるベレニス。
 おい! 悲しい場面なんだから空気を読みなさい‼

「こちらのアランの傭兵殿と魔女殿に救われました。謝礼金を払いたいと思いますので正式な手続きをしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 おお! これはありがたいぞ!
 いや、期待してなかったわけじゃないけど。

「額は2人合わせて大銀貨2枚で如何でしょうか?」

 なぬ⁉ 大銀貨2枚⁉ 大金じゃん‼

 リョウも驚くが、私は思わず心の中でガッツポーズ。
 やった! これで数日の宿代と食費が賄えるぞ。

「それでは私はこれで失礼します。ソフテック殿、また当ギルドを御利用くだされ」

「ええ、では私もこれで失礼します。リョウ様にローゼ様、偶然貴方方と出会えて拾えたこの命、感謝してもしきれません」

「いえ……そんな。こっちこそ1日の働きでこんなに貰えるなんて……ありがとうございます。アンナさんたちのことは残念ですけど、ソフテックさんと出会えて良かったです」

 貰った大銀貨を握りしめて、この騒動の最後の締めの挨拶をしてゆく私。

 けれどリョウが、去りゆくバルドさんとソフテックさんに驚くべき一言を告げる。

「……なるほど。筋書きどおりか。事情は知らんが、冒険者2人を逃がす口実と言ったところか。大銀貨2枚を渡したのは口止め料も含めているな。偶然出会ってしまった俺たちへの」

 え……

「仰ってる意味がわかりませんが、言い触らさないことを願ってます」

 そんなギルドマスターの、背中を向けたままの呟き。

「私は全くこれっぽっちも関わってないけど、精霊が祝福してないわね。知ってる? 精霊って嘘つきが嫌いなのよね」

 ベレニスが耳の後ろをポリポリと掻いて呟いた。
 ええっ! なんだそれ‼ 私は全く意味がわからないんだけど⁉

 バルドさんとソフテックさんが去ってから、テーブル席に座って食事を取っている私たち。

 リョウは何か考え事をしているし、ベレニスは私のお金で頼んだお肉料理をパクパク頬張っているし。
 エルフって菜食主義者ってわけじゃないのね。

「ねえリョウ、さっきのって……」

「事情は知らんし憶測だ。ただ国や土地から逃げる手段としてよくある話というだけだ」

「事情なんて知ってそうな人に聞けばいいじゃない? ねえ、そこのあなた、ちょっといい?」

 ベレニスって人見知りとかと無縁そう。
 というか隣のテーブルにいたのが優しそうなお姉さんで良かった。

「……そう。やっぱり。アンナが領主に言い寄られていたって噂があったけど、どうやら本当だったようね。抵抗すれば罪を着せられ、受け入れたらクロードが邪魔者として暗殺でもされてたかも。まあ、あんまり気にしないことね。ところで見ない顔の3人組だけど、エルフちゃんはさっきギルドで暴れてたっていう娘かしら?」

 薄紫色の巻き毛の髪のお姉さんだ。
 格好からしてこの人も魔女かも。黒いローブ姿がとても神秘的に思える。

「なんかすみません。私はローゼって言います。魔女ディルの弟子で今日ビオレールに来ました。ほら、ベレニスも挨拶して」

「ベレニスよ。暴れてたっていうけどアイツらが悪いのよ。ちびっ子が何の用だって言ってくるし、受付の人も報酬の高い依頼は、新規の人1人じゃ受け付けませんなんて言うし。てか登録料も要求してくるのよ酷くない? こっちはお金がないからここに来たっていうのに」

 ベレニス? 話が変わるからちょっと落ち着こうか。

 でも登録料か……いくらだろう?
 まあ大銀貨を貰ったばっかりだし足りるとは思うけど。

「ねえローゼ! このビオレール牛の香草焼き追加するわね!」

 お~いベレニス? まだ食べるんかい。
 ……お金、今日の宿代とお風呂代は残しておきたいんだけど。

「ウフフ、私はディアナよ。元気良いわねベレニスちゃんは。……それとローゼちゃんね。この街で困ったことがあったら何でも聞いてね。……そこのアランの傭兵君もね」

 リョウは短く自分の名前だけ口にする。

 ディアナさんか。
 この人は良い人そうだけど、アンナさんたちの件があったし、何だか完全に信用していいのかと考えてしまう自分がいる。
 いかんいかん、人を信じなきゃ何も動けなくなるぞ私。

「傭兵君が一緒なら高額な報酬の依頼も受けられるわよ。そうねえ、今なら南の山岳地帯の盗賊の拠点探索なんてのがお勧めかしら」

「ふうん? ありがとうディアナ」

「どういたしましてベレニスちゃん」

 あっ、会話が終わってしまった。

 ……まあ、アンナさんとクロードさんが、ビオレールから逃亡する理由としては真っ当過ぎる事情を聞いたし。
 ……恐らくリョウの予想は正解なんだろうと確認できたからよしとするか。

「じゃあ傭兵! あんたが依頼受けてよね! 報酬の取り分はキッチリ三等分でいいから!」

 ベレニスがリョウに言うが、彼は低い声でこう告げた。

「悪いが俺は別に用事がある。ディアナ嬢、登録料はいくらでしょうか?」

「小銀貨2枚よ」

 するとリョウは小銀貨4枚をテーブルに置く。

「なんの真似? 奢って貰って嬉しい、大好きって私が言うのを期待してるわけ?」

 露骨に不機嫌なベレニスの声。

「あっ、私は自分の分があるから良いよ。ベレニスの分も私が出して後でちゃんと回収するから」

 そんな私の言葉に衝撃を受けるベレニス。

 いや、当然だからね?
 食事は奢るって約束したけど、登録料は奢らないぞ。
 こらベレニス、小銀貨4枚をポケットに入れるなっての。

「ローゼには世話になったし迷惑もかけた。受け取ってくれて構わん」

 立ち上がるリョウ。

「えーと、別に貸し借りとかそんなのなしでいいよ? 私は私のために動いただけだし。……それよりリョウ、用事が済んだらまた顔を見せてくれると嬉しいかな」

「ああ、じゃあな。ローゼ」

 ギルドを出るリョウ。

 なんかあっさりしているというか、なんというか。
 これでお別れじゃないよね?
 それになんか拍子抜けした気分。
 もうちょっと一緒に行動できるかなって思っていたから。

「それじゃ受付に行こっか」

 そんな私の言葉だったけど、ベレニスは小首を傾げた。

「何? どうしたの?」

「うーん? さっきの傭兵の最後のセリフ、嘘ね。精霊が祝福してないもの。それに隠してるけど殺気はヒシヒシとしてたわね。なんなのあの傭兵?」

「なんなのって言われても、目つき悪いけど腕の立つ気前の良い傭兵の少年ってぐらいしか知らないんだけど……」

「気前が良い……イコールもう自分はお金を必要としなくなるってところかしら? リョウという傭兵君、死が近づいているわね。私の専門は占いなのだけど不吉な未来が見えたわ」

「ディアナさん! それって⁉」

 運命の女神に愛されし占い師の、洒落じゃなさそうな言葉。

 いや、それよりも! 私はリョウの後を追って駆け出す。

「ちょっとローゼ! もう! しょうがないわね‼」

 ベレニスもついてくる。
 陽射しが当たって眩しさを感じる外の大通り。

 通行人に聞き、リョウが向かった方角へと走りだす。
 胸に焦燥と不安の感情を渦巻かせながら。
 
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