【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ

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第1章 復讐の魔女

第8話 ビオレール城

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 ビオレールの領主邸は堅牢たるビオレール城が使用されている。
 ベルガー王国建国時からの名家であるビオレール伯爵家。
 その長年にわたる伝統と歴史が今なお息づいている。
 広大な敷地に建てられた由緒正しい城の外観は壮麗であり、幾多の困難に立ち向かいながらも城塞都市を作り上げた初代伯爵の精神を表しているかのようであった。

 そんな城の一室。
 この城の主人であるビオレール領主ハインツ・ビオレール伯爵は、王都から派遣されているテスタ・シャイニング宰相の腹心の来訪に頭を垂れていた。

 年齢は30代後半のハインツは金髪碧眼の長身痩躯。
 顔立ちは整っているが冷徹かつ鋭い目つきで、日焼けして浅黒い肌を持ち、健康的な印象を与える身体つきである。

 宰相の腹心である男の名はトール・カークス。
 年齢は50代後半で髪も黒から白になりかけているが、背筋の伸びた姿勢からは衰えを感じさせない威圧感を漂わせていた。

「カルデ村にて賊を討伐したそうですな。いやはや、ハインツ伯爵は仕事熱心ですな」

 宰相の腹心たる男は尊大な態度で椅子に腰掛けた。
 彼は鋭い眼光をハインツに向ける。
 その視線は並みの人間なら震え上がり萎縮してしまうほどのものだった。
 しかしそんな視線を受けても、ハインツは動じずにほくそ笑む。

「我が部下は優秀ですからなあ。全く、カルデ村に限らず領内では賊が出たとか魔物による被害が出たとか抜かして、税の徴収を逃れようとする者が多くて手を焼いております。……おっと宰相様へ渡す額に変わりはありませんので御安心を」

「それはそれは、宰相様もお喜びになられるでしょう。これで宰相様の心労も減るというもの」

 それはトールの本心ではなく、社交辞令というやつである。
 この男にとって大事なのは自分の都合だけであり、それに反する者に対しては容赦なく排除する冷酷さも併せ持っていた。
 その対象の中には当然の如くハインツも含まれているのである。

「時に伯爵。小耳に挟んだのだが、カルデ村の賊退治をしたのは伯爵の部下ではなく、傭兵と魔女の2人組だったとか」

「ハッハッハ、それが例え事実だったとしてもどうでもいいですなあ。報酬をせびりに来たなら口封じに始末でもしておきましょう。傭兵に魔女ですか……都合の良い手駒にしたいですなあ」

「ふむ、左様ですか。まあ、良いでしょう」

 この2人の関係は利害関係と損得勘定が一致しているだけで、お互いに信頼があるわけではない。
 話はすぐに別の話題へと移っていった。

 ビオレール城の別の場所、兵士が日頃の訓練に勤しむ練兵場。
 そこでひとしきり訓練を終えた1人の兵士が、自身の上司である隊長へ疑問をぶちまけていた。

 兵士の名はヴィムという。
 年齢は20代半ばで、身長も高くがっしりとした体格の持ち主だ。
 金髪を短く刈り込み、精悍な顔立ちをしており一目見たら忘れはしないだろう。

 そんな彼は鍛え抜かれた肉体が物語っているように、戦闘面に関しては非常に優秀なのだが、人付き合いは苦手。
 将官職に就くには不向きな人材でもある。

「オルタナ隊長、カルデ村で捉えた賊を嫌疑不十分で釈放したって聞きましたぜ。捕まえに行ったフォーム子爵がそう決めたとか。いや意味わかんねえっすわ」

 ヴィムは訓練で流した汗を拭きながら、自身の上司である隊長へ疑問をぶつける。

 オルタナは年齢は20歳。
 王都の士官学校を卒業したばかりの新米将官で、この4月からビオレール城に着任している。
 赤い髪にスラリとした長身、右目が隠された前髪が中性的な雰囲気を醸し出している外見だ。

「ヴィム、その疑念と憤る気持ちを忘れるな。私から今言えるのはそれだけよ」

 オルタナはヴィムに向き直りそう答えた。
 オルタナはまだ若いが将官としての能力は高く、また部下からの信頼もすぐに得るほど魅力に秀でている。

 しかし貴族社会であるベルガー王国にて、父の階級は准男爵。
 士官学校を出たばかりの新米将官とあっては、敵も多く貴族出身の者たちから妬み嫉みの対象となっている。

 やり難いご時世だがオルタナは悲観はしていない。
 士官学校首席の成績だが配属された場所は遠方の隣国との最前線、大いに結構、と前向きに捉えている。

 練兵所を出ると、領主が数人を引き連れ歩いている姿が目に入り敬礼をする。

「ちょうど良いオルタナ。警護に加われ」

 ハインツ領主に付き従っている貴族の1人から顎で指示される。

「はっ!」

 己の部下であるヴィムと、もう3人の兵士がハインツ領主と貴族たちの護衛につく。

「あの赤髪長身の王国騎士は誰かね?」

 トールは護衛に付いたオルタナを見て、ハインツに尋ねた。

「ああ、赴任してきたばかりのオルタナ・アーノルドですな。全く、あのアデル・アーノルドの子供だそうだが、貴族でもないのに隊長職とは不愉快極まりない。いずれ難癖つけて処分するつもりです」

「ふむ、力になれることがあれば、宰相様の名において協力しよう」

 それはありがとうございます、という返答を耳にしながら、トールは別の目的で(あの者も使えるな)と内心ほくそ笑んだ。

 ヴィムは思う、領主の隣を歩く王都からの使者は悪名高い宰相の腹心トールか、またビオレールに来やがって、と。

(オルタナ隊長、気をつけてくださいよ。あのトールって野郎はビオレールに来るたびに、領主や貴族たちに金目の物を要求してやがるんですぜ。城の中が荒らされるのが目に見えてるってもんです)

 ヴィムは誰にも聞こえないようにオルタナへ耳打ちする。
 オルタナは無言を貫きながらも心の中で、たしかパルケニアの貴族だったな、ベルガー王国に仕官して4年目か、いやテスタ宰相に仕えて4年目と言うべきか、と思いを巡らせる。
 彼がベルガー王国におり、前身がパルケニア王国の貴族と知れ渡ったのはつい最近だ。

 パルケニア王国は、ここベルガー王国の隣国のダーランド王国、そして大陸東南に位置するレアード王国に挟まれた小国だ。
 近年はデリム公爵の叛乱という大きな事件により、国力を大きく低下させた。

 7年に及ぶ叛乱は、デリム公以下叛乱した貴族がレアード王国に亡命し、デリム城陥落後、全て処刑されパルケニア王国に引き渡されたことで幕を閉じている。

「パルケニアか」

「どうしたんです隊長?」

「いや、以前父が所属していた傭兵団が、現在パルケニアに本拠を構えていたなと思ってな」

 オルタナはヴィムに問われ思わず答えてしまった。
 城の外へと出ていく領主一行、どうやら目的地はすぐ近くの教会のようだ。

 ビオレール領主ハインツ伯爵と、トールや貴族たちを乗せた馬車が出立するために城門が開き、兵士たちの敬礼で送りだされる。
 そんな中、とんでもない殺気をオルタナは感じ、振り向いた。

 目線の先には黄土色の皮鎧の少年が倒れ、その背後から眩い光を放つ杖を持つ金髪の美しい少女と、耳の長いこれまた可愛らしい少女が慌てた様子で倒れた少年を運ぼうとしているのを見た。

(距離があり気づいたのは私だけのようだな。ヴィムも気づいてないようだ)

 オルタナはそう判断すると、この暗殺未遂事件を見逃すと決めた。

(金髪の美しいお嬢さんの光る杖、あれは魔法……恐らく睡眠魔法か。……倒れた人物の皮鎧、あれはアラン傭兵団か? それにあの黒髪……)

 見逃す理由は事件なんて起きなかったという事実。
 己が刃を交えたかったという渇望。
 それと必死そうな金髪の少女の表情と容姿だ。

(父からよく聞いていたローゼマリー王女が生きていたなら、あのように美しい少女に成長していただろう、と思ってしまう見目麗しき姿だった。それにエルフという貴重な存在も見たしな)

 オルタナは、金髪の少女が少年を助けたい一心で起こした行動であろうことがわかる。
 だから見過ごすのだ。
 このことは他言無用と心に決めながら……

「どうしたんです隊長?」

「いや……ヴィムもまだまだだと思ってな」

「なんすかそれ? そりゃあ七剣神と呼ばれるアデル・アーノルド様の血を受け継いでる隊長には、まだまだ遠く及ばないっすけどよ」

 ヴィムが上官であるオルタナを褒め称えながら、彼は馬車の警護へと向かう。

 遠ざかる少年と少女たち。
 その後ろ姿を見つめながら、オルタナは呟く。

「あの3人の特徴、まるで七英雄物語の剣士レイン、魔女アニス、エルフの女王フォレスタにそっくりじゃないか」
 
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